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五章 テクサイス帝国番外編 3.5 魔族領一人旅

752 ハエナワ村の村長との話し合い

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「助けたとはいえ、見ず知らずの者が見返りもなく、寝床と食事を与えられれば不安になるのは当然でしょう。気にしてませんので、彼をあまり責めないでやってください(と言いつつ、ちょっと傷ついたけど)」

「そう言ってもらえるとありがたい」

 ガタイのいい男性はカズにお礼を言い、軽く会釈をした。

「たまたま見つけて助けられただけですので、その言葉で十分です(情報は欲しいが、それに託つけてはな)」

「どうしてリールが漂流していたのかは、後で聞かせてもらうからね」

 髪を後ろで一つに結んだ中年女性が、両肩にポンと手を置き、何故そんな事になったかをちゃんと話すようにと圧を掛ける。

「は…はい……」

「じゃあ帰って良いわよ」

 話しを終えたリールは、そそくさと村長宅を後にする。

「もういいわ。ありがとう」

 髪を後ろで一つに結んだ中年女性がそう言いと、ガタイのいい男性と位置を入れ替えた。

「自己紹介をしてませんでしたね。ワタシがこのハエナワ村の村長アマ。そっちはワタシの亭主でノット」

 向い側に座っていたガタイのいい男性が村長だと思っていたら、髪を後ろで一つに結んだ中年女性の方が村長だった。
 背中に刺さる視線が強いと思っていたら、そういう事だったのかとカズは納得した。
 訪ねて来た見ず知らずの男カズが、村長は男性だと思い込んでいるのだと考え、自分は下の立場になって様子を伺っていたという事。
 カズは中々用心深い村長だと感心する。
 分析していれば分かっていたが、それで口を滑らせたり表情に出してボロを出しては問題だと、調べる事はしなかった。
 女性の村長は初めてだったので、少し驚きがあった。
 村長の亭主ノットが先に話して来た事で、自己紹介ができず先にさせてしまったので、こちらも謝罪の言葉を加えて自己紹介をする。

「申し遅れて失礼しました。カズと言います」

「西の島から来たと言っていたが、あそこは人の住まない無人島。どうしてあの島に行った? どうやってここまで来たの? 漂流していたリールを助けた言っていたが、どんな船で来たんだい?」

 聞かれたら答え辛い質問を、アマは間髪入れずカズに問うてきた。
 さてどうしたものかと考え、船はこの陸地に着くと座礁して沈んだと誤魔化したとしても、あの様々な地形がある無人島に、どうして居たのかという理由が思いつかない。
 テーブルマウンテンと言っても分からないだろうが、その島からと言ったら更に追求される事だろう。
 そこでここは少し内容を変え、正直に話す事にした。
 聞くのは村長とその亭主だけなので、最悪の場合は気絶してもらって、村から逃げる事を考えた。

「島に行ったのではなく、なんというか、飛ばされて来たと言った方があってますかね」

「何を理由わけのわからない事を言ってる。真面目な話をしてるんだぞ!」

 カズの話を聞きいて答えたのは村長ではなく、カズの斜め後ろで控えていた亭主のノットだった。

「短気を起こすんじゃないよ。カズさん、あなた魔族じゃないね」

「やっぱりか! 人族がこんな所に何しに来た!」

 外見からなのかは分からないが、アマ村長はカズを魔族ではないと気付き、ノットが大声を出してカズに詰め寄る。

「やめないか!」

「し、しかしだなぁ」

「はぁ…あんたは出て言ってくれ」

「お前と二人きりになんて」

「心配しすぎたよ。それにあんたがいたら、話が進まないんだよ。ほら、行った行った」

 アマに出て行くよう言われ、ノットは渋々部屋を出て行った。
 一連の流れから上下関係が見て取れ、ノットは年下女房に頭が上がらないらしい。

「悪かったね。亭主はどうも気が短くて」

「大丈夫です。見ず知らずの男と二人だけにしたくないという、ノットさんの気持ちはわかりますから」

「話を戻しましょう。カズさんは魔族じゃないね。だからと人族でもない。違うかい?」

「おっしゃる通り魔族ではないです。でもなんで人族ではないと?」

「少なからず魔族に対して、冷静に話をする人族なんて、ワタシはいないと思ってる。それに気配や魔力を感じさせずに、この村に来たのを考えると、何かの能力で消してるね」

「……ええ。魔族が魔力の扱いにたけているという事ですが、それでわかったんですか?」

「まあそうだね。ワタシらは魔力を日常生活でも使ってる。使う頻度で言ったら、どの種族より使ってるだろうね。だから魔力を完全に感じさせないカズさんは、おかしな存在なのよ。何で魔力を隠しているか、魔力そのものが無い別の世界から来た存在と考えたのよ」

「なるほど(もれ出す魔力を隠すつもりが、魔力が無い存在だと思われてしまったわけか。失敗だった)」

 赤ん坊だろうと少なからず魔力を保持しているこの世界で、魔力が無の存在は魔力の無い世界から来た者だけ。
 それを知っていたから、アマ村長はカズが人族ではないと判断。

「で、どうなんだい?」

「確かに俺は他の世界から飛ばされて来ました。冒険者ギルドで訓練をしたので、魔力は使えます。魔力を感知されてモンスターに襲われたので、スキルで魔力を隠してます」

「魔力を隠してるのは、モンスター避けという理由。それなら納得だよ。ワタシらも漁をする時は、極力魔力を抑えてるが、そこまで感じさせないのはスゴいよ」

「それはどうも」

「冒険者ギルドという事は、側に飛ばされて来たという事だね。それがどうして側に?」

 アマ村長は世界を分かつ結界の存在を知っている口ぶりに、これは早々と世界を分かつ結界を越えられるのではと、カズは期待した。

「ある件で転移させられてしまって、気がついたら無人島に」

 じっとカズを真っ直ぐに見るアマ村長。

「ウソは…言ってないみたいだね」

「ところでアマ村長は、結界をへだてる事を?」

 世界を分かつ結界の事をカズの口から出て、アマ村長は少なからず驚きの表情を見せる。

「カズさんから結界の話が出るとはね。知ってるよ。あちらは隠されてるだろうが、こちらは結構知られてる事だよ。おおやけにはなってないがね。魔族が犯した大罪に対してのいましめって事だと、ワタシらは受け取ってる。反発する者も多いけどね」

 二百年以上前の大戦は、魔族が侵攻して起こした事だと反省し、それを受け止めて生きているのだとカズは知る。
 少なからずアマ村長はそう考えていると。

「俺はあちら側に戻りたいんですが」

 北極と南極に行き来する場所がある事は知っているが、それは言わずにアマ村長に聞く。

「結界の事を知ってるなら、行き来する方法も知ってるんじゃないかい?」

「正確な情報じゃないんですが、北極か南極のどこかにとは(詳しく知りすぎても、怪しまれそうだから、そこは適当に)」

「あんた何もんだい? そこまで知ってるのは、こちらでもほんの一部だけだよ」

「冒険者をやっていた事で、地位の高い方と知り合いになって色々と」

 こんな辺鄙へんぴな所に住んでるマナ村長も、大概なものだとカズは思った。

「なぜワタシが知ってるのかって思ってるでしょ。今はハエナワ村の村長だけど、若い頃は傭兵組合で一つの団を仕切ってたのよ。そこでお偉方の護衛をしたりしてた事で、あまり出回らない情報を耳にする機会もあったの」

「傭兵組合ですか(やっぱり冒険者ギルドは無いみたいだな)」

「あちらの冒険者ギルドと似たようなもの。主に護衛や戦闘に関する依頼ばかり。戦闘ってのは大抵がモンスターや盗賊なんかの討伐。ちなみに亭主も元傭兵組合に所属してたわ。あの性格だから、団をまとめる立場にはなれなかったけどね」

「お二方が怪しんだ理由はわかりました。それで俺への疑念は晴れましたか?」

「話していて悪人てことはなさそうだし、七割信じて二割怪しみ、一割不明ってとこかしら」

「七割信じてもらえただけで十分です。それで現在地だけでも教えてくれませんか?」
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