上 下
547 / 788
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

529 二つの驚き、成長速度 と 終えた採取依頼

しおりを挟む
 大峡谷から東に道無き荒野を移動し、日が暮れる前に〈ストーンウォール〉を使い強風を防ぐための四方を囲む石壁を作る。
 焚き火をして自分とフジの夕食を用意して、食べながら話をした。

 先ずフジが母親のマイヒメから離れて、カズを探しに来たのは、マイヒメがフジがひとりでも生きていけるよう鍛る為だと。
 マイヒメとフジの親子と会わなくなって二年くらいは経つだろう? 70センチ程とカズの腰くらいだったのが、今では倒したワイバーンとほぼ同じくらの大きさになっていた。
 翼を最大まで広げると、肉付きのいいワイバーンよりも大きく見える。
 やはりフジもモンスター、短期間で成熟した大きさまで成長するのが早いのだろうとカズは考え、この時脳裏には産まれたばかりの馬や牛が、その日の内に立ち上り歩く姿が浮かんでいた。

 フジが念話を使って話しているということは、カズがスキルを付与し、テイムモンスターの証明である、オリーブ王国の王都冒険者第2ギルド登録のバードリングを装備しているからだ。
 しかしフジの脚にはバードリングは無い。
 例えあったとしても、バードリングに大きさを自動で調整する機能はなかった。
 なのでバードリングが脚に食い込むか、強度を越えて壊れるのどちらかの筈だと、カズはフジに問い掛けた。
  するとフジがくちばしで柔らかい羽毛の中から、そのバードリングを取り出した。

 バードリングには紐が通され、それはフジの首にかけてあった。
 なんでもキツくなって脚から抜けなくなり壊れる前に、白真に言われて王都の冒険者第2ギルドマスターの、フローラ・クラルス・ナトゥーラの所に行き、このようにしてもらったのだと。
 脚の大きさに合わせて新しくする提案もあったらしいのだが、カズが作り付けてくれた物のままでいいと、フジが言ったらしい。
 フジと話が出来てるのは、バードリングに付与された念話によるものなのだから、新しくしては話ができなくなるとフローラはすぐに気付き、今のように頑丈な紐を通して、フジから離さないようにしてくれたのだと。
 フジも飛ぶ際は、羽毛の下に紐とバードリングを潜らせて、落とさないように注意しているのだと言う。

「大きさを調整して脚に付けるか? それとも、そのままにするか?」

「『落としたら困るから、前みたいに脚に付いてる方がいい』」

「わかった」

 カズはフジのバードリングを受け取り《錬金術》と《加工》のスキルを使い、大きくして形状を変えて、一部に伸縮性のある革を加えた。

「今度のは革の部分が伸びるから、すぐに使えなくなって事はないだろ。それと、今居るこの帝国のギルドに、フジを登録する必要があると思うんだ。でないと、討伐対象にされてしまうかも知れない」

「『バードリングこれ付けてるのに?』」

バードリングそれは王国で登録した時のだ。問題が起こってからでは遅いから、ギルドに話してみるつもりだ」

「『別にいいよ。お母さんに言われた通り、あるじに会えたから』」

「その主っていうの、やっぱり慣れないな。俺を呼ぶ時は名前にしてくれ。マイヒメもそう呼んでたろ」

「『カズ? わかった。カズ』」

 ビワの手料理が食べたくて、早々と帝都中央に戻ろうと思っていたが、思いがけないフジとの再会から、この日はフジと一緒に野宿する事になった。
 テイムしているフジに乗って、移動したとサイネリアへの言い訳が出来たので、丁度良いタイミングの再会だったと、カズは思った。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝ストーンウォールで作った風避けの壁を《解除》し、フジの背にうつ伏せで乗り、地上から肉眼では認識出来ないくらいの高度まで上昇して、帝都中央へと向かい飛行する。
 見覚えのある裁縫と刺繍街バイアステッチを、アッという間に通過して、眼下の先には魔導列車最西端の駅があるクラフトの街が、すぐそこに見えていた。
 このまま飛び続けると、昼前には帝都中央に着く速度だ。

「そんなに速く飛ばなくてもいいんだぞ。フジ」

「『そんなに速く飛んでないよ』」

「だったらもうちょっとゆっくり飛んでくれ(これで速く飛んでるつもりはないのか)」

「『わかった』」

 フジが速度を落とし、カズに指示された眼下に見える魔導列車の線路細い線を目印に飛行すること三時間、帝都の中央駅セントラル・ステーションが見えた。

「急に帝都にフジが姿を現したら大変だから、人気のない場所で待っててくれ。悪いが呼ぶのは日が暮れてからになる」

「『暗くなったら、この辺りまで来ればいい?』」

「そうしてくれ。念話で呼ぶから」

「『わかった。カズをどこに降ろせばいいの』」

「俺はここで降りるから大丈夫だ」

 フジの背から飛び降りて、飛翔魔法の〈フライ〉を使用する。
 帝都中央の冒険者ギルド本部目指して降下していくと、帝都上空の一部の景色が歪んでいるように見えた。
 が、今は気に留めずに、冒険者ギルド本部近くの、人気のない路地裏にゆっくりと着地する。
 誰にも見られてない、という確信はないので、誰かがこの路地裏に来る前に、急ぎギルド本部へと入るカズ。

 ギルドに入って来たカズに気が付いた受付の女性職員が、書類に目を通しているサイネリアの肩を叩き、ギルドの出入口の方を指差す。

「えッ!」

 現在資源の潤沢ダンジョンに向かっている、もしくは早ければ到着している筈のカズ人物がそこに居り、次の瞬間二人の視線が合わさる。
 目を見開いたサイネリアは早足で受付から出ると、カズの鼻先に立てた左手の人差し指一本を突き付ける。

「なんでこんな所にいるんですかッ!」

 ギルド内で大きな声を出さないように、サイネリアは体が密着するくらいまでカズに近付いた。
 声を押さえながらもその言葉からは、焦りと怒りが感じと取れた。
 それは当然の事だ。
 無理に頼んだとはいえ、国からの大事な採取依頼を受けた本人が、何故かここ帝都中央の冒険者ギルド本部に居るのだから。
 あまりの出来事からか、サイネリアは自分の胸をカズに強く押し当てているのに気付いてない。
 声を押さえているサイネリアの話が聞こえるほどギルド内は静かというわけではないが、明らかに様子のおかしいサイネリア女性職員を、そこに居る半数の者が見ていた。

「なんでと言われても、頼まれ…」

「そうです! 時間の限られた大事依頼を頼んだんですよッ! なんでまだ出発してないのよッ! 今からでも急いで行きなさいッ!」

 カズの言葉を遮って、サイネリアの口調は荒くなり、無理だとしても力ずくでギルドの外に出そうと、顔をカズの胸に埋めながら全身で押す。
 サイネリアが全力で押しても、カズはびくともしない。
 ただサイネリアの足が後ろに滑るだけ。
 抱き付く形でカズを押すサイネリアの胸は更に変形し、服が乱れて少しだけ開いた服の正面上部(胸元)から、胸の谷間がカズには見えていた。
 ただしサイネリアの埋まる顔があるので、見えるのは顔を動かした時に本の一部だけ。
 下着と衣服があれど、胸の柔らかい感触はハッキリと伝わってきていた。

「早く行きなさいよッ!」

「あの、だから終わって戻って来たんです」

「早く行き……はひ?」

 カズの言った事が理解できず、サイネリアは押す力を抜いて、埋めた顔を上げてカズを見る。
 お互いに顔を見合う今の状況をはたから見ると、長年会っていなかった恋人と再会したかのよう。

「すみませんが、とりあえず離れてもらえませんか。その、胸が当たって……」

 カズは自分が悪くはないと思ってはいるが、胸の感触を味わい谷間をガン見してしまった罪悪感から、つい丁寧な口調で話してしまう。
 我に返ったサイネリアは、今の自分が何をしているのか気付き、顔を赤くしてサッとカズから離れ、乱れた衣服を整える。

「し、失礼しました。それで、なんでしたっけ?」

「頼まれた素材採取が終わったので、その報告を」

「そうですか。終わられたんですか。……はい? 終わ…え、えェェェ!!」

 突然の大声がギルド一階に響き渡り、その場に居た全員が二人に目を向けた。
 このままここで注目を浴び続けるのはごめんだと、カズは面食らっているサイネリアを背中を押して、そそくさと逃げる様にして、何時も使う小部屋へと階段を上がり向かった。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...