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第一章

性欲の彼方を探して

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「ハイド―!わちガマン出来たぞ!すごい? すごいだろ!」

 扉から入ってきたリクファは、ソファに埋もれて眠っていたわたしのところまで駆け寄り、開口一番、褒めろ!と迫ってきた。
 30分も眠れず、中途半端な睡眠からの目覚めのせいで、なかなか意識が覚醒しないまま、とりあえず目の前の頭をなでておいた。
 ここ数日徹夜続きで、なんでこのタイミングなんだと多少不満はあったが、リクファがここまでガマン出来たということに興味を引かれた。
 本当かどうかを確認する術はないが、そんなつまらない嘘をつくタイプではないし、その感想を聞いてみたいとは思った。

「リク、先に自慰室で待ってて。準備するよ」

「わかったのだ。エイサー、手伝え」

 エイサーを付き従え、自慰室に小走りで向かっていった。
 しかしあの状態で、本当にイクのをガマンし続けてるのか……
 かなり懐疑的ではあるが、オルガメーターを確認しても、たしかに98と99を行き来しており、ギリギリを保っているようだ。
 どれだけ強靭な精神力なんだ……と思いつつ、彼女の快楽に対する姿勢はバカに出来ないなと関心した。

 眠い目をこすりながら、エネルギー飲料を片手に自慰室に入ると、ガニ股開きで固定されたリクファと、器具をテーブルに綺麗に並べているエイサーが見えた。
 頭の上に、わくわく、という擬音が何個も浮かんで見えるロリ女帝を横目に、モニタに映る数値を確認する。
 ありえん……
 《プロビデンス》で見た快楽度数は4000程度で、リクファにとってはもはや当たり前となった数値だ。
 しかしモニタに映る精神快楽のグラフは今も上がり続け、肉体快楽がほぼゼロのところを横ばいに見えるほどに差がついていた。
 この差が一気に埋まる時……一体どんな快楽が女性に襲いかかるのか……
 強い興味と共に、若干の恐怖感が背筋を走った。

 準備を終えたエイサーはいつものように手を前に重ね、いつ見ても美しい姿勢で次の指示を待っている。
 顔を紅潮させた満面の笑みを浮かべたリクファも、全身に絶頂延長器具をびっしりと取り付け、わたしの合図を待っていた。
 限界までガマンをした女性が、解放の合図を待っているこの刹那の時間が脳の奥をくすぐってくる。

「エイサー、調整は頼んだよ。まだぼくの調子が整ってないけど、リクファの反応を見る限り、今日は上手くいくかもしれないからね」

「機能を完全にリクファ様のためだけに使用していますので、ご期待に答えられると思います」

「よし、リク。ホントに良くガマンしたね。1ヶ月もガマン出来るなんて思わなかったよ」

「そうだろ!何度もイキかけたがな、慣れてくれば簡単だったぞ。このギリギリの状態も、これはこれで好きになったしな」

 一ヶ月前。
 リクファが想像でイク感覚に慣れ始めてきたころ、自慰用メイドロイドを使ってさらなる精神快楽の向上に没頭していた。
 あまりにも強固な自我を持つリクファでは、シキヤの様に自由に快楽をふくらませて、リクファの望む快楽は叶わないままだった。
 しかし、その自己人体実験の中で、リクファはひとつの発見をする。
 それは、それまで一度もやったことのなかった、自身の持つ、意識を覗き見するスキル《ミル》を自分の意識に使い、自分が想像したそのイメージをまさにリアルに見る事が出来た。
 自分の意識をわざわざスキルを使って見る必要なんてないのだが、そうすることによって、そのイメージを《リアルに感じる》事が出来るということに気づいたのだ。
 きっかけは、リクファのおもちゃとなっているロンタオのイクイメージが、宇宙に集中している理由を考えている時に思いついた仮説だった。
 それは、極一部の人間が持つ事が出来るスキルというものが、その人間の深層心理にある強いイメージによって発生するのでは?ということだった。
 ロンタオの所有するスキル《アトラクト》は、様々な物を引き寄せる事が出来るスキルだ。
 重力操作とは原理が違うのだが、彼女はこの力を重力を操るように利用していたため、そのイメージをイクイメージに結びつけた可能性が高い。
 リクファと同じく、奴隷階級で生まれたロンタオの幼少期の強烈な望みが、そのイメージを膨らませる要素になったのではないか?とも予想出来た。
 これらの要素を総合して、リクファは今回の自己実験を思いついたのだ。
 全ては仮定でしか無いが、少なくとも今のリクファは、イメージの中で快楽を膨らませる事が出来る様になっていった。
 あとはその無限に広げられるイメージを、どこまで広げることが出来るかなのだが、彼女の快楽に対する欲は、その名の通り化け物だった。
 
「ハイド!わちこれから当分の間、イクのガマンしてみようと思う」

「どうした急に。どうしたんだ?」

「もうイメージでイクのはコツを掴んだじゃろ? それでもまだ肉の方が気持ちよくなれるのじゃ。それでな、わちのスキルを使って、長期間イメージを貯め続けようと思うのだ。絶頂のギリギリを保ちながら、巨大なイメージを作り出して、溜め込んだ快楽を一気に全てを開放すれば、わちも肉の快楽を超えられる気がするのだが、どう思う?」

「……すごいことを思いつくもんだな。スキルの詳細を教えてもらえないからそれがうまくいくかどうかは答えられないがな、仮にそれが出来たとして、リクの身体が受けきれるかどうかが心配だな」

「わちもそこは考えておる。そのためのメイドロイドだからな。エイサーなら制御可能だろ? そこでな、提案なのだが、少しの間エイサーを借りるぞ。替わりのメイドロイドを用意するからな」

「それは構わないが、リクがイクのをガマンできるとは思えないぞ」

「たしかにそうなのだがな、その先にある巨大な快楽を思うとな、そっちの方が興味が出てきたのだ。試す価値はあるだろ?」

「たしかにその状況は見てみたいとは思うが……」

 ふと、その間、エイサーのアレをお預けになるのか……と不埒な未来を想像してしまい……

「なんじゃ、そんなことか。その機能をエイサーよりも高めた新作のロイドも貸してやる。心配するな」

「勝手に頭の中見るなよ……って、すまんな。つい利己的になってしまったよ。ありがとう。でも遠慮するよ。エイサーだからいいんだ。それにな、あのリクがガマンするんだ。オレもそれに付き合うのも悪くないだろ?」

「ハイド…… お前というやつは、ホントにおもしろいやつじゃの! よし、わちはガマンしてみるぞ! 貯めて貯めて……わちがゾクゾクするほどの快楽を作り出してみせるぞ!」

 がんばれよ、と言ってはみたが、性欲というものの無尽蔵な奥深さに、すこし恐怖を感じた。
 ――――が、きっとこれは、この女帝に限った話だよな……と、すぐに思い直した。


 そして、今、この一ヶ月の間、身体のありとあらゆるところに取り付けていた器具による肉体快楽に耐え続け、スキル《ミル》と《カク》をフル活用し、その貯めに貯めたイメージをぶちまける瞬間に立ち会っている。
 
 普段冷静なエイサーも、そんなリクファを見つめながら、少し興奮しているようにも見えた。

 そしてわたしは、解放の合図に決めていた、右手の親指と中指を重ね、強く鳴らした。
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