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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

387 話し上戸 と 気になる話

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 タルヒは自分が吟遊詩人かのように、声を高らかに話し出す。
 最初の内は依頼の失敗や成功など〝春風の芽吹き〟の苦労やパーティー名の意味などを話していたが、三十分もするとあのモンスターは手強かった、あれはオレじゃなきゃ倒せなかったと、自慢気に盛りに盛った話し方をするようになった。
 それを聞いていたカズ達は、ルクリアが簡潔に話すようタルヒに注意した意味が理解できた。

 タルヒが話を始めてから一時間が経過すると、シシモラは腕組んで、レラは椅子の上で膝を抱えて、二人はうとうととしていた。
 この時点でタルヒの話を聞いているのは、向かい側に座るカズだけ。

「ってことで、やっとBランクまで上り詰めたオレは、装備を新たに帝国本土に向かおうと、湖を迂回してセテロンに入ってだな─」

 タルヒが語り始めてから早めの段階で「リーダーの話は別に聞く必要ないから」と、ノースがアレナリアとビワは言っていた。
 元々聞く気にもならなかったレラは、満腹になると会話にも参加しなくなり、現在は浅い眠りについている。

「タルヒが長々とごめんなさい。話がセテロンに入ったから、もうすぐ終ると思うわ」

「一応いつもよりは短くなってるね」

「酔うと毎回こうなの?」

「たまにかな。ワタシとルクリアは、あんまりお酒飲まないから。リーダーはそれをわかって少しは遠慮してくれてるみたいだけど」

「今日はアレナリアさん達と一緒に食事が出来て嬉しいんですよ」

「そうなの?」

「ええ。いつもより飲む量が多いですから」

「良いリーダーじゃないの」

「気が利くかたなんですね」

 ビワはノースとルクリアに多少は馴れ、更に四人は女子トークに花を咲かせる。

 一方一人でタルヒの話を聞いていたカズにも、精神的に疲労が出てきそうであった。
 酔った他人の話を長々と聞くのは、結構キツいものだと感じていた。
 いっそレラみたいに寝てしまえば、と考え始めていた。
 だか、少し離れた所で話すルクリアの声か聞え、話しはもうすぐ終るとのだと分かったので、もう少し耐えて聞くことにする。

 すると話の中で、気になる話が三つ出てきた。
 一つはセテロンでの税について。
 今までも街に入る際の税はあったが、カズ達は街道を外れたからなのか、唯一寄った奴隷商が居た街では、税を取られることはなかった。
 理由としては、領主がいなかったからだと考えられる。
 入国税については、カキ街の冒険者ギルドでセテロン国への入国手続きをした際に、報酬の一部から引かれていた可能性があった。
 アレナリアが無理な報酬の交渉をしたことで、男性の年配職員に嫌がられ、税について話してくれなかったのかも知れない。
 今となっては不明。
 ただタルヒの話だと出国税については、渡船の乗船代に含まれているとのことだった。
 それで高いのだと、少し理由が分かった。

 あと二つ気になる話だが、一つはとある商人が旅のリザードマンに半殺しにされたもの、そしてもう一つは元盗賊奴隷が主人の寝首を掻いたという話だ。
 カズはその二つの話について、タルヒに詳しく聞いた。

 一つ目の商人を半殺しにしたというリザードマン、それはまさしくカズ達が寄ったデュメリル村を追放されたリザードマンのギギオ、ボボウ、デデイのことだとカズはすぐに分かった。
 デュメリル村を訪れた際一緒だった冒険者らしき者は不在だったのか、それとも契約が切れたのか、悪徳商人を護衛するのは数人の者達が居ただけだった、と。
 ギギオ達リザードマンが悪徳商人に詰め寄ると、悪態をついて護衛の冒険者をけしかけたらしい。
 だがギギオの相手にはならず、抵抗むなしく惨敗し、その怒りの矛先が悪徳商人に向かい、ボコボコにして金をせしめていたとタルヒは話した。
 おそらくその護衛は、Cランク程度の冒険者だったのだろうと、カズは考えた。
 Cランク二、三人程度では、戦士のリザードマン相手は辛い、ギギオが腕を上げていれば尚更だ。
 話を聞く限りでは、さすがの悪徳商人も自分の命は大事だと、観念してデュメリル村から騙し取った川魚の代金を払ったようだ。

 ただタルヒの話し方だと、リザードマンが盗賊行為を働いたと思えてしまう。
 カズはその事について更にタルヒに聞いた。
 するとその後、半殺しにあって弱った商人の元には、自分が騙してきた他の種族から苦情が相次いだとか。
 そのやり取りを目撃している見物人は多く、噂の出所もハッキリしているから詳しく知っていたらしい。

 セテロン国に近づいてからは、リザードマンを騙した商人を探せていなかったので、その話を聞いたカズは、一つ胸の突っ掛かりが取れたのだった。

 次にもう一つの、元盗賊奴隷が主人の寝首を掻いたとというはなし。
 これについてはほんの数日のことで、大峡谷を渡るための渡船が出航する、セテロン国最後の街で聞いた噂話だと。

 詳しく聞くと、ウサギの獣人が元盗賊奴隷を使い、旅の者を襲って金品を巻き上げ、その者を奴隷商に売って荒稼ぎしていたんだと。
 兵士に賄賂を渡し、街には税を多く納めて目を付けられないようにしていたと。
 やることがうまく行き過ぎ、油断したところを、扱き使っていた元盗賊奴隷に殺されたんだと。

 完全にあの時の獣人だとカズは確信した。
 せっかく奴隷から解放され自由になったというのに、選りに選って自分がやられていた事と同じ様な事をして、挙げ句の果てに殺されては同情のしようがなかった。
 
「税の話しはともかく、半殺しにあった商人は知り合いなのか?」

「いや、ただ色んな種族を騙してた悪徳商人の噂を、俺も聞いてたもんでさ(知り合いはリザードマンの方なんだがな)」

「なんだそういうことか。長々と話を聞いてくれて、オレは嬉しかったぜ。うちの連中なんてまるっきり聞いてくれねぇんだ」

「リーダーが同じ話を何回もするからでしょ」

「一回二回ならともかく、十回二十回なんて聞きたくないのよ。シシモラも聞きたくないから、寝ちゃってるじゃない」

「わりぃ。気を付けるようにする」

「レラも寝ちゃってるし、お開きにしましょう」

「ここはわたし達が出します。少しはワイバーンを頂いたお返しをしないと」

「別にいいのに。でもそう言うならご馳走になるわ」

「はい。支払いよろしくタルヒ」

「ああ」

 ノースとルクリアは寝ているシシモラを起こし、寝ているレラはカズが抱えて店の外に出る。
 タルヒの長話を聞いていたことで、みな酔いが醒めてきており、冷たい夜風が身にしみる。
 タルヒが支払いを済ませ店から出ると、全員白い息を吐きながら、カズ達が泊まる宿屋の近くまで移動して〝春風の芽吹き〟と別れる。
 宿屋に入り宿泊する部屋に戻りレラをベッドに寝かせ、部屋にある小さな暖炉に火を入れる。
 ビワは温かいハーブティーを入れ、カズとアレナリアと共に三人で暖炉の前に座って飲み、身体を内と外から暖めてから寝た。


 ◇◆◇◆◇


 今の時刻は昼少し前、街の服屋にアレナリア、ビワ、ノース、ルクリアの四人の姿があった。
 昨夜女子トークの中で「そうだ。明日一緒に買い物に行きません? ワタシ防寒着が見たいんですよ。もちろんルクリアとビワさんも」とノースが言い出した。
 ギルドから呼び出しがなければやることもないので、アレナリアはその誘いを受けた。
 この時レラは寝ていたので、翌日行くか聞こうとしたが、出掛ける時間になっても起きなかったので、置いていくことにしたのだった。
 女性だけで大丈夫かと、カズは心配していたが「ビワならちゃんと守るから大丈夫。それにノースとルクリアだってワイバーンと戦った冒険者なんだから」と言って、寝ているレラを置いてアレナリアとビワは出掛けていった。

 カズが部屋で昼食の用意をしていると、レラが寝ぼけ顔で起きてくる。

「あれ……アレナリアとビワは?」 

「ノースとルクリアと買い物に出掛けた」

「あちしだけ置いてけぼりって酷くない」

「レラが起きたら一緒行くか聞こうと思ってたみたいだけど、一向に起きないから。ビワが一緒だから、何か買うにしても、レラの分も買ってきてくれるさ」

「じゃあいいかな。それでカズは何作ってるの?」

「作ってるってほどでもないかな。昨日買っておいたパンに、コロコロ鳥の串焼きを挟んで、少しコショウをかけただけ」

「コロコロ鳥って昨日食べた柔らかいお肉の?」

「そう。追加で頼んだのを、アイテムボックスに入れておいたんだ。出来立てを入れておいたから、温かいままだぞ」

「食べる!」

「あいよ」

 レラと二人だけで食事をしていると、オリーブ王国で暮らしていた頃を、ふと思い出すカズだった。
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