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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

612 徹夜での読書

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 ビワがレオラの屋敷に仕事に行き出してから八日が経ち、翌日ビワが休みということもあり、レオラが川沿いの家にやって来る事になっていた。
 カズが屋敷の裏口で待っていると、ビワと共にレオラと護衛をするグラジオラスが出て来た。
 グラジオラスはロングコートを着て、革の軽装備と腰の剣を隠して行動を共にする。
 ここ数日気温が下がり涼しくなり、日が暮れると肌寒くなってきていた。
 なのでコートを来ている人が増え、グラジオラスが目立つ事はなかった。
 移動には乗り合い馬車は使わずに、レオラ顔見知りのタクシー辻馬車を屋敷近くに呼んでおり、それに乗って向かう。

「向こうに着いたら、グラジオラスは戻ってくれ。その辺の店で、飲んでから戻っても構わないぞ」

「しかし自分はレオラ様の…」

「カズに頼んであった本を読む。グラジオラスならわかるだろ」

「……畏まりました」

「明日はガザニアだったか」

「そうです」

「なら迎えは、正午に来るよう伝えておいてくれ」

「承知しました」

「って事だ。あすの昼食も頼むぞ、ビワ」

「はい」

「当然のように言いますね」

「構わないだろ。あの家はアタシの所有物なんだ」

「それを言われると…。でも夕食にお酒は出しませんよ」

「なんだと!」

「大事な内容の本を見るのに来るんですよね。酔った状態で読むつもりですか?」

「一本や二本空けたところで、酔いはしないが仕方がない。今日のところは我慢するとしよう」

「そうしてください(一杯二杯じゃないのかよ)」

 レオラが言う酒の量に、カズは思わず声に出してツッコミを入れてしまいそうになった。
 タクシー辻馬車内でのやり取りで、アレナリアと酒を酌み交わす事を無しにさせ、隠し部屋から持ち出した複製本を読む為に来るのだと、レオラから言質がとれた。
 これで深夜まで呑み、アレナリアを潰す事はないと、カズは安心した。
 
「その代わりに明日の朝食に、リンゴ酒を出してくれ」

「お酒の匂いをさせたまま戻っては、カーディナリスに怒られてしまいます」

「今夜中に本を読み上げるつもりではいる。朝食に一杯飲むのは、目を覚ますためだ。グラジオラスがばあに黙っていれば、わかりはしないだろ。ばあと会うのは午後からなんだ」

「いいんじゃないかな。出してやって、ビワ(と言いつつ、一杯じゃすまないだろうな。まあ、カーディナリスさんに怒られるのはレオラだからいいけど)」

 屋敷に戻りカーディナリスに酒臭いと怒られるのなら、翌日の朝食にリンゴ酒を出してやっても別にいいやと、ビワに用意してあげてとカズは頼んだ。
 本の街の冒険者ギルドで、レオラがやらかした事のせいで、恐れられてしまった仕返しとして、明日酒臭いまま屋敷に戻り、カーディナリスに怒られてしまえばいいと。
 そうすれば、少しは自重するようになるだろうと、カズは思った。

 川沿いの家近くでタクシー辻馬車が停車し、カズが降りビワが降り、続いてグラジオラスとレオラが降りる。
 グラジオラスはレオラを川沿いの家まで送ると、待たせていたタクシー辻馬車に乗り、来た道を引き返して屋敷に戻る。
 家に入ると「夕食が出来るまで本を読んでる」と、隠し部屋から持ち出した複製本をカズから受け取り、三階の部屋に行く。
 何時もなら着いてすぐに、夕食が出来るまでアレナリアとレラと一緒に、軽く何かを摘みながら、リンゴ酒を飲んで一本空けてしまう。
 アレナリアは今回もそうなると思い、リンゴ酒を用意していたが「悪いが今夜はなしだ」と、レオラから意外な言葉が飛び出し、アレナリアは肩透かしを食らった。
 その理由をカズが説明すると、アレナリアは納得し、用意していたリンゴ酒を元あった場所に片付けた。

 夕食が出来ると、カズはレオラを呼びに三階へ上がる。
 部屋の扉を二、三度叩き、返事を得てから入り、夕食が出来たことを伝える。

「わかった。すぐに行くから先に下りててくれ」

 レオラは何時にもなく、真面目な表情をして複製本を読み、持って来ていた手帳に何やら記入していた。
 カズは言われたように、先に一階に下りる。
 レオラは切のよいところでしおりを挟み、複製本を閉じる。
 カズが呼びに行ってから数分後にレオラが一階に下りて来た。
 レオラが来るという事で、残り少いバレルボアの肉を使い、ビワはシチューを作った。
 今夜は飲まないと聞いたビワは、肉を柔らかくするのにリンゴ酒と、隠し味にすり下ろしたミツモモを加えた。

「それで、収穫はあった?」

「まだ一割程度しか読んでないが、やはり帝都の地下には、旧帝都の街が一部残ってるらい。本の街の隠し部屋には、他にも似たような内容の本はあるんだろ?」

「あそこにあった知性ある本インテリジェンス・ブックに、現在見れなかったり処分された本と聞いたら十六冊候補があった。その中から俺が適当に一冊選んで持ってきたのが、あれだ」

「他にまだ十五冊もあるのか。今読んでる本に有力な情報がなければ、他のを取りに行ってくれるか?」

「アレナリアも一度入りたいみたいだから構わないが、争いが起きるような帝国の闇ヤバい内容の本なら取って来ないぞ」

「それはわかっている。アタシだって、今の平和な帝国を壊したくはない。ただ以前にも話したセテロンあの国から流れて来た連中が、帝国に復讐しようと限らない。旧帝都の情報を得ていたら、地下の何処かに潜伏してる可能性だってあるわけだろ」

「まあそうだな」

「今のところ動きはないが、狙うならやはり帝都の中心部だろ。だからその情報が欲しい。アタシは皇女の前に、帝国の守護者でもあるんだ」

「公務をサボったり好き勝手してる、いい加減な皇女だと思ってたけど、そこはちゃんとしてるのね」

 やる事が大雑把でカーディナリスを困らせ、皇女とは思えない行動ばかりしているのがレオラだと、アレナリアとレラは思っていた。
 しかしレオラはしっかりと国の事を考え、有事に備えていち早く動いていたのだと知った。
 カズはそれでもレオラと二人で話す機会もあり、ビワはカーディナリスから話を聞いたりしていたので、やる時はやる人物だと、ちゃんと理解していた。

「確かに公務は姉上に多く任せてるが、それはアタシが外で動くためだ。と、前にも話したろ。カズが来た事で、面倒なモンスターの討伐は任せる事ができ、アタシは国の内外からの情報を集める時間が出来た。今回の情報もそれだ。情報を整理して、使える地下の建物の場所を特定し、調べてくつもりだ」

「時間が掛かりそうね」

「地下を調べる際には、カズにも動いてもらうぞ」

「ギルドに頼んだらどうだ?」

「ある程度調べたらだ。最初から依頼では出せん。潜伏してる連中の仲間が、冒険者として居るかも知れないだろ。先ずは信用出来る者だけだ。ギルドに話しを回すのは、それからだ」

 レオラが思うところの人物は、話に出たカズの他に、守護騎士をしていた前任者のジャンジとシロナの他に、レオラと同じ守護者の称号を持つグリズとミゼット。
 現在レオラの守護騎士をする三人は、冒険者がするような事への経験が殆どないので、単独で任せられる人物には入らない。

 話をしながら手ばやく夕食を済ませたレオラは、三階の部屋に戻り複製本の続きを読む。
 カズ達は邪魔にならないように、風呂に入り寝るまでは、一階のリビングで談笑して過ごした。
 ビワは飲み物をレオラに持って行き、それから二階の寝室で就寝した。
 アレナリアとレラは、ビワより少し先に二階の寝室で寝た。
 レオラが下りて来るかも知れないと、カズは隠し部屋から持って来たもう一冊の、種族妖狐に関する複製本をリビングのソファーに座って読む。
 今夜は珍しく静かな夜だったので、読書が進み遅くまで起きていてしまった。
 レオラも読みふけっているのか、下りて来る気配がなかったので、カズはそのままソファーで横になり毛布を掛けて寝た。
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