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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

644 種族を超えた恋物語 第四部フェアリー編 一節

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 机の端にちょこんと座ったレラは、知性ある本インテリジェンス・ブックに話し掛ける。
 
「前に聞いたアーティファクトなんだけど、帝国のどこにあるか教えてほしいの」

「聞いてたんじゃないのか?」

「カズがすぐに本を見つけて戻ってきたもんで、聞けなかったんだもん」

 とあるアーティファクトが欲しいと言っていたレラだったが、帝国にあるとだけ情報を得ていただけで、詳しい在り処は知り得てなかった。

「そうなんだ(なのに秘密にしたのか。だとすると、どんなアーティファクトか気になるな)」

 『確認をする。肉体を人族の大きさに変化させるアーティファクトであっているか?』

「あってる」

 複製本の知性ある本インテリジェンス・ブックに羽根ペンで書かれた内容を見たカズは、レラが巨大化するアーティファクトを求めていると知る。

「レラの身長からすると五、六倍になるアーティファクトがあるのか(あれ、なんか逆の効果は聞いた事あるような……?)」

「だと思う。本当かどうかは、わかんないんだけど」

「そりゃそうだな。実際ここにあるわけじゃないんだし。それで、そんな事が可能な物があるのか?」

 『実在する。フェアリーがそれを求めるのは、偶然か必然か非常に興味深い』

「それはどういう意味だ?」

 『物語がある。それを読みレラの考えを聞きたい』

「遠回しな返答だな」

「読んだら教えてくれるの?」

 『本心で求めるならば答えよう』

「よくわからないが、決めるのはレラだ。どうする?」

「見るよ。どこにあるの、その本?」

 レラの問い掛けると、書棚の高い所にある蝋燭ろうそくに火が灯る。

「あの辺りにあるんだね。とって来る」

 座っていた机から立ち上がり、書棚の上へと飛んで行く。
 一冊だけ書棚から少し出ていた本、レラは掴んで引き出す。

「この本、大きくて重いから落とすね。受け取って、カズ」

「! ちょとまっ…」

 返事を聞く前に、レラは書棚から本を引き抜き落とす。
 カズは咄嗟に駆け出し、落下する本をギリギリのところで受け止めるも、勢い余って書棚に激突した。
 数冊の本が書棚から落ちる。

「だ、大丈夫?」

「せめてここまで来るのを待てよ」

「ごめん」

 物語が書かれているという本は、周囲に並べられてる本と比べてもかなり大きくて分厚い。
 B3判くらいはあるその本は、レラよりも大きくて重い。
 カズはぶつかって落ちた本を書棚に戻し、レラが落とした本を持って知性ある本インテリジェンス・ブックの置いてある机の所に戻る。

 ビワはレラに気を遣い離れた所の椅子に座り、燭台しょくだい蝋燭ろうそくに灯された明かりで、食材と料理に関する本を読んでいた。
 アレナリアも適当な机に集めた本を乗せ、椅子に座って順に読んでいた。
 こちらはレラに気を遣うというよりは、早く読みたいと思っての行動だろう。

「この本であってるのか? っていうか……これ全部読むの? 何日かかるんだよ」

 『全て読む必要はない。そこに記されている、第四部フェアリー編 種族を捨てた果てに。今回それが求める物に関係する物語』

 物語の本が大きいために、知性ある本インテリジェンス・ブックとその複製本が置かれている机には置けず、カズは近くにある机に物語の本を置いて広げる。
 目次から第四部フェアリー編のページを調べる。
 大きく厚く重い本の内容は、様々な物語を集めて一つにした本だと分かる。
 そこにレラが欲しがっている、大きくなれるアーティファクトに関する物語が書かれているらしい。

「第四部フェアリー編 種族を捨てた果てに……あった! ここからだ。あとはレラだけで読むか? 大きい本でも、ページをめくるくらい一人で出来るだろ」

 使われてるのは古い文字ではなく、現在使われてる文字と同じだったのでレラでも読める。
 だがタイトルを聞いただけで重々しく感じた物語を、レラは一人で読む気にはなれなかった。
 そこでカズに音読してもらう事にした。



 【種族を超えた恋物語 第四部フェアリー編 種族を捨てた果てに 一節 遭遇】


 小さな町で暮らしている青年が、薬草を探しに山へと出掛け、突然発生した濃霧で道に迷う。
 濡れた草で足を滑らせ、斜面を転がり頭を打って意識を失った。
 目を覚ますと日は落ちて辺りは真っ暗。
 木々の間から差す月明かりで、辛うじて周囲や自分の状態を確かめる事が出来る。
 全身の痛みを我慢しながら、ぼんやりする意識のまま小枝を集め、念の為にと待ってきていた道具で焚き火をして、濡れた衣服を乾かし温まる。
 頭に手を当てると、血が出ているのが分かったが、薬は何も持ってない。
 ただ血は止まってきていた。
 異常に喉が渇き、焚き火から太めの枝を抜き取り、松明にして暗い山の中を歩く。
 頭を打ったせいで、これが正しいのか判断できてない。

 どのくらい歩いたのか、青年の耳にはチョロチョロと水の流れる音が聞こえた。
 青年は音を頼りに、その方向へと足を早める。
 木々の間の先に、月明かりで反射する綺麗な小川を見付けたところで、意識が朦朧もうろうとし始める。
 一口だけでもと小川に向かう。
 木々を抜けて小川まであと少しの所で、人形のような小さな存在に目を奪われて、そこで意識が途切れ倒れる。

 息を荒くして熱を出した青年の口に、冷たい水が入り喉へと流れ、うっすらと意識が戻り始める。
 横を向いて倒れている青年の口に、何度も何度も数滴の水が入る。
 半分以上が地面へと流れ落ちてしまい、横を向いて倒れている青年の喉へは殆ど流れていかない。
 それでも青年には意識を取り戻せる命の水だった。
 ゆっくりと目を開け青年が見たのは、両手で持つ葉っぱに水を汲み、それを口まで運んでいる小さな存在だった。
 ぼんやりとする視界に映る柔らかみのある体つきと、葉っぱを持つ両腕の間に膨らみがある事から、小さいが女性であるだろうと思った。
 息が荒く熱があるにも関わらず、目の前で起きている状況を冷静に判断しようとする自分が不思議だった。

 青年が目を覚ました事に気付くと、その存在は木の陰に隠れ様子を伺った。
 熱があり意識はぼんやりとして、夢か現実かよくわからない。
 しかし全身の痛みが夢でない事を教えてくれる。
 青年は小さな存在に話し掛けるも、怖がっているのか木の陰から出て来ようとはしない。
 何はともあれ、水を飲ませてくれたのが小さな存在なのは変わらない。
 青年はお礼を言って立ち上がるも、ふらつきまた倒れそうになる。
 近くの木に手を付いて倒れないように耐えるも、動くのは無理だと判断して、近くに休める場所はないかと周囲を見渡す。
 息を荒くして辛そうにする青年を見ていた小さな存在が、木の陰から出て来て何かを言っているようだったが言葉が通じない。

 多分心配してくれてるんだと青年は感じたが、これ以上この場に留まっても余計に心配を掛けるだけだと、ふらつきながらも休める場所を探すためにゆっくりと歩き出す。
 次の瞬間、やはり夢でも見ているんだと青年は思った。
 足元に居た小さな存在がふわりと浮かび上がり、青年の正面で身振り手振りで何かを伝えようとしていた。
 もうなんでもいいやと、青年は小さな存在に導かれるまま一本の太い木に案内された。
 太い木の根元には、ポッカリと穴が空いており、青年一人が一晩雨風を凌ぐには十分な広さがあった。
 青年はその樹洞じゅどうに体を収めて身を委ねる。
 熱もあり寒気を感じていたので、自分はここで死んでしまうのではと考えたまま意識が落ちる。

 夜が明けて樹洞じゅどうにも日が差し込むと、青年は目を覚ます。
 不思議と熱は下がり全身の痛みは和らぎ、出血していた頭も昨夜に比べ大分ましになっていた。
 ふと視線を上に向けると、昨夜出会った小さな存在が木の出っ張りに座り寝ているのに気付く。
 よくよく見ると背中に半透明の羽があり、姿かたちは小さいというだけで、人のそれと大差ない。
 青年がじっと観察していると、その小さい存在が目を覚ました。

 樹洞じゅどうから外に出ると、昨夜は木の陰に隠れたりしていた小さな存在が、今度は嬉しそうにして青年の周りを飛び回っている。
 何か話しているようだが、やはり言葉は分からないが、どうも山を下りる道に案内してくれるようなので付いて行った。
 途中目的の薬草を見付け採取し、見覚えのある場所に出た所で、小さな存在は山奥へと飛び去ってしまった。

 青年は知らなかった。
 全身の痛みが消えていたのは、小さな存在が治癒してくれた事を。
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