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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

675 模擬戦とは名ばかりの実戦

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 午後になり名目上指導という訓練の時間が近付くにつれて、召集に応じた粗暴な冒険者達が訓練場にやって来る。
 その様子を見てギルド職員が驚いていたので、カズがどうしたのかと尋ねた。
 午後も半分来れば良い方だと思っていたが、召集した十二人の内十人の冒険者がやって来た。
 それだけではなく、午前の召集で来なかった四人もやって来ていた。
 訓練場の外で険悪な雰囲気になり、近くを通行する者が巻き込まれては大変だと、ギルド職員が召集に応じた粗暴な冒険者達を、訓練場内に案内する。
 午前の召集に来なかった四人の粗暴な冒険者は、今回召集に応じなかった事で、街で冒険者としての活動が制限されるのではと、考えを改めて来たのかも知れないとギルド職員は考えた。
 そこで午前の召集で来なかった四人の粗暴な冒険者達に「どうして今になって来た」と理由を聞いた。

 召集に応じた粗暴な冒険者を訓練場内に案内し、事務室に戻って来たギルド職員の表情を見て、別のギルド職員が「何か問題でもあったのか?」と聞く。
 一瞬カズに視線を向け、口元に手を当てて言い辛そうにする。
 しかし名目上指導訓練という模擬戦の時間になれば分かってしまうので、ギルド職員は召集した粗暴な冒険者達に聞いた事を話す。

 午前の召集で来なかった粗暴な冒険者四人は、召集に応じて来た四人の粗暴な冒険者に聞き、カズが数日前噂になったレオラ第六皇女の専属冒険者だと知った。
 そこで模擬戦の相手が、そのカズだと分かったから来たと言った。
 そして午後召集した粗暴な冒険者も、その事を知って来たのだと。
 第六皇女レオラがこの街でした事を噂で知り、その専属冒険者が相手なら不足なしと、やる気勇んで来た。
 召集に応じなかった二人は、第六皇女レオラにもその専属冒険者にも興味はなく、冒険者としての活動もどうでもいいと考えてるらしい。
 召集した中で、冒険者崩れの盗賊になる可能性が高い二人だと。

 話を聞いたカズは「午前のように、かすり傷程度で済ませるような模擬戦にするのは難しい」と、ギルド職員に話した。
 ギルド職員も召集に応じた粗暴な冒険者達を見て、確かに難しそうだと感じ「指の骨折くらいなら魔法と回復薬で治せるから、その程度でなんとか済ませてほしい」と頼んてきた。
 ギルド職員は模擬戦を中止するとも、代わりに自分達が相手をするとも言わず、カズにそのまま相手をするように頼んだ。
 サブ・ギルドマスターから直接の依頼だったので、確認を取らず勝手に依頼を中止させることはできなかった。

「やるだけやってみます。それと相手の出方によっては……いや、行きましょう(ハァ…面倒な依頼だ)」

 話を終えて時間となり、カズはギルド職員二人と共に、粗暴な冒険者が集まる訓練場内に移動する。

 相容れないからと、粗暴な冒険者達を午前と午後で分けたのに、午前の召集に応じなかった四人の冒険者達が午後に来てしまい、訓練場内は険悪な雰囲気になっていると思っていた。
 だが気に掛ける対象が模擬戦をするカズ相手に向いていることで、殺気立ってはいたものの険悪にはなっていなかった。

 ギルド職員二人が、召集に応じて来た粗暴な冒険者達に、名目上指導訓練という模擬戦についての説明をした。
 そこで粗暴な冒険者から「約束通り来たんだ。武器得物は自分のを使用したい」と言ってきた。
 勿論それは訓練用の木剣でも、刃を潰した武器でもなく、実際に冒険者達が使用している武器を指す。
 大半が大小あれど剣を携えているが、中には弓や杖や鞭を使用している者も居た。
 寸止めできるような者達ではないと分かっていたので、ギルド職員二人は却下する。
 するとギルド職員の後方で待機しているカズに視線を移して「レオラ皇女専属冒険者なら問題ないと、ここに集まった冒険者は思うんだが、訓練用の武器でないと怖いのか?」と、あからさまな挑発をしてきた。

 ギルド職員が「聞く必要ない」とカズに言う。
 それを聞き粗暴な女性冒険者が「こんなか弱いわたしが怖いなんて、皇女専属冒険者とは、とんだ腰抜けだ!」と、追撃の挑発をする。
 そして他の粗暴な冒険者は、大口を開けて笑う。
 サブ・ギルドマスターバナショウが恐怖心をと言っていた意味が分かった気がしたカズは「俺は別に構わない」と、粗暴な冒険者達の挑発に乗る。
 粗暴な冒険者達の相手をするカズが良いと言ってしまったので、ギルド職員二人は何も言えず、各々の武器での模擬戦を許可した。

 模擬戦を監視するため、壁際の移動しようとしたギルド職員の一人が小声で「あの中の内の二人はCランクとなっているが、実力的にはBランク相当はある。くれぐれも気をつけて」と、ランク以上の強さがあると注意してきた。
 その話を聞いたカズは、大体の予想はついた。
 粗暴な者と冒険者ギルドから目を付けられていれば、例え戦闘能力が高くても、冒険者のランクを下がる事があっても、上がる事はない。
 冒険者達も目を付けられていると気付いた時点で、冒険者ギルドに在籍したままでいるのは、ギルドカードが十分な身分証明になるからだろう。
 詰まるところ高ランクには、何の興味もないということだと、カズは考えた。

 高ランクくなれば進入禁止や、図書館の閲覧禁止の場所にも入れることがあるので、低ランクより高ランクの方がどちらかといえば良いだろう。
 ただ実際にカズ自身も、ギルドカードは身分証明になればいいと思っていた。
 Aランクにも好んでなろうとした訳ではなかったので、ランクによって強さを確定することをしないように心掛けているつもりだ。
 だがそれでも余程のことがないなければ、やはりランクである程度の強さを測ってしまうので、ギルド職員の言葉は今のカズにはありがたかった。

 ギルド職員二人が壁際に移動する間に、カズは召集されて来た粗暴な冒険者達を《分析》してステータスの程を確認をした。
 Dランクが五人でレベルが24からレベル28。
 Cランクが九人で内七人がレベル32からレベル40。
 残りの二人がレベル45とレベル47あり、冒険者ギルドが設定している強さの基準として、Cランク上位からBランクの下位に入るがどうかといった強さはある。

 冒険者ギルドが決めたランク基準で加減をしては、足を掬われたのはカズだったかも知れなかった。
 そうなってしまったていたら、驕り高ぶっていたのはカズ自身ということになる。 
 事前にそれに気付けたので、それを踏まえた上で粗暴な冒険者達の相手をする。

 ギルド職員の二人が壁際に移動した所で、先程挑発してきた大剣を持つ男と、鞭使いの女が先陣きって攻撃を仕掛けてきた。
 大きく振り上げた大剣を勢い良く振り下ろし、カズはそれを横っ飛びして避ける。
 そこへ蛇のようにうねった鞭が、カズの足を拘束しようと伸びてくる。
 カズは鞭使いの女の後方に一瞬目を向けると、攻撃をしてきた二人以外の冒険者達は各々武器を手にし、今か今かと攻撃を仕掛ける様子を窺っているようだった。
 
 足元まで伸びてきた鞭を蹴り返すと、山なりに二本の矢が飛来する。
 やじりには何やら濃い緑色の液体が塗られていることから、明らかに何かしらの毒だと思えた。
 飛来した矢を受け止めて投げ返すことはせず、後方に大きく一歩飛び回避する。
 すると攻撃をして四人ではなく、それを見ていた粗暴な冒険者数人の舌打ちした音が聞こえた。
 明らかに寸止めをするつもりはなく、当たれば良くて重症、悪くて死ぬような攻撃をしてきている。
 この模擬戦でカズが死んだとしても、訓練用の武器を使わないで、各自の武器を使う事を許可したのだからと、ギルド職員に言ってくるだろう。
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