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177話 ミドリムシの酒3

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「しかし、勇者か…… 今、俺達家族の中で1番強いんじゃないか?」

 緑を抱きしめて、はなさない湖上を見ながら魔緑がつぶやく。その呟きを聞き取ったのか湖上が首を魔緑に向けると、口を開く。

「ああ、それだけど正直な話。内心すごく焦っていたんだよ……」

「あせる? それは俺達【水野 緑】のほうなんだが?」

「いや~ 異世界転生?って大きな力を貰えるって話だったけど。いきなり魔王が近くにいて、戦いはじめたけど。私の湖上流抜糸術ってほとんど初見殺しでしょ? あのまま戦い続けたら対応されると思ってたし、なによりあれで殺しきれなかったのが驚きだよ! 後は【繊月】と【新月】があるけど正直な話、向こうの世界では攻撃の威力が上がるだけだし」

「おいおい、あれでまだ全力じゃなかったのかよ?」

「いや~、向こうの世界であんまりファンタージって興味なかったけど。【未来視】とか【予知】とかの能力があったら無効化されるんじゃないかな?」

「そんな、能力があったとしても単純な身体能力で、わかっても避けれないんじゃないか?」

「いやいや、そんな単純じゃないよ。えっと……魔緑ちゃんでいいのかな? 魔緑ちゃんがしてきた全方位の攻撃なんかを続けられたあぶなかったよ…… それに、こっちが認識できない所からの遠距離攻撃やいきなり後ろに移動する【瞬間移動】とかあったら状況なんてどう転ぶか……」

「俺に聞かれるまでもなくそんな言葉が出る辺り、その能力に対しても対応を考えてるんじゃないのか? まったく、どうやったらそんな思考ができるのやら……」

「ふふふふ、年の功ってやつだよ? この体は若いけど、それは女神様に貰った若さだからね」

「何? 俺達と同い年じゃなかったのか?」

「ああ、緑ちゃんが向こうに居た時までは、同い年だったよ。でも、ここに来る直前の私は、90を超えたお祖母ちゃんだったよ、しかも死ぬ寸前のね」

「それはどういう事だ?」

「いや、私も理屈はしらないよ。もちろん女神様に聞いたけど、そうゆうものっていわれちゃったよ」

「まぁ、そう言われた理屈を聞いてもしょうがないしこっちにきたしな…… しかし、90歳をこえていたのか。もしかしてなれたのか?」

「うん? もしかして私が言ってた目標のことかな?」

「ああ、免許皆伝に」

「うん! というかさっき【繊月】と【新月】の話をしたでしょう? そのうち【新月】あれって一族でだれも到達できてなかった技なんだ。だから免許皆伝は【繊月】を覚えた時点でなったんだ。だから【新月】は周りの人達が私の技を見てそう言っただけなんだ」

「それは、言葉がないな…… すごいって言葉が陳腐に感じるな」

「ふふふふ、ありがとう!」

「ねぇ! そろそろはなしてよ! 三日月ちゃん!」

「ええぇ~ もうちょっとこうしてたかったんだけどな~ しょうがない」

 三日月に抱きしめられている間、緑はなんとか距離をとろうとでもがいていたがそれがかなわず泣きを入れる。それに答えた三日月が残念そうに緑を開放する。

「やっと解放されたよ。もう皆の前で抱き着くのは恥かしいよ」

 力なく緑がそう言うと三日月はニヤリとわらい答える。

「ならいいのかな?」

 そういって三日月が緑の目を真直ぐ見つめる。

「もう! からかわないでよ!」

 そういって顔を真っ赤にしてそっぽを向く緑。

「まぁ、つもる話もあるか皆で食事をしながらにしない?」

 緑達の話を一旦とめて食事にしようと言ったのは腐緑。

「君も緑ちゃんなんだね。むぅ……スタイルも私よりいいんじゃないか」

 そういって三日月は腐緑の体を確認する様に撫でまわす。

「ちょっ! やだ! 手つきがエロすぎるよ!」

「あははは! ごめん、ごめん思わず同性だから遠慮がね♪ じゃあ、こっちの世界の初めてのご飯をいただこうかな?」

 そう言い終わると同時に三日月は腐緑の尻をなでる。

「ひあっ! なんでお尻をなでるのさ!」

「ああ、ついうっかり。私の事はエロ婆と思ってもらったらいいよ」

「む~」

 珍しく腐緑が三日月とのやり取りで顔を赤くする。

「腐緑の提案通り食事にするぞ」

 そう言って魔緑が手を叩き食事の準備に取り掛かる。



「んんん~! 美味しい! 美味しい! 向こうの世界と比べてもこっちの料理は美味しいね!」

 そう言って出された様々な料理に舌鼓をする三日月。今緑達は、情報のすり合わせもかねて召喚のために緑のダンジョンに来た人々と家族全員で食事をしていた。

「勇者殿、緑のダンジョンの食事がこちらの世界の基準にしてもらっては困ります」

 そう声を上げたのジーク。

「確かに婿殿達が出す料理はこの世界でも最上級のものになるのう」

「せやな! 緑達の出す料理は下手な貴族でも食べれへんからな~!」

「すっごく美味しいですけどここの食材を食べれるのは一部の冒険者と王族やそれに近い貴族の人達だけですもんね」

 ジークの言葉を補足する様に話したのは3姫の父親達、魔緑の3人の嫁の父親達であった。

「なぁ、緑。お前の同郷を歓迎するなら。あの酒はださないのか?」

「ああ! いいですね!」

 そう言って緑がアイテムボックスより数本のビンをだす。

「まってました!」

「おい、あんたその酒が飲みたかったから言ったんじゃないよな…… ビル」

「あ? もちろんそうに決まっているだろう! 魔緑!」

「ワインとはまた違うんですか?」

 そう聞いたのはイリス。

「まぁまぁ、まーちゃん硬い事は言わずに」

「そうだそうだ、硬い事は言わずに! まーちゃん♪」

「ずいぶん中がよさそうだな、腐緑に三日月」

 そう言って2人をジト目に見る魔緑。そんなやり取りの間に緑が皆に酒を入れたグラスを配る。

「じゃあ、みんなグラスは行き届いたかな? じゃあ、三日月さんとの再会に乾杯!」

「「乾杯」」

 そう言って皆がグラスに口をつける。

「「なんじゃこりゃー!」」

 そうほとんどの者達が言ったのはグラスに口をつけて5分ほどたっていた。

 それまでは酒を飲んだ事のある者は静かにその酒を味わっていた。

 唯一ビルだけがお代わりを魔緑に要求していたが、皆が意識を取り戻してからだと魔緑がたしなめていた。

「ほれ! 皆、意識を取り戻した様じゃお代わりじゃ魔緑」

「わかった」

 そういった魔緑は酒瓶をさらにアイテムバックから取り出しテーブルに置いていく。

「おい! 緑、これを人族の国にも卸してくれ! 金なら王様がいくらでも出すはずだ!」

「緑さんぜひ、エルフの国にもお願いします」

「婿殿! もちろん獣人の国にもだのむぞ!」

「家族なんやから国とは別口でもらわれへんか?」

「すっごく美味しいです! なんで今まで食卓にあがらなかったんですか?」

 ダンジョンに来た各国の代表達は、何としてもこれを持ち帰るという考えに直ぐ行きつき、さらにこの場でどれほど飲めるか考える。そんな者達に対して緑の鶴の一声。

「今日は、三日月さんの歓迎会です。奮発しちゃおう!」

「「おおおおおおっ!!」」

 緑の言葉を聞いた者達が声を上げるが、そんな中で三日月が静かに手を上げる。

「どうしたの三日月ちゃん?」

「緑ちゃん、このお酒のためなら私、国も亡ぼせるかもしれない」

 静かに言った三日月の言葉。その場に居た各国の代表はそれを聞き青くなる。

「またまた~ 三日月ちゃんそんな冗談言ったら、みんなびっくりするよ~」

 そう言っても表情の変わらない三日月に緑が顔を青くし、なんとか酒の生産量を増やさないとと考えはじめる緑。

 その後も緑をよそに宴は続きもちろん次の日、多くの者達が二日酔いに苦しむのであった。

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