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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

482 行き違いの連絡

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 どうしても付いて来るのを諦めないと悟ったレオラは、カーディナリスの同行を許可した。
 と言うより、させられた。
 流石は幼少の頃からレオラの世話をしていた人物だと、守護騎士三人はカーディナリスを思った。

「ありがとうございます、姫様。では着替えて参りますので、失礼致します」

「うむ……」

「皆様も失礼致します」

 にこやかな顔をしたカーディナリスは一礼をして、レオラの執務室を出た。

「さて、アタシも着替えて来るとするか」

「では、ワタシがお手伝いを」

「ドレスを着るわけではないんだ。一人で出来る。お前達は中庭で剣の修練や模擬戦をして体を動かせ」

「畏まりました……」

 レオラの着替えを手伝うと買って出たガザニアだったが、必要ないと却下されて、明らかに気持ちが落ち込んだ。

「アレナリアは三人と中庭に移動して待て」

「はい」

 レオラの執務室を出ると、守護騎士三人とアレナリアは昇降機で下へ降り、レオラは着替えのある自室に向かった。
 昇降機で一階に降り、修練用の刃を潰した剣を持って中庭に出た三人は、模擬戦を始める。
 最初はガザニアとグラジオラスが構え、アスターが判定役をする。
 どちらかが重症になりうる一撃を入れたと判定されると、負けた者と判定役が交代をするやり方を毎回していた。
 重症になりうると言っても寸止め、もしくは軽く当たる程度の攻撃にしている。
 三人の剣を振るう所作は洗練されており、冒険者のそれとは明らかに違った。
 レオラの守護騎士をしてるということは貴族、その剣術も貴族として身に付けたのだろうと、アレナリアは考えていた。

「あ!」

 アレナリアが不意に出た言葉に、判定役をしていたアスターが振り向く。

「何か?」

「ごめんなさい。なんでもないわ(そろそろカズに連絡しないと)」

「そうですか……?」

 この後レオラと出掛けると、カズに念話を繋げるのが夜になってしまうと気付き、今なら大丈夫だと心で中でカズに語りかた。
 念話が繋がったところで、レオラが着替えを済ませ中庭に姿を現した。


 《同時の夕方》


 帝都に向かう魔導列車に乗り換えるために、農作の街ウエスト・ファームで降りたカズ、ビワ、レラの三人は、前回と来た時と同じ宿屋に部屋を取り、部屋で夕食にする。

「ギルドに何をしに行ってたの? あと、アレナリアはなんだって?」

 宿屋で部屋を取ってすぐ、カズは一人で冒険者ギルドに行っていた。
 アレナリアから連絡が来たのを、魔導列車を降りる時に二人に伝えたが、寝ぼけているようだったので、夕食時に改めて話そうと思っていたところに、レラが話を振ってきた。

「ギルドには素材を売りに行ってきた」

「レオラからの仕事で回収した、なんとかっての?」

「それはグラトニィ・ターマイト。それじゃなくて、その前にエイト・タウンで討伐したアリ。覚えてるか?」

「あり? アリ……ぅひィ~!」

 わらわらと群れるスパイクアントが脳裏に浮かび、レラは全身をぶるッと震わせた。

「ちょっとカズ、なこと思い出させないでよ」

「聞いたのレラだろ」

「そうだけどさあ……」

 自分で聞いておきながら、レラは機嫌を損ねる。

「あの、カズさん。アレナリアさんは?」

「それが降りる駅と、泊まってる宿の名前だけ言って、念話を切っちゃったんだよ」

「話してる時に、誰か来たんでしょうか?」

「かも知れない。もっと時間に余裕がある時に、連絡してくればいいのに」

「アレナリアさんにも事情があるんですよ」

 ビワは自分が遅れたせいだとまだ思っており、一人で先にレオラの元に向かったアレナリアを庇う。

「まあ、そうか。ガザニアの相手を頼んで、先に行ってもらったんだから感謝しないとな」

 一方的な連絡も、ビワの言う通り何か事情があったのだろうと、カズも考えた。
 元はと言えば、ガザニアにハッキリと言わなかった自分が悪いと、カズは再度反省する。

「もうそろそろ、アレナリアも一人になるんじゃないの? 連絡してみたら?」

 今し方スパイクアントの事を思い出してぶるッてたレラが、フルーツミルクをぐびぐびと飲み、口内に残った食べ物を胃に流して、アレナリアが一方的に念話を切った理由を聞けばとカズに言う。

「ああ。食べ終わったら一度呼び掛けてみる。ダメなら明日の出発前にもう一度呼び掛けてことにする。帝都に向かう列車が来る時間は決まってるから、慌ててもしょうがないからな」

「駅員のおっちゃんが言った時間があってればしょ。今日の列車だって遅れたん……だっけ?」

「二十分くらい遅れたな」

 夕食後、アレナリアに念話で呼び掛けたカズだったが、応答はなかった。
 前日の疲労が残っているビワを、レラと共に早く寝かせ、カズはアレナリアの連絡を待った。


 ◇◆◇◆◇


 昨夜遅くまでアレナリアからの連絡を待ったが、結局念話が来ることはなかった。
 レオラやガザニアと一緒に居る可能性があったので、昨夜の夕食後に一度念話で呼び掛けて以降、カズは連絡してなかった。
 朝食後にもう一度アレナリアに念話で呼び掛けたが、寝ているのか? レオラ達と一緒に居るのか? やっぱり繋がらなかった。

「体調はどう? ビワ」

「もう大丈夫です」

「ならよかった。帝都に向かう列車が来るまで、あと二時間くらいだから、少しぶらついてから駅に行こうか。少し動いておかないと」

「そうですね。長い時間座ってるだけでも、結構疲れますからね。馬車と違って、停めて降りることもできませんし」

「ねぇカズ。今日中にアレナリアの居る所に着くの?」

「列車一本で行くなら着くと思うけど、深夜か明け方になるんじゃないかな」

「明け方って、一日じゃん!」

「そこまでではないが、やっぱりキツいか」

「却下! 却下! ビワもそう思うしょ」

「私は、大丈夫…です」

「まだ別行動になったのを、自分のせいだと思ってるんでしょ」

「それは……」

 レラの突っ込みに、ビワは即答出来ない。
 レラの言ったことが図星だから。

「はい、無理で~す。途中で降りて宿で一泊して、明日列車に乗る方向で」

「そうだな。無理せずに、そうしよう」

「あ! お金は大丈夫なの、カズ?」

「昨日ギルドに行って、スパイクアントの素材売ったから、宿代くらいはなんとか。ただし、安い宿になるけど」

「あの…私なら」

「もう泊まるのは決定で~す。それにこれでビワが無理して熱でも出したら、この先カズはビワを甘やかしまくるよ。甘やかされていいのは、あちしだけ」

「なんでレラを甘やかしてかなきゃならないんだ。置いてくぞ」

「うそうそ、ちょっとした冗談だよ」

 ビワを元気付けようとして、レラは冗談を言ったというが、カズはレラの言ったことは本気だと思っている。 

「とりあえず泊まる方向で考えるけど、駅員に列車の時間を聞いてからだな。帝都に向かう列車が数日先とかだったら、アレナリアを長く待たせることになる」

 アレナリアの待つ帝都中心部までの予定を立て、宿屋を後にすると、少しぶらりと歩いて時間を潰し、それから駅に向かう。
 駅員から翌日帝都のセントラル・ステーション中央駅に到着する列車の本数と時間を聞くと、三人分の乗車料金を払い列車に乗る。

 この日の目的地は、以前レオラの案内で降りた『ブルーソルト』という駅。
 せっかくだから、ジャンジとシロナの店に行き、村の人達の様子を話してあげたいとビワが言う。
 レラ的は肉の塊にかぶり付きたいとよだれを垂らす、全部食べられる訳でもないのに。
 カズ的には前回の事があったので、塊肉は勘弁してほしかった。
 ただ店に寄るのは有りかと思い、夕食はそこで取るのとに決めた。

 現在列車の中で昼食を取るこの時点で、アレナリアからの連絡はまだ無い。
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