上 下
435 / 781
五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

418 休日の料理教室

しおりを挟む
 ビワは先ず野菜を手に取り切り始める。
 手を動かしながら説明をしていると「教えてくれるのは嬉しいけど、ビワさんが全部やってしまったら、わたし達の練習にならないわ」とグレーツが言う。

「そ…それもそうですね。では、残りのお野菜とお肉は、二人でお願いします」

 ビワが横から説明をして、二人が材料を切る。
 グレーツは得意ではないと言っていたが、それなりに出来ていたので、ビワが教えることはそんなになかった。
 プフルは野菜や鶏肉の大きさがまちまちになっていたので、ビワが火の通りやすいように均等にと教える。
 鍋で煮る際にも、火の通りが遅い物から順に入れることも教え、野菜を先に煮る。
 フライパンに野菜を煮込んだスープと、小麦粉と山羊乳と塩胡椒を使い、ホワイトソースを作り一度お皿に移す。
 鶏肉を軽くフライパンで炒め、焼き目がついたところで煮込んでいるスープを少量入れ、フライパンについた旨味と一緒に、野菜を煮込んでる鍋に移す。
 それから少し煮込み鶏肉と野菜が柔らかくなったら火を止めて、作っておいたホワイトソースを加えて、味見をして塩を少し加え味を調えて出来上がり。
 時間が掛かりはしたが、山羊乳を使ったさっぱりとしたクリームシチューが完成する。
 味付けが常に濃いプフルには、さっぱりした味付けが良いだろうと、ビワは判断した。

 それだと物足りないとプフルが言うことを見越したビワは、クリームシチューに一工夫して、パスタの代わりにあまって固くなったパンを使いグラタンを作る。
 それほど手間は掛からないので、これもビワが指示をして二人に作ってもらう。
 ビワはその間に一人でプリンを作る。

「ビワっちは、なに作ってるの?」

「食後のデザート…には間合いませんが、おやつに」

「へぇ。どんなのデザート?」

「わたしも気になる」

 ビワの作業をじっと見るグレーツとプフル。

「お二人とも、手が止まってますよ」

「出来てからのお楽しみってことね。プフル続きをするわよ」

「気になる~」

 ビワに言われた通りグラタンを作りをするも、やはり気になりちらちらとビワの行程を見るプフル。
 グレーツも釣られて見てしまい、ちょくちょく手が止まっていた。
 全ての行程を終えると、時間はちょうど昼食時になっていた。
 ビワが小さな容器に分けて入れたプリンを、部屋に備え付けの冷蔵箱に入れて冷やし固める。

 冷蔵箱は一家に一台あるのが当たり前になってきており、冷却魔法で食材を冷やしておく箱。
 大きさは様々あり、80センチ四方が一般家庭でよく使われている大きさ。
 一台で金貨五枚50,000GLとけして安くはないが、食材が長持ちして冷たく冷やせるのが便利だと。
 それだけではなく、魔力が少なかったり魔力制御が出来ない者でも使えるのが良い広まった。
 電気ではなく魔力を使って動いているだけで、機能は冷蔵庫と大してかわらない。

 料理が出来これから昼食にしようとした矢先、計ったかのようにアレナリアがハウリングウルフの討伐依頼を終えて来た。
 部屋に入る前に、砂ぼこりで汚れてる服を〈クリア〉を使いきれいにする。

「あら、いい匂い。上手く出来たみたいね」

「ビワさんが丁寧に教えてくれました」

「討伐依頼お疲れさまで~す」

「相変わらずプフルは元気ね」

「それがあーしの取り柄なんで。ところでアレナリアさん汚れてません?」

「ちゃんと入る前に、クリアで汚れを取り除いたわよ」

「すみません。失礼だぞプフル!」

「ごめんなさ~い。もうお腹空いちゃって」

「もしかして私が来るの待っててくれたの?」

「え、あ、うん。そう…です」

 アレナリアの問いに答えるプフルの目は、右に左にと泳ぐ。

「失礼なこと言ったのを挽回したければ、平静に動揺しないよう答えることね」

 じろりとプフルを見るアレナリア。

「ご、ごめんなさい。あーしが下手だから作るのに時間がかかって、今さっき出来たところなの」

「ならそう言いなさいよ。別に三人が食べ終わってても、怒ったりしないわよ。私がお昼までに間に合うか、わからなかったんだから」

「…はい」

「ほら、昼食にしましょう。食器を並べるくらいなら手伝うわよ」

「アレナリアさんは討伐依頼で疲れてるでしょ。だからわたし達がやりますので、座っててください」

「そう? ありがと」

 杖を立て掛けオーバーコートを脱いだアレナリアは、部屋の奥へと入り椅子に座り待つ。
 料理が各々の前に並べられたところで、感謝の祈りを込めると、スプーンでクリームシチューをすくい口に運ぶ。
 体内に入るクリームシチューは、身体の内からぽかぽかと温める。
 次に香ばしいチーズとパンの匂いのする熱々のグラタンを、はふはふしながら食べる。
 この日の昼食に、グレーツとプフルは満足する。
 四人は食後にハーブティーを飲みながら、お互いのことを話したり、雑談してのんびりとする。

「アレナリアさん、討伐の方はどうでした? ハウリングウルフはもう現れませんか?」

「二十体程の平均的な群れだったわ。遠吠えで他の群を呼ばれる前に全部倒したから、街に入って来る事はないはずよ。だから安心して」

 一人考え込むグレーツ。

「何か気掛かりでもあるの?」

「わたしとプフルの住んでた村が、バイアステッチから南に行った場所にあるんですが、まだ群れが居るなら、実家に顔を出しに行けないと思いまして」

「心配なら護衛を付けてったらどう? ハウリングウルフはそれほど強くはないから、Cランクの冒険者でも十分よ。ただ群を相手にした事がないと、駄目だけどね」

「貧困と言う程でもないんですが、裕福な村ではないので、極力お金は使いたくないんです。家族に出来るだけ多く渡したいので」

「自分で持って行ってるの? 仕送りしないで」

「年に一、二度は顔を見せに戻ってるんです」

「そういうことね。最近はいつ戻ったの?」

「パフさんの所で働き始めてからすぐに一度だけ。仕送りを止めてしまったのをパフさんも気に掛けてくれて、元気な顔を見せに行ってやりなと言われまして。プフルは来たばかりだったので、わたし一人で」

「あの…アレナリアさん」

「街と村の行き来を護衛してあげて。って言いたいんでしょ。ビワ」

 ビワは首を縦にふる。

「そうね……もし行くようであれば、カズが戻って来たら聞いてあげる。ビワの同僚だから、きっと良いって言ってくれるわよ」

「え、でもわたし、そんなつもりで……」

「確実じゃないわよ。でもカズが良いって言ったら、遠慮しないこと」

「…はい。お願いします」

 期待してなかったかというと嘘になり、内心ではほのかな期待はあった。
 だがこうもあっさりと話が好ましい方に向いたので、グレーツは内心で申し訳ないと思ってしまう。
 話を聞いていたアレナリアとビワからしたら、その程度の事はカズが何時もしていることなので、特に面倒などとは言わず承諾すると確信している。

「そのカズさんが良いって言ってくれたらでしょ。だったらあーしも一緒行こうかな。みんな元気にしてるか気になるし」

 護衛の話を聞き、プフルも一度実家に顔を出しに行きたいと言う。

「それは良いけど、パフさんには言ってあるの?」

 アレナリアの問いにグレーツとプフルは顔を見合わせ、首を横に振った。

「なら相談することね。護衛の話はそれから」

「そうですよね。気持ちだけ先走ってしまいました」

「少なくともビワの習いが終わるまでは、この街に滞在するわけだから、焦らなくても大丈夫よ」

「そうですね」

 ハーブティーを一口飲み、グレーツは気持ちを落ち着かせる。

「でもビワっち真面目だから、あーし達よりも早く覚えちゃうよね。これだと二ヶ月としないうちに、一通り覚えて終わりそうだよね」

「そ…そんなことないです」

 謙遜するして照れるビワ。
 そしてなんだかんだと雑談は続き、小腹が空いたと話の中でプフルが口にする。
 するとビワがもう出来た頃かと、冷蔵箱から小さな容器を四つ出して、スプーンと一緒にそれぞれの前に出し、ハーディーも新しく入れ直した。

「プリンを作ったの! カズが居ないから、食べられないと我慢してたのに」

「材料が買えたので」

「プリン?」

「これがビワっちが作ってたデザート?」

 小さな容器に入っている黄色い物に、不思議がるグレーツとプフル。

「初めてじゃ不安かしら? こうスプーンですくって」

 アレナリアが先に口にし、二人に食べるところを見せ、続いてビワも一口。

「材料が違うからあれだけど、プリンはやっぱり美味しいわね(ビワには悪いけど、コロコロ鳥の卵で作ったのと比べると、味は落ちるわね)」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語

京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。 なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。 要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。 <ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。 今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。 推奨:流し読みでのストーリー確認( 晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。 不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。 何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。 だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。 生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...