上 下
583 / 788
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

562 書き込んだマップの聴取

しおりを挟む
 素材の溶岩喰いのケラの前脚を見ても、思ったより大きくはないとサイネリアは驚きはしなかった。
 が「くさい!」と鼻を押さえて、出した前脚からズサーっと、見た事のない俊敏な動きで距離を取った。
 溶岩喰いのケラというモンスターが存在するのはギルドでも知られてはいたが、体液が臭いとまでは知られておらず、そこまでなのかと、サイネリアの反応を見て分かった。

「これでもにおいは薄い方なんだ。本体からの粘液は悪臭が酷かった。眷属のモグラもかなり臭かったしな」

「眷属?」

「あれ、知らなかった? 飢餓モグラは溶岩喰いのケラの眷属なんだよ。行ったダンジョンではだけど」

「ほれは新情報れす。この素材も色々ひろひろと研究出来ほうです。カズさんにはこれからも……」

 サイネリアは話してる途中で、ギルド本部へと繋がる通路の方へ移動し、押さえていた鼻を離して、息を大きく吸い戻ってくる。

「……あちこちのダンジョンに行ってもらった方がギルドだけではなく、他の冒険者のためになりますね」

「俺に頼まないで、他の冒険者に仕事を与えるべきだろ。ってか、それほどくさいのか? 俺も(結構傷つく行動だよな)」

「大丈夫です。その内慣れますし、これからも危険なダンジョンを勧めますので」

「慣れるって、やっぱりか! いや、その前に危険なダンジョンを勧めるなよッ! 俺だってやる事はあるんだ。行かないからな!」

「でしたら、灼熱の地底をどうやって切り抜けたか、教えてください」

「ぐッ……だからそこは風と水の魔法でちょこちょこっと」

「そのちょこちょこっとを、教えてほしいんてすがねえ」

「……こういった魔法なりスキルがあるか知らないが、俺だと明かさないと約束するなら(レオラとアイリス様の騎士達には話しちゃったから、教えるのは別にいいんだが、後々多くから教えてくれと頼まれられるも面倒だから嫌なんだよ)」

「わかりました。ないものでしたら、それを発案したのが、冒険者の一人だということにします」

「ならサイネリアに実際使うよ。ここだとちょっと冷えるけど我慢してくれ。使うのはエアーアーマーを、ちょこっと変えただけのものだから」

 サイネリアがそこまで知りたがったので、倉庫から先程まで居た個室に戻る間に〈冷風の鎧コールド・エアーアーマー〉をサイネリアに使った。

「寒ッ! これで灼熱を耐えたんですか? 確かに冷えますが、これでは無理だと思うのです」

「重ね掛けしてなんとか。それでも汗だくてたまらなかった」

「…くしゅん! 寒くなってきたんで、解除してもらっていいですか」

「お、悪い悪い」

 震えるサイネリアを見て、カズは冷風の鎧コールド・エアーアーマーを解除した。

「簡単に解除出来るんですね。一度使った魔法等は、効果が切れるまでなのが当然なんですが」

「ま、まあそこは、俺が勝手に組み合わせたのだから」

「……そうですね。そういう事にしておきましょう。ところでエアーアーマーは聞きますが、これは何をどうしたんですか?」

「風魔法のエアーアーマーに、水属性…というより、氷属性の魔力を少し加えてみたんだ。その結果だよ」

「そうですよね。Aランク冒険者ですもんね。水属性と風属性を合わせた氷属性を、何事もないように使うなんて。あははは……」

 サイネリアは呆れて、地下一階の天井を一点に見つめから笑いする。

「そんな遠くを見ないでくれ」

「へ? どうなるかわからないのに、よくそんな事が思い付きで出来ますね」

「ぅ…試しにやってみたら出来たんだからしょうがないだろ」

「でしたら、火属性の魔力を加えたら、暖かくなるんですか」

「そっちの方が加減を失敗すれば危ないだろ。まあ、やれば出来るかもしれないが。魔法はそれが出来るというイメージが大事だからな」

「確かにそうですね。こうだというハッキリとしたイメージが必要と記憶してます」

 言っている事は同じなのだが、意味は違う事だと二人は気付いていなかった。
 サイネリアの言っているのはイメージは正に思い浮かべるで間違いはなく、カズの言っているはイメージではなく、作り出すクリエイトの方であった。
 お互いそれに気付かずまま話は進んでいく。

「わたしの方でダンジョンマップを修正します。色々と質問しますので、もう少しお時間よろしいですか?」

「そろそろ昼だから手短に」

 カズはサイネリアと共に個室に戻ってきたが、ここで終わりではなかった。

「わかってます。わたしだってお昼休憩を削ってやるんですからね。もっと早く来てくれれば」

「さらっと素材とマップを渡すだけのつもりだったんだけど」

「これだけの事をして、すぐに帰れると思わないでください」

 机の上に広げられたダンジョンマップを指差し、地中の奥部まで気軽に行って来たカズが悪いのだと言わんばかりの口調のまま、ダンジョンマップを見ながら質問を始めた。
 まるで不審者に対しての事情聴取をするかの様に。

 そして何だかんだと一時間は掛かり、ギルド職員の休憩時間も残りちょっとになっていた。
 問い詰められる感じで、マグマナマズから教えてもらった鉱石のある場所まで教える事になり、採掘した一部を渡す事にもなってしまった。
 場所が場所だけに、ダンジョンマップに掲載するかは上司の判断を仰ぐと。
 本当に第六皇女お抱えの冒険者として扱われているのだろうかと、カズは考えたくなった。

「やっと終わった」

「それは言いたいのはこっちです」

「サイネリアの質問が多いからだろ」

「質問させるような事をしてきたのはカズさんなんですからね。それにこれがわたしの仕事なんです。おかげで今日のお昼抜きだわ」

「俺が悪いみたいに……わかった、これやる」

 凹んだお腹を擦るサイネリアの前に、レオラが好んだバレルボアで作ったローストボアの薄切りを挟んだパンを【アイテムボックス】から出した。

「今日の昼飯は、それで済ませてくれ」

「お肉が挟んでありますね。野菜はレタスが二枚と、お肉が五枚でしょうか?」

「開けて中を調べなくても、変な物は使ってない。早く食べなよ」

 何の肉か気になりつつも、確認どうこうより空腹が勝ち一口パクリ。
 思ったよりも柔らかい肉と、パンにその肉汁が染み込み、シャキシャキとレタスがさっぱりとして、サイネリアの食べる手が止まらず、半分を一気に食べた。

「バレルボアですか?」

「そう。レオラ様もお気に入りで、倍以上の肉を挟んだのを食べてたよ」

「色々と失礼態度をとって申し訳ありませんでした」

「別にいいよ(腹が膨れて機嫌が直ったみたいだな。ってか、何で俺が気を使うんだよ)」

「モンスターの素材とこちらの鉱石、それとダンジョンマップに関する情報の報酬は、いつものように貯蓄でよろしいですか?」

「ああ、それで」

 ギルド本部に来てから二時間弱も掛かってしまっていた。
 この後は特に予定もなく、フジの所に〈空間転移魔法ゲート〉で行き、顔を出したら、帝都にいる間はこのままここを住まいとして使えるようになるのと、二日後にキビ村の者達に話すと伝え、カズは川沿いの家に戻った。
 アレナリア、ビワ、レラの三人には、夕食の時間に伝えた。
 レラは返事はするものの、何時ものような元気はなかった。
 カズはここ数日の疲れを癒す為に、翌日はのんびりと休息を取った。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える

昼から山猫
ファンタジー
没落寸前の貴族家に生まれ、親族の遺産争いに嫌気が差して王都から逃げ出した主人公ゼフィル。辿り着いたのは荒地ばかりの辺境領だった。地位も金も名誉も無い状態でなぜか発現した彼のスキルは「農地再生」。痩せた大地を肥沃に蘇らせ、作物を驚くほど成長させる力があった。周囲から集まる貧困民や廃村を引き受けて復興に乗り出し、気づけば辺境が豊作溢れる“黄金郷”へ。王都で彼を見下していた連中も注目せざるを得なくなる。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...