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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

449 直らない独り言

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 ◇◆◇◆◇


 最初に起きたのは、何時もと同じビワだった。
 再度寝返りを打ったことで目を覚まし、半身がカズに乗っかかり抱き付く体制になっていた事に気付き、慌ててベッドから出た。
 そこで自分のネグリジェ寝間着姿が恥ずかしくなり、皆が起きる前に着替えた。
 次にアレナリアが目覚め、自分格好が寝た時のままだと、残念そうな顔をした。
 ビワが胃に優しいハーブティーを朝食に用意すると、その匂いに釣られてレラが目を覚ます。
 まだ寝ているカズを見つけ、上に伸しかかり起こす。
 寝付いてから一時間も経ってなく、起こされたカズは非常に疲れた顔をしていた。

「昨日は遅くまでお盛んだった?」

「しとらんわ!」

「次はいつ修羅場の予定」

「殴るぞ」

「いや~ん。あちし、か弱いんだから、や・め・て」

「ハアぁ……」

 精神的な疲れで怒る気にもなれず、カズは深いため息を吐く。
 寝室から出て部屋に移るが、気不味くて二人の顔を見れない。

「お…おはようございます」

「お、おはよう」

「ございます。なんて付けなくていいの。気を遣わないって決めたでしょ」

「ずっとこの喋り方だったので、すぐには」

「無理して変えなくても、ビワよ話しやすいようにしてくれれば良いから」

「はい」

「さあ次は農作の街ね。支度したら買い忘れがないか見て回り、お昼を食べたら駅に向かいましょう」

「そうだな(アレナリアはまだ少し機嫌が悪いか?)」

「なんで手を出さないのよ。意気地無し」

「ぶはッ(手を出したら期限を決めたい見ないだろ)」

 カズは飲んでたハーブティーを吹き出すと、その先に居たレラが引っ被った。

「うへッ。カズが出したハーブティーで汚されちゃった」

「ごめん。ってか、変な言い方すな!」

「私達には手を出さず、レラにはするのね」

「今の流れで、なぜそうなる。アレナリアが変なこと言うからだろ」

「はいはい、ごめんなさい。そうそう期限と言ったけど、別にその前にしてくれても、一向に問題ないわよ。私はいつでもどこでも大丈夫」

「何がだよ」

「わかってるでしょ」

「……」

 返答たところで、昨日の二の舞いになると思い黙った。

「ここで長話をして、お昼を過ぎたらたまらないわ。レラを着替えさせて宿を出ましょう」

「私がやります」

 ビワは濡れたレラを連れて寝室に移動し、水で濡らしたタオルで拭いて他のワイピースに着替えさせた。
 まだ少し機嫌の悪いアレナリアが仕切り、四人は宿屋を出てグレイジング駅周辺の店を見て、列車が到着するまで時間を潰した。

 昼食を済ませると駅に向かい乗車券を買う。
 料金は前回と同様の料金を払い、三等車に乗る為の乗車券のみ。
 二、三時間程度の移動なら、座布団クッションがあるので、三等車の席でも大丈夫。
 アレナリアとレラの座布団クッションは、この街に着いた二日目にビワが直していた。
 これでアレナリアのお尻が痛くなる事はない。

 ホームで待つこと十数分、魔導列車が駅に入って来る。
 四人は三等車に乗車して、それぞれ座布団クッションを敷いて席に座る。
 席の作りは前回まで乗った車両同様、二人席が向かい合わせになっている。
 他の乗客に気を遣わず、四人で座るには、この座席配置はちょうど良かった。

 停車時間を終えた魔導列車が発車し、三分程で運搬物専用の駅を通過。
 街の外にまで広がる牧草地を過ぎると、魔導列車が徐々に速度を上げる。
 前回はカズの隣にビワが座っていたが、今回はアレナリアとビワが一緒に座り、カズの横にはレラ。
 列車の揺れの気持ち良さを覚えたレラは、既に座布団クッションを枕に昼寝をしている。
 車両の席は、まだ半分以上空いているので、レラを注意することはしない。
 カズ的にはアレナリアとビワにも寝てほしいのだが、今回はバッチリと目が冴えていた。
 窓から外の景色を見ていてくれれば良いのだが、二人は向かいの席に座るカズから目を反らさない。
 これもアレナリアがビワに言っての事だろうか? 前日の事があるので、二人に目を合わせるのをカズは躊躇ためらう。

「そんなにじっとこっちを見ないで、外の景色でも見…」

「好きなカズひとを見ていたのは当然でしょ。カズも私達を見なさいよ」

「わ、わかった」

 先にアレナリアと目を合わせるが、やはりまだを機嫌が悪い。
 視線をアレナリアからビワに移すと、優しく微笑んでくれた。
 ビワの方ばかり見ていると、アレナリアの機嫌が更に悪くなると思い、視線を外そうとする。
 だが先に視線外したのは、うっすらと頬を赤らめたビワの方だった。(この時ビワは、起きた時の事を思い出してしまった)
 そしてアレナリアからの視線が威圧しているかのごとく鋭くなったのを感じたカズは、アレナリアの機嫌が落ち着くまで、窓の外を流れる景色を見て現実逃避することにした。

 暫くするとキツい視線が消えたと感じ、窓の外を見ていたカズは、正面に座るアレナリアとビワの方をゆっくり向いた。
 前回と同様、二人は列車の揺れで眠気を誘われ、気持ち良さそうに目を閉じていた。

「ほっ。寝たか。二日酔いにはならなかったみたいだな。しかしミルク酒の出費は結構いったなぁ」

 このままでは帝都に着く頃には、オリーブ王国のお金だけになってしまうと、カズは少し心配した。

「次の街では、少しでも依頼を受けて稼がないと。三人にひもじい思いなんてさせられないからな」

 そろそろギルドに自分の情報が、バイアステッチの冒険者ギルドのミゼットギルドマスターから回って来る頃だろうと、カズは覚悟をしておくことにした。

「アレナリアは良いとして、ビワは男との交流を殆どしてこなかったから、身近な俺を好きになってくれたんだろうな。俺より良い男なんか幾らでも居るからなぁ。キッシュみたく離れてったりしないだろう?」

「また、独り言ですか?」

 寝たと思ったビワが返答してきた事で、また自分の考えを声に出していたとカズは気付いた。

「いつから聞いてたの? それとも俺の独り言で起こしちゃった?」

「うとうとして、半分寝てた状態でしたので、カズさんの独り言は聞こえてしまいました。それで、お金は大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。心配かけたようでごめん。次の街では依頼を受けるつもりだから」

「私が出来るような依頼があればいいんですが」

「無理しなくてもいいよ。ビワには食事の用意とか、身の回りのことをしてもらってるんだから」

「それでも出来る事なら少しでも働いて……私も稼ぎたいです! アレナリアさんに遠慮しないと約束したんです」

「そこまで言うなら、ギルドの掲示板を見てみるといい。もしかしたら、家事とか料理の依頼があるかも知れない」

「そうします。人見知りも、この旅の間に改善されてきた…と思います」

「女性相手なら大丈夫そうだよね。バイアステッチで働いたのが良かったんだろう」

「男の方でも、目を見て話せ……ると思います」

 ビワは強もての冒険者を思い浮かべてしまい、平気だとは言い切れなかった。

「まあ、無理せずゆっくり慣れればいいよ」

「…はい」

 意気揚々と話したにも関わらず、最後は不安になり言葉が詰まってしまうビワだった。

「一つ聞いても良いですか?」

「いいけど、何?」

「キッシュさんに未練がありますか?」

 ビワの質問は、カズが一番聞かれなかった部分だった。

「それかぁ。まあ、隠すつもりはないし、ハッキリと言うと未練はないよ。ただ、新しい彼氏が出来た切っ掛けが、俺のことを忘れたからだったんだけどね」

「カズさんのことを……? あの時ですか!」

 自分を含めた極一部の者以外が、カズを忘れてしまった出来事をビワは思い出した。

「別れて寂しくなかったですか?」

「最初はね。でも先の事を考えたら、キッシュが幸せになる方が良いと、ね。そういえばビワと会う前の事を、詳しく話してなかったっけか?」

「大まかには聞いたかと思います」

「次の街に着くまで時間もあるし、暇潰しに話すよ」

 カズは改めて、自分がこちらの世界にやって来た所から、オリーブ・モチヅキ家でビワに会うまでの事を話し出した。
 管理チャラ神のことだけは伏せて。
 ビワはキッシュのことが気になっていたので、出会った時からの事も隠さずに。
 眠気を払いながら二人は話し、魔導列車は次の街に向かい線路をひた走る。
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