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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

509 謁見の知らせ

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 何度かゲート転移魔法を繰り返し、ウエスト・ファームで最初の休憩を一時間程取り、二度目はジャンジとシロナの店があるブルーソルトの街で。
 ウエスト・ファームでの休憩中にグリズが「転移魔法が使えることを教えても大丈夫だったのか」と、カズに聞いてきた。
 カズがレオラから言われて迎えに来た事を考え、ミゼットは何となく察しはついた。

「先日転移魔法ゲートを使えるのを知られてしまって、今回も半ば強引に二人の迎えを頼まれたんですよ」

 カズが話した理由は、ミゼットの予想通りの答えだった。

「次でレオラの、様の待つ場所に着きます」

「わい達の前なら無理して姫さんを『様』付けして呼ばんでもいい」

「レオラのことだから、呼び捨でいいと言われるんでしょ。従者の前でもって」

「ええ」

「無理せんでも、気楽に話せばいい。わいのことはグリズで構わんで」

「あたしのことはミイと呼んで。親しい人にはそう呼ばれてる。ミゼットって名前、あまり好きではないの」

「わかった、そうさせてもらうよ。どうも位の高い相手との人付き合いは慣れなくて、問題が起きるぐらいなら、へたなりに敬語で話そうとしてるんだが、どうも」

「あんな性格してるから大変だろ。まあ公の場だけ気を付けるようにすれば、何か言われても姫さんがなんとかするだろ」

「レオラが? 本当に? 絶対?」

「そこまで言われると……」

 完全には肯定出来ず、グリズは口ごもった。

「とりあえず初見の相手には、今まで通りに話すようにする。そろそろ時間になるから行こう〈ゲート〉」

 現在カズ達が住んでいる川沿いの家に転移先を合わせ、三人は一瞬で100キロ以上の距離を移動した。

 バイアステッチから三時間程掛けて移動してきた三人は、話し声が聞こえるリビングに入っていく。
 リビングにはこの家に住むアレナリアとレラの他に、レオラと騎士のアスターが居た。
 珍しくカーディナリスが来ており、ビワとキッチンで昼食の用意をしていた。
 
「来たか、待ってたぞ」

「姫さんは相変わらず公務をサボってるのか?」

「会って最初の言葉がそれか。最近は真面目にやってる。そっちこそ、ギルドの仕事をサブ・ギルドマスターダッチに任せっきりじゃないのか」

 レオラに痛いところを突かれ、グリズは藪蛇やぶへびだっと後悔する。

「あたしとグリズには、ここは少し狭い。会うならレオラの屋敷でよかったろ」

「守護者の称号持ちが同時に二人も来たら、おかしく思う者もいるだろ。年に一度の顔合わせより、半月は早いんだ」

「だったらなんで早く来るようにと迎えをよこした?」

「ゆっくり話したいと思っただけだ。前回二人は仕事があると、すぐに帝都を出て自分のギルドに戻ったろ」

「そんなことでか」

「レオラらしい」

「今回はがあるから構わんだろ」

 レオラの視線がカズに向き、二人も同じくカズを見た。
 部屋には騎士のアスターが居たので、何も言わずミゼットは三人掛けのソファーに一人で座り、グリズは床にどすりと腰を下ろした。

「昼食にバレルボアの肉を用意した。二人の為に残り少ない肉を出すんだ。味わって食べろよ」

 バレルボアの肉と聞き、グリズとミゼットの表情は少し和らいた。

「自分のみたいに言うけど、あれはカズが持ってた、あちし達の肉じゃん」

「まあまあそう言うなレラ。言い知らせを持ってきてやったんだ」

 グリズとミゼットの為に用意したバレルボアの肉は、カズがアイテムボックスに入れておいた物。
 今回の事で残りが1キロ程になってしまっていた。

「しっかりお礼をしませんといけませんよ。貴重な食材を使わせてもらったんです。それとも姫様だけは、お野菜中心の昼食にしますか?」

「ちゃんとバレルボアの肉の礼はする。だからアタシだけ肉抜きにはしないでくれ。ばあ」

「やはり姫さんには、カーディナリスさんに付いててもらった方がいい」

「それはあたしも同感だね。レオラ一人だと、すぐ突っ走って行く」

 本当の事だからと思いつつも、ミゼットとグリズはスッとレオラから顔を反らした。
 聞いていたカズとアレナリアもその意見に同意したが、口には出さず、若干顔に出した。

「お前達、集まって早々に結託したのか!」

「食事前に声が大きいですよ、姫様」

「しかしだな、ばあ」

「聞いていました。私しが姫様に甘くしたのが原因と考えております。皆様にはご迷惑をお掛けして申し訳なく」

「いやいや、カーディナリスさんが謝罪することでは」

「そうそう、単なる冗談なの」

 運んできた料理をテーブルに置き、深々と頭を下げるカーディナリスを見て、グリズとミゼットはギョっとした。
 流石に悪いことを言ってしまったと焦り、二人は弁解する。
 カズとアレナリアは、カーディナリスの雰囲気を感じ取り、黙って二人の様子を見る。

「では今後とも、姫様をよろしくお願い致します」

「お、おぅ……」

「え、えぇ……」

「聞いた通り姫様は勝手が過ぎるんです。ばあの言ったことを、覚えておいてください」

「う、うむ……」

 帝国の守護者の称号を持つ三人は、引退していてもおかしくない年齢のカーディナリス使用人にたじたじ。

「さあさあ、料理が出来ましたので昼食にします。人数が多いので、キッチンあちらリビングこちらで分かれてもらいます」

「ならばアタシはカズに話があるから、このままリビングここにする。ミイとグリズもここで良いな」

「ああ。わいらの体格でキッチンは狭いだろ」

「では、四人分…では足りませんね。八人分ほどをこちらに運びます。まだお昼ですので、その後ろに隠してるお酒は駄目ですよ、姫様」

「な、なんのことだ?」

「ばあの目は節穴では御座いません。それをこちらに貰いましょうか」

 前回来た時に置いていったリンゴ酒を、三階の部屋からコソっと持って来ており、バレルボアの肉を摘まみで飲もうと腹積もっていたレオラだったが、カーディナリスにバレてしまい、隠していたリンゴ酒を取り上げられた。

「口の中にあるこの旨い肉汁を、リンゴ酒で流し込みたかった」

 バレルボアの肉を一切れ口に入れ、別でもう一本リンゴ酒を隠して置けばと、レオラ悔やんでいた。

「この姿を見ると、本当に皇女が疑わしくなる」

「わいもそれには同感だ」

「この食いっぷりを見ると、ダンジョン帰りの冒険者にしか見えないね。あたしには」

「言われなくても、このアタシが一番わかってる」

「食べるのもいいが、話があるんだろ」

「そうそう。数日中には姉上と会わせる事が出来るぞ。ラプフと同郷のフェアリーにも」

 レラの故郷探しの手掛かりになるかと、コンルという名の妖精族フェアリーをレオラに紹介してもらう筈だったのが、そのコンルは現在第五皇女の元に居り、後ろ盾として帝都での行動を手助けしていた。
 カズはコンルと会って話を聞く為に、レオラから第五皇女に話を付けてもらっていた。

「長かったな。頼んだ事すら忘れるとこだった」

「姉上はアタシと違って公務で多忙だ。急がせたくはなかったからね。時間に余裕がある時にと伝えておいた」

「それで三ヶ月近くも掛かったのか」

「詳しい日時は決まり次第知らせる。公式の場ではないから、いつもの格好で構わないぞ」

 レオラの言葉を信用して、正装なしで第五皇女に会ってしまうより、先にカーディナリスに聞いておいた方が、カズは無難だと考えた。
 レオラの前では流石に聞きづらいので、レオラが居ない所で聞くか、その機会がなさそうなら、アレナリアかビワに頼もうと思った。

「レオラの姉だと身体能力が高そうだな。性格も似てるのか?」

「アタシと姉上は血縁ではない。種族もまったく違う」

「帝国は世襲じゃないのか?」

「カズはまだ帝国に来て日が浅いから知らなくて当然か。帝国が世襲だったのは、かなり前の事だ。だから皇族でも種族は様々居るぞ」

「第五皇女の名前は『メロー・ヴィジ・マ・アイリス』どんな用件で会うか知らないけど、名前くらいは覚えておくのね」

「二人が居てよかった。レオラだけだったら、こちらが聞かなければ、話してくれなかったろからな」
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