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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

628 レラの訓練の成果

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 自分が先にカズと一夜を共にしてよかったのだろうか、というビワの表情をアレナリアは汲み取り答える。

「私もカズとは一度だけなの。これでビワと一緒になったでしょ。だからそんな顔しなくていいの。わかった」

「わかりました」

「これからビワが遠慮したら、そのつど私がカズと寝るわよ。私とビワの立場は同じ。だから遠慮しなこと。遠慮するだけカズが私寄りになるわよ」

「そうなったら、カズさんを私寄りにしてみせます」

 やり取りを聞いていたカズは、二人の気持ちが嬉しくて照れる。
 ビワと体を重ねた事を話してから、レラが一言も喋らなくなったので、どうしたのかと見たら、口を大きく開け固まっていた。

「どうしたレラ?」

 カズはレラの前で手を振る。

「……にゃのはッ!」

「うお! なんだ急に」

 レラはわけの分からない言葉を言いながら、座っていたソファーに立ち、カズとビワを交互に何度も見る。

「え? え? ちょっと待って……ビワと寝たのカズ?」

「……ああ」

「ねえビワ?」

 ビワは頬を染めてコクリと頷く。

 カズとビワが結ばれたのがそんなに驚いたのか、レラは足の力が抜けてソファーにちょこんと座った。
 
「そ、そうなんだ。よかったねビワ。今日はパーッとご馳走とお酒飲んで、お祝いパーティーしないと。でしょでしょ、いいよね!」

 パーティーをしようとするレラの言葉は、どこか無理して明るくしている様にも見えたが、カズとアレナリアは急な事で驚いたのだろうと思った。
 だがビワだけは少し違うと感じていた。
 ただレラ発案のお祝いパーティーは、する事になった。
 流石に砂漠で討伐したデザートクラブや、特製プリンの食材を今日の今日で集めて作るのは無理なので、この後フジの所に行ったら、バレルボアを狩りに行こうとカズは考えた。
 どうせならその際に、レラの訓練の成果を見るのに、一緒に連れて行こうとも。

 デパートが隣接する高級なレストランで夕食にすれば、カズが食材を確保して、ビワが作る手間は省けるが、やはり家の方が気兼ねなくて良いと、四人は言葉に出さずとも考えは同じだった。

 体が冷えないように、様々な付与を施してあるオーバーコートと昼食を持って、フジの住む帝都南部の林に〈空間転移魔法ゲート〉で移動する。
 アレナリアとビワには改装途中の小屋の内装を、どうしたいか考えていてもらい、カズはレラを連れてフジに乗り、昼まで狩りへと出掛ける。

 林を飛び出して早々にイノボアを見付けたが、二十匹にもいない小さな群れだったので他を探す。
 それから竹の生える場所で肉が筋ばって硬い『バンブーベア』と、その後赤身が少なく脂身の多い『オイルブル』を見付けるも、食べるには適さないのでスルーして他を探した。

 暫く上空から探すと、六十匹程のバレルボアの群れを見付ける。
 フジを下降させて、バレルボアの進行方向にカズとレラが降りる。
 バレルボアを威嚇しないように、フジには上空に戻ってもらう。
 カズはレラに専用のナイフを渡す。
 レラはそれを腰に携える。
 群れの中から自分で標的を決めて、二匹を仕留めてもらう。
 レラは面倒臭がるかと思ったが、自分でも実戦で試してみたかったというのが、その真剣な表情を見て分かった。

 カズは手出しはせずに、気配と魔力を《隠蔽》のスキルで弱め、バレルボアが逃げないよう自分を格下と思わせておとりになった。
 中型から小型のバレルボアは群れたまま二人から一定の距離保ち、大型の五匹がレラを牽制しつつカズを狙う。
 カズの周囲を回る大型のバレルボアを狙いレラが接近して行くと、それを察知して距離を取られる。
 ならばと他の大型のバレルボアに狙いを変えるも、やはり距離を取られてしまう。
 この後何度も同じ事を繰り返した。

「なんでよッ!」

 流石にレラが苛立ちだした。
 初めて狩りをした時と、今では気持ちの在り方が大きく違い、その事からバレルボアがレラから距離を取っているのに気付いてない。

「意気込みはいいが、殺気を出しすぎなんだ。レオラに言われたりしなかったか?」

「さっき? ……あ!」

 やはりレオラから言われていたらしく、レラは苛立つ気持ちを深呼吸して落ち着かせ、狙いを大型のバレルボアではなく、群れを観察して、その中から一番足の遅いバレルボアを選び、全速力で群れに向って飛ぶ。

 カズに言われ殺気を抑えるようにしたが、それでもバレルボアの警戒を解くまでにはならない。
 だがレラはその殺気と風属性魔法を利用して、標的にしたバレルボアを群れから分断させ、苦労してやっと中型一匹を仕留める。
 群れを狙われて一匹を仕留められた事で、カズの周囲を回り攻撃を繰り返していた大型のバレルボア二匹が、レラに標的を変えて群れに戻って行く。

「行ったぞレラ!」

「あちしだっていつまでも守られるばっかじゃないんだもん〈エアーショット〉〈エアーショット〉〈エアーショット〉」

 迫る大型のバレルボア二匹の内、レラまであと十数メートルの所まで近付いた一匹を狙い、三連続でエアーショットを放つ。
 一発目は背中をかすめ、二発目は進行方向の地面に撃ち込まれる。
 二発目のエアーショットで凹んだ地面に脚を取られ、大型バレルボアの体勢が崩れる。
 そして三発目のエアーショットが腹部に直撃し、大型のバレルボアは倒れて数回転する。
 透かさずレラは腰に携えたナイフを抜き、魔力を込めて倒れているバレルボアの首元を斬り付ける。
 暴れてる大型バレルボアから振り払われないように、レラは更に魔力をナイフに流し、全力で突き刺してとどめを刺す。

 暴れていた大型バレルボアが動きが完全に止まり、レラは倒した事を確信してナイフを抜き地面に下りる。

「やったんだ。あちし一人で……」

 初めてカズの手助けなく、自分よりも十数倍大きなバレルボアを仕留めた事で、脱力して地面に座り込んでしまう。
 当然レラ目掛けて向かった二匹目の大型バレルボアは止まる事はない。
 レラは完全に油断して、気付いた時に回避不可能な位置まで迫っていた。

「いやッ! カズゥゥー!!」

 目を閉じて身構えるレラの近くで、ドサッと大きな肉質の物が地面に落ちる音が耳に入る。
 恐る恐る強く閉じた目を開けて、正面に構えた両腕の隙間から音のした方を見る。
 そこには迫って来ていた二匹目のバレルボアが倒れて、その手前には離れた所に居た筈のカズの姿が。

「よくやったな」

「うん。でも結局最後は、カズに助けてもらっちゃった」

「二匹は一人で倒せたじゃないか。しかも一匹は一番大きいバレルボアだ。スゴいよ」

「にっちっち。これであちしも、これからは役に立てるね」

「ああ、そうだな。さて、もう少ししたら戻らないと。他のバレルボアには、去ってもらおう(あと数匹狩っても半月もすれば、十匹以上繁殖して増えるだろうが、ここまでにしよう)」

 カズは隠蔽スキルを解除して、気配と魔力を解放する。
 熱り立っていた大型バレルボアが慌てて群れと合流し、倒されたバレルボアの事など気にも留めず一目散に去って行く。
 とどめを刺した際に返り血を受けたレラに〈クリーン〉を掛け、上空のフジを呼ぶ。
 レラが仕留めた二匹のバレルボアと、カズが最後に倒したバレルボア一匹の血抜きをして【アイテムボックス】に入れ、訓練以上に疲れ果てたレラを抱えて、アレナリアとビワの待つフジの住み家に戻る。

 フジの住み家に戻り昼食にして、カズは狩って来たバレルボアを解体して、ビワはその肉を使う用途に分けて、大きさを切り分ける。
 アレナリアとレラはフジと共に、木漏れ日の中で気持ち良さそうに昼寝。
 ビワも仕込みを終わらせると二人の所に行き、アレナリアとレラの側に座り休憩する。
 解体作業を終わらせたカズは、小屋の改装に取り掛かる。
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