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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

472 アレナリアとガザニアの約束事

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「……まあ、いいわ。あんたらを相手にしてると調子が狂う(ワタシは帝国の第六皇女であらせられるレオラ様の守護騎士なんだぞ。そこをわかってるのか? なんでレオラ様はこんな連中を……ダメだダメだ、レオラ様は正しい。そう昨夜自分に言い聞かせたじゃないか)」

 まだカズ達を認める事が出来ないでいたガザニアだったが、主人であるレオラが間違うはずがないと考え、心を乱し思い悩んでいた。

「クッキー作りと言ったが、あの軟弱者は何しに行った? あのキツネむすめだけで十分でしょ」

「貴女がどんな男の人を見てきたか知らないけど、カズはそれなりに料理が出来るのよ。それと軟弱者じゃなくて。キツネ娘じゃなくてだから。そんな呼び方しないでもらえる」

「ああビワだね。わかった。それより男の冒険者が料理をするの? 獣の肉や魚を焼いたりするだけじゃなくてか?」

「それ料理って言う? カズは調味料で味付けしたり、甘いデザートだって作れるんだから」

「甘いデザート!? やはり軟弱者ではないか」

「その言い方はいただけないわね。貴女の前にレオラの守護騎士をして、一緒に冒険者となった二人は料理が出来たんでしょ」

「それはレオラ様と御一緒に冒険者となったんだ。レオラ様が口にする食事を御用意するのは当然。だから料理を習い、出来るようになったはずだ。それに引き換えあのカズは料理を作るだけで、冒険者だというのに依頼はアレナリア任せ。軟弱者で間違いないだろう。それにワタシの相手をアレナリアに任せてるのだから」

「色々言いたいことあるけど、一つ言うとしたら偏見ね」

「ワタシの考え方が偏見…だと」

「仕えてる相手が皇族や貴族だけしか気に留めない一国の皇女なら、そんな考え方になるのはわかるけど。少なくともレオラは違うでしょ。なのにそんな考えをしてたら、遠からず守護騎士を外されるわよ。って、カズなら忠告するでしょうね」

「ただの冒険者のお前らに、とやかく言われる筋合いはない! ワタシはレオラ様に生涯お仕えすると決めてるんだ。優秀なワタシが、レオラ様に見限られるなんて」

「別に貴女がどれだけレオラを慕っていても、私にはどうでもいいこと。でも、この村をレオラが大事に思っているなら、貴女はその考えを少しでも変えないと、それこそ本当に……」

「ワタシの何がいけないと言うんだ! 脆弱かつ差別された者達を、レオラ様は保護してやってるんだ!」

 ガザニアは苛立ち、感情が高まって立ち上がった。

「落ち着いて。私の意見が気に入らないと言うなら、別にそれで構わない」

アレナリアお前はましだと思ったのに。ワタシを怒らせたいのか」

「そんなつもりないわ。とりあえず座って」

 もう怒ってるじゃないかと、ツッコミたかったアレナリアだったが、余計怒るのが分かっていたので、それは言わないでおいた。
 ガザニアの気持ちが少し落ち着くのを待ち、アレナリアは一旦話題を変えて、再度話し出す。

「……ところで貴女がここを訪れる時に、何か持参した?」

 「レオラ様に言われて、菓子を調達して持ってきた。それがなんだと言うんだ」

「それは、そのまま村長に?」

「そうだ。だからなんなんだ?」

「レオラはどうしてたの?」

「レオラ様は……」

 ガザニアはレオラと共に来た時の事を思い出す。

「自分で子供達に手渡ししてたんじゃない?」

「渡して…いた」

「レオラに言われなかったの?」

「ワタシに任せるとしか……」

 レオラと来た時の話題に変わり、その事を思い出してから、次第にガザニアの苛立ちがおさまり表情が変わる。

「そう。貴女がレオラの守護騎士としての立ち位置がどうかは、私にはわからない。どうして守護騎士だと言う貴女を、帝都から離れたこの場所に一人で来させたのか?」

「それはこの村の詳しい場所を知ってるのが、レオラ様とワタシだけで」

「それは、他に信頼できる守護騎士が居ないってこと?」

「そ、そんなことは……」

 脇に置いてある剣を見つめ、ガザニアは思い詰めた顔をする。
 帝国皇女の守護騎士がアレナリア一冒険者の言葉で、レオラ主人への気持ちが揺らいで大丈夫なのだろうか? と、アレナリアはガザニアの顔を見て思っていた。
 不安にさせた原因は、自分だというのに。

「レオラがこの村を、この先どうしたいのか貴女から聞こうと思ったけど、やっぱりいいわ」

「それは、どういう…こと?」

「これは私の勝手な考え。いい」

「ええ」

 レオラがどうしてガザニアを一人で、この村に来させて〝ユウヒの片腕自分達パーティー〟の見張りと案内役を任せたのかを、アレナリアは考えを伝えた。
 第六皇女の守護騎士という立場ではなく、個人として村人と交流させる為だった。
 差別されてきた人達なのだから、保護してる相手から権力の圧なんて受けたら、力ずくで支配されてるのと同じ。
 だからレオラは子供にも分け隔てなく、一人一人に接して来たのではないか。
 自分達を見張らせて案内させたのは〝ユウヒの片腕自分達パーティー〟が相手を差別せずに接し、村の状況を見て、どう判断して動くかをガザニアに見せる為ではないか?
 レオラはガザニアに、分け隔てない優しさを覚えて欲しかったのではないのか?

「貴女を試す為に、案内役をさせたんじゃないのかしら?」

「レオラ様のお考えは……」

「話す前にも言ったけど、これは私の勝手な考え。カズ達はまた違うだろうし、まして、レオラが実際にどう思ってるかなんて知らないわよ(一つでも合ってれば良い方)」

「アレナリアに言いくるめられてるとしか」

「貴女がそう考えるなら、それでもいいんじゃない。真相はレオラに会って聞けばいいんだから」

「こ、今回だけは、アレナリアの意見を聞こうじゃないか。もしレオラ様の考えがまるっきり違ったら」

「そうだったら、私達パーティーはレオラに仕えてあげるわ。貴女が嫌なら、レオラには二度と会わない、関わらないようにする。それでどう?」

「言ったな忘れるな」

「ええ。でも、もし合ってたら」

「軟弱者も含め、お前達を認めてやる」

「約束よ。破らないでね(カズに相談せず、勝手な約束しちゃった)」

「レオラ様に誓って」

「じゃあこの事は、レオラに会って聞くまでは、二人だけの秘密で」

「無論」

「決まりね(ダメだったらどうしよう)」

 話の流れから、思わぬ方向に行ってしまい、内心ではもう少し多くレオラの考えた行動だと、言っておけばよかったと思うアレナリアだった。
 そして、仕えるだの、二度と関わらないだと、勝手な約束をしてしまった事を、ちょっと後悔していた。

 一方クッキー作りの準備をするのに、借りている家屋に戻ったカズとビワは、以前街で買ったハチミツ入りクッキーを基準にした甘さのクッキーを試作してみる。
 カズやビワが作ったクッキーは、アレナリアやレラと一緒に食べた事はあったが、それは砂糖を使ったり、珍しいミルキーウッドの樹液を使ったクッキーになってしまう。
 ハチミツ入りクッキーを作った事もあったが、街で買えるものよりハチミツを多くしたので、村で作る基準としては贅沢品になってしまう。
 流石にそれでは手軽に作れないと、街で安く売っているのを基準にしたクッキーの作り方を教えようと、ビワと相談して決めた。
  だけど好みが分からないからと、一応ハチミツを少し多くしたのも、作ろうという事になって。

 ただ、街の露店で安く売っているクッキーは、焼き加減がバラバラで、硬くボソボソだったり、生焼けっぽいのもあったりしたので、基準はパン屋で売っているクッキーにすることにした。
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