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133話 ミドリムシの果物

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 王から話を聞くと、緑達がエルフとドワーフの国に1番近い街から王都に向けて出発した次の日に、王都の周りの街や村で病が発生したと連絡が届いた。

 緑はゴクリと息をのみ王に尋ねる。

「病によっての死者はどれほどでているんですか?」

「病によって直接の死者は出ていない……」

「え? 出ていないんですか?」

 緑の質問に王が返した言葉に緑は驚き声を上げる。

「では獣人がこの世からいなくなってしまうと言ったのは……?」

 緑が直ぐに先ほどの王の言葉に疑問を持ち尋ねる。

「病はある一定まで症状が進むとそこで進行が止まるのだ」

「それはどんな症状でしょうか?」

「それは病にかかった者が動けなくなと止まるのだ」

 それを聞いた緑と魔緑は顔を見合わせると考え込む。しばらく考えた後に緑が魔緑に相談する。

「まーちゃん、これって自然発生かな? そうじゃないとすれば……」

 そう言った緑の質問に対して魔緑が険しい顔をしてつぶやく。

「地雷か……」

「地雷とはなんだ?」

 王の質問に緑と魔緑は地雷の説明をする。

「確かに似ている…… 病にかかってしまった者を周りの者達はかいがいしく世話をする…… それをあざ笑うかのようにその者達にも病がうつる。どこの誰だかしらないが我が国と戦争でもしたいのか!? だが、今はそんな事より治療法だ。この病は状態回復のポーションで回復するのだがかかっている者に対して圧倒的に数が足りない。何か良い知恵はないだろうか!?」

「ああ、それなら何とかなるかと思います。ただそれをどうやって運ぶかが問題で……」

「な、何とかなるのか?」

 緑の言葉に王は声を荒げて尋ねる。

「王様さっき実を食べましたよね? その実でかかっていた病は治りました」

 それがいつもは出さない強引さで緑が国王に果物を食べさせた理由。

「「えっ!?」」

 緑の言葉にそこにいた全ての獣人が驚きの声をあげる。そして、先ほどの珍しく声を荒げた緑に納得する。

「なるほど、道理で果物を食べさせるわけだ…… しかし、病にかかった者は大勢いるそれだけの数を用意できるのか?」

「はい、用意はできます。ただ…… どうやって王都以外の街に運べば良いのかと、仮に運べてもそこで病にかかった人々に食べさすのに大勢の人手が居るので…… とにかくその方法を考えたいと思います。ここに地図を持ってきてもらえますか?」

「はい! こちらに!」

 地図を渡された緑達は、王達と作戦を練るのであった。



「じゃあ、お願いね。まーちゃん」

「それでは俺は先に行くぞ。干支達も酉を残してついてこい」

「「は~い」」

 魔緑がそう言って会議室を3姫とウンディーネ、干支緑達と出ていく。魔緑が場内を最短で出ようとすると数十名の騎士達が現れ一礼すると魔緑達の最後尾に付き城から出る。

「よし! これで準備は完了だ! じゃあ、俺達はここで別れるがお前達は騎士達の言う事を良く聞くんだぞ!」

「「は~い」」

 干支緑達の返事を聞くと騎士達の顔を向ける。

「こいつ達をよろしく頼む」

「「お任せください!」」

 魔緑の言葉に騎士達が力強く返事し一礼する。その返事を聞くと魔緑と3姫、ウンディーネは王城の目の前の広場で干支緑達を見送る。

「さて、俺達も自分達の役割を果たそうか」

「では、はじめるわよ」

 緑の言葉にウンディーネが魔力を圧縮し始める。

 緑達が居る広場には魔法を使える者達が集められていた。その者達がウンディーネの言葉で一斉に魔法を使い水が生み出される。集められた水と自らの魔法で作った水をウンディーネが制御し、そこに魔緑が半身を浸からせるとみるみる魔緑の髪が伸び始める。

 その伸びは髪は大樹の枝の様に分かれる。魔緑が巨大な木の様な姿になるとその枝の様な髪から実をつけ始める。

「本当にすさまじい速さだのう」「ほんま、びっくりやわ」「すっごく速いですね」

 3姫がそんな事をいっていると魔緑が3人に向かって叫ぶ。

「おい! しゃべってないですぐに収穫していってくれ!」

 魔緑の叫びに頷くと3人は魔緑の髪になった実を収穫し、木の根元の魔緑の元に近づく。すると3人が収穫した実が一瞬にして消え去る。

「本当にさわらずに入れる事ができるのだのう」「見るまで信用でけへんかったけど」「見せられては信用するしかないですね」

 3人は魔緑が手も触れずに実をアイテムボックスに収納したことに驚くがすぐさま、実を回収する作業に戻る。そんなやり取りがされる間も魔法で作られた水は、魔緑が光合成をすることで消費されていく。それを補給するためにウンディーネを筆頭に魔法を使える者達は水を生み出し続けるのであった。



 魔緑と別れた干支緑達は騎士達に案内され、王都の中心にある広場にいた。そこには1000人の騎士達が集まっており、100名づつに分かれて整列していた。

 城の中よりついてきた騎士達は数人づつに別れ干支緑達1人1人案内する。別れた数人の騎士達で100名づつに分かれたの騎士達をその指揮下に置く。1000人以上の騎士達が干支緑達を筆頭とし、10個のググループに分かれると干支緑達に報告をする。

「干支緑殿! 準備が完了しました」

 それを確認した干支緑達が声を上げる。

「「出発~!」」

 そう言うと干支緑達は次々に【鑑定】を使い始める。10人のうちの8人の干支緑達は広場から外に向かって8方向に進み始める。

 その後ろにそれぞれ騎士達が整列しついていく。干支緑達がそれぞれ向かった方角には王都を走る大きな道が8本あり、その道の両サイドには病にかかった者達がその家族や隣人、または依頼を受けた冒険者達や広場に集まらなかった騎士達に助けられ整列していた。

 干支緑達は、その並んだ全ての者達を【鑑定】で確認していく。あから様に病が重症になっているものや自覚症状が無い者達まで干支緑達はアイデムボックスから状態回復の実を取り出しそれぞれの者の前に置いていく。

 その置かれた実を病にかかった者達が口に運ぶ。軽度の者達は自分で実を食べていくが重症の者達は周りにいる者や干支緑達に付いていく騎士達が食べさせていく。



 数時間後

「くそ! 人手が足りなさすぎる!」「王都の周りの街や村にも向かわなければならないのに!」

「お前達! くっちゃべっていないで病人のために動け!」

 時間が経つにつれ病にかかった者の周りの者達にもうつるリスクが高まってしまう事を騎士達は危惧していたが、病にかかった者が多すぎたために、家族や隣人、冒険者、騎士達で事にあたっても手が足りていない状態であった。

 このままでは、重症の者達が実で病がなおってもその周りで世話をしていた者達が病にかかってしまう、王都で今必死に病と闘っている者達の心の中にあせりが広がっていた。

 そんな時、大勢の足音が聞こえてくる。

「あそこが先頭だ!」「「俺達も手伝うぞ!」」

 そう言ってやってきたのは、人族、エルフ、ドワーフの騎士や冒険者達であった。

「俺達の国がスタンピードに襲われた時獣人の冒険者達が助けてくれた! 今度は俺達が助ける番だ!」

「私の国にも獣人達が助けに来てくれた」

「俺達の国にもだ!」

 人手が足りないことに気づいていた緑達は人族の国、エルフの国、ドワーフの国に救援を頼んでいたのであった。

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