上 下
637 / 788
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

616 地下空間の調査 2 がらんとした地下の町

しおりを挟む
 下りて来た石階段のある壁面に接している建物の屋上の上空に、作り出した60センチ大の光の玉をそのままにして、カズは二人の後を付いて行く。
 建物内を軽く見て回り、建物正面の通りに出る。
 生き物の気配はなく、がらんとしたゴーストタウン。

 時間が限られており、明日の昼までには地上の資料館に戻らなければならない。
 そこでレオラは「できるだけ多く調べるために、二手に分かれて調査する」と提案してきた。
 未知の場所にグラジオラスを一人にさせるのは少々不安に思い、レオラは共に行動することにした。
 カズを一人にするのは、その方が動きやすいだろうと、レオラの判断。
 グラジオラスが一緒では、見付ける物も見付けられないだろうと、期待に満ちた視線をカズの背中に突き刺す。

「な、なんですか?」

「正午までどのくらいだ?」

「まだ五時間くらいあるかと」

「なら五時間後に、ここに集合だ。もしグラジオラスが迷ったとしても、カズが打ち上げた光球を目印にすれば、戻ってこれるだろ」

「子供じゃないんです。でも、レオラ様から離れないようにします」

 集合時間を決めると、レオラとグラジオラスは周辺の建物から調査を始め、カズは住宅と思われる建物がある方に向かった。
 冒険者として数々の地を訪れて来たレオラは、不気味なこの場所にも臆する事なく突き進む。
 グラジオラスは平静を保ってはいるが、自分達以外の誰もいない暗闇の空間がすぐそこにあると思うと、足がすくんでしまいそうになる。
 皇女の騎士たる者が、守るべき主人の前で、ビクビク怯える様な恥ずかしい姿を見せる訳にはといかないと気を引き締める。

 だがもし三手に分かれて調査と言われていたら、グラジオラスは良くて半泣き、悪ければ石階段を下りて来た建物の屋上に走って戻り、カズが作り出した60センチ大の光の玉が明るく照らす場所で、レオラかカズが戻って来るのをじっと待っていたかも知れない。
 皇女に仕える騎士としての誇りがあるので、流石にレオラ主人を置いて石階段を駆け上がり、地上に戻るような事はしない。
 レオラが共に行動すると言ってくれたので、その様なみっともない姿を晒す事は、今のところない。


 石階段を下りて着いた建物の屋上で、全体を《暗視》のスキルで見渡したが、流石に全てを把握する事はできない。
 そこでレオラとグラジオラスの二人と別行動をする事になったカズは、二人の姿が建物に入り見えなくなると、走って移動してマッピングしていく。
 気になる気配や魔力の反応から、範囲に生物の反応はない。
 【マップ】にはレオラとグラジオラス以外の反応はないので、劣化による建物の崩れなどに気を付けながら、乗り気はしないが仕事と割り切り、時間以内に出来るだけの範囲を探索する事にした。

 近くに浮遊させている光の玉で、周囲の状況はハッキリと見える。
 暗視のスキルがあるので、暗闇に対して怖いと思わない…ことはない。
 ホラー系の映画などは好きで見ていた事で、何もいないと分かってはいても、何か出て来そうな雰囲気が恐怖をあおる。
 だがステータス上は恐怖に対する耐性があるので、怯え震えるような事はない。

 住宅と思われる建物は全て、八畳程度の平屋。
 出入口のある正面は2メートル程の通路があるが、建物と建物の間は狭く、ひと一人が通れるかどうか。
 建物同士が繋がっていれば、完全に昔ながらの長屋と言えるだろう。
 扉は閉まっているが、錠は掛かってない。
 建物の中を見ると、厚くほこりは積もっているが、床や壁に擦ったような傷があるので、使用していた感はある。
 部屋の隅にある小さな台所の蛇口を捻るが、水が出ることはない。
 全部を見て回ることはできないので、適当に範囲を決めて、その中から数軒を選んで建物内部を調べていく。


 一方階層のある建物内部を順番に調査しているレオラとグラジオラスは、とある建物で二つの木箱を見付けていた。
 防虫仕様になっているのか、虫に食われて木箱がボロボロになってるような事はなかった。
 だが長年放置されていた事で劣化しており、木箱を開けようとしたら簡単に割れたり折れたりしてしまう。
 それでも中身を確かめるため、慎重に木箱を開ける。

 片方の木箱の中には紙の束が、もう片方の木箱には羊皮紙の束が入っていた。
 やはりこちらも劣化が激しく、紙を手に取ると崩れてボロボロになって、書いてある内容を読む事ができない。
 羊皮紙の方も劣化していたが、こちらは崩れる事はなかった。
 しかしインクが消えかけていたので、読み取るのは困難な状態。
 レオラは紙の方は諦め、羊皮紙の方を持ち帰る事にした。
 大事な資料を破損させてはならないと、それ以上触らないようにして、カズと合流してから取りに来る事にした。
 木箱をそのままにして、レオラとグラジオラスは他の建物に移移り調査を進める。


 これといって問題は起きずに五時間が経過した。
 三人は地上から下りて来た石階段がある壁面に接してる建物の前で合流する。
 既にレオラとグラジオラスは来ており、カズは少し遅れてやって来る。

「遅かったですか?」

「いや。アタシらも少し前に戻って来たとこだ。で、そっちはどうだった?」

「五十軒ほど中を調べましたが、どれも造りが同じで何もありませんでした。少しだけ使用していた感はあったんですが、長く住んでいた感じではないかと思います」

「なるほど」

「レオラ様達の方は、何か見つかりましたか?」

「こちらも似たようなものだ。ただ木箱を見つけた」

「木箱ですか。中身は?」

「何かの書類だと思う」

「思うとは?」

 カズの疑問に、レオラに代わりグラジオラスか説明する。

「木箱は二つあり片方には紙が、もう片方には羊皮紙が入ってました。紙の方は触ったとたんボロボロに崩れてしまったんです。羊皮紙の方はなんとか大丈夫そうなんですが、インクが消えかけていて読み取れなく」

「そこでカズのアイテムボックスに収納して、持ち出してもらおうと、そのまま置いてある」

「わかりました。回収しますので、案内してください」

 三人は羊皮紙が入った木箱がある建物に行き、カズが木箱ごと【アイテムボックス】に回収する。
 その後最初の建物の屋上に戻り、60センチ大の光球が浮かぶ明るい下で昼食にする。
 携帯食をグラジオラスに持たせてきたが、それは非常時用にと食べなかった。
 なら昼食はどうするのかというと「カズのアイテムボックス内に、大量に入ってるだろう」と、レオラははなからカズが持っているだろうと当てにしていた。
 食べ物を用意するように、とは聞いてないカズは「大量にはないけど、数日分なら作り置きがあります。ただ、先に言っておいてください。なかったらどうするんですか」と、グラジオラスの前だが、これくらいなら問題ないだろうと、レオラに文句とかまではいかないが、ちょっとは強めに言っておく。

「カズならビワが作ったのを、大量に持ってると思っていたが」

「ビワにはほぼ毎日食事を作ってもらってますから、俺が依頼で数日出掛けるからといって、大量に作ってもらうような事はないんです。俺は自分で作れますから(レオラあんたも食べた事あるだろう)」

「そうなのか」

「ビワの料理と比べられると困りますよ」

「そこまでは期待してない」

「……(だったら自分で持って来いよな!)」
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

ハイエルフの幼女は異世界をまったりと過ごしていく ~それを助ける過保護な転移者~

まぁ
ファンタジー
事故で亡くなった日本人、黒野大河はクロノとして異世界転移するはめに。 よし、神様からチートの力をもらって、無双だ!!! ではなく、神様の世界で厳しい修行の末に力を手に入れやっとのことで異世界転移。 目的もない異世界生活だがすぐにハイエルフの幼女とであう。 なぜか、その子が気になり世話をすることに。 神様と修行した力でこっそり無双、もらった力で快適生活を。 邪神あり勇者あり冒険者あり迷宮もありの世界を幼女とポチ(犬?)で駆け抜けます。 PS 2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。 とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。 伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。 2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。        以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、 1章最後は戦闘を長めに書いてみました。

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...