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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

678 目的のアイテムを入手し、三人の待つ帝都へ

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 どこからか知らないが、やり取りを見ていたサブ・ギルドマスターのバナショウが訓練場内に姿を見せた。

「そちらの職員とバナショウサブマスに言われた事は守ったつもりですが、これで満足ですか」

「骨の一本や二本…いや、これで十分だ。あとは召集した粗暴な冒険者こいつらが、変わるかどうか。すぐには無理だろうが、ギルドからの話を聞くかで対処は違ってくる。召集に応じなかった二人は、オレが最終勧告に行く事になるだろう」

「あとはギルドの仕事なんで、俺はこれでいいですよね」

「ああ、依頼完了だ。あと、覗き見をさせてた者達がいるんだが」

「途中から感じた視線は、あの三人ですか」

 バナショウが合図をすると〝光明の日差し〟の三人が訓練場内に入ってきた。
 カズの戦闘を見ていたせいか、表情は強張っていて硬い。

「レオラ様が認めた冒険者だから、強いのはわかってたつもりなんですが、ここまでスゴいだなんて思ってませんでした」

「アプリの言う通りだよ。あの時カズが見つけてくれてラッキーだった」

「今更だが、あの時、剣を貸さなくて申し訳ない。カズ

 アプリコットは何時も通り笑顔で明るく話してるつもりだか、強張った表情を隠し切れず話し方も硬い。
 カリフとゴーヤの二人は、さん敬称を付けてカズを呼ぶようになった。

「さっきの威圧を向けられても、耐えられるようにならなければ、今よりも深く迷宮に潜らない方がいい。こういった連中が待ち伏せでもしてたら、殺されて身ぐるみを剥がされ、モンスターに食われるか、死んで迷宮に吸収される。例え身ぐるみを剥がされるだけだとしても、素手で四十階層以上のモンスターと渡り合えないだろ」

「おいおいカズ。ちょっと言い方がキツくないか?」

「そう思うのであれば、あんな所から見せずに、最初からこっちに居るようにさせるべきだったのでは?」

「痛い所を突く。だがそれでは、カズがやりづらいと思ったんだ。のぞき見させた事は悪かった。怒ってるか?」

「別に怒ってません。呆れてるけど」

「なんだって?」

「なんでも。今からなら急行の列車に間に合うので、俺はもう行かせてもらいます」

「せわしいな。いや、二日も引き止めたのはこちらだ。ご苦労だった。さあ〝光明の日差し〟お前らにタダ見をさせるつもりはないぞ。気絶している連中を運ぶの手伝え」

 カズが訓練場を出て魔導列車に乗るのために、双塔の街の駅に向かうと、サブ・ギルドマスターのバナショウは、気絶している粗暴な冒険者達と、散らかった訓練場内の後片付けを〝光明の日差し〟に手伝わせる。
 後片付けや掃除の依頼を受けたわけでもないので断る事も出来たが、それはせず二人のギルド職員から指示を受けて、ゴーヤとカリフは気を失っている粗暴な冒険者達を一ヶ所に集める。
 アプリコットは落ちている武器や防具を集め、土属性魔法で荒れた地面を出来るだけなだらかにする。
 召集された粗暴な冒険者の中で唯一動け、最後にカズと一騎討ちをした長身で槍斧ハルバードを使う獣人族の男が「オレにもやらせてくれ」と、ギルド職員の指示を受けて〝光明の日差し〟と一緒に作業をしている。

 後片付けが粗方終わると、暗い表情をしたままのアプリコットが気になり、バナショウが〝光明の日差し〟の所に行き「元気がないがどうした?」と声を掛けた。
 するとアプリコットは「カズさんの戦いを見て少し怖くなって、ちゃんとお別れが言えなかったんです。それに怯えた事を、謝らずに別れてしまったのが……」と、後悔していた。

「いつまでそんな顔をしてる。カズはお前達が迷宮で無理をしないようにと、助言したんだぞ。それに怒ってないと言っていたろ」

「そうですが……」

 やはり不本意な別れ方をしたのが、アプリコットの心残りだった。

「後悔してるなら、レオラ様に目に掛けられるくらいに強くなって、ランクを上げればいい。そうすればカズに合わす顔があるだろ」

「オレ達はCランクに上がって、まだ半年も経ってないのに、気安く言ってくれる」

「おれ達には無理だって、サブマスだってわかってて言ってるでしょ」

 無茶な事を言うバナショウに、ゴーヤとカリフは呆れ顔をする。
 アプリコットもそれは同感だと思うも、あの威圧を向けられたらと思ってしまう。

「そんなことはないぞ。冒険者なんて何が切っ掛けで化けるかわからないんだ(カズの素っ気ない別れ方は、この三人にとっていい経験になるだろう)」
 
「今まで通り迷宮に入っても、オレ達ではBランクに上がるのは相当先になる」

「レオラ様になんて、一生に一度話せるかどうかだと思う。おれは」

「だよね。目を掛けられるなんて無理だよ」

 そんな簡単に帝国の守護者の称号を持つ、SSランクの第六皇女レオラに会えるわけがないと〝光明の日差し〟は思っている。

「言ったオレもなんだが、もう少し自分達に自信を持て。と言っても、現状では無理か。ならに、手ほどきしてもらったらどうだ?」

 サブ・ギルドマスターバナショウは訓練場の後片付けを手伝った、召集した長身の獣人族の男に親指を向けた。
 もう粗暴な冒険者達とつるむつもりはなく、〝光明の日差し〟にその気があるなら、今まで迷惑を掛けた詫びとして、戦闘訓練を手伝おうと言ってきた。
 これは〝光明の日差し〟がカズと知り合いだった事と、提案したのがバナショウサブ・ギルドマスターだから受けたのだろう。
 いずれ双塔の街でも指折りの冒険者パーティーになる三人と、第五迷宮フィフス・ラビリンス単独ソロで九十一階層まで攻略をするAランク冒険者誕生の切っ掛けになっているカズ人物を知るのは、この場に居る数人だけ。

 粗暴な冒険者の相手をするという依頼を終えたカズは、双塔の街の駅から急行の魔導列車に乗り、帝都の中央駅セントラル・ステーションを目指す。
 急行の魔導列車は各駅停まりの魔導列車よりも、双塔の街から帝都まで一時間以上短縮。
 予定到着時間を五分程遅れたが、この程度は当たり前の事なので、誰からも苦情なく帝都の中央駅セントラル・ステーションに着いた。

 帰宅時間と重なった事で、駅周辺は混雑している。
 空いているタクシー辻馬車はなく、決まった路線を走る大型の乗り合い馬車の乗り場は、何処も長い列をなしていた。
 三十分もすれば多少解消されるだろうと、冒険者ギルド本部でも行こうとしたところで「カズ」と呼ばれ、混み合う人達の間から袖を引っ張られた。
 掴まれた細く色白の手の主は、川沿いの家に居る筈のアレナリアだった。

「なんでこんな所に居るんだ?」

「ビワを迎えに行くところだったの。馬車を降りたらカズが見えたから、追い掛けて来たの」

「迎えは必要なくなったんじゃないのか?」

「カズが戻って来るから豪華にしようって、食材を一緒に買いに行く事になったの」

「ビワの手料理なら、いつも通りのでいいんだけどな」

「ほらが手に入ったんでしょ。そのお祝いも兼ねて」

「ああ、そういうことか。ところで、そのレラは?」

 カズは周りを見るが、レラは何処にもいない。
 アレナリアの上着の下にでも隠れてるのかと思ったが、それもなさそうだった。

「レラは一人で留守番してるわ。っていうより、寝ちゃったから置いてきたの。一応起きてる時に、寝たら置いてくと言ってあるわよ」

「一人では出歩かないと思うが、ちょっと心配だな。早くビワを迎えに行って、買い物を済ませて戻ろう」

 カズはアレナリアと一緒にレオラの屋敷に向かった。
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