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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

617 地下空間の調査 3 壁面調査

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 カズは自分で、味は期待するなとは言ったが、期待してないと即答されては、いささか食べ物を渡したくなくなってくる。

「レオラ様、食事を用意してもらうのに、それはあんまりかと」

「ん? ああそうか。悪かったカズ。取りあえず、腹減った」

「……あるのは、手掴みで食べるパンしかないので、手を洗ってください」

「ここで水を多く使うのはマズいだろ。濡れた所をそのまま放置すれば、カビが生えてしまう」

「……わかりましたよ」

 なんでもかんでも当てにされては癖になると、面倒でも水属性の魔法を使い、手洗いくらいはしてもらおうとカズは考えた。
 だがレオラの言ったように、この地下で湿らせたままの状態にしては、カビが生えるのは可能性は大いにあり問題であった。
 なので〈クリーン〉を三人に使用して、汚れ等を取り除いてから昼食にする。

 レオラが「はじめから簡単で清潔に出来るクリーンそれを使えばよかったろ」と言ってきた。 
 分かっていたが、身勝手さに少しイラッとする。
 だからとここで更に文句を言っても、グラジオラスが仲裁に入って大変になるだろうと気を遣い、カズは【アイテムボックス】からサンドイッチと、以前にビワに作ってもらったコーンスープが入った容器と、カップを三つ出した。
 気温の変化が少ない地下だが、動きを止めると流石に冷える。
 カズはそれが分かっていたので、温かいコーンスープを飲み物として出した。

 レオラは相変わらず豪快に大口でかぶり付き、グラジオラスは温かいコーンスープが入ったカップを両手で持ち、ゆっくりと口に運ぶ。
 慣れない暗闇での調査で緊張していたグラジオラスは、コーンスープ飲み物で体だけではなく心も温まり、ほっとして表情が和らぐ。

「この後はどうします?」

「どこか他に繋がる道がないか、壁沿いに歩いて探してみよう」

「また二手に分かれますか?」

「見過ごしては調査の意味がない。今度は三人で動く。グラジオラスはどうだ、少しは慣れたか。強張っているようだったが」

「あの、はい。お見苦しいところを」

 隠しているつもりでいたが、グラジオラスが暗闇に臆していたのを、レオラは最初から気付いていた。
 皇女に仕える騎士だろうとグラジオラスも女性だ、一つや二つ怖いものや嫌いなものはある。
 男勝りなレオラとは大違い。

 昼食を済ませた三人は、今居る通りを突き当たりまで行き、そこから他に通じる通路がないか歩いて調査する。
 気になった建物があれば、そこも入り調べていく。
 見落としては調査する意味がないと、カズは〈ライト〉を唱え、追加で光の玉を二つ出して、レオラとグラジオラスの近くに浮遊させる。

 壁面とその周辺調査を始めてから三時間弱、三人の話し声と足音、それに時折壁を叩いて調べるする音だけが、この空間内に響く。
 次第にカズのマップにも表示される範囲が広がり、この地下空間の広さがある程度分かってきた。
 南北に約1キロメートル、東西に約2キロメートル、天井まで60メートル程ある長方形の空間。

 帝都中心部の地下に、何時からあったのか、何の為にあるのかも現在では不明。
 レオラが見付けた羊皮紙に、この場所の事が書かれているかも知れない。
 そうでなければ、本の街の隠し部屋の本ならあるいは……。
 レオラが読んだ複製本は、カズが適当に選んだ本なので、他の本に確実に書かれているかは定かではない。
 見付けた羊皮紙にその事が書かれていなければ、再度隠し部屋に行って来いとレオラは言うだろう。
 そんな事を考えながら、カズはレオラ達と調査を続ける。

 地下空間内の壁沿いを調査し続けるが、通路らしき横穴はない。
 魔力で起動する扉があるかもと探すが、そういったのもない。
 休憩を取りつつ調査を続け、地上から下りて来た石階段のある西側壁面の反対側、東側壁面を調査していたグラジオラスが、落ちている水晶の破片を見付け、レオラに報告する。
 レオラは水晶の破片を拾い、その周囲の壁面を広く見る。

「この辺りにありそうだ。カズ」

「探してみます」

 この地下空間に下りて来る時に起動させた、水晶を使った開閉装置が壁面の何処かにある筈だとレオラは考え、カズにそれを探させる。
 水晶の破片が落ちていたという事は、開閉装置が破損している可能性は高い。
 探す範囲が広く、開閉装置が破損していれば、鑑定を使っても反応するか不明とカズは考えた。
 そこで水晶の破片が落ちていた壁面から 離れて、視線を上下左右にと動かし《分析》を使う。
 レオラは「どうだ。何かわかったか?」と問う。
 そんなすぐに分かる訳なく、カズは「もう少し待ってください」と答える。

 水晶の破片が落ちていた所の150センチ上の壁に小さな反応と、すぐ横に縦横3メートル程の反応があったのを見付ける。
 小さな反応は開閉装置で、大きな方は扉だと予測できた。
 それをレオラに伝えると、小さな反応のあった所をコツコツと叩いて、壁に埋め込まれている開閉装置を見付ける。

「やはりあの水晶の破片は、ここに使われていた水晶か」

 レオラは割れ残ってる水晶に触れ、少しずつ魔力を流してみる。

「レオラ様、どうです?」

「ダメだ。こいつが反応すれば、横の壁が開くようになってるんだろ。そうだろ、カズ?」

「だと思います」

「壁を破壊して調べるわけにもいかないか」

「ここで悩んでても、どうもできません。まだ調べてない壁面を調査しますか?」

「現状ではそうするしかないか。……カズ」

「はい?」

「壁をこう…すぅ~っと、すり抜けたりできないか?」

 レオラは急にとち狂った事を言い出す。 
 カズだけではなくグラジオラスも、いったいどうしたのだと、不思議そうにレオラの顔を見る。

「俺をなんだと思ってるんですか? ゴースト系のモンスターじゃないんですよ」

「カズなら何らかのスキルや魔法で、やってのけるんじゃないかと、言ってみただけだ(この先に重要な物があると思ったんだが)」

「こういったのは、魔道具とかの専門家に見てもらってください」

「カズでもダメか。しかたない、これだけの規模だ、国に報告すれば詳しく調べようと、調査に入る事になるだろ」

「ならもう調べなくても、いいんじゃないですか?」

「国が動いて調査をすれば、好き勝手に調べる事はできないだろ」

「国がって、帝国の皇女様ですよね」

「今回は皇女としてではなく、冒険者兼国の守護者として調査に入ってるんだ」

「そうでしたか(特殊な肩書ばかりで、面倒だな)」

「レオラ様、そろそろ壁面の調査に戻らないと、夜になってしまうのでは?」

 日の光が入らない地下に居るので、時間の感覚が分からずに、グラジオラスは昼食を取ってから、ここまでの腹の空き具合で時間を計った。
 意外とグラジオラスの腹時計は正確で、同時刻地上は夕方なっていた。
 レオラが調査を中断して食事にすると言わなければ、グラジオラスは真面目に調査を続ける気でいた。

「そうするか。一時間ほどしたら、休暇がてら夕食にしよう」

 と、言いながら、レオラの視線はカズに向く。

「わかってますが、昼食とたいして変わりませんよ(まったく。ハァ…早く終わらせて帰りたい)」

「ちなみにだが」

「なんです(バレルボアが食いたいとかか?)」

「壁の向こうを透視とか」

「できません」

「グラジオラスの下着の色は?」

「下…えッ!?」

 カズへの予想外の質問に、グラジオラスは驚く。

「そんなのわかるわけないでしょ」

「暗闇でも見えるスキルがあるんだろ」

「暗視は出来ますが、透視はできません!」

「そうか。さぁ、何色だ」

「だから…じゃあ、赤(グラジオラスの雰囲気から、着けないだろう)」

 レオラはこの調査に飽きてきたんだろうかとカズは思い、グラジオラスが履かなそうな色を適当に答える。
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