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異人、変人、小人注意報発令中
しおりを挟む「いきます! ――『精霊王、降臨』!」
夜も更けた空を切り裂くように突如として現れた大量の光線がサクラちゃんの頭上へとシャワーが如く降り注ぐ。
時間が経つごとに質量が増していく光の中で、その髪は呼応するように白々と輝きながら派手に翻って舞い、桃色だったはずの瞳は段々と彩り豊かに複雑な色合いへと変化していた。
何故か無惨にもボロボロとなっていた服装はそのままだったが。
……プ〇キュア?
真っ先に出た感想がそれであったが、私は悪くないと思われる。
何故なら訳も分からず逃走して、気付けば敵かも分からない魔女に捕まって変な記録映像みたいなものを見せられて酷い頭痛に襲われてるし、そこから脱出出来たかと思えば何故かいきなりサクラちゃんが何かそれっぽいこと叫びながらそれっぽく虹色に光ってるんだもの。
美少女戦士の最終決戦的な場面かな? とか思っても仕方ないはずだ。
「お願い『アウローラ』! 扉を開いて! ――『精霊の道』!」
ほら! やっぱりそれっぽいこと言ってる!
……えっ、待って。今、精霊の道って言った?
私は今までに遭遇したことは無いが、兄が神に嫌われるキッカケになったという原因の言葉そのものは知っていた。
詳しくは知らないが、とても珍しい自然現象なのだそう。
『その願い、叶えましょう――』
「!?」
――えっ! 何あの神秘的な真っ白超絶美少女! 全然気付かなかった!
あ……光と殆ど気配同化してる……だからすぐ気付けなかったのかな?
キーーーーーーーーン。
「――ぃッ」
そんな感じで暢気に内心で現実逃避していた私は、唐突に脳を揺さぶられるような強烈な痛みに襲われた。
原因はすぐに分かった。暗闇に紛れて姿を現した、巨大な黒い玉のせいだった。
黒い玉の周囲の空気が歪み、空間が大きく揺らいでいるのが目視出来た。直感は玉が現れてからずっと危険信号を発していた。
――あれは、まずい。繋がってはいけない。そう、魔女の直感が警告していた。
なのにどうしたことか、サクラちゃんが明らかに危険な黒い玉に向かって行こうとするのが見えて、焦る。
――ダメ。そっちは行っては、ダメ。サクラちゃんは――。
ふんわりと、けれどかなりハッキリと鮮明に黒い玉へ行ってはダメな理由が脳裏を過ぎった。……なのに、すぐに記憶が飛んで思い出せなくなる。
それに対して違和感を覚える間もなく、ただただなんとか止めなくてはという一心だけで先程からどんどん苦しくなっていく息のままサクラちゃんを呼び止めようとした。
「さ……さくら、さん……?」
だめだ……息が、苦しい。
「あ、――」
気付いた?! こっちに戻って――。
「――テメェら早く行きやがれ、すぐ閉じちまうぞ!」
誰だ、明らかにヤバいと分かるのに行かせようとしてる奴は! と息苦しさの次はついに霞み始めた視界を焦りと怒りに任せて無理やり動かし、思わずギョッとした。
ど、泥。どろどろの泥がどろどろ動いて声を発してる……!?
「――私がこの身に変えても必ずシオン様を救ってみせます。必ず!」
喋る泥に私が気を取られた一瞬。その一瞬でサクラちゃんは明らかにヤバい黒い玉へ接近し、よく分からないことを言いながら飛び込んで行ってしまった。
ちょ……! 危ないの明らかにサクラちゃんのほうですけど!? まずは自分を救って……! という叫びを発することも出来ず、ついに天地がひっくり返ったように身体のバランスが取れなくなって私は地に倒れこんだ。
てっきりひんやりしてると思っていたのに、意外と熱を持った真夏のアスファルトのようなゆだる暑さを感じる。
「だから、――安心して待っていて下さいね、シオン様!」
意識が途切れる寸前、最後にぐしゃり、と紙を強く握りつぶしてくしゃくしゃにしたような音と、全く安心出来ない言葉を聞いた、……ような気がした。
――そうだった。それから、どうなったんだっけか。
『呑み込まれたんだよ』
そうそう。丸ッとね!
……記憶が曖昧だけど、泥に丸呑みされちゃったんだっけか。
『うん。それからずっと眠ってる。……今も夢を見てるんだ』
そっか。そこから今までずっと寝てるのか、私。
あれ……誰?
『分からない? 酷いなあ』
あ、待って。その声、まさか――。
聞いたのが直近のみだったせいなのか、あまりピンと来ていなかったが声を聞いてるうちに誰か分かってしまった。
誰なのかという答えを言おうとしてふと、夢と理解してから一気に衣替えのようにファンシーな感じになってしまった視界の中で、一際光る水晶が遠くに見えて自然と吸い寄せられるように何気なく近づいていた。
……体型が、女性? なんだろう、これ。
もしかして、この中に閉じ込められてる、とか?
ここが夢の中なら私の記憶にある人かな……?
……もう少し近付けば顔が見えそ――。
『――ダメだよ。そっちに行かないで』
と、急にお腹を締め付けるように出現した男の人の腕らしいものに引っ張られ、急速に水晶が遠ざかって見えなくなっていく。
呼応するように周囲の景色も薄れていって、なんとなくもうすぐ目が覚めるのだと直感した。
『――僕と一緒に居よう。永遠に』
くすぐったくなるような言葉を囁かれ、思わず「ナンダコレ」と言葉を溢してしまった。
……夢だから願望的なものが反映されているんだろうか。何それ恥ずかし。
「……!?」
などと考えながら重い瞼を億劫に開いて驚愕した。
目の前に半裸のムキムキ美少女が刀っぽい武器を抱きながら壁に背を預けてて、それと何故かバチッ! と目が合った。
――だけでなく。やたら身体が重いと思えば明らかに男の人っぽい逞しい肌色の腕がお腹に回されていたのだ。
声にならない声で叫びながら、素早く状況を理解しようと周囲の景色に視線を彷徨わせ、自分の部屋にそっくりだと気付く。というより私の部屋だ。
プレゼントする為に編んだのに、呪い人形と言われてしまったために回収した編みぐるみがしっかりと開封済みの公爵家の印が押された例の手紙たちを持って飾り棚に存在しているから間違いない。
ここは間違いなく私の部屋で、私のベッドの上だ。
「????」
えっ。どういう状況。
ばちっ! とまたしても半裸のムキムキ美少女と目が合った。頷かれた。
なにが……?
「――やっと目が覚めたかよ」
「……ん?」
ぺちぺち、と可愛らしい音が床のほうから聞こえて視線を下げる。
なんか居た。
「「…………」」
な、ななななんだあれは!
「か……」
「か?」
「可愛い~ッ!」
「へっ、当たり前のこと言うなよ」
生意気! でも可愛い!
見下ろした床には、可愛らしい小人が居たのだ。一瞬、状況把握も忘れて急なファンタジーに興奮してしまう。
ピンク色のツインテールが喋るとぴょこぴょこ揺れててぎゃんかわである。
「よし。――つーわけで、テメェは用済みな?」
「――――」
「よ、う、ず、み、な!」
「……はいはい、分かってるよ」
物凄くテンション低めなゲッソリ声が背後から聞こえた。
それに対して「えっ」と状況を思い出して硬直していると、するりとお腹の前に回されていた拘束が簡単に解けて、ついでに背後の気配も遠ざかってそのままスタスタと退室してしまったようだった。
……そうだった。これってどういう状況なの?
「振り返らねえほうがいいぜ。あいつは今、全裸だ」
「…………」
……ねえ。その情報、いま必要だった?
よく見れば私は寝間着だった。そこに先程まで抱き着いていた全裸の夫。思わず、条件反射で下半身を確認してしまったのは仕方ない。
……大丈夫だよね? なんか気怠そうに返事してましたけども。私も妙に全身が気怠いのがひしひしと! ひしひしと今になってきてるんですけども!
「安心しろ! そのための見張りだ!」
「…………」
私の不安そうな顔で察したのか、それとも単に元々誤解しないよう言うつもりだっただけなのか、小人が鼻高々に胸を張って宣言した。
……とりあえず、小人の言葉を一旦信じるとして。だからどうしてこんな状況になっているのだろう、という私の疑問は依然継続中であった。
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