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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

633 擬態モンスター と 危うい冒険者達

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 乗り合い馬車を降りて、十数分歩き川沿いの家に着く。

「ただいま。カミーリアは来た?」

「たった今来て帰ったところよ。戻る前に商店街を見に行くと言ってたから、今ごろ橋を渡ってる頃じゃない」

「ならちょっと行って来る」

「頼まれた事は伝えておいたわよ」

「わかった。俺からもう一度言っておく。ありがとう」

 戻って来た早々、ついさっきまで来ていたカミーリアを探しに、小走りで川向うの商店街に向かう。
 アレナリアの見当があっていれば、橋を渡りきる前に見付けられるだろう。
 そして橋に差し掛かった所で失敗に気付いた。
 カミーリアがどんな服装で来ていたかを、アレナリアに聞けばよかったと。
 今さら言っても遅い。
 背格好から後ろ姿を見て判断して探す事に。
 平日だが人通りはそこそこある。
 橋を行き来する人の他に、立ち止まり話をする人や、川を見たりする人もいる。
 もうすぐ橋を渡りきる所で、後ろから「あれ? カ、カズ!」と、呼ぶ声が。
 声のした方を振り向くと、そこにカミーリアの姿があった。
 橋の柵に肘を付けて川を覗き見ていたので、カズは気付かず通り過ぎていた。

「そこに居たのか」

「どうして?」

「カミーリアがちょっと前に来て、商店街の方に向かったってアレナリアから聞いたから」

「日時はアレナリアさんに伝えといた」

「コンルの事は聞いた?」

「ええ、聞いた。ただ屋敷に戻らないと、確認できないの。だから、会えるかどうかまではわからない」

「そこは予定が合わなかったって事だから構わない。コンルに無理に合わせてもらうのも悪いからな」

「妖精族の事で、また何か調べてるの?」

「いや、そうじゃない。一ヶ月くらいしたら帝都を立つんだ。だからレラにはその前に、もう一度コンルにお礼を言っておくようにって話したんだ」

「帝都を立つ! それは冒険者として、依頼を受けてということ?」

 カミーリアは目を見開き、驚きの表情を浮かべた。

「依頼じゃない。ここには旅の目的地に関する情報を集めるのに、滞在してただけなんだ。まあ、色々あってレオラ様と知り合い、仕事を請け負ったりとかしてたんだ」

「そう…なんだ」

「アイリス様には、今度行った時に言うつもり」

「では、私から言わない方がいいよね」

「話してもらっても構わないが、レラの事でお世話になってるから、一応は自分の口から伝えようと思って」

「その方がいいと思う」

「商店街には買い物に? なんなら少し付き合おうか?」

「時間があったので、ちょっと見て回ろうと思っただけ。カズは戻ってくれていいよ」

「そうか。じゃ、また後日」

 珍しい事があるもので、カミーリアがカズの誘いを断った。
 急な事でショックだったのか、一人になると気の抜けたような表情を浮かべ、商店街の方へと歩いて行った。
 カズは川沿いの家に戻り、アレナリアとレラの三人で昼食を取る。
 昼食後ブロンディ宝石商会のヒューケラの所に顔を出しに行って来ると言い、アレナリアは出掛けて行った。
 夕食を一緒と引き止めれたら、済ませて来るかもとの事だった。
 ビワを迎えに行く時間まではレラを連れてフジの所に行き、小屋の改装の続きをする事にした。

 資源と潤沢のダンジョンで使う必要な物を思い出し、改装を少し早めに切り上げて、樹液を採取する道具と入れるビンを多く買う。
 買い物を済ませ、夕方なるとビワを迎えに行き、レオラから見たい本の内容が書かれた紙を受け取り、川沿いの家に戻り夕食にする。
 アレナリアが帰って来るのを待ち、明日からの予定を聞き、今週はヒューケラの所に行く用はないとの事だった。
 ギルドの依頼で二、三日出掛けて来る事を話して、ビワの送り迎えと留守番を頼んだ。
 アレナリアは少し不満気な表情を見せたが承諾してくれた。
 四日後にはアイリスの屋敷に行く事になっているので、それまでに受けた依頼を終わらせて、特製プリンを作る食材などを採取して来ると三人に伝え、この日は早めに就寝した。


 ◇◆◇◆◇


 カズは朝食を済ませると、この日はビワよりも先に出掛けた。
 フジの所に空間転移魔法ゲートで行き、帝都から北西にある高原を目指し、フジに乗り飛んで向かった。
 出来るだけ村や街を避け、近くを通過する際は高度を取り、地上から目視されないようにした。
 大型のモンスターが現れたらなんて噂でもたっては、危険はないと各所に通達する羽目になり、サイネリアから愚痴が出るのは確実。
 今回向かう高原近くの村には、連絡されてないだろう。
 ただこの依頼を受けたギルドと、ワイバーンの討伐と素材採取に向かうフォース・キャニオンのギルドには、連絡が入っている筈だ。

 高原に向かう途中で雨雲が増えて雨が振って来たので、高度を上げて雨雲の上に出て北西に向かった。
 厚い雨雲で地上は見えないので【マップ】を確認しながらフジに指示をして目的地に向かう。
 これならば地上からフジを見られる事がないのでよかった。
 ただ、次に向かう大峡谷沿いは、雨が降ってないでほしかった。
 雨風が強ければ、大峡谷沿いにある街を行き来する人達が少くなれば、問題のワイバーンが出現しない可能も高くなるのからだ。
 できればフォース・キャニオン付近は晴れていてほしいと考えた。

 帝都から北西に位置する高原まであと少しのところで、雨が止み雲が薄くなってきた。
 途切れる雲の隙間から地上の様子を見ていたら、街から離れた場所に村を発見した。
 北西方面には他に集落が無かった事から、依頼を出した村だと思われる。
 調査場所の高原上空に着き地上を見ると、おかしな事に一部だけ霧が掛かっていた。
 霧に向かって移動する、三人の冒険者を確認した。
 どうやら依頼を受けて来たのだろう。
 ならば任せればいいだろうとは思うが、サイネリアから頼まれて来ているので、降下せずに上空から暫く様子を伺う。

 冒険者の三人も怪しいと感じているらしく、発生している霧には不用意に入ろうとせず、それぞれ別々に周囲を見て回り発生源を探しているようだった。
 上空から観察して【マップ】でモンスターの位置を確認出来ているカズには、高原を訪れている三人の冒険者が危ういと感じた。
 霧が発生している内部に一体のモンスター反応があり、そのモンスターが霧を生み出してるのは明らか。
 三人の冒険者がそれに気付いてないのは、まだ今のところいいとして、霧の周囲に複数のモンスター反応があり、それに気付いてないのがマズいという事だ。

 依頼先で重症を負おうが、死亡しようがが自己責任なのが冒険者であり、危険な状態と判断して手助けしたにも関わらず、因縁を付けられたという事例も無くはない。
 その事を知っていたカズは、ギリギリまで様子を見て判断する事にした。

 霧の発生源が周囲に無いと判断した冒険者の三人が合流したところで、迫って来ているモンスターに気が付いた。
 だが近寄って来ているモンスターが何なのかが分ってないらしく、互いに背を合わせて周囲を警戒する事しか出来ていなかった。
 この状況からして、Cランクなったばかりのパーティーではないかと思えた。
 塩漬けになっている調査の依頼なら、自分達でも出来るだろうと考えたのだろうか。

 ランクを上げたばかりの冒険者が依頼先で死んでしまうのは、大抵このような面倒だが難しくない依頼が多い。
 植物系モンスターを見分ける事ができなければ、多くの冒険者が歩んて来た末路になる事だろう。
 現場に遭遇した事でもあるし、サイネリアからも頼まれているので、全てを片付るより、危険を脱するくらいまで手助けしようと考え、カズは行動に移る。
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