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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

469 鋭い嗅覚 と 早とちり

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 何やらがさごそと、家の中にある鍋や戸棚を物色しているような音が、寝ているカズの耳に入ってきた。
 レラだけが先に戻って来て、食べ物があるか探しているのだと思い、カズは寝返りを打ちながら、その様子を薄目で見た。
 しかし寝返りを打つと同時に物音が止まり、ざっと屋内を見たが誰も居ない。

「……気のせいか?」

 外から聞こえた音と間違えたのかと、カズはあまり気に留めようとはしなかった。
 村の外から来たカズを物珍しく思い、村の子供が覗きにでも来たのだろうと。

「三人が戻って来るまで、もう少し寝るか(戻って来たら、どうせお腹空いたとか言って起こすんだろうしな。しかし、さっきのは本当に気のせいだったのか……?)」

 などと考えてる内に、カズは再び眠りについた。
 それから一時間程して、村を見て回っていた三人が、借りている家屋に向かって来ていた。

「三十分くらいのつもりだったのに、レラがあっち行ったり、こっち行ったりするから」

「四時間以上も経っちゃいましたね」

「そんなこと言うアレナリアだって『かわいいお姉ちゃん』とか言われて、嬉しそうに子供と遊んでたじゃん」

「こ、子供なりにお世辞を言ってたのよ。それに、子供には優しくしてあげるものでしょ」

「うふふ。一緒に遊んでるアレナリアも、子供みたいで、可愛いかったですよ」

「っな!」

 レラだけではなくビワにまで言われ、アレナリアは子供と遊んだ時の自分を思い出し、恥ずかしくなって顔が火照る。

「ビ、ビワも言うようになったじゃないの」

「そんなつもりでは」

「それでいいの。遠慮なんてすることないんだから」

「アレナリアさん」

 余計な事を口にして、今度は自分が標的にされると後悔するも、アレナリアは優しく返してくれて、ビワはほっとしていた。

「ところで、ビワは尻尾をいじられて、顔を真っ赤にしてたわよね。あれはどうしたのかしら?」

 ほっとしたのも束の間、結局アレナリアからの反撃がきた。

「く…くすぐかっただけです」

「本当に? 子供が相手なのに、結構顔が赤かったわよ。もしかして、感じた?」

「ち…違います!」

「そうだよアレナリア。子供相手になんないよ」

 珍しくレラがフォローに入り、ビワは助かったと安堵する。
 が、それは誤りだった。

「ビワが尻尾を触られて、快感に思ったのはカズだけだよ」

「快感になんて……なってない…もん」

 レラへの当てつけだろうか? レラがよく使う語尾を付けると、ビワは何かを思い出し、今さっきのアレナリア以上に顔を赤くして顔を背け、ぷいッと拗ねる。
 そんなビワを見たアレナリアは、なんだか微笑ましく思えてしまった。

「あーあ、すねちゃった。ごめんねビワ。あちし先に戻るね。あとよろ、アレナリア」

「ちょ、レラ」

 レラは逃げるようにその場を離れ、アレナリアは拗ねたビワの機嫌を直してから、借りた家屋に戻ることにした。
 そんな二人をよそにして、言うだけいったレラは先に借りた家屋へと戻る。
 しかし扉を開けようとしたが重くて開かず、仕方なく開いていた窓から家屋に入り、寝ているカズを目撃した。
 ちょっとイタズラしてやろうかと、そっと静かに近づこうとする。
 そこに鼻腔びこうをくすぐる良い匂いがし、ぐぅ~とお腹が鳴り、その音で眠りの浅いカズが目を覚ました。

「戻って来たら起こすとは思ったが、腹の鳴る音で起こされるとは思わなかった」

「ちがッ、それは……美味しそうな匂いがしたんだから仕方ないじゃん! お肉焼いたでしょッ?」

「耳元で大声出さなくても聞こえてるって(よし。カスタードクリームの甘い匂いには気づいてないな)」

「スンスン……なんか、プリン作ってる時のような匂いしない……?」

 レラは鼻を動かしながら、匂いが強く感じる場所を探し回る。
 カズはプリンの言葉に、一瞬ドキッとする。

「もしかして……」

 家の中に漂う匂いを嗅いでいたレラが、ぐるりと向きを変えて、接近してじろりとカズの目を見る。

「な、なんだよ(甘い匂い気付いたのか? この食いしん坊め)」

 レラから目を背けないように、カズはぐっと堪える。

「もしかして、あちし達がいない間に、カズ一人で特製プリン食べた?」

「一人でこそこそ食べないっての」

「本当?」

「例え食べたとしても、いつもレラとアレナリアで食べまくってるんだから、俺が一個や二個食べても良いと思うんだが。それも駄目なのか?」

「って事は、食べたの?」

「食べてない。例えで言っただけだ」

「だよね。でもプリンじゃなくても、なんか食べたんじゃない? 少し匂うような気が……」

「夕飯用にポトフを作ってたんだから、味見くらいはするだろ」

「……」

 何か隠してるのではと、レラは接触しそうなくらい顔を近づけ、口元にの匂いを嗅ぐ。

 ちょうどその瞬間、家屋の扉が開き、アレナリアと機嫌を直したビワが戻って来た。

「戻ったわよ。カ……なッ!」

「レラっ!」

 アレナリアとビワがそこで見たのは、カズとレラがキスをしてる光景。(実際はレラがカズの口から、甘い匂いがしないか嗅いでいるだけなのだが、二人の位置からだと、キスをしているように見える)
 アレナリアは土間に靴を脱ぎ捨て、バタバタと板の間に上がる。

「二人も戻って来たか。夕食ならで…」

「どういうつもり!?」

 血相を変えて詰め寄るアレナリアを見て、カズは不思議に思う。

「な、何が?」

……ですって! 私には全然してくれないのにッ! 濃厚なのをしたいのに!」

 急にアレナリアが怒鳴りだし、更には自分の欲望を口にする。

「アレナリアにする? 何が? 意味わからん」

 困惑するカズを見て、慌ててビワがアレナリアを止めに入る。

「落ち着いてアレナリアさん。レラだって年齢的に子供じゃないんです。カズさんのずっと側に居て、そういった気持ちになっても、私は……」

 自分でもよく分からない複雑な思いが、胸の内から込み上げて来るも、ビワは二人の関係を受け止めようとする。

「さっきから何言ってるの? カズとあちしがどうしたって?」

「どど、どうしたですって!」

「アレナリアさん落ち着いて」

 レラに食って掛かりそうな勢いのアレナリアを、ビワが後ろから両腕を回して押さえる。

「落ち着けアレナリア。怒ってる理由がわからんから、落ち着いて説明しろ」

 アレナリアが落ち着いて説明が出来るまで、カズとビワで宥めて暫し待つ。
 少し冷静さを取り戻したアレナリアが、荒立った事の説明をした。

「何、その誤解」

「ぷぷッ」

「そう笑ってやるな」

「そ、そうならそうと……ごめんなさい」

 アレナリアはうつむいたまま恥ずかしくて顔を上げられず、レラはカズに注意されて笑いを堪える。
 ビワも勘違いから恥ずかしくなり、黙ったままになってしまった。

「にっちっち。アレナリア欲求不満? 欲求不満なんでしょ。欲求不満だよねぇ~。それであちしとカズが。ぷぷッおもろ」

「そうよ! だからカズぅ~」

 開き直ったアレナリアは、唇を突き出してカズに飛び掛かった。
 カズはとっさに【アイテムボックス】から焼いたソーセージを出し、アレナリアの口にズボっと突っ込んだ。

「はふッはふッ! アツい。あ、でも美味しい(カズのもこのくらい……むふふ)」

 やっぱり(キスは)駄目だったと、諦めたアレナリアは口に突っ込まれたソーセージを堪能し、食欲へと気持ちを切り替る。
 一瞬視線をカズの下半身を向け、いやらしい笑みを浮かべた。
 幸いその視線と笑みは、誰も気づいてはいなかった。

「レラが腹を減らしてるみたいだし、少し早いが夕飯にするか?」

「する! 匂い嗅いだらお腹空いてきた」

「ビワもいい?」

「あ…はい。私もお腹が空きました」

「なら今、用意する」

 カズは先ず全員に〈クリーン〉を使って、衣服の汚れを取り除いた。
 この家にはテーブルがないので、板の間の床に【アイテムボックス】から布地ぬのじ出して敷き、作ったポトフが入った鍋と焼いたソーセージとパンと、人数分の取り皿とお椀を出した。
 出した料理を囲むようにして四人は座り、ここからは自分がと、ビワが料理を取り分けてそれぞれの前に並べ、村を散策した話を聞きながら、少し早めの夕食にした。
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