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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

549 レオラとアイリスに仕える騎士の合同訓練 1 野営と魔法主体相手の模擬戦

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 マグマが流れる灼熱の空間から出たとはいえ、暑い地中と豪雪の雪山では温度差が九十度以上、魔法や耐性で身を守ってたとはいえ、通常なら急激な温度変化でヒートショックを起こしてもおかしくはない。
 熱にも寒さにも耐性があるカズは、そんな事が起きることはないが、汗が一気に冷えて服が凍り付き寒い。
 しかも夜明け前ということで、一日通して気温は一番低い時間帯だった。

 防寒着をアイテムボックスから出して着るよりも、フジを念話で呼び寄せるよりも、優先したのは〈ゲート〉で温泉街に移動し、視界に入った開いている温泉施設に飛び込み、料金を支払い身体を洗い流して、温泉に浸かり暖まった。
 幸い時間的に他の客は誰もいなくて、全裸で入っていても問題なかった。
 二十分程浸かり【アイテムボックス】から替えの服を出して着替えたところで、温泉に入るには入浴着を着用しなければならない事を忘れていた。
 当然の事だからなのか、受付に居た店員は何も言わなかったので、カズは全く気付かなかった。
 他の客と鉢合わせにならなくて良かったと思い、温泉施設を出ると、空は明るくなっていた。

 モグラと大きな螻蛄おけらと闘い、採掘して終えて温泉街の客のいない温泉施設で湯に使ってる間に、合同訓練に行く当日の朝を迎えてしまった。
 もうこうなったら色々な温泉に入って行こうかと、カズは現実逃避したくなってきていた。
 だが流石に皇女二人が関係している合同訓練なので、それが出来る訳もなく、温泉街から人気のない場所まで移動しつつフジに《念話》を繋げ、フジに乗って合同訓練が行われる場所へと向かった。
 急ぐのであれば空間転移魔法ゲートを使えば一瞬なのだが、レオラ以外に見られる訳にはいかないため、フジに乗って向かう事にした。
 急に大きな鳥のモンスターが現れては、初見の騎士が騒ぎだすのは目に見えていたので、先に行っているアレナリアに《念話》を繋げる。

「『アレナリア起きてるか? おーい……?』」

 夜が明けてからそれほど時間は経ってなく、アレナリアはまだ寝ているらしい。
 何度か呼び掛けたが返答はない。

「『どうしたのカズ?』」

「ちょっとな。アレナリアに連絡したんだが、まだ寝ているらしいんだ。フジはこの数日何してたんだ? 目的地に着くまで聞かせてくれ(でないと、寝そうだ)」

「『ええとね──』」

 フジは人目に触れぬように高高度で飛び、カズが灼熱と極寒のダンジョンに入ってからの事を楽しそうに話した。

 三十分程して再度アレナリアに《念話》で呼び掛ける。

「『ぅん……カズ?』」

「『朝早くから悪いな。色々あって合同訓練の場所に、フジに乗って向かってる。驚くと悪いから、伝えておいてくれないか』」

「『……そこじゃないの…ウフフ』」

「『おーい、アレナリア聞いてるか?』」

「『優しく…じゃなくてもいいのよ……』」

 寝ぼけていて話が噛み合わない。

「『はあ…頼んだからな(伝わってなければ、もうその時だ)』」

 一応、伝えたからもういいやと、カズは念話を切った。



 レオラに仕える三人の女性騎士と、アイリスに仕える女性騎士(一人を除き)十五人の内、十二人が合同訓練に参加している。
 訓練場所はアイリスの屋敷がある池に流れる川の少し上流付近。
 周囲に建物はなく、第五皇女アイリスの私有地なので問題はない。(アイリスの屋敷から徒歩で五十分程度)
 レオラに仕える騎士のアスター、グラジオラス、ガザニアの三人が別々になり、アイリスに仕える騎士十二人が四人ずつ三班に分かれて野営の準備をする所から始まっていた。(アスター、グラジオラス、ガザニアは、この三班にそれぞれ分かれて入っている)
 今回、合同訓練に参加していないアイリスに仕える騎士三人は、以前アイリスが気球に使うバスケットを使い、フジに乗り飛んだ時に居た三人。
 自分達が勝てない格上のモンスターを見たので、おごりしないだろうというのが、今回合同訓練から外された理由。
 カミーリアも居たが、少なからずモンスターとの戦闘経験(カズと一緒に、源流の森に行った時)があるので、他の騎士達が訓練するのに参考になればと外すことはしなかった。

 初日は皇女の護衛騎士ならほぼやる事のない野外での活動。
 寝泊まりするテントを建てて、現地で食料を調達して調理し、夜間の見張りなど冒険者がするような事。
 男の騎士達なら帝都各地に行く事もあるので、こういった訓練はしているが、女性騎士達は皇女や有力貴族の護衛が主なため、こういった野外での活動訓練はない。
 そこで今回レオラがやらせたのである。

 レオラに仕える騎士の三人は、他の女性騎士と違い、レオラに付いて出掛ける事も多々あるので、経験している者としてそれぞれの班に分けられた。
 レオラの予想通り半数の騎士が、野営の準備に手間取っていた。
 食料は場所的に魚くらいしか調達出来ないので、今回は野菜や肉などを持ち込んだ。
 今回の訓練は滅多に身に付けない金属製の装備をしたまま全ての作業をして、初日は基礎として走り込みや剣の素振りで終了し、夜間は二時間交代で見張りの訓練。
 レオラが指導する訓練にしては、とてもとても優しかった。


 二日目の午前中は班内で模擬戦をして、参加したアレナリアとレオラがそれぞれの騎士を見て回り、午後から指南役としてアレナリアが戦闘訓練をする。
 無手や剣を使った訓練はレオラが、魔法やモンスターに対しての戦闘はアレナリアが担当した。
 一通り戦闘訓練をしたところでアレナリア一人に対して、騎士二人が木剣を使用して模擬戦をした。
 接近さえすれば騎士二人に勝ち目はある組み合わせをしたが、各種魔法で接近を許さず、終始アレナリアのペースで模擬戦は進んだ。

 レベル的にはアレナリアの方が少し上だろうが、訓練しかしてこなかった騎士と、実戦経験を多く積んでいるアレナリアの差は大きかった。
 一対二でもアレナリアは余裕で騎士二人を捌き、寄せ付けずに勝った。
 人数的に一組だけ三人になったが、全てアイリスに仕える騎士だったので、手数は増えたが問題なく対処した。
 唯一アレナリアに接近を許し、良い戦いをしたのは、アスターとガザニアの二人組と、カミーリアとグラジオラスの二人組だけだった。
 三人はレオラに仕える騎士だけの事はあり、カミーリアはカズと共にアルラウネの討伐に関わり、カズから一度とはいえ戦い方を教わっていただけの事はあった、のだろう。

 バイアステッチ以降実戦から離れていたアレナリアだったが、少し動いただけで勘を取り戻していた。
 最初に相手をしてのが、アイリスの騎士だったのが良かったのかも知れない。
 アスターとガザニアの二人だったら、木剣を受けていた可能性は高かった。
 何せ動き始めは、身体が少し重く感じていたからだ。
 食っちゃ寝のレラの護衛として、家から出る事も少なかったのが運動不足の原因。
 あとはビワの美味しい食事と、レオラとちょくちょく酒を酌み交わしていたのが大きな要因だろう。
 お陰で何度がヒヤリとした瞬間もあったが、そこは平静を保って気付かれないようにした。
 ただレオラだけは気付かれ、二日目の訓練終了後に突っ込まれた。

 騎士達はテントで寝泊まりしているが、レオラはアイリスの屋敷戻り宿泊している。
 アレナリアも指南役として来ているので、アイリスの屋敷で客人として泊まっている。
 カズがいない間は、レラを護衛する役目があるので、今回は連れて来ている。
 アイリスもレラがフェアリーなのは承知しているので、連れて来る事は許されている。
 ビワはレオラの屋敷でカーディナリスの手伝い、メイドとしての仕事があるので来てはない。


 三日目の早朝、カズからアレナリアの元に念話連絡が来るも一度目は起きず、二度目は寝惚けて夢とごっちゃになっていた。
 アレナリアが用意された朝食を食べ始める頃に、レオラはアイリスの屋敷を出て合同訓練場所に向かった。
 最終日はアイリスが合同訓練を見学するので、参加しなかった三人の騎士にもその時に模擬戦をさせる事になっていた。
 三人の騎士にもその事は伝えられており、護衛としてアレナリアが合同訓練場所まで一緒に来る事になってる。

 合同訓練に参加している十五人の騎士は、各班が作った朝食を済ませると、決められた集合場所に整列して指導役のレオラが来るのを待つ。
 金属製の装備を身に付けて整列し、いつ来るか分からないレオラを待つ事一時間半が経過。
 これはいかなる時でも、長時間待機をする事もあるので、一時間や二時間程度は、当然のように乱れのない整列をして待つ、という訓練が含まれている。
 しかも今回は、慣れなく重い金属製の装備を身に付けた状態で。
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