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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

689 積もり積もった報酬と買取金

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 冒険者ギルド間を瞬時に移動出来る転移装置が想像以上に高いことにカズは驚いた。
 
「ギルドの転移装置を作るのって、そんなにするのか!」

「作るのにそれだけ大金がかかり、使う回数が増えれば、必然と整備する頻度も増える。さらに使うのにはそれなりの魔力を必要とする。使ったカズならわかるだろ。たいして魔力は消費してないだろうが」

「滅多に使わないわけだ」

「個々を転移させる瞬間移動テレポートだけでも、その使い手は引く手数多。それが小さな町の端から端まででもだ。この意味はわかるだろ」

「……まあ」

「カズの場合は複数を一度に、しかも長距離を瞬時に移動出来るんだ。知れば貴族だけじゃなく誰しもが、それこそ国が手放さないよう囲い込もうとするだろう。まあカズなら捕まる事なく逃げられるだろうが、狙う対象をビワ達に変えてくるのは明らかだ。カズに言うことを聞かせるために」

「忠告ありがとう」

「くれぐれも気をつけろ。そろそろ帝都を出るんだろ」

「そうだな。やる事もだいたい済んだし、あとはアイリス様の所に一度行くくらいかな」

「そうか。なら出立前に、細やかだが祝をしよう」

「祝い?」

「何をとぼけている。アタシらのビワだけじゃなく、アレナリアとレラまでも嫁にしたんだろ」

「! それをどこで」

 予期せぬレオラの発言に、カズは動揺を隠せない。

「ビワがばあに夫婦になる事について相談していたのを、耳にした」

「たまたま……?」

「たまたまだ。たまたま」

 ビワがカーディナリスに相談したのは本当かも知れないが、それをたまたまレオラが聞いてというのが怪しい。
 ビワが内緒にしてとカーディナリスに話したのなら、それをレオラに話すとは思えない。
 だとすれば、ビワかカーディナリスの様子がいつもと違うと感じ、隠してる事を話せと迫ったのかも知れない。
 そうカズが考え、レオラをジト目で見る。

「わかった。話すからそんな目で見るな。カズとはどうだと、たまに聞く事があるんだが、先日聞いた時に反応が違ったんで、それとなくばあに聞いたら教えてくれた。そもそもビワは、ばあに口止めしてない」

「からかってきそうな気がしたらか、レオラには黙っていたかったんだけどな」

「そんな事は……」

「そこはと、ハッキリ言ってくれ。それと、アタシのビワとはどういう事だ」

「まぁいいじゃないか」

「よくない。俺のビワだ!」

「ハッキリ言うようになった」

「嫁にしたんだ。言うさ!」

「わかったわかった。それで話を戻すが、ばあも何かしてやりたいと言っていた」

「カーディナリスさんか。ビワがお世話になった事だし、こちらからもお礼を言わないと」

「なら決まりだ。場所はそっちの家でやろう。その方が気兼ねなく出来るだろ」

「わかったわ。話しておく」

「うむ。日時は姉上のところでの用事が終わった翌日にでもしよう」

「俺達は大丈夫だけど、レオラの方は公務があるだろ」

「一日くらいなんとでもなる。ビワのためと言えば、ばあも文句は言うまい」

「俺やビワは、あまり派手なのは好まない。そこんところ悪しからず。この辺りまで来ればいいだろ」

 レオラと話をしている内に、半人半蟲族が住む村がある森からかなり離れたことを確認し、カズは〈空間転移魔法ゲート〉を使い、転移先を猟亭ハジカミへと繋げた。
 時間的にまだ営業前の猟亭ハジカミの個室に、レオラと共に移動する。
 仕込みと開店準備をしているジャンジとシロナの居る厨房に行く。
 レオラが半人半蟲族の村での事を二人に話すと言うので、カズは三十分程街を散策して時間を潰す事にした。
 帝国を離れてしまうので、カズが話を聞いても手伝えることはない。
 レオラのことだから、空間転移魔法ゲートを付与して使えるように出来ないか? とでも言ってきそうだったので、カズは同席しなかった。

 魔導列車の駅名にもなっているブルーソルトを購入して猟亭ハジカミに戻ると、話は既に済んでおり、ジャンジとシロナの好意で出された分厚い肉と、リンゴ酒を味わっていた。
 レオラが夕方前に戻って来ると分かっていたジャンジは、正午になると分厚い肉をじっくり時間を掛けて焼き、シロナはリンゴ酒を仕入れに行き用意していた。
 残り二口程度になっていた分厚い肉を、レオラが食べ終えるのを待つ。
 レオラはシロナからブルーソルトを御見上げに貰い、カズの〈空間転移魔法ゲート〉で猟亭ハジカミを後にする。

 レオラの屋敷を転移先に設定しては、誰かに見られる可能性があったので、レオラ所有の川沿いの家にして移動した。
 リビングではアレナリアとレラが、ソファーの上でぐったりとしていた。
 顔を上げてレオラが居る事を確認しても、アレナリアとレラはソファーの上から動こうとしない。
 その理由を聞くと、カズが大きさは憧れか欲望かアイテムの使い方で注意していた、部分的に大きくするのを試したらしく、その変化の驚きと疲れで、ソファーに倒れ込んだところだったらしい。
 魔力消費は微々たるものなので、問題はないとアレナリアは言う。
 レオラも第五迷宮フィフス・ラビリンスで入手した大きさは憧れか欲望かアイテムに興味を持っていたが、アレナリアとレラの様子を見て、それはまた後日にしようと思い何も言わなかった。

 アレナリアとレラに「レオラを送ってくる」と言い、カズとレオラは川沿いの家を出る。
 一人で出歩く事もあるレオラだが、乗り合い馬車だと騒ぎになる可能性もあったので、タクシー辻馬車で屋敷に向かう。

 無事用事を済ませてレオラを屋敷まで送り届け、前日仕入れて来た黒糖を渡し、ビワの仕事が終わるまで、冒険者ギルド本部に行き顔を出す。
 何時も通り一階の受付でサイネリアの名を出し、先に個室へと移動する。
 これまた何時も通り、五分程でサイネリアが資料を持って個室に来る。

「お待たせしました。双塔の街では大変だったらしいですね」

「レオラ様とアイリス様の名前を出すから」

「それはレオラ様から言われたからで」

「本人から聞いた。だから文句を言う気はない」

「そうですか。よかった」

 怒られるのではと思っていたサイネリアは、明らかにほっと安心した表情を見せた。

「その双塔の街のギルドから、依頼の報酬が入ってます。いつも通りお預かりしてます」

「ここに来るのもこれで最後になると思う。だから旅の費用を引き出していこうと思ってる」

「そうですか。もう出立するんですね」

「まだやる事もあるけど、数日中には」

「地方のギルドでも引き出せますが、どれくらい持っていかれますか?」

「ん~……実際どのくらいあるか知らないんだよね。いくらあるの?」

 サイネリアは持って来た資料を見て、カズの貯蓄を調べる。

「カズさんは殆ど引き出しませんので、貯まる一方でしたから、えーっと……約600.000.000GL」

「……は? 六億!? なんでそんなにあるの? (個人で転移装置が設置出来る金額なんて)」

 思ってもみなかった金額にカズは驚く。

「依頼の報酬やら素材の買い取りで、積もり積もってこの金額に。他の高ランクの冒険者の方は装備品を買ったり、中には家や高価な魔道具を買われる方がいますが、カズさんは高い買い物をしないのですか」

 カズはふと高額な買い物をしたかを考える。

宝飾品アクセサリーくらいかな。サイネリアにもあげたでしょ。高いってもあのくらい」

「ありがとうございます。大切にしてます」

「そう。気に入ってもらえてるなら良かった」

 サイネリアはカズとブロンディ宝石商会に行き、真珠パールのネックレスを見に行った時の事を思い出す。
 従業員に勧められネックレスを試着し、姿見の前で胸を強調したポーズを取っているところを、カズに見られた時の事が鮮明によみがえり、ほんのり顔が赤くなる。

「ええ、とても。それでどれくらい引き出しますか? 半分以上になりますと、すぐに用意するのは無理です」

「十分の一もあれば十分かな。手元にもまだ結構あるし」

「それくらいでしたら。用意してきますので、それまでお待ちください。それとギルドカードを一旦お預かりします」

「わかった。出来れば金貨で頼むよ。白金貨とかは使いどころがないから」

「二、三十分は掛かりますよ」

「待つよ」

 カズが指定した金額を用意しに、サイネリアは個室を出て行く。
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