上 下
601 / 781
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

580 女心の分からぬバカ者

しおりを挟む
 ネックレスの入った長方形のケースをカズの前にサイネリアの前に、と。

「こんな高価なのは受け取れません」 

「だから迷惑掛けてるお詫びだと思って」

「同じ様に言われる職員もいます(皇女レオラ様のような高貴な方の担当になる同僚なんて、本当は他にいないのだけれど)」

 埒が明かないと、カズはレオラの名前を出す事にした。

「今回の事はレオラ様が仕組んだと、俺はもう知ってます。ギルドの決まりで受け取れないのなら仕方ありませんが、そうでなければ貰ってください」

「でもこれは……」

「失礼ながらハッキリと言いますが、サイネリアさんに求婚してるとかではないので」

「だ、だったら! アレナリアかビワ奥さんのどちらかに渡したらどうですか!」

「奥さんて、俺はまだ結婚してないから!」

「だったら余計に──」

「だから大丈夫だから──」

 二人の間で真珠のネックレスが行ったり来たりと、何度か繰り返す。

「俺が持って帰ったら、それこそアレナリアとビワに怒られる。これはもうサイネリアの私物なんだら、絶対に受け取れない。嫌で無理にでも返そうと言うなら捨ててくれ」

「捨てる!? そんな事出来る訳ないでしょ! んあぁもうッ! わたしの負け」

 カズは別に勝ち負けじゃないんだがと思いながら、サイネリアが折れたて真珠のネックレスを受け取ってくれたので安心した。

 サイネリアに正直に話すという用は終わったので、フジの所に解体したバレルボアを持って行こうかと、早くギルドを出る事にし、カズはスッと席を立つ。

「ちょっと待ってください」

 サイネリアは後ろを向き、真珠のネックレスを着けて振り返る。

「今は仕事中なのでギルドの制服ですが、どうでしょうか? 一応、カズさんから頂いたので感想を…」

 ここでカズは、ビワが言っていた事を思い出す。

「似合ってる。綺麗だと思うよ(女性はほめれば、喜ぶんだよな)」

 カズのこの軽率な考えが、のちに説教を受ける事になる。

「そ、そうですか。ありがとうございます」

 カズから視線を反らし、サイネリアは顔を赤らめた。

「いただいたパールネックレスこれ大事にします」

 サイネリアへの用件が済んだカズは、人目のない場所で〈空間転移魔法ゲート〉を使いフジに食料を届けに。
 バレルボアの肉を与えながら、サイネリアへの対応を間違ってなかった筈だと、自分に言い聞かせた。

 この日の夕食後に、アレナリアから「それで、どうだったの?」と聞かれ、ありのままをカズは話した。
 するとアレナリアから「サイネリアを狙ってるの?」と怖い顔をする。
 思ってもない返答が返って来たので、カズは驚いた。
 似合ってるは良いけど、綺麗は言い過ぎだと説教が始まり、風呂に入る時間が何時もより一時間遅くなった。
 彼女でもない女性に、宝飾品なんて贈るもんじゃないと、カズは実感した。

 ギルド本部に行くと、担当のサイネリアと顔を合わせる事になるので、アレナリアの説教を受けた翌日からなんとなく足が向かず、昼間は毎日レラを連れてフジの所で過ごした。
 レラもフジも喜んでたいたので、カズとしては不満はなかった。
 ふたりが遊んでる間は、あれこれと元居た世界の事や、これから先どうするかと一人物思いにふける。
 ほんの数日、数時間だけだったが、カズには現状とこれから先を考えるには、この時間は良かったかも知れない。



 そしてアレナリアがヒューケラの護衛兼、付き添いとして出掛けるため前日の日暮れ前に、ブロンディ宝石商会へ泊まりに。
 アレナリアが留守の間に、レオラが夕食に来ないよう、明日ビワに伝えてもらうようにしようとカズは考えた。
 でないと酒を酌み交わす相手を、自分がしなければならない事になると、考えたからだった。

「あちしが相手するよ」

「レラだけだとすぐに潰されて寝るだろ。アレナリアと三人で飲んでても、そうなんだから」

「じゃあカズが一緒に飲めばいいじゃん」

「それを避けたいから、アレナリアが留守だって、ビワに伝えてもらうんだ」

「カズが酔い潰れてるとこなんてに見たことないんだから、アレナリアの変わりにレオラと飲んだらいいじゃん」

「そうならないように、適度に酒を飲むようにしてんの。レラと違ってな(酒に対して耐性があるから、酔い潰れるまで飲む事はないんだよな。よしか悪しか)」

「カズがべろんべろんの、ぐでんぐでんになってるとこ見てみたいな。あちし」

「そんな言葉をどこで覚えた?」

「温泉に行った時に、アレナリアが言ってた」

 カズは灼熱と極寒のダンジョンに行く前の事を思い返す。

「……おかしいな。あの時はヒューケラがいるから、酒は控えろと言ったはずだが」

「寝た後に少しだけだよ」

「一緒に飲んだな」

「ぁ…あはは! もうすぎた事じゃん。そんなの気にしちゃ、モテないんだよ」

 隠していた事がバレて、レラは開き直る。

「ビワに言って、レラの夕食はパン一枚にしてもらおう」

「ぬあッ! 待て~い、あの時はビワも一緒にお酒を……あ」

「ビワも!? ハァ……もういい。そうだな過ぎた事だ。なにもなかったんだから良しとしよう(サイネリアの事が済んだばかりで、過ぎた事を持ち出したら、なんかまた疲れそうだ)」

「あちしとアレナリアに厳しいのに、ビワには甘いんだ。アレナリアが聞いてたら怒るよ」

「レオラの所で仕事をしてるのに、炊事に洗濯に掃除と、家でも家事をしてくれるんだ。ビワに優しくするのは当然だろ」

「た、確かに」

「アレナリアは最近アイリス様の騎士に魔力操作を教えに行ったりしてるし、今回はヒューケラの護衛で出掛けたんだ。だからアレナリアにはこれから優しくして、構ってやってもいいとは思ってる。レラは家で何かしてるかの?」

「し、してない。食べるか、寝るかしてる」

「だろ。だからこれからは、少しでも自分の身を守れるように、フジの所で魔法と…あれだ、作ってもらったナイフを使う練習をすること。以前作ったレラ専用のナイフをあまり使ってないだろ」

「そういえば、そんなの作ってもらったっけ」

 風属性の金属で作ってもらった自分専用のナイフの事など、レラはすっかり忘れていた。
 レラに使い慣れるように言うカズもすっかり忘れて、話してる内にナイフのことを思い出した。

「アレナリアが戻って来るまでは、俺が教え…(ナイフの扱い方知らないや)」

「カズが?」

「いや、ナイフの練習は、アレナリアが戻って来てからにしよう」

 使い方が分からない武器を教えて、変に覚えては宝の持ち腐れになるので、レラ専用のナイフの扱いは、レオラとアレナリアに任せることにした。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

現実だと思っていたら、異世界だった件

ながれ
ファンタジー
スメラギ ヤスト 17歳 ♂ はどこにでもいる普通の高校生だった。 いつものように学校に通い、学食を食べた後に居眠りしていると、 不意に全然知らない場所で目覚めることになった。 そこで知ったのは、自分が今まで生活していた現実が、 実は現実じゃなかったという新事実! しかし目覚めた現実世界では人間が今にも滅びそうな状況だった。 スキル「魔物作成」を使いこなし、宿敵クレインに立ち向かう。 細々としかし力強く生きている人々と、ちょっと変わった倫理観。 思春期の少年は戸惑いながらも成長していく。

チート狩り

京谷 榊
ファンタジー
 世界、宇宙そのほとんどが解明されていないこの世の中で。魔術、魔法、特殊能力、人外種族、異世界その全てが詰まった広大な宇宙に、ある信念を持った謎だらけの主人公が仲間を連れて行き着く先とは…。  それは、この宇宙にある全ての謎が解き明かされるアドベンチャー物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

処理中です...