138 / 178
138話 ミドリムシの家族のお姉さん
しおりを挟む「はぁ、はぁ、はぁ。 なんだよ、どうなってるんだよ……」
小さな獣人の子供は泣きそうになりながら思わずそんなセリフを吐き捨てる。彼は自分の村に病がはやり王都にその事を伝えるために走ってきた。普段なら王都に近づくにつれ少なくなる魔物が普段とは違い少年の視界には数多く見つけられた。
「いつもはこんな居ないのに! うううう…… ぐすぐす」
獣人の少年が泣き出すには然程時間がかからず、その目からは涙が溢れだした。
少年は泣きながら今の状況に文句を言うが、それでも王都に向かって走りづづける。その時少年の遥か後ろで爆発音が聞こえる。
「なんだ!? ひっ!」
少年が走りながら後ろを振り返ると、猪型の魔物が自分達の進行方向にある木をなぎ倒して森から出てくる姿を発見する。猪型の魔物は森から出ると横一列に並ぶと後ろ脚を蹴り突撃する準備をはじめる。
少年がその様子を見ていると横一列に並んだ魔物がいっせいに走りはじめる。
その光景を見た少年の足は止まってしまう。少年が住む村の周りにはめったに見られない危険な魔物が大量にあらわれ、その魔物が今、自分が向かっている王都に向かって走ってくる状況は少年の心を絶望に落とす。
そんな光景を見た少年の走る足が止まるのも無理はなかった。
少年は絶望からその場で茫然と魔物達が向って来るのを眺めていたが、その時少年の耳に自分に向けられた小さな声が聞こえた。獣人の少年の耳は人族ではとても聞き取れない、遠くの声をききとった。
思わず少年が振り返ろうとすつ途中、今度は耳元で声が聞こえた。
「大丈夫ですよ♪」
その声に少年が驚くが、その声の主は少年が振り返った先にはいなかった。少年は聞こえた声に驚き振り返るも声の主を見つけれず、再び魔物達の方に視線を向ける。そのわずかな時間の間に魔物が迫りくる光景は驚くべき変化をとげていた。
王都に向かって走って生きた魔物の一団の先頭が空に打ち上げられていた。背丈が地面から2mはあるかと思われる猪型の魔物達がまるで木の葉の様に空を舞っている。
少年には理解が出来ない光景が広がりその光景をぼんやりとみていると上空より大きな音が通りすぎていった。
ブブブブブブブ!!
その音に気づいた少年が空を見上げる。そこには大量のキラービーが飛んでいくのが見えた。少年の頭はもう周りの光景を情報として処理できないほどに混乱していた。
小さな少年の頭の中は見た光景の状況を処理できずにいたが一つだけ確信したことがあった。それは、自分はここで死ぬのだろうという事であった。
少年が見た光景は自分の周りに大量の魔物が居る光景。それ自分は決して生きて王都にはいけないと思わせた。自然と少年の目からは涙が溢れポツリと言葉をこぼす。
「おかあちゃん…… おとうちゃん……」
それが少年の口から出た言葉であった。自分の死を悟った少年の口から出た言葉は最愛の家族へのよびかけであった。
ドドドドドドドドド!!
少年が思わず言葉をこぼした直後に辺りに響く大地も揺るがす爆音が鳴り響く。少年はあまりに大きな爆音に飲まれ声もあげれずにうずくまる。そして、その音に恐怖して震えていた。
「大丈夫ですよ♪」
そう声が聞こえた瞬間、今まで聞こえていた爆音が小さくなる。それでも恐怖に打ち震える少年であったがその頭がやさしく撫でられる。
「大丈夫ですよ♪」
もう一度聞こえた声に顔を上げる少年。少年が見たのは自分より少しだけ大きな少女が見せる笑顔であった。
少女の顔を見た瞬間、少年は抱きしめられる。
「本当に、間に合って良かったです♪」
「え? え? お姉さんは誰ですか?」
少女の声に我を取り戻した少年が尋ねる。
「私はクウと言います♪」
その声に安心した少年であったがすぐに自分の置かれていた状況を思い出し声を上げる。
「お姉さん! 魔物が! 魔物が!」
幾度目かの少年の【お姉さん】という言葉にクウが喜びの声を上げる。
「お姉さんっていいました!?」
そんな2人の会話を遮るように猪の魔物がクウに襲い掛かってきた。獣人の少年は、声も出せずその光景をただ見る事だけしかできなかった。
だがその後は、少年の予想とは違い魔物をクウが何事もなかった事の様に倒す。
「えい♪」
軽い掛け声とは裏腹にクウに向かってきた魔物は、クウの体の内部を破壊する技に体にある内臓に直結する穴や口、目や耳から血や内臓を噴き出し倒れる。
普段家族の蟲人の中で2番目に小さな体のクウは、何かと他の家族に子供扱いされることが多かったために少年に賭けられた【お姉さん】という言葉にとても喜んでいた。
「ほら! 大丈夫だよ♪」
そう言って少年に声をかけるクウであった。
「……」
だが、少年から返ってきた反応は血や内臓にまみれのクウを見て沈黙。その事に気づかないクウはとにかく少年を落ち着かせようと抱きしめる。
「……」
少年が震えを止めたことにより安心したと思ったクウの気持ちとは裏腹に、少年は内臓や血を被ったクウに抱きしめられた余りの恐怖に気絶した。クウは、頭をしばらくなでるが反応が返ってこない事に気づき少年の顔を確認する。
顔を確認するクウ。
少年は白目を向き気絶していた。クウはその少年に声をかけるも、少年が目覚める事もなく、急いで大きなホレストアントの子供を呼び寄せた。クウはその体に少年を括り付け、王都に向かうように指示をだすのであった。
「クウは頼られるお姉さんになりたいです……」
そう呟いたクウは他の王都に向かってい逃げている人達を守るために駆け出すのであった。
「おい! 大きなホレストアントがこっちに来るぞ!」
亜種で体長2mほどの大きなホレストアントを見た人々が騒ぎ始める。その声を聞き騎士や冒険者があつまってくると、その中の1人が叫ぶ。
「おい! こいつは【軍団】の家族だ! こんなでかいやつは【軍団】以外考えられない! 道を開けろ!」
叫んだ者の言う通りに人々が、ホレストアントの進む方向から道の両脇に移動する。走ってきたホレストアントは速度を落とすと、丁寧に少年を地面に下ろし、足を上げて支持をだした冒険者に敬礼をすると戦場に戻るべく振り返り走り出した。
走り去ったホレストアントを確認した人々は少年の元に集まる。
「おい! 大丈夫か!?」「ケガはしてないか!?」
気絶し反応の無い少年の体にケガはないかと騎士や冒険者達が確認する。その内の1人が少年に括り付けられた手紙を発見する。
「何か手紙が着いているぞ」
少年に括り付けられていた手紙に気づき少年のそばに集まった者達が全員でその内容を確認する。
『この少年を保護してください チーム【軍団】のお姉さんより』
その手紙を読んだ冒険者は叫ぶ。
「この少年を保護するぞ! 前線から運ばれたようだ!」
その叫び声に冒険者が反応する。
「誰からの手紙だ!?」
「チーム【軍団】のお姉さんらしい!」
その言葉に冒険者達は心の中で手紙の主を叫ぶ。
「ヒカリさんだ!」「レイさんだ!」
クウが手紙に込めた心とは裏腹に手紙の主をクウという者はいなかった。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる