上 下
743 / 788
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

722 これから暮らす場所の選択

しおりを挟む
 この一年過ごしたレオラ所有の川沿いの家で今まで通り暮らすのは、今回捕えたブーロキアの仲間が帝都に潜伏していた場合狙って来る可能性が高い。
 ならばレオラの屋敷にと、アレナリアが途中まで口に出したが、左腕の肘から先を失い戦闘能力が半減しては、今回捕えたブーロキアと同レベルの暗殺者が狙って来たとして、屋敷の全員を守るのは無理だと考え、アレナリアは口を閉ざした。

「アハハハは! はぁ…」

 レオラは笑うと、大きくため息を吐いた。

「…気にするな。アレナリアの考えてる事はわかってる。今のアタシにブーロキアと同格の暗殺者を相手にする事は出来ても、誰かを守りながらは難しいだろ」

「ごめんなさい」

「だから気にするなと言ったろ。アタシの屋敷にお前たちを置いて、暗殺者が潜入してきたとした場合、アタシはお前たちを守ってやれる自信はない。もしそうなったら、悪いが三人から選ぶのはビワだ。その前に優先的順位は、屋敷で働く者達になるが」

「その考えは素晴らしいと思うわ。大抵の権力者は自分の身が一番。使用人を盾にするどころか、家族でさえも。なんてのを聞いた覚えがあるもの」

「アタシは敗戦国の落ちぶれ貴族じゃないぞ」

「なら今まで通りにしなさいよ。元気がないのはレオラも一緒でしょ」

「はは…言ってくれる。まったくもってその通りだ」

 アレナリアに一本取られたと、レオラは苦笑いした。

「それでお前たちだが、この中でフジを抑制出来そうなのは、かろうじてアレナリアだけだ。だからアレナリアには大変だが、フジと共に行動してほしい」

「そうね。フジと話せるのは念話を使える、私とビワとレラだけだもの」

「カズの事を伝えるかは、アレナリアに任せる。だが、長くは隠し通せないだろ」

「ええ。なるべく早く伝えるわ」

 アレナリアはフジと共に行動する事を承諾した。

「それとレラだが、アレナリアと一緒に居た方が安全だ。フジが一緒なら空高くに避難する事も出来る。帝国内で全力のフジに追いつける存在はない」

「あちしはそれでいいよ。フジと一番仲がいいのあちしだからね。でもそうすると、ビワだけ別になるの?」

 午前中の話し合いで、それぞれ滞在する場所を模索し、Bランクの冒険者でもあるアレナリアとレラを一緒に行動させる事がほぼ決まった。
 フジと共に行動させるというのは、テイムしたカズがいなくなった事で、登録者不在のテイムモンスターが存在してしまうのがギルドとして問題になるからだと。
 昼食を持って来たサイネリアが、それを伝えてきた事で、レオラはアレナリアをフジと共に行動させることを提案した。
 これで一旦は、テイムモンスター登録の件はなんとかなる筈。

 そしてビワはレオラの屋敷でと、なりそうなところだが、先の話にあった通り、もしもの場合を考えると無理だという事になり、そこでレオラは住む先として、数ヶ月程暮らしたというバイアスティッチの名を出した。
 レオラから離れるにしても、帝都内では近過ぎる。
 そこで魔道列車がまだ開通してないバイアスティッチをレオラは選んだ。

 一度セテロン潰された国から来た三人が、アラクネを狙った事件があった事で、街の出入りする者達をかなり警戒している。
 魔道列車が開通してなければ、街の出入りの時に顔の確認が出来るので、怪しげな者達が居たらすぐに分かる。
 街中でそれなら、レオラの所より安全だと考えた。
 そこならビワの知り合いも居るので、暮らしやすいだろうとも。
 それにバイアスティッチには、レオラと同じ帝国の守護者の称号を持つ、バイアスティッチの冒険者ギルドマスターをしている、SSランクのミゼットが住んでいるので心強い。

「どうだビワ? これはあくまで提案だ。今で通りアレナリアとレラと一緒がいいと言うのなら、フジを連れて帝国を出た方がいいが」

「……わかりました。私はバイアスティッチに行きます」

 これでビワは一人、裁縫と刺繍の街バイアスティッチに行く事が決まった。

「アタシはヤドリギと話をしてくる。アスターとグラジオラスが来たら、アレナリアは荷物を取りに行ってくれ」

「わかったわ」

 レオラは寝泊まりしている会議室を出て、サブ・ギルドマスターの執務室に向かった。
 入れ替わるようにして、昼食の後片付けをしたサイネリアが、レオラに午後の予定を聞きに戻って来た。

「あれ? アレナリアさん、レオラ様は(お手洗いかしら?)」

「サブマスに話があるって、少し前に出て行ったわよ」

「そうですか。サブマスに………はい!? 今の姿を他の職員に見られたら! もうレオラ様ったら! 勝手に出歩かないでって言ったのに!」

 レオラが向かった先を聞いたサイネリアは、会議室の扉を勢いよく開け、サブ・ギルドマスターの執務室に向かって行った。
 ギルド本部内でも人目を避けて、あまり使われてない会議室にを選んだのに、いくら慌てていたとしても、会議室の扉を開けっ放しにするはどうなんだろう。
 扉の向こうの廊下からは、微かに話し声が聞こえてきていた。
 あまり使われない会議室だとしても、ギルド職員は近くを行き来している。
 アレナリアはしょうがないわねと思いながら、開けっ放しの扉を閉めた。

「ねぇビワ。本当に良かったの?」

「バイアスティッチに行くことですか?」

「ええ。あそこなら確かに知り合いもいるし、アラクネの彼女たちも力になってくれるわ。でもレオラが言うように、ここより安全だとは、私は思わないわ」

「でもレオラ様のお屋敷に住まわせてもらって、もしもの場合が起きた時に、私がいることで少しでも判断するのを迷ってしまったら。それこそ私はレオラ様の所には……」

 レオラはビワの優先順位を低く言ったが、実際その時にカーディナリスが一緒だったら。
 冒険者として活躍してきたレオラは、辛い選択をしなければならない時は何度もあった。
 それこそ幼い子供の命と、多くの人々の安全を天秤に掛けなければならない事も。
 もしもの時にカーディナリスがビワを庇ったら、レオラが守る者が二人になる。
 守護騎士のアスター、グラジオラス、カザニアが側に居たとしても、三人の優先順位は第五皇女のレオラだけ。
 他の誰を犠牲にしてでも、自分達の命を賭しても守らなければならない御方。
 約一年レオラの側で働いてきたビワは、その事を理解していた。
 だからレオラの提案に同意し、一人でバイアスティッチで目立たずに暮らして、カズが帰って来るのを待つ、と。

「いつでも念話で話できるから、一人じゃないよ。ビワ」

「でも私達の魔力だと、帝都とバイアスティッチの距離を念話するのは無理ね」

「え! じゃあビワと」

「帝都からだとって事よ。だから私達がバイアスティッチの近くまで行けばいいのよ」

「そうか! フジに頼んで乗って行けばいいんだ」

「ええ。ただし私達だけだと、すごくゆっくり飛んでもらわないとならないけどね」

「あちしは飛べるけど、アレナリアは飛べないもんね。落ちたら大変」

「こんな事なら、私も飛翔魔法を覚えればよかったわ」

「やり方は聞いてるんでしょ。カズが帰って来る前に覚えて、驚かせてあげようよ」

「そうね。フジの住まいは帝都南部だから、話せるのは五日に一度くらいになると思うわ。それでいい? ビワ」

「はい。ありがとう。アレナリアさん」

「バイアスティッチ付近で、フジが隠れられそうな場所が見つかれば、いつでも念話が出来るけど、周囲はたしか荒野だったから難しいわね」

「私なら大丈夫です」

「本当に大丈夫? ビワは我慢する事が多々あるから。私達には隠さず思ったことを言うのよ」
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

処理中です...