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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

630 豪勢で楽しい夕食

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 シチューもそろそろ良い頃合いになったからと、レラを起こしにビワが三階に上がって行く。
 昼食を軽く済ませたので、お腹は結構空いてきていた。
 今日の夕食は名目上パーティーとしたので、酒は四人で飲むつもりでいる。
 なので夕食には少し早いが、ゆっくり飲む分には丁度良いかも知れない。
 アレナリアに飲み過ぎないように、一度だけ注意をしたところで、ビワがレラと共に下りて来る。

「夕食前に少し外の風でも当たって目を覚ますか?」

「う~ん…そうする」

 ぼ~っとした表情のレラは、川に面した裏庭に出て行く。
 外はまだ日があるが、あと二十分もしない内に暗くなる。

「外で寝ないように、俺が一緒にいるよ。アレナリアはビワの手伝いを頼むよ」

「ええ」

 配膳をビワとアレナリアに任せ、カズも裏庭に出て行く。

「何をしたらいいか、言ってビワ」

「ではまずテーブルクロスを掛けましょう。パーティーですものね。雰囲気を変えませんと」

「そうね。一番はビワだものね」

「一番だなんてことは。アレナリアさんもカズさんに告白されたんですから一緒です」

「一緒ねぇ……まあいいわ。完全に日が落ちる前には入って来るでしょうし、すぐ始められるように準備しましょう」

 もうカズは抱いてくれると確信しているので、アレナリアは焦って迫ろうとは考えてなかった。
 が、その反面、内心では今夜にでもと……。
 しかしいざとなると、迫るには何か切っ掛けがほしい、と。
 一番は酔ってしまえばいいが、待ちに待った行為を、酔った状態ではしたくないと考えていた。
 自分でも何だか、面倒臭い考えをしてしまっているのは理解していた。

「私は野菜を盛り付けたら、ローストバレルボアを切ります。アレナリアさんはお皿を並べてもらえますか」

「でも…やっぱり……」

 ビワの声が耳に入ってないのか、アレナリアは一点を見て独り言をぶつぶつと。

「アレナリアさん?」

「え!? 何?」

「お皿を棚から出して、テーブルに並べてもらえますか?」

「ああ、お皿をね。わかったわ(とりあえず今は、夕食の準備を手伝わないと。カズとの事は大丈夫。焦らなくていい)」

 アレナリアは自分に言い聞かせ、ビワの手伝いをする。
 一方で裏庭に出ているカズとレラは、川の水面に反射する夕日を見ながら話をしていた。

「最近少し風が冷たいね」

「だな。冷える前に入ろうな」

帝都ここって住みやすいね。あちしが狙われる事ないもんね」

「レラの場合はイリュージョンの魔法で変装してるからな。まあ、それを差し引いても安全ではあるか。街に行くにも、乗り合い馬車が充実してるし」

「旅に出ると、また野宿なんでしょ。あちし外で寝れるかなぁ」

「レラなら大丈夫だろ」

「やっぱり」

「どこでもとはいかないが、広い場所なら小屋で寝れるぞ」

「小屋? フジの所にある、最初カズがログハウスとか言ってたの」

「ああ。あれをアイテムボックスに入れて持っていくんだ。そうすれば、荷馬車やテントで寝なくて住むだろ。まだ改装中だけどな」

「あれ持ってくの!」

「10メートル以上のモンスターも回収しできたんだ。あの小屋くらい持っていけるさ。デカい物の出し入れもなれたもんだ」

 裏庭に出て十数分、夕日も低くなって川の水面の反射もなくなり、辺りは薄暗くなって来た。

「そろそろ中に入るぞ」

「あのね、カズ。あちし欲しい物があるんだ」

「欲しい物? 橋の所で言おうとしてた事か?」

 カズは家に入ろうとして歩き出した足を止めて振り返る。

「それに関係する」

「何が欲しいんだ(やっぱり甘い物かな?)」

「名前覚えてないんだけどね、アーティファクトなんだよね」

「チョコを使ったみたいな名前のお菓子……アーティファクト!?」

「お菓子なんて一言も言ってないよ」

「アーティファクトなんて、情報自体がそうそう手に入らないんだぞ。どこで知って、どんな効果のが欲しいんだ?」

「んとね、知ったの…」

「カズ、レラ。準備出来たから、もう入って」

「ああ、わかった。すぐに行く」

 故意ではないとはいえ、またしても肝心なところでアレナリアが邪魔に入る。
 カズがアレナリアに返事をしてレラを見ると、握り拳を作り歯をギリギリとして怒っていた。

「まあまあ、そう怒るなよレラ。アレナリアだって、わざとしてるんじゃないんだ。話はちゃんと聞いてやるから」

「カズに免じて許すけど、次やったら顔面に蹴り入れてやる」

 怒るレラを宥め、話はまたということにして、二人は裏庭から家に入る。
 キッチンにあるテーブルにはテーブルクロスが掛けられ、中央には薄切りにされたローストバレルボアが、花に似せて綺麗に盛り付けられた皿が置かれ、シチューが皿によそられて四人分用意されていた。
 カズは【アイテムボックス】から昼間買った焼き立てパンを出して、三人には座ってもらい酒の要望を聞きコップに注いでいく。

「じゃあ乾杯の前に、カズから一言」

「そういうの苦手なんだけど」

 アレナリアからの無茶振りに、何を言ったらいいのか考え悩む。

「冷めちゃうから早くして。あちしお腹ペコペコなの」

 何も思い付かないカズに、レラが急かす。

「えー…まだ旅は続きますが、今まで以上に四人で幸せに暮らしていきましょう。乾杯」

「「「乾杯」」」

 それぞれ持っているコップに口を付け、アレナリアとレラはぐいっと一気に。
 カズはゴクゴクと飲み干し、ビワは少量だけ入ってる果実酒をゆっくりと飲んでコップを空にする。

「堅いわね」

「言ったろ苦手だって」

「そうね。カズにはいつまでたっても、こういうのは向かないみたいね」

 アレナリアはカズにダメ出しをして、レラは早速シチューを一口。

「シチューうま~い! お肉柔らか~い!」

「ありがとう」

 レラが美味しそう食べて感想を言い、それを作ったビワは喜び、乾杯で空いた皆のコップに酒を注ぎ、自分も料理を味わう。
 カズもアレナリアもシチューを口に運び「美味しい」「旨い」と言っては手が進み、お代わりをする。
 焼き立てパンを千切って、それをシチューをつけて食べても合う。

 ビワがシチューを煮込んでる間に、作っていた二種類のソースを好みで選び、ローストバレルボアにかけて食べる。
 コクのあるソースは麦シュワやフルーツミルク酒が良さそうで、サッパリとしたソースには果実酒かリンゴ酒が合いそう。
 などとカズが考えてる間に、アレナリアとレラは二種のソースと四種の酒を組み合わせを試していた。
 減りが早く皿の上のローストバレルボアは、あと三枚を残すのみとなっていた。

「ビワ、もう無いの?」

「今、切ってくるから待ってて」

「フルーツタルト買ったの忘れたのか? 食べられなくなるぞ」

「甘いのは別腹だから大丈夫」

「カズだけじゃなくビワも一緒にお酒飲んで、美味しい料理食べてるだけで、今日は特別感があるわ。ビワはお酒飲む事あまりないからね」

「私はみんなみたいに、お酒は強くありませんから。はいレラ。追加のローストバレルボアよ」

「やった!」

 パーティーというよりは、何時もよりは豪勢な夕食という感じになった。
 何はともあれ、楽しい夕食になったのだから、これはこれで良い。
 カズは食事をしながら、小屋の改装をどうした方がいいか話を聞いておいた。
 翌日も改装に行こうと思っていたので。
 その後は他愛ない雑談をしながら、ちびちびと酒を飲む。

 麦シュワと果実酒を二本ずつと、度数高めのリンゴ酒を半分と、フルーツミルク酒を一本空けて、アレナリアとレラは気持ち良さそうに酔っていた。
 ビワも酔いが回り、顔は火照り目は虚ろになっており、ゆらゆらと左右に揺れて眠たそうな表情をしていた。
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