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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

564 仮住まいから本住まいに

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 箱町を出て三十分程すると、人気のない草原に入り、先は荒野へと変わっていく。
 足腰が強い馬だろうと、キビ村に到着するのには時間が掛かる。
 そこでカズは馬に〈身体強化〉を掛けた。
 それでも四人を乗せた重たい馬車を引っ張るのだから、疲れれば休憩を取り時間掛かる。
 そこで身体強化を馬に掛ける時に、馬車に対して〈反重力アンチグラヴィティ〉を弱く使用して馬車を軽くした。
 急に馬車の速度が上がった事で、カズが何かしたんだとレオラはすぐに察した。

「何をした?」

「やっぱりわかりましたか。馬に強化魔法を使いました」

「それだけか?」

「あとはちょっと馬車を軽く」

 馬に強化魔法を掛けて速度を上げるのはサイネリアでも分かっていたが、走っている馬車を軽くするなんで出来るのかと疑問に思いカズに尋ねる。

「馬車を軽くするなんて、風魔法で持ち上げてるとかですか?」

「そんなとこかな。揺れが押さえらたんだから、細かい事は気にしない」

「それはありがたいですが(これくらいなら、着くまでお尻が持ちそうだわ)」

 馬車の振動が押さえられた事で、四人の腰と尻への負担が軽減され、尻が痛くなる前に目的地のキビ村に到着した。
 今回の訪問は数日前に決まった事なので、キビ村に事前連絡はされておらず、突然正式な書頼を持ち、女性騎士をを連れた第六皇女が来た事で、村人は驚き混乱した。
 キビ村に皇族や貴族を向かえられるような建物はなく、村長の個人宅に通すよりも村の集会所が広くて良いと、村長は四人を丁重に案内する。

 突如訪れた事についての説明はサイネリアが話した。
 当初フジの件でカズ相手に強気で話していた村長だったが、粗暴と噂のレオラ第六皇女の前では縮こまり、一回りも二回りも小さく見えた。
 サイネリアの説明が終わり、カズが帝都に滞在する間は、フジをそのまま現在の場所に居させる事について、レオラは村長に意見を求めた。
 当然反対する事など出来ず、何とか出した言葉は「村人と畑に危害が加わらなければ」と、村長らしく村を第一に考えてだった。
 本心は分からないが、フジが住む場所の近くにあるキビ村の村長の許可を正式に取りると、サイネリアが複写した書類を村長の前に出した。
 複写した書類にアイリス第五皇女の署名はないが、正式な書類だと示す為に、第六皇女のレオラが村長の目の前で署名をした。

「その書類は大切に保管してください。もし不安があるようでしたら、箱町の冒険者ギルドで預かっても構いませんがどうしますか?」

 複写した書類とはいえ、レオラ第六皇女直筆の署名が入った書類を手元に置いておくのは、無くしたり盗まれたりしたらと考えると怖くなり、村長は箱町の冒険者ギルドで預かってもらうと即決。
 緊張しっぱなしの村長は、これで用件は終わりだと少しほっとした。

「話は変わるが」
 
「はひッ!」

 話は終わったと思った村長に、レオラから声が掛かり、変な返事をしてしまい顔を伏せた。

「黒糖を作っているだろ。それを定期的に購入したいが可能か?」

「献上でしょうか」

「献上ではなく、ちゃんと金を払っての購入だ。姉上の所と合わせて、毎月10キロは欲しいんだが」

「その、そのくらいでしたら問題なく。どこへお送りいたしましょう?」

「とりあえずカズの所でいいだろ」

「レオラ様のお屋敷じゃ駄目なんですか?」

「アタシの所だと、諸々検査されたりと面倒だろ」

「皇女であるレオラ様宛となれば、綿密な検査をするのは当選です」

 グラジオラスは正論を言うが、レオラの反応は。

「な、面倒だろ」

「皇女様が言う事じゃないですよ」

「わたしも同意見です」

 自身の安全を考えての検査を、面倒だからとするレオラの発言に、グラジオラスは慣れたものだったが、カズとサイネリアは呆れて苦笑いをする。

「アタシはいいんだ。もちろん姉上の所に届ける前には、しっかりと検査をしてから渡すぞ。もし毒でも盛ろうものなら、そいつの所にアタシが直々におもむいてやる」

「ですから、皇女様の言う事じゃないんですよ」

「もう言っても無駄ですよ。レオラ様ですもの。皇女様の前にSSランクの冒険者で、守護者の称号を持つ一人ですからね」

「そうでした」

 カズ達が住む川沿いの家に、毎月10キロの黒糖が送られてくる事になった。
 せっかく来たのだからと、今月分は買っていくとレオラが言い出し、お金を村長に払った。
 レオラとアイリスの所に5キロずつと、一緒来たカズとサイネリアの分を1キロずつを買う。
 村長には見返りとして、第六皇女御用達の黒糖とうたう事をレオラが許可を出した。
 皇族御用達と宣伝文句を使えば、人気が出て価格は上昇するだろうが、今より少しでも味が落ちるなりしなたら、第六皇女レオラの名を汚す事になりかねなく、使い所に気を付けねばならぬと、胃をキリキリとさせながら村長は感謝の言葉を告げた。

 用意出来た黒糖12キロは、カズが【アイテムボックス】に入れて持っていき、三人はキビ村を離れてサトウキビ畑のある盆地を迂回し、フジの居る林へと向かった。

 三人がキビ村を出て行くと、村長の元に村人が集まり、レオラ第六皇女が訪れた内容を村人に話した。
 村にとって悪い事ではなかったので、村人は安心していた。
 ただヘルバイパーを討伐したカズ冒険者が、第六皇女お抱えの冒険者だと知り、以前カズがフジの件で訪れた時の村長が取った対応に問題がなかったのかと言う者も少なからずいた。
 村人達は集会所で村の存続に関わるかも知れない事だと、この日夜まで話し合いが続いた。

 今日来る事を伝えてあったことで、フジは獲物を取りに行く事はせず、カズが仮住まいとして建てた大きめの倉庫の中で待っていた。
 カズがバレルボアの肉をフジに与えている間に、サイネリアが建物の状態や周囲の確認し、持ってきたメモ帳に書き留めた。
 その間レオラはグラジオラスと共に、木漏れ日の中を散歩して時間を潰していた。

「レオラ様、終わりましたよ」

「早かったな」

「本来こういった事は、事前の準備が必要なんですよ。今回は急ぎとかで、用意がしてありましたが」

「どのみち職員でフジを見ているのはサイネだけなんだ。他の職員がフジを見て、冷静に住み処を調べられると思うか?」

「それは……難しいかと思います」

「だろ。それにサイネはカズの担当になってるんだ。サイネが来る事は決まってたって事だ。二度手間にならずにすんでよかったろ。場所もギルド本部から距離があるわけだし」

 少々強引な気をするが、レオラの言っている事は間違ってなかった。
 サイネリアとしては、カズが危険度Aランクのモンスターを連れてこなければと、文句を言いたい気持ちはあった。
 が、その切っ掛けとなったのが、無理を言って資源と潤沢のダンジョンに素材採取を頼んだ自分でありギルドなのだからと、仕事と割り切り言いたい気持ちをぐっと堪えた。

「ご苦労だったサイネ。帰りは列車でのんびりと戻るか?」

「登録書と報告書を作成しなりませんので、ギルドの転移で急いで戻りたいです。午後の時間を書類作成に使えば、今日中に終わらせる事が出来ますので」

「わかった。急がせて悪かったなサイネ。ギルドに戻るぞカズ!」

「はい、わかりました『レオラとアイリス様のお陰で、フジを帝都に来させる事が出来るようになった。最初は驚かれるだろうが』」

「『そうなの?』」

「『俺達はもう行くよ。すまないが、向こうにある村と村人を、モンスターから守ってやってくれ。フジがここに居るから、あまり来ないと思うが』」

「『わかったカズ』」

「『話したかったりしたら、いつでも念話で連絡してくれ。俺達の所に来る時にもな』」

「『は~い』」

「じゃあまた来るよ」

「『今度はレラも連れて来て。また一緒に遊びたい』」

「わかった」

 フジと別れた四人は馬車に乗り、箱町のギルドに戻って行く。
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