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99話 ミドリムシは大泣きする

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「うううう……ぐすぐす………子供達に美味しい物を食べさせてあげてください……」

「はい…… 本当にありがとうございます」

 神父としスターの姿を見てもらい泣きをしていた緑だが、思い出したように付け加える。

「あ…… でも今日は皆さんダンジョンでご飯を食べてくださいね」

 そう言って緑は先ほど出した、大きなダンジョンの入り口を指さす。神父やシスターのやり取りを見ていた子供達が集まって来て騒ぎ始める。

「すっげー おおきなとびらー」「いきなりでてきたー」「なかにはいれるのかなー」

「シスターお花のおにいちゃんはだれですかー?」

「ほんとだお兄ちゃんだれー?」

 シスターがどう説明しようか考えていると緑がしゃがみ子供達の目線に合わせる。

「こんにちは、僕は水野 緑 冒険者だよ。今日は皆にあいさつをしにきたんだ。みんな緑って呼んでね」

「こんにちわー」「みどりさん?」「お花のおにいちゃん、こんにちわー」

 子供達が緑に挨拶をするのを見てニコニコしていた緑だが子供達が集まって来るとその服が破れていたり汚れているのに気づくとみるみる目に涙をためていく。

「う、ううう…… ぐすぐす……」

 そんな様子をみて子供達が心配し緑に尋ねる。

「おにいちゃんどうしたの?」「おなかがすいたの?」「なかないで~ よしよし」「どこか痛いの?」

 子供達の言葉を聞き緑は気づく。子供達がすぐに思いつく涙を流すことが空腹な事、体の痛みそれらをなぐさめるように頭をなでる行為に緑の心は決壊する。

「うわ~ん、うえ~ん」

 それを見た魔緑がかけよる。

「お前はまた泣いているのか!? 子供達がおどろいているぞ、子供達の前で涙を見せるんじゃない!」

「だって~ 子供達をみていたら~」

「うっ!? だ、だがこれから、子供達を腹いっぱいにしてやるんだろう? もっと笑え!」

 そう言われて顔を上げる緑は気づく魔緑の目に涙が溢れんばかりに溜まっていると。

「ほらいくぞ、子供達に涙をみせるんじゃない」

「うん♪」

 魔緑の言葉に緑が笑顔を取り戻すと再び子供達に話かける。

「じゃあこれから皆でご飯をたべよう! この扉をあけるからね!」

 緑が扉に触れると扉がひとりでに開く。

「「すごーい!」」

 その扉の向こうにある光景を見えにして子供は感嘆の声を上げる。

「さぁ! はいって、お腹いっぱいご飯を食べよう」

「おなかいっぱいたべていいの?」「ごはんだ~」

 そんな言葉を聞き緑はまた涙ぐみそうになるが歯を食いしばって笑顔を作る。

「そうだよ、食べきれないくらいのご馳走がでてくるからね~」

「「わーい! わーい!」」

 そんな光景をみて緑は後どれほど涙を我慢することになるのか考えるのであったが不意に声をかけられる。

「あの~」

「ん?」

 緑が声をかけられ振り向くとそこには少し大きな子達が緑を見ており緑に尋ねる。

「もしかして、僕達売られるのですか?」「私達はいいけど子供達はゆるしてください!」

 その言葉を聞いた瞬間緑の目からは涙がボロボロとこぼれる。緑はそのまま話しかけてきた子供達を抱きしめていく。

「皆安心して…… 売られるなんてないから…… 皆も入ってご飯をたべよう……」

 そう言って緑は扉の方に子供達を先導して歩いていく。緑はダンジョンを歩くしばらくの間、振り返る事をしなかった、子供達が着いてきているか髪を伸ばして確認してまでも。

 この時、緑の顔は涙と鼻水まみれでぐしゃぐしゃになっており、魔緑に言われたとおりに子供達の前で涙を見せないためにはこうする以外に思いつかなかった。



 緑達が神父、シスター、子供達を案内して食堂に着くとそこにはバイキング形式で沢山の料理が並べてあった。

 緑の後をついてきた子供達はそれを見ると目を輝かせ、叫びだす。

「「うわ~! ごはんが一杯だ!」」

 子供達は料理に駆け寄っていくと叫び始める。

「お肉だ! お肉の匂いがする!」「ほんとだ! いっぱいお肉の匂いがする!」

 獣人の子供達はその優れた嗅覚で肉の存在に気づく。

 子供達に追いつくと緑は子供達に話かける。

「皆気づいたと思うけどお肉は食べきれないほどあるからね!」

「「ええ!? 本当!?」」

「嘘なんかつかないよ!」

 それを聞いた子供達は緑に感謝の言葉を伝える。

「「お肉のお兄ちゃんありがとうございます!」」

「どういたしまして!」

 そう言う緑の顔は引きつっていた。



 子供達は動けなくなるまで料理をたべ寝転がっていた。

「おなかいっぱーい」「もうたべれなーい」「もっとたべたかったー」

「ふふふ、みんなよく食べたね~ じゃあ次はお風呂だね~」

 緑達は男女に分かれて子供達を連れだって風呂に向かう。その際に子供達には体を洗ってから風呂に入ることをよく言い聞かせる。



 子供達が風呂から出た後雑魚寝ができるスペースに行き休憩をすると皆眠気から船をこぎ始める。

「今日はここまでにしましょうか…… 孤児院に運んでもいいですか?」

 子供達の様子をみて神父とシスターに確認を取る緑。子供達をどうしようか悩んでいた彼等は緑に何度目になるか分からない感謝を伝える。

返事を確認した緑は、髪で子供達を優しく包むとそのまま孤児院のベッドに向かう。

 緑が子供達を孤児院のベッドに寝かし、戻ってくるとフェン、グリン、ヒューイとそのチームのメンバー達が来ていた。

「緑よ先に食っているぞ」「おかえり、先にくうてるでー」「やはりここの料理はすっごくおいしいですね」

「「緑さんお招きありがとうございます」」

 父親達の後にそれぞれのチームのメンバー達が緑に挨拶をする。

「皆さん今日はよく来てくれました。歓迎します!」

 父親達以外の者達は緑に挨拶するまで料理に手を付けておらず、緑への挨拶が終わるとものすごい勢いで食べ始めるのあった。

「うっひょー うめー」「これってワイバーンの肉じぇねぇか!?」

「酒も肉に合うものがたくさんあって選べねぇ!」「見た事ない料理がたくさんあるわ!」

 皆の反応に気を良くした緑は味覚の次は視覚だと魔法を使いイリュージョンで楽しませるのであった。

 そんな中父親達が爆弾発言をする。

「のう緑、私達父親3人で話おうたのだが私達をここで雇ってはくれんか?」

「話を聞いてたらここには孤児院から働きに来た者達もいるんやろ?」

「それなら獣人の孤児も受け入れるんじゃないですか? その時私達がいれば色々教える事もできるでしょう」

 緑は3人の話を聞いて考え込むのであった。

 その話を聞いていた娘達3人は、それを拒む様にして欲しいと魔緑から緑に伝えるようにお願いをする。その願いに魔緑が返事をする。

「ここのリーダーは緑だ、決定するのはあいつだからな」

 魔緑がそう娘達に言うとそれを聞いた娘たちはうなだれる。そんな姿を見た魔緑がさらに言葉を続ける。

「だがお前達の父親の事だ緑はここでは答えを保留にしお前達に相談するだろう」

 その言葉を聞いた娘達は顔をあげるのであった。
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