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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

485 裸の付き合い

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 馬車に乗るのこと約二十分、話の途中で目的の場所の近くに着いた。
 馬車を降りて一本路地を入り、同じ様な造りをしている三階建ての一つに入る。
 内部はほこりが積もり、外から風が入るとほこりが舞い上がる。
 窓はカーテンが閉められ、光も殆ど入らず暗い。
 レオラは裏口の扉を開けて、小さな庭に出ると息を大きく吐いて吸う。
 アレナリアも続いて裏口から出て、同じく深呼吸をした。
 一階のリビングのカーテンを開けて窓を開き、換気をしたカーディナリスも小さな庭に出てきた。
 その顔にはスカーフを使って、口と鼻を覆っていた。
 建物に入った時にはしていなかったはずなのに。

「お二人もこのようにすれば、よろしいですよ」

「さすがは、ばあだ」

「掃除もそうですが、お庭の草もなんとかしませんと、レンガ張りの地面が見窄みすぼらしく見えてしまいますね。手すりも直しませんと、折れて川に落ちては大変です」

 庭のレンガが所々雑草で浮かび上がり、すぐ裏を流れる広い川との境界には、赤茶色に錆びた柵があった。

「四人で掃除と修理は出来そうか?」

「掃除くらいは出来るわ。修理はカズがいるから、たぶん大丈夫」

「なら勝手を知ってる、ばあを手伝いに来させよう」

「それはありがたいけど、遠慮しておくわ。カーディナリスさんは、うんとは言わないから」

 レオラがカーディナリスを見ると頷いていた。

「アレナリアさんの言う通りです。ばあが留守にすると言うことは、無断で外出した姫様逃げ出した飼い犬を探す手間が増えるというこ事でです」

「ぷッ、アハハハはッ。帝国の皇女と言っても、ばあに掛かっては、逃げたした飼い犬か。敵わないな、ばあには」

 飼い犬呼ばわりされても、レオラは怒るどころか、大口を開けて笑った。

「息抜きしたいのであれば、出来る仕事は前倒しで終わらせればいいと思いますよ。レオラ様」

「少しは真面目にやるか。そうすれば、ここにも息抜きに来れる」

「来る気なの!」

 アレナリアは嫌そうな顔をする。

「いいだろ。使ってないとはいえ、アタシの家だ。そうだろ、ばあ」

「はい。確かに聞きました。姫様が真面目に仕事をすると」

「そっちは聞き流してくれ」

「そちらの方が肝心です」

 カーディナリスは冗談を交えながらも、レオラが他の皇族から、立場を考えろと注意されないように、皇女として最低限の公務はさせようと、レオラの事を第一に考えての行動と発言。

「アレナリアに場所も教えたことだ。ギルドに戻るとしよう。馬車を返さないとならん」

「話題を変えましたね」

「ぅ……そう! 夕食はアレナリアも居ることだ。堅苦しくないよう、アタシとばあの三人だけで頼むぞ」

「承知しました。先程の言葉を忘れないように、明日からはに、御公務に取り掛かってください」

「う…うむ。努力しよう(このまま仕事を増やされてはたまらない。なんとかしなければ)」

 自分で言っておきながら、レオラは不真面目な事を考えていた。

「私、夕食は一人で」

「遠慮するな。ガザニア達は同席しない。居るのは、ばあだけだ」

 それならまあいいかと、アレナリアはレオラからの夕食の誘いに受ける。

「では、換気をした窓を閉めて、外で御待ちします」

 カーディナリスは再度口と鼻をスカーフで覆い、リビングに戻り窓とカーテンを閉める。

「ばあがいるだけなら、敬称は付けんでもいいぞ」

「レオラ様が一人ならそうするわ。少しは慣れておかないと。切り替えるの面倒なのよね」

 今回の外出はレオラの息抜きになったようで、衣服はほこりまみれだというのに、楽しそうに笑顔を見せていた。
 レオラの旧宅を出ると体を叩いてほこりを落とし、通りに待たせている借りた馬車に乗り冒険者ギルドに戻る。
 戻る時間を言っていたので、馬車が冒険者ギルドに着くと、サイネリアが迎えに出てきた。
 レオラは馬車を借りた礼を言い、さんぽがてら少し遠回りをして屋敷に戻った。
 守護騎士三人は真面目に中庭で、まだ剣の修練をしていた。
 外出して機嫌の良くなったレオラは、夕食が出来るまで守護騎士に稽古をつける。
 今の実力が知りたいと、訓練用の刃を潰した剣ではなく、自身がたずさえる真剣を使わせた。
 当然守護騎士三人は拒否したが、レオラは主として命令した。
 約二時間の修練後に、レオラの稽古はキツく、終わる頃には三人共へとへとになっていた。
 三人掛りで相手をしても、レオラの息を乱す事すら出来ない。
 万全だったとしても、大して変わらないだろう。

「ガザニアは体力不足だ。へばるのが早い」

「申し訳、ありません」

「アスターは攻撃に変化をもたせろ。剣が真っ直ぐ過ぎる。それでは、どこを狙ってくるか言っているようなものだ」

「はい……」

「グラジオラスは素振りをして、その長剣をもっと扱えるようになることだ。合ってないようなら、剣を新調するしかないぞ」

「これはレオラ様がくださった大切な剣です。必ず使いこなせるようになります」

 レオラは的確に守護騎士三人の短所を言い、改善するように求めた。

「三人共、毎日修練に励め。今日は三人で食事を取り、互いの意見を聞くと良い」

 かたわらで見ていたアレナリアの所に、カーディナリスが来たのに気付いたレオラは、稽古を終わらせ解散させた。
 先に汗を流して汚れた衣服を着替えるようにカーディナリスに言われ、レオラはアレナリアを連れて風呂に移動した。
 ステータス的にアレナリアよりレオラの方が強いのは確かだが、知り合ってから間もない相手を、見張りも付けずに風呂に入ろうと、まともな皇族なら誘う訳がない。
 聞いていたカーディナリスも止めるべきなのだか、アレナリアを半日見て、大丈夫だと思ったから止めなかった。

 そもそも本気のレオラと戦える存在など、同じ帝国の守護者の称号を持つ者だけ。
 アレナリアが不意を突いたとしても、致命傷を負わすのも難しい。
 それほどの差があるからこそ、カーディナリスも守護騎士三人も、戦闘面でレオラの心配をする事は殆どない。
 それでも皇族なのだから、仕える守護騎士と使用人は必要不可欠。
 ただレオラの性格上、多くの使用人に囲まれて、着替えなど周りの事を全て使用人にされるのは性に合わず、屋敷で働く者と守護騎士は最低限に減らしていた。
 屋敷に使用人が少ない理由は、それでだと。
 広い風呂に入りながら、アレナリアの疑問にレオラは答えていた。

「なんでお風呂に入りながら、お前は弱いって言われなければならないの。言っておくけど、杖を持ってなくても、そこそこ威力のある攻撃魔法を放てるのよ」

「試しにやってみるか? 放つ前に、その腕をへし折るのは簡単だぞ」

「やめておくわ。面倒事になったら、カズに怒られるから……あ! また連絡するの……」

「通信用のアイテムでも持ってるのか?」

「え…ええ、そんなとこ」

「ほう……まあいい。連絡は至高の紅花亭宿に戻ってからでいいだろ」

「そうするわ。それより、そろそろ出ない?」

 肩まで湯に浸かるレオラを見て、呆れたように言うアレナリア。

「もう少し」

 最初はアレナリアも肩まで湯に浸かっていたが、すぐに半身だけになり、今はへりに座って膝から下だけを浸けて、のぼせないようにしている。
 そしてその視線の先は、丸いぷかぷかと浮かぶレオラの二つの胸。

「ふぅ……風呂は良い。汚れや疲れだけでなく、心も洗い流してくれる。嫌な事があった日でも、風呂に入って湯に浸かれば気持ち安らぐ」

「こんなにお風呂好きなの、カズ以外ではビワくらいかしら。一人で入ってると結構長いのよね」

「男で風呂好きとは珍しい」

「帝都では?」

「男女問わず入る者は少ないな。そもそも湯に浸かれるだけの広い風呂があるのは、金のある者達だけだ。大抵はシャワーで済ませるだけだろう」

「やっぱり帝国でも、お風呂は贅沢だとなのね」

「最近はそうでもないが、湯に浸からないのは、昔からの習慣だからだろうな。風呂が普及しない理由の一つがそれさ。さて、そろそろ上がるとしよう。これ以上長湯すると、ばあに食事が冷めると言われてしまう」

 湯から上がり脱衣場に移動すると、カーディナリスが呼びに来ていた。

「来てたのか」

「話し声がしてましたので、邪魔になってはと待っておりました」

 穏やかそうな言葉の奥には、呆れと怒りがあるのをレオラは感じ取った。

「長湯した」

うに夕食の用意は済んでおります」

「す、すまない。ばあ」

アレナリアお客様のことを考えてください。相手方が他国の皇族でしたら、時間に気を付けなければ、大きな問題になります」

「う、うむ。気を付けよう」

 カーディナリスの機嫌を損ねてしまい、レオラは反省の色を見せる。
 服を着た二人は広い食堂ではなく、屋敷の一室にある六人掛けのテーブルで夕食を取る。
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