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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
579 求めるは安価 贈るは平均 だが実物は……
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◇◆◇◆◇
前日カズが持ち帰ったパンを食べて朝食を済ませたアレナリアは、ブロンディ宝石商会のヒューケラの所に行き、その日の夕食時に、約半月間の付き添い兼、護衛を受ける事にしたと言ってきた。
出発は五日後の魔導列車に乗って、現在の最西端の駅クラフトを目指す。
なので前日はブロンディ宝石商会に泊まり、翌日の早朝出発する魔導列車で、ヒューケラと二人でクラフトに向かうという事だ。
サイネリアの休み明けすぐに会うよりも、二日程空けた方が良いかとカズは考えた。
贈り物にしたネックレスの事について、アレナリアとビワから注意された事を話すと決めた。
先送りにして話すタイミングを失い、アレナリアとビワからまた説教されるのはごめんだと考えた。
謝罪をするなら早い方が良い、と。
しかし何故、相手が欲しがっていた物を贈ったの、謝罪しなければならないのだろうかと、カズは一日考えてしまった。
仕事上の知り合い女性に、迷惑やら感謝やらの気持ちとして、宝飾品を専門家に選んでもらって贈っただけなのに。
現物を見てないのがそんなに駄目だったのか? それが大事なことなのか? 仕事上の知り合いの女性というだけのに、と。
勿論、アレナリアやビワやレラが身に着ける宝飾品であれば、時間を掛けて念入りにじっくりと選びはするが。
同じ様にして選んだのを贈り物にして、誤解されたり下心ありなんて思われては困ってしまう。
だからカズは本人に試着させて、専門家に任せたのにと思っていた。
たまたま今回の相手がサイネリアで、欲しがってい物を扱ってた専門家が、知り合いのコーラルだったというだけの事。
と、話したところで、完全に言い訳にしか聞こえないので、喉元まで出て来た言葉を飲み込み、アレナリアとビワの注意を聞き、黙って大人しくしていた。
自分が悪かろうがなかろうが、状況を考えて言葉を選ばなければ、状況は悪化する『口は災いのもと』だ。
アレナリアとビワにサイネリアへの贈り物の渡し方がなってないと、説教を受けたその日の夜、サイネリアは機嫌を損ねてないだろうかと、カズは悪い方に考えていた。
同日の昼少し前、連休二日目はのんびりと自宅で過ごそうと予定していたサイネリアだったが、そうは出来なかった。
昨夜カズから別れ際に受け取ったブロンディ宝石商会の紙袋を開け、入った長方形のケースの中身を見て「え! うそでしょ。どういう意味なの?」と。
《 前夜 》
カズから渡された紙袋の中身は、サイネリアの予想通り真珠のネックレスだった。
ひと目見ただけで分かった、とても気楽になんて使える代物ではないと。
サイネリアは長方形のケースからネックレスを取り出すのを躊躇う。
取りあえず落ち着こうと、一度のネックレスが入った長方形のケースを紙袋に戻し、カズから貰ったバレルボアを、根菜と煮込んで作り置きしたのを冷蔵庫にから出し、果実酒を用意して夕食にする。
翌日も休みという事もあり、残っていた果実酒を飲み干して、何時も以上に酔っ払っう。
酔って気が大きくなったサイネリアは、躊躇していた真珠のネックレスを着けて、めっきりと使わなくなった姿見の前で、昼間ブロンディ宝石商会の一室でしていた以上のポーズを決める。
持っている服の中で、ここはという時の勝負服に合わせてみたり、下着姿で決めてみたりと、サイネリアは新しい果実酒を開けて深酒をし、自身の制御ができなくなっていた。
翌日の昼過ぎ、下着姿のまま寝てしまったサイネリアは目を覚ます。
二日酔いで頭痛はするも記憶はしっかりとあり、部屋は滅多に着ない服や下着がそこらに散乱している状態。
昨夜自分は何をしていたんだと、またベッドに倒れ込むも、羽目を外してカズから渡された真珠のネックレスを着けていたのを思い出し、散らかった部屋の中を見渡す。
無惨に放置された真珠のネックレスを見付け、傷や汚れがないかを確認し、元々入っていた長方形のケースに丁重にしまう。
二日酔いで頭痛はするも完全に目が覚めてしまったので、飲み散らかしたままの食器やらを片付けて、水をコップ一杯分を飲むとベッドに座り一点を見つめて考え込む。
休日初日は宝石商会の代表に接客され、高価で希少な宝飾品を試着する。
非日常から抜け出そうと、子供の頃から行っていた老舗のデパートに行きパンを買い、寂れてはいるも落ち着く空間で昼食を取り、なんだかんだと悪くはない一日を過ごした筈だった。
が、休日二日目問題にぶち当たる。
生活が苦しいよう無理をせず節約をして、一年働いた自分へのご褒美にと、手が出せる程度の宝飾品を求めて行った宝石商だった。
だが、目の前にある真珠のネックレスは、そんな安価な物ではないと分かる代物。
サイネリアの頭が痛いのは、二日酔いのせいだけではなかった。
折角の休日だというのに、二日目ものんびりと疲れを癒やす事は出来なかった。
そしてそれは、サイネリアの休みが明けてから二日目続き、三日目にしてやっと元凶? のカズがギルド本部を訪れた。
《 現在 》
カズはギルド本部を訪れ、何時もの個室で仕事上平静を装うサイネリアと会う。
そこでアレナリアとビワから受けた説教を思い出し、サイネリアへの贈り物の事で、自分の至らない点を上げて謝罪をする。
「って事で、実は実物を見てないんだ」
「わたしの悩んだこの三日は、いったい……」
カズの軽い考えを聞き、サイネリアにどっと疲れが押し寄せ、思った事がボソッと出る。
「へ?」
「いいへ別に。謝るような事じゃないですよ。おほほほほほッ」
サイネリアから聞いた事のない笑い声は怖く、本気で笑ってない事は嫌でも分かる。
「そ、そうは思えないけど」
「一人の女として少し残念ですけど、カズさんと付き合ってる訳じゃないんですからッ!」
「そう言ってもらえると、気が楽になる…よ(ならない。絶対に怒ってる)」
サイネリアの怒ってる理由が、高価なネックレスをプレゼントされ、もしかしたらと勘違いさせるような事をしたのにだった。
婚期を過ぎてしまってる自分に、異性として興味がないのだと、サイネリアは更におかしな方向へ考えてしまう。
婚期が過ぎ行き遅れと思っているのはサイネリア本人だけで、カズや周囲の者達はそんなこと考えてない。
そんなことは露知らず、ここで怒ってしまっては、ブロンディ宝石商会を出た後と同じになってしまうと、サイネリアは軽く深呼吸して気持ちを落ちつかせ冷静になる。
「ふぅ……。実はわたしもカズさんに聞きたくて、これを持って来たんです」
サイネリアは別れ際にカズから受け取った紙袋から、長方形のケースを出してテーブルに置いた。
「開けてみてください」
そう言われたカズは、長方形のケースを開けて、中に入っている真珠のネックレスを見る。
白の中玉真珠が二十数粒使われ、着けた時に胸元の位置にくる場所には、黄色の大玉真珠が一粒と、それを挟むようにして黄色の中玉真珠が二粒あった。
三粒とはいえ人気の黄色真珠を使い、しかも一粒は大玉。
「わたし開けて驚きました。これっていくらするんですか?」
「俺は人気があって平均的なのが、金貨二十枚くらいって聞いてたから、それをコーラルさんに頼んだんだけど」
「金貨二十枚! わたしか元々デパートの即売会で買おうかと思ったのは金貨五枚くらいで、高くても金貨十枚もしない物なんですよ。しかもこれ、どう見ても金貨二十枚以上しますよね!」
「あの時に見せてもらったのを考えると、金貨三十枚はしそうだよね(サービスしてくれるのは嬉しいが、大玉の黄色真珠はやり過ぎでしょ。コーラルさん!)」
「こんな高価なのはもらえません」
ネックレスが入った長方形のケースを、カズの方に動かすサイネリア。
「返されても困る。これまでのお詫びとお礼と感謝として、プレゼントしたんだから受け取ってよ」
今度はカズがネックレスの入った長方形のケースを、サイネリアの前に動かす。
「そんなの悪いです!」
「そう言わずに。もう着けたんでしょ」
「…ッ! いいからッ!」
着けたの言葉に、サイネリアは動揺して一瞬動きを止める。
前日カズが持ち帰ったパンを食べて朝食を済ませたアレナリアは、ブロンディ宝石商会のヒューケラの所に行き、その日の夕食時に、約半月間の付き添い兼、護衛を受ける事にしたと言ってきた。
出発は五日後の魔導列車に乗って、現在の最西端の駅クラフトを目指す。
なので前日はブロンディ宝石商会に泊まり、翌日の早朝出発する魔導列車で、ヒューケラと二人でクラフトに向かうという事だ。
サイネリアの休み明けすぐに会うよりも、二日程空けた方が良いかとカズは考えた。
贈り物にしたネックレスの事について、アレナリアとビワから注意された事を話すと決めた。
先送りにして話すタイミングを失い、アレナリアとビワからまた説教されるのはごめんだと考えた。
謝罪をするなら早い方が良い、と。
しかし何故、相手が欲しがっていた物を贈ったの、謝罪しなければならないのだろうかと、カズは一日考えてしまった。
仕事上の知り合い女性に、迷惑やら感謝やらの気持ちとして、宝飾品を専門家に選んでもらって贈っただけなのに。
現物を見てないのがそんなに駄目だったのか? それが大事なことなのか? 仕事上の知り合いの女性というだけのに、と。
勿論、アレナリアやビワやレラが身に着ける宝飾品であれば、時間を掛けて念入りにじっくりと選びはするが。
同じ様にして選んだのを贈り物にして、誤解されたり下心ありなんて思われては困ってしまう。
だからカズは本人に試着させて、専門家に任せたのにと思っていた。
たまたま今回の相手がサイネリアで、欲しがってい物を扱ってた専門家が、知り合いのコーラルだったというだけの事。
と、話したところで、完全に言い訳にしか聞こえないので、喉元まで出て来た言葉を飲み込み、アレナリアとビワの注意を聞き、黙って大人しくしていた。
自分が悪かろうがなかろうが、状況を考えて言葉を選ばなければ、状況は悪化する『口は災いのもと』だ。
アレナリアとビワにサイネリアへの贈り物の渡し方がなってないと、説教を受けたその日の夜、サイネリアは機嫌を損ねてないだろうかと、カズは悪い方に考えていた。
同日の昼少し前、連休二日目はのんびりと自宅で過ごそうと予定していたサイネリアだったが、そうは出来なかった。
昨夜カズから別れ際に受け取ったブロンディ宝石商会の紙袋を開け、入った長方形のケースの中身を見て「え! うそでしょ。どういう意味なの?」と。
《 前夜 》
カズから渡された紙袋の中身は、サイネリアの予想通り真珠のネックレスだった。
ひと目見ただけで分かった、とても気楽になんて使える代物ではないと。
サイネリアは長方形のケースからネックレスを取り出すのを躊躇う。
取りあえず落ち着こうと、一度のネックレスが入った長方形のケースを紙袋に戻し、カズから貰ったバレルボアを、根菜と煮込んで作り置きしたのを冷蔵庫にから出し、果実酒を用意して夕食にする。
翌日も休みという事もあり、残っていた果実酒を飲み干して、何時も以上に酔っ払っう。
酔って気が大きくなったサイネリアは、躊躇していた真珠のネックレスを着けて、めっきりと使わなくなった姿見の前で、昼間ブロンディ宝石商会の一室でしていた以上のポーズを決める。
持っている服の中で、ここはという時の勝負服に合わせてみたり、下着姿で決めてみたりと、サイネリアは新しい果実酒を開けて深酒をし、自身の制御ができなくなっていた。
翌日の昼過ぎ、下着姿のまま寝てしまったサイネリアは目を覚ます。
二日酔いで頭痛はするも記憶はしっかりとあり、部屋は滅多に着ない服や下着がそこらに散乱している状態。
昨夜自分は何をしていたんだと、またベッドに倒れ込むも、羽目を外してカズから渡された真珠のネックレスを着けていたのを思い出し、散らかった部屋の中を見渡す。
無惨に放置された真珠のネックレスを見付け、傷や汚れがないかを確認し、元々入っていた長方形のケースに丁重にしまう。
二日酔いで頭痛はするも完全に目が覚めてしまったので、飲み散らかしたままの食器やらを片付けて、水をコップ一杯分を飲むとベッドに座り一点を見つめて考え込む。
休日初日は宝石商会の代表に接客され、高価で希少な宝飾品を試着する。
非日常から抜け出そうと、子供の頃から行っていた老舗のデパートに行きパンを買い、寂れてはいるも落ち着く空間で昼食を取り、なんだかんだと悪くはない一日を過ごした筈だった。
が、休日二日目問題にぶち当たる。
生活が苦しいよう無理をせず節約をして、一年働いた自分へのご褒美にと、手が出せる程度の宝飾品を求めて行った宝石商だった。
だが、目の前にある真珠のネックレスは、そんな安価な物ではないと分かる代物。
サイネリアの頭が痛いのは、二日酔いのせいだけではなかった。
折角の休日だというのに、二日目ものんびりと疲れを癒やす事は出来なかった。
そしてそれは、サイネリアの休みが明けてから二日目続き、三日目にしてやっと元凶? のカズがギルド本部を訪れた。
《 現在 》
カズはギルド本部を訪れ、何時もの個室で仕事上平静を装うサイネリアと会う。
そこでアレナリアとビワから受けた説教を思い出し、サイネリアへの贈り物の事で、自分の至らない点を上げて謝罪をする。
「って事で、実は実物を見てないんだ」
「わたしの悩んだこの三日は、いったい……」
カズの軽い考えを聞き、サイネリアにどっと疲れが押し寄せ、思った事がボソッと出る。
「へ?」
「いいへ別に。謝るような事じゃないですよ。おほほほほほッ」
サイネリアから聞いた事のない笑い声は怖く、本気で笑ってない事は嫌でも分かる。
「そ、そうは思えないけど」
「一人の女として少し残念ですけど、カズさんと付き合ってる訳じゃないんですからッ!」
「そう言ってもらえると、気が楽になる…よ(ならない。絶対に怒ってる)」
サイネリアの怒ってる理由が、高価なネックレスをプレゼントされ、もしかしたらと勘違いさせるような事をしたのにだった。
婚期を過ぎてしまってる自分に、異性として興味がないのだと、サイネリアは更におかしな方向へ考えてしまう。
婚期が過ぎ行き遅れと思っているのはサイネリア本人だけで、カズや周囲の者達はそんなこと考えてない。
そんなことは露知らず、ここで怒ってしまっては、ブロンディ宝石商会を出た後と同じになってしまうと、サイネリアは軽く深呼吸して気持ちを落ちつかせ冷静になる。
「ふぅ……。実はわたしもカズさんに聞きたくて、これを持って来たんです」
サイネリアは別れ際にカズから受け取った紙袋から、長方形のケースを出してテーブルに置いた。
「開けてみてください」
そう言われたカズは、長方形のケースを開けて、中に入っている真珠のネックレスを見る。
白の中玉真珠が二十数粒使われ、着けた時に胸元の位置にくる場所には、黄色の大玉真珠が一粒と、それを挟むようにして黄色の中玉真珠が二粒あった。
三粒とはいえ人気の黄色真珠を使い、しかも一粒は大玉。
「わたし開けて驚きました。これっていくらするんですか?」
「俺は人気があって平均的なのが、金貨二十枚くらいって聞いてたから、それをコーラルさんに頼んだんだけど」
「金貨二十枚! わたしか元々デパートの即売会で買おうかと思ったのは金貨五枚くらいで、高くても金貨十枚もしない物なんですよ。しかもこれ、どう見ても金貨二十枚以上しますよね!」
「あの時に見せてもらったのを考えると、金貨三十枚はしそうだよね(サービスしてくれるのは嬉しいが、大玉の黄色真珠はやり過ぎでしょ。コーラルさん!)」
「こんな高価なのはもらえません」
ネックレスが入った長方形のケースを、カズの方に動かすサイネリア。
「返されても困る。これまでのお詫びとお礼と感謝として、プレゼントしたんだから受け取ってよ」
今度はカズがネックレスの入った長方形のケースを、サイネリアの前に動かす。
「そんなの悪いです!」
「そう言わずに。もう着けたんでしょ」
「…ッ! いいからッ!」
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