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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

731 不毛で不明な地 3 巨大な生物との対話

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 巨大な生物の言葉は予想外に、撲滅の因子を知っている口ぶりに、驚きを隠せない。

「『どうするば、こんの呪いを解呪出来るかおすえれくれ!』」

 慌てて出た言葉は驚きのあまり、片田舎の方言の様に、噛み噛みになってしまった。

「『……ぬし、おのれはどこまで知っている?』」

 巨大な生物の声色が変わり、恐怖を感じるような殺気は無いが、踏み潰そうとしてきた時には無かった、確かな殺意がある。
 探して追い掛けて確実に仕留めるのではなく、たまたま邪魔になる所にいたから追い払う程度。
 巨大な生物からしたらその程度の事に過ぎないのだろうが、今まで向けられた事のない、圧倒的な力を持つ者からの殺意はを実感させる。
 一瞬意識が飛び倒れ込みそうになるも、本気で殺すつもりで向けられた殺意ではなかったので、辛うじて意識が戻り倒れるずにすむ。

「『話を聞くつもりで質問したなら、殺意を向けるのはやめてくれ。ただでさえ、弱ってきてるのに』」

 質問に対しての返答を待っているのか、巨大な生物は黙ったままでいる。
 元々撲滅の因子というのは、捕えた暗殺者のブーロキアが言い、レオラがそれに対して慌てたのを見ただけで、どんなに物なのかは知らないし、別に隠すことなどない。

「『知るも何も俺に打ち込んだ奴が、撲滅の因子だと言ったんだ。その場に一緒にいた仲間が知っている様子だったが、詳しく聞く前にここに飛ばされた』」

「『それだけか?』」

「『う~ん……たしか、魔神が魔族にとかなんとか言ってたような。俺が知ってるのはそれだけ』」

 撲滅の因子で知っている事を隠さずに話すと、巨大な生物からの殺意が薄まり消える。

「『ぬしの言っていることは、本当らしい』」

「『ウソをついても、俺に得はない。それより撲滅の因子を知ってるなら、呪いの解呪方法を教えてくれないか? 俺に払える対価があれば払う。命を差し出せとかは、結局死ぬ事になるんだから、意味が無いので無理だ』」

「『それを受けて生き残った者もいたろうが、我は知らぬ。わかるとすれば、作り出した者だ。それとぬしの命などいらぬ』」

「『だったらなんで、殺意まで向けて聞いてきたんだ? 知ってるかもって少し期待したのに』」

「『以前は我も狙われていた。そんな物をぬしが所有してる可能性を考えたからだ』」

「『撲滅の因子があろうとなかろうと、そんなにデカいあんたを倒せるとは思わない。狙ってた奴は、馬鹿なんじゃないか』」

「『ぬしの実力が、平均かそれ以上と見ても、ぬしを矮小と言ったのは間違いではない』」

「『旅の途中で、世界を知っているわけじゃないんだ。平均かどうかは応えかねる』(確かにあんたと比べたら、大陸に生息する誰もが、他愛ない存在だろうよ)」

 巨大な生物の話し方からすると、長い時を生きているのだと分かった。
 だからと思ったことを口に出して、突っ込むなんて事はせずに、聞いたままを受け取る。
 そして現状から察すると、レベル60から80くらいは、その辺りで飛ぶ羽虫程度の存在だと、言っている事を理解した。
 例え万全の状態で巨大な生物と接触していても、羽虫程度から鬱陶うっとうしい虫程度になるだけ。
 この巨大な生物がこの地でどれ程の存在なのかは知らないが、より濃い魔素マナの中心に存在しているという事は、かなり上位の存在として考えた方が正しいのだろう。
 だからと言葉遣いを変えようとは思はない。
 ここまで対等だという感覚で話していおいて、今更下手に出て媚びを売るなんてことはしはい。
 理由は簡単だ。
 このまま何もしなくても、呪いの効果でレベルは0になり死ぬだろう。
 それに気に食わなければ、ちょいとすぐそこにある溶岩のような巨大な脚を動かせば、抵抗虚しく簡単に潰すせる。
 
「『己の身がどうなろうと、仲間を思ってか。ぬしの話は実に度し難い』」

「『度し難い? 俺はそう見えているのか?』」

 これまでの話を聞き、巨大な生物は急にののしる。
 それについ聞き返してしまう。
 確かにこれまでの人生を思い返せば、そう言われても仕方がないだろうと、自身の愚かさを認識する。
 この不毛で不明な地に飛ばされ、更にはレベルも低下し続けている影響で、少しの事で気持ちが萎縮て弱気になる。

「『ぬしだけのことではない。ぬしのような考えを持つ者達のことだ』」

「『それはどういう……?』」

「『他者を思い遣る優しさは、己が身だけではなく、大切にしている者を死に追いやる。ぬしの話を聞き、まだそのような愚かな者達が多くいるのだと』」

「『他人に優しくして何が悪いんだ? 確かに救いようのない奴はいるが、それは一握りだけだ』」

「『その一握りを即座に始末しなかった結果が、今のぬしであろう?』」

 言い方はキツいが、確かにその通りだったので、反論のしようがない。
 捕らえてからの地下施設への移送。
 何もできないと高を括り、体内に仕込んでいた何かで第六皇女は負傷し、捕らえた暗殺者は死に、自身は生きているが呪いを受けたまま不明な地に飛ばされる羽目に。

「『これからぬしはどうする。時間は残されてないのだろう?』」

 言葉から察するに、巨大な生物は会話に飽きてきたと感じた。
 このまま去られては、肝心な事を聞けない。
 だったら怒らせたとしても、聞きたいことを全て聞き出してやると気合を入れる。

「『ない。だから撲滅の因子と、その呪いを解呪する方法を教えてくれ。知ってるんだろ?』」

「『先も言ったであろう。解き方は知らぬ。ぬしが所有していたら、跡形もなく消し去るつもりだった』」

「『ダメなのか……なら、ここはどこなんだ? 夜が明けることがなく、星は見えるのに月は無い。教えてくれ。俺は元の場所に戻りたい』」

「『度し難いだけではなく、ぬしは欲深い』」

「『どう思われてもいいさ。払える対価なら払う。だから教えてくれ。頼む』」

 怒ったのか呆れたのか、それとも何かを考え込んでいるのか、巨大な生物から返答がない。
 気まぐれで会話をしてきただけの相手に、どれだけ頼もうが受け入れてくれるわけがないと諦め掛ける。
 この様な不毛の地に存在する者にとって、突如現れた矮小の者の言うことを信じはしないだろう。
 逆の立場だったとして、自分なら無償で助けるだろうか?
 心に余裕があれば助けるかも知れないが、残りあと僅かな命に余裕などあろうはずがない。
 そう考え諦めかけた時、巨大な生物が沈黙を破り語り掛けてきた。

「『呪いを受け切り生きていれば、ぬしの頼みを聞いてやろう』」

 巨大な生物が頼みに対する対価は、撲滅の因子で受けた呪いで、レベル0になり死ぬ事がなければ、だと。
 これまでの話で、この呪を受けて生き延びた者はいたような事を言っていたが、それは解呪をしての事なのか、呪いが完遂した後に復活させたのか。
 後者だとしたら、復活させる事が出来る者がいないない時点で不可能。
 そもそも一度死に復活したとして、呪いが解けているのかも不明。
 前者はどの様にして生き延びたのか分からない時点で、後者以上に不明。
 元々居た世界から持ち込んだ物を使って、解呪出来たらとも考えた。
 しかし作り置きしてある料理は取り出せるが、元々居た世界から持ち込んだ物と知性ある本インテリジェンス・ブックを、この不明な場所に来てから取り出すことができなくなっている。
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