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59.離せない手
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二人で昨夜を過ごしたホテルを後にして、駅に向かってゆっくりと進んでゆく。出勤途中のスーツのサラリーマンや、登校途中の制服姿の高校生達とすれ違う。
「萌も、本当なら制服着て学校行ってる時間だよなぁ」
「そうね、もうわたしには関係ないけど」
いつもより一層、輝いて見える青空を見上げて言った。
「お腹減ってるよね」
「うん」
朝起きてからと言うより、昨日の夕方に食事してから、飲み物しかお腹に入れてないことに気がついた。
「萌は、たくさん運動したからお腹空いたよね」
「それ、何か言い方がいやらしい」
「そうかな。事実を言ったんだけど」
ボク達は、駅前にあるファーストフード店に入った。オーダーを済ませて席に着くと
「わたし、ちょっとトイレ行ってくる」
と言って、萌は席を立った。
スマホが振動した気がして、ボクは、車椅子のポケットから取りだして画面を見た。咲恵からの着信通知とメールの通知が目に入る。
「昨夜はメールの返信がなかったので心配してます」
そんなメールの文面だった。昨夜、メールが来ていたのに返信をしなかったせいで、心配してのことだった。ありのまま、あったことを告げるという選択肢は端からない。
「友達と飲みに出てて、帰って来たらそのまま寝てしまった」
と、ウソのメールの返信をした。咲恵は、ウソだと気づくだろうか。言い訳だとしても、差し伸べてしまった手は、戻すことはもうできない。もっとひどい未来になってしまうからだ。ふらふらと、行き先もわからないままで放り出すわけにはいかない。
「おまたせ。なに見てたの?」
「あー、天気予報さ。洗濯しないといけないからね」
「そう」
萌は、それ以上聞くこともなく、朝食を食べて家に戻った。ボクの家は、公営の集団住宅でバリアフリーになっている。建物自体は古く、お世辞にもきれいだとは言えないが、一人暮らしには広すぎるほど部屋数があった。
「この部屋は、荷物置き場になってるけど、片付けしたら自由に使ってくれていいから」
「うん。ありがとう」
「布団は、そこにあるから。布団が敷けるくらいに片付けてね」
「やっぱり、別々に寝るんだ」
「そういう約束でしょ」
「瑞樹はどこに寝るの?」
「ボクは、あっちの部屋にベッドがあるから、そこで寝てるよ」
指差した方向を見て、萌は聞いた。
「瑞樹の部屋、見てもいい?」
「いいけど、宝探しみたいなことはダメだよ。まあ、見られて悪い物くらいはあるかもだけど。男の部屋だからね」
「お宝あるんだね」
そう言うと、ボクの部屋の方へと向かった。後を追いかけて部屋に入ると、すでにベッドに転がっている萌が見えた。
「もう、だめじゃん」
「ちょっと疲れちゃった」
そう言うと、むこう向きになり体を丸めた。
「萌も、本当なら制服着て学校行ってる時間だよなぁ」
「そうね、もうわたしには関係ないけど」
いつもより一層、輝いて見える青空を見上げて言った。
「お腹減ってるよね」
「うん」
朝起きてからと言うより、昨日の夕方に食事してから、飲み物しかお腹に入れてないことに気がついた。
「萌は、たくさん運動したからお腹空いたよね」
「それ、何か言い方がいやらしい」
「そうかな。事実を言ったんだけど」
ボク達は、駅前にあるファーストフード店に入った。オーダーを済ませて席に着くと
「わたし、ちょっとトイレ行ってくる」
と言って、萌は席を立った。
スマホが振動した気がして、ボクは、車椅子のポケットから取りだして画面を見た。咲恵からの着信通知とメールの通知が目に入る。
「昨夜はメールの返信がなかったので心配してます」
そんなメールの文面だった。昨夜、メールが来ていたのに返信をしなかったせいで、心配してのことだった。ありのまま、あったことを告げるという選択肢は端からない。
「友達と飲みに出てて、帰って来たらそのまま寝てしまった」
と、ウソのメールの返信をした。咲恵は、ウソだと気づくだろうか。言い訳だとしても、差し伸べてしまった手は、戻すことはもうできない。もっとひどい未来になってしまうからだ。ふらふらと、行き先もわからないままで放り出すわけにはいかない。
「おまたせ。なに見てたの?」
「あー、天気予報さ。洗濯しないといけないからね」
「そう」
萌は、それ以上聞くこともなく、朝食を食べて家に戻った。ボクの家は、公営の集団住宅でバリアフリーになっている。建物自体は古く、お世辞にもきれいだとは言えないが、一人暮らしには広すぎるほど部屋数があった。
「この部屋は、荷物置き場になってるけど、片付けしたら自由に使ってくれていいから」
「うん。ありがとう」
「布団は、そこにあるから。布団が敷けるくらいに片付けてね」
「やっぱり、別々に寝るんだ」
「そういう約束でしょ」
「瑞樹はどこに寝るの?」
「ボクは、あっちの部屋にベッドがあるから、そこで寝てるよ」
指差した方向を見て、萌は聞いた。
「瑞樹の部屋、見てもいい?」
「いいけど、宝探しみたいなことはダメだよ。まあ、見られて悪い物くらいはあるかもだけど。男の部屋だからね」
「お宝あるんだね」
そう言うと、ボクの部屋の方へと向かった。後を追いかけて部屋に入ると、すでにベッドに転がっている萌が見えた。
「もう、だめじゃん」
「ちょっと疲れちゃった」
そう言うと、むこう向きになり体を丸めた。
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