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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

510 池の畔の屋敷

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 グリズとミゼットから皇族に関する情報を聞かされ、やはりこれはレオラより、カーディナリスに聞いた方が良いと、カズは確信した。

「何を言う。話してるだろ」

「大抵が、寸前か終わった後でじゃないか」

 カズはグラトニィ・ターマイトの討伐と、半虫半人の村でガザニアに会った時の事を言う。

「男が細かい事を気にするな」

「諦めろカズ」

「そう。レオラに言っても無駄」

「それはないだろ、ミイ」

「本当の事。レオラから来た話は要注意。確認必須だから覚えとくこと。わかったカズ」

「忠告はありがたいが、出来ればもっと早く知りたかった」

「過ぎた事は仕方ない。次からは気を付けなさい」

「了解」

 昼食を終えると、レオラは一緒に来たカーディナリスとアスターを連れて、自分の屋敷に戻って行く。
 グリズとミゼットは冒険者ギルド本部に寄り、その後レオラの屋敷に行く言っていた。
 皆が出て行った後で、第五皇女とコンルに会える事になったと三人に伝えた。
 そこでビワとアレナリアには、第五皇女に会うための服装やら諸々を、カーディナリスに聞いてくるようにカズは頼んだ。
 昼食時のグリズやミゼットとのやり取りを聞かせ、レオラの話だけだけでは不安だからと言って。
 理由を聞いたビワとアレナリアは、二つ返事で承諾した。


 《 五日後 》


 カズが裁縫と刺繍の街バイアステッチに、ミゼットとグリズを迎えに行ってから五日経ち、レオラから呼び出しを受けたカズは、アレナリアとレラを連れてレオラの屋敷に来ていた。
 用件はメロー・ヴィジ・マ・アイリス第五皇女との謁見の事で。
 レオラの執務室の中二階にはレオラとカーディナリスだけで、護衛のアスターとグラジオラスは部屋の一階に待機している。

「日時は二日後の正午前、場所は姉上の屋敷だ。朝ビワを送りながら一緒に来ればいい」

「それで正装は?」

「薄汚れてなければ、普段着で構わない。ただし武器等は屋敷に入る前に、預けることだ。カズは装備してないから、その必要はないか」

「本当に普段着で良いんですか? カーディナリスさん」

「アイリス姫様が許可していますので大丈夫ですよ。あちらにも騎士が居りますので、常に監視されると思いますが、それは承諾してください」

「それはもちろんですが、ただの一冒険者が皇女様にお目通りするので、失礼のないようにしたいのですが」

「カズはただの冒険者じゃないだろ。ギルドではアタシ専属ということになってるんだ。それに自分で言うのもなんだが、アタシも皇女なんだぞ」

「レオラ様の場合は、帝国の守護者でもあり、皇女様と思えぬ行動力がありますので、どちらかと言えば身近な冒険者に思えて」

「否定はせん。アタシ自身もそう思ってる。だが、今一度言うが、アタシも一応皇女なんだぞ」

「アイリス姫様のような皇女様に見られたければ、もっとおしとやかにされてはどうかと、ばあは愚考ぐこう致します。姫様」

「アタシは姉上のような淑女ではない。それは、ばあもわかっているだろ」

「それは姫様自身が、そう決め付けているからです。ドレスをお召しになり皇女様らしい言葉遣いをして、帝国民の前にその御姿を御見せになれば、誰もが素晴らしい淑女だと……なんですか、その顔は」

 カーディナリスの話を聞き、レオラはあからさまに嫌そうな顔をする。

「ドレスを着て男とダンスを踊るより、強力なモンスターと命の駆け引きをしている方が性に合ってる」

「はぁ……」

 今度はカーディナリスは深い溜め息をつき、やれやれと困った表情を浮かべた。
 毎度お馴染みのやり取りなのか、レオラとカーディナリスの押し問答が続きそうなので、カズ達は一言挨拶をして中二階から一階に下り、後をアスターとグラジオラスに任せて屋敷を出た。



 《 二日後の朝 》


 朝食を済ませて、四人揃ってレオラの屋敷に着くと、ビワはメイド仕事着に着替えて、カーディナリスや屋敷で働く数人の使用人と共に、馬車に乗って出発する第六皇女レオラの見送りをする。
 カズとアレナリアとレラは別の馬車が用意され、レオラが乗る馬車の後を追い掛ける。
 二台の馬車に分かれるのは、今回レオラは皇女とし使用する馬車に乗っているからである。
 表向きは第六皇女レオラが、第五アイリスとの会談になっており、カズ達の謁見は公式の場としてではないので、別々の馬車で向かう事になった。

 馬車に揺られて約二時間、川からきれいな水が流れ込む、周囲300メートル程の小さな池のほとりに建つ屋敷にレオラ第六皇女の馬車が入り表口に停まる。
 昔もっと大きい湖だったことから、今でも池の周囲を湖畔と呼ぶ者もいる。
 レオラは護衛のアスターとグラジオラスと共に正面から屋敷に入り、主であるメロー・ヴィジ・マ・アイリス第五皇女と会談に入る。

 カズ達が乗る馬車は裏口に回って停まると、屋敷の使用人二人と女性騎士が二人迎えた。
 背の高い女性騎士がカズの身体検査して、武器等を持っていないか調べ、もう一人の女性騎士がアレナリアとレラを身体検査した。
 アレナリアはレオラの屋敷に行った時と同様に、杖を女性騎士に預ける。
 三人は二階の一室に案内され、皇女二人の会談が終わるのを池を見て静かに待つ。
 二十分もするとレラが部屋の物色を始め、カズに注意されても止めようとせず、それが飽きると今度は屋敷を探索しようとして部屋の扉をそっと開ける。
 だが部屋の外には案内してきた女性騎士が待機していたのを見ると、そっと扉を閉めて屋敷の探索を諦めた。

 第五皇女の屋敷に来てから一時間半が経過し、ようやく謁見出来ると呼ばれ、部屋の外で待機していた二人の女性騎士に案内されて部屋を移動する。
 部屋から入室の許可を得て、二人の女性騎士と共に部屋に入る。

「待たせた三人とも」

「いえ、大丈夫です」

 緊張する三人に向けての第一声は、一緒に来たレオラからだった。

「ようこそ御出くださいました。どうぞ御座り下さい」

「少し話し込んで、呼ぶのが遅れた。三人は、そこに座るといい」

 部屋には円形のテーブルと、それを囲んで椅子が八脚ある。
 椅子と椅子との距離があることから、椅子の数はもっと増やせそうで、会議として使われる部屋だと思われた。
 レオラの右隣に座る第五皇女の位置が上座と考え、アレナリアと共に第五皇女から一番離れた椅子に着席した。

「この度は願いを聞き入れていただき、誠にありがとうございます。アイリス皇女様の御好意に、深く感謝状申し上げます」

「レオラちゃん専属と聞いてましたので、粗野な方かと思ってました」

「アタシがそんな奴を専属にすると、姉上は思ってるのか?」

「騎士のガザニアさんが使用人なったと聞きましたよ。あの方は男性に対して…は違いますね、レオラちゃんに親しくする方には粗野ではありませんでしたか?」

「痛いところを突く。アタシから距離を取らせて、ばあに任せている」

「カーディナリスさんもレオラちゃんだけじゃなくて、今度はガザニアさんまで。苦労してますわね」

「それは公務を姉上に任せてるアタシに、毒を吐いているのか?」

「さあ、どうでしょう」

 アイリスはニコッと隣に座るレオラに笑いかけて誤魔化す。
 カズの精一杯の挨拶は何処へやら、レオラとアイリス義姉妹のお喋りが終わるのを、じっと待つ。

「あら、これは失礼しました。公式の場ではないので、格式張った言葉は必要ありませんわよ。わたくしのことは気軽に、アイリスと呼んでください」

 流石にそれを真に受けて、敬語抜きで話すのは失礼過ぎると、カズとアレナリアは言葉遣いに気を付けることに。

「だってさカズ。アイりんがいいって。あ、アイりんてのは、アイリス様のことね」

「おいッ!」

 ただしレラは真に受けて、いきなり名前を略した挙げ句に、りんを付けで親しげに呼んだ。
 カズはその不敬な態度にギョっとして、レラの顔を即座に手で被う。

「どんな同族かと思えば、なんて失礼なのかしら」

 何処からか声が聞こえると、その声を発した本人がアイリス第五皇女の背後から姿を現す。
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