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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

480 レオラの住む屋敷へ

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 《 同日の昼少し前 》


 シックス・タウン外壁の外にゲートで移動し、町の出入りを警備する兵士に、カズのギルドカードを見せて町の中に入った。
 あまり濡れてなかったカズとビワを見て、不思議に思うところもあったようだったが、町周辺では雨が降り始めてからそう時間は経ってなかったので、怪しまれる事はなかった。
 前日先に来たアレナリアが、後から仲間がやって来るとでも言ってくれていたのか、町に入る際に、特に質問されたり警戒されるような事もなかった。

 まだ小雨のうちに駅に行き、帝都方面の魔導列車が来る時間を駅員に確かめる。
 シックス・タウンからちょくで帝都中心部に行く魔導列車は、三日後の朝になるらしい。
 急ぐのであれば、二時間後に来る帝都とは逆方向の魔導列車に乗り、ウエスト・ファームで降りて翌日に来る帝都のセントラル・ステーション中央駅行きに魔導列車に乗るのが、一番早いとのことだった。

 この時点でまだアレナリアから念話連絡は来ず、降りる駅も不明。
 ガザニアが帝都中心部と言っていたことから、駅員が言うセントラル・ステーション中央駅の可能性は高いが確定ではない。
 アレナリアから念話連絡がないのは、二人が前日途中下車して、何処かの街で一泊し、今朝目的に向けて魔導列車に乗り、まだ降りてない可能性もあった。
 宿泊施設が殆どないシックス・タウンで、三日後に来る魔導列車を待つ気には慣れず、遠回りになるのを覚悟して、二時間後に来る魔導列車に乗ることに決まった。

 手持ちの帝国貨幣の残金を考えると、明日の朝乗り換える魔導列車は、三等車にしなければ厳しいかも知れなかった。
 かと言って、この後乗る魔導列車を三等車にすると、ウエスト・ファームまでとは言え、ビワには負担になるとカズは考えて、二等車の乗車券を購入した。
 魔導列車が到着するまで、他の乗客がいないホームで、長椅子ベンチに座り待っていると、ビワが沈んだ表情をしていた。

「ねぇビワ。また自分が迷惑掛けたとか考えてるっしょ?」

「……」

 レラの言葉を聞き、ゆっくりと頷いて肯定するビワ。

「あれはガザニアっちがダメだと、あちしでもわかるよ。それに気付いてたカズは、早くビワを休ませてあげないのがもっとダメダメだったと、あちしは思うなあ」

 村を出発してら肩掛け鞄の中で、ずっと楽をしていただけのレラの言葉が、いつものどうでも良い戯れ言とは違い、カズの耳にハッキリと入り込み、胸にグサりと刺さる。

「耳が痛いな。今回はレラの言う通り」

「カズも反省してるって。だからビワは顔を上げる。暗い顔してるなら、起こした時みたいに、尻尾をむぎゅッてするよ。むぎゅッて」

「……ありがとうレラ。でも尻尾はやめてね」

「尻尾じゃなければいいのか、なぁ~? にっちっち」

 レラは手をにぎにぎしながら、ゆっくりとビワに近付く。
 その先にあるのはビワの胸。
 ビワは両腕を組んで胸を隠し、レラから体を背ける。

「やめんか! セクハラ、レラ改め、セクレラ。こっちに座って、昼飯でも食ってろ」

 カズはレラを自分の右側に座らせ、朝飲んだコーンスープとコロッケサンドを昼食として渡した。
 ビワには軽めでいいと、コーンスープと塩パンを一つ。
 カズもビワと同様。
 昼食を済ませ一時間程待つと、西方面への魔導列車が到着し、三人は二等客車に乗り、ビワが作った座布団クッションに座って、帝都に向かう魔導列車に乗り換えために、ウエスト・ファームへと向かった。




 三人が西方面の魔導列車乗り、心地良い揺れでレラがよだれを垂らし眠っている頃、帝都中心部にある高級宿屋、至高の紅花亭の一室に向い昇降機で上がる者がいた。
 仮眠のつもりが目を覚ませば既に昼過ぎ、空腹のアレナリアは部屋に用意されていた果物を二つ食べる。
 部屋の扉が叩かれ、やっと迎えに来たのかと扉を開けると、そこには赤色の軽装鎧を身に付けた、見知らぬ女性の騎士の姿が。

「アレナリア殿ですね」

 見知らぬ女性騎士に名前を呼ばれ、アレナリアは身構える。

「ええ。貴女は?」

「わたしはレオラ様の守護騎士が一人、アスターと言います。ガザニアの代わりにアレナリア殿を迎えに来ました」

「ガザニアの代わり?」

「はい。ガザニアは報告があるため来れませんので、レオラ様の指示で代わりにわたしが」

 レオラの守護騎士だと言う『アスター』は、アレナリアに証拠として一枚のメダルを見せた。
 それはカズがレオラから渡された、両面が異なる二色のメダル。
 金色の面には虎が、赤色の面には獅子が彫刻されており、カズが受け取った物と同じメダルだった。

「確かにレオラの…」

 敬称を付けずに主人の名を言われ、顔には出さなかったが、アスターの内心ではムッとしていた。
 一瞬アスターの雰囲気が変わったように思えたアレナリアは、自分に発言が失礼に当たったと言い直した。

「…失礼したわ。レオラ様の使いなのは本当のようね」

「レオラ様から直に依頼を受けた冒険者だと聞いています。なのでその格好は良しとしますが、言葉遣いには気を付けるようにしてください」

「わかりました。気を付けるわ(さすがに今まで通りには話せないわね)」

「それとこれは香水です。ガザニアから言われ持ってきました」

「ありがとう」

「使用は少量にしてください。レオラ様は香水の強い匂いを嫌います」

 アレナリアは左手首に香水を一滴つけ、両手首を擦り合わせる。

「これで良い?」

「はい、大丈夫です。では、行きましょう」

 アレナリアはアスターに付いて行き至高の紅花亭を出て、車道に停まっている馬車に乗る。
 二人共椅子に座ると、アスターが御者に合図を送り馬車を走らせた。
 馬車内部の壁四面には小さな窓が付けられており、それをカーテンで隠してある。
 椅子の座面は厚く、ふかふかで正に貴族や皇族用に作られた高級な馬車だと分かる。
 アレナリアはカーテンを少しずらして、窓から外の光景、多くの様々な種族や変わった乗り物を見て驚き、口を開けたまま止まっていた。
 完全に田舎者丸出しの状態。
 アスターの咳払いで我に返り、カーテンを閉めて大人しく目的地に着くのを待った。
 その後もアスターは何も話をせず、ただ黙ってアレナリアの向かい側に静かに座っているだけ。

 至高の紅花亭を出てから約二十分、馬車は裏門を抜けて建物の近くで停車した。
 正面は皇族や貴族が使う入口のため、アスターとアレナリアは裏口から屋敷に入った。
 建物はオリーブ王国の貴族区で見たオリーブ・モチヅキ家の半分程と小さく、庭を含めた屋敷全体だと四分の一程度。
 帝都中心部にある皇族の屋敷に、庭園はあっても無駄に広い庭は必要ない、ということだろうか?
 馬車を降りたアレナリアは、アスターに案内されて建物には入り、二階の一室に通された。
 不思議と一人として使用人を見かけず、建物内はとても静かだった。

「この部屋で少し待っていてください。レオラ様にアレナリア殿が到着したことを伝えてきます」

「わかっ…わかりました」

 そう言うと、アスターは部屋を出て行った。
 アレナリアは窓から庭を見るも、やはり使用人らしき姿はなかった。

「そうだ! カズに連絡しないと。しかしやけに閑散としているお屋敷ね」

 カズに念話を繋ごうとしたとき、部屋の扉が叩かれて開くと、アスターがアレナリアを呼びに戻ってきた。

「レオラ様がお会いになられます。こちらへどうぞ」

「わかりました(カズへの連絡は、レオラと会った後ね)」

 アレナリアが次に案内されたのは、物置に使っているような小さな部屋。
 一応アレナリア客人なのだから、決して案内するような部屋ではない、監禁するつもりでなければ。
 高級宿屋で使用してなければ、アレナリアはそう思っていたであろう。
 アスターと共に入った小部屋は、扉が閉まるとアレナリアの予想通り、ゆっくりと上昇した。
 小部屋はアレナリアが思った通り、至高の紅花亭で初めて乗った昇降機と同じだった。
 ただ至高の紅花亭の昇降機より少し広い。
 上昇する昇降機が止まり、扉が開いたそこには、アスターと同じ格好をした女性騎士が一人待機していた。

「申し訳ありませんが、そちらの杖を預からせてもらいます」

 アレナリアは待機していた女性騎士からチラッと手元の杖に目を移すと、了承したと頷き杖を差し出した。
 待機していた女性騎士が一礼すると、アレナリアの杖を受け取ると、廊下を建物の奥へとアレナリアを案内する。
 建物の廊下は思っていたよりも狭く、三人が横に並んで歩ける程度の広さしかない。
 そのため、待機していた女性騎士、アレナリア、アスターの順で建物の奥へと廊下を進むことに。
 アレナリアを挟んで移動しているということは、客人だと分かってはいても、警戒をしている証拠。
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