上 下
399 / 788
四章 異世界旅行編 3 セテロン国

383 ワイバーンとの戦闘 2 決着

しおりを挟む
 剣士と手甲を装備した男性二人は息を切らしながら、三体目のワイバーンに備え剣と拳に魔力を込める。

「次、行くわよ(今の二人では、あと一体が限界ね)」

「「おうッ!」」

 二人の体力魔力ともに限界間近と見たアレナリアは、渡船に近付けないように足止めをしている残り三体を、自分と魔法使いと弓使いの女性の三人で倒すことを決断した。

 ここまでワイバーンが風と土の魔法を使おうとするのを阻止し、攻撃対象が自分達以外に向かないよう、アレナリアが指示を出し女性三人で足止めをしていた。
 それでも全ての攻撃を阻止することはできず、甲板にはワイバーンが放ったエアースラッシュやストーンブレッドで出来たキズや凹みが所々に。

「あの二人はあれ一体が限界よ。こちらで残りの三体を倒すわ」

「でも、もう魔力が……」

「わたしも矢が……」

 既に弓使い女性の矢は残り一本となり、魔法使いの女性も所持していた魔力回復薬が底を突き、残りの魔力も半分を切っていた。

「あと少し、ここが正念場よ。私が合図したらフラッシュのカプセルを上に投げて、あなたがそれを攻撃する。そうしたらすぐに目を閉じなさい。そっちの二人もよ!」

「了解だ!」

 剣士と手甲を装備した二人は、目の前のワイバーンから目を反らさずアレナリアに返事をする。
 フラッシュの込められたマジックカプセルを握り、アレナリアの合図を待つ弓使いの女性。

「さあ、うまくいってよ。……ふぅ〈マルチプル〉〈ウォーターボール〉」

 アレナリアは呼吸を整え、威力の低い水の玉を無数に作り出し、四体のワイバーンの顔に向け放った。
 ワイバーン相手に威力としては皆無、だがそれで良かった。
 今まで多少なりともダメージを与えていた魔法攻撃が、単なる嫌がらせ的なものに変わり、それが多く当てられることで、四体のワイバーンは怒りを表して、その鋭い眼光がアレナリアに向く。

「投げてッ!」

「はいッ」

 合図を受けた弓使いの女性が、フラッシュの込められたマジックカプセルを真上に投げて目を閉じる。

「今ッ!」

「〈ファイヤーボール〉」

 次の合図で魔法使いの女性が小さな火の玉を放ち、マジックカプセルに当てる。
 するとマジックカプセルは弾け、強い光が周囲を照らした。
 アレナリアを信じ目を閉じた冒険者四人は、フラッシュで目をやられることはなく、四体のワイバーンはもろに強い光を目に受け、眩しさのあまり視界を完全に失った。

「今よッ! 一気に畳み掛けて」

 眩しさのあまり甲板でのたうち回るワイバーンに、剣士と手甲を装置した男性二人は、残った力を全て出し切り攻撃をする。
 飛んでいた三体のワイバーンも視界を失い、周りが見えず互いにぶつかり合っては、ギャアギャアと濁った鳴き声をあげる。

 弓使いの女性が最後の矢を持ち、矢先にマジックカプセルを取り付けて矢を射る。
 それが鳴き叫ぶ一体のワイバーンの口に入り、マジックカプセルに込められていた〈ファイヤーボム〉が口内で炸裂し、ワイバーンの頭を吹き飛ばし一体を撃破した。

 魔法使いの女性は、自分が最大限に出せる魔力を込め、狙いを定めて〈ファイヤージャベリン〉を放つ。
 燃え盛る炎の槍は、初撃で放った三本のファイヤージャベリンより威力は高く、ワイバーン一本の腹部をとらえ撃破した。

「あとは私が〈クイックフリーズ〉〈エアースラッシュ〉」

 耳触りな鳴きを上げて飛ぶワイバーンを、アレナリアは瞬時に凍らせ、風の刃で真っ二つに切断する。

 これで渡船の周りを飛んでいた三体のワイバーンは倒され、暗い大峡谷へと落ちていった。

「あっちも終わったみたいね」

 甲板に居た最後のワイバーンも、剣士と手甲を装備した二人が倒したところだった。

「だはぁ。キツかったぜ」

「もう腕が上がらねぇ」

「ワタシはもう魔力が……」

「ノース大丈夫?」

 最後の攻撃で魔力が残り僅かとなり、立ち眩みを起こす魔法使いの女性を弓使いの女性が支える。

「最後の一撃に魔力を込め過ぎたみたいね。あと少し多く魔力を使ってたら、数日は意識を失ってたわよ。今は横になって休みなさい。傷は治してあげるから」

「はい。ありがとうございます」

 アレナリアは一ヶ所に集まり休む四人の冒険者に〈ヒーリング〉を施した。
 大きな怪我をしてなかったため、低位の回復魔法で粗方の傷は治った。
 船内では揺れが収まると、落下するワイバーンを目撃した船員が数人様子を見に甲板に向かい走り向かっていた。

「そうだ、とっさの事でまだ名乗ってなかった。オレは〝春風しゅんぷうの芽吹き〟のリーダーをしている『タルヒ』だ。それでオレと一緒に戦ってたのが」

「『シシモラ』ってんだ。今回助かった」

「ワタシは『ノース』で」

「『ルクリア』よ。今回は本当に助かった」

「私はアレナリア。あっちに居る三人がパーティーメンバーよ」

 お互い名乗り終わったところで、船内から船員が甲板に姿を現した。
 そこで討伐された三体のワイバーンを目にして驚き、疲労困憊で座り込むパーティー〝春風の芽吹き〟とアレナリアに話し掛けてきた。
 襲ってきたワイバーンは全て倒したと聞くと、船員の一人が船内に報告に戻った。
 他の船員が甲板で血を流し倒れるワイバーンを見て、血の臭いを嗅ぎ付けて他のワイバーンが来たら大変だから、早く大峡谷に落とせと指示してきた。
 戦った五人にお礼も言わず、その発言はないだろうとタルヒは腹を立てた。
 苦労して倒したワイバーンは大事な素材だとタルヒは反論したが、このままだと重過ぎて移動に支障が出る言われ、強く言い返せなくなった。
 それでも交渉して、一体だけならそれほど移動に差し支えないだろうと船員が折れ、疲れた身体にムチを打ち、二体のワイバーンの体内から魔核コアを取り出し、甲板から大峡谷に落とした。

「せっかくの高価な素材が……」

魔核コアだけは取り出したんだから良いとしなさい。そのコア魔石はあなた達の物。売るなり武器や防具の素材にするなり好きにしたら良いわ」

「え、でもアレナリアさんは」

「私は手伝っただけ。だからいらないわ」

「助かる。今回の戦闘で防具がかなり傷んじまって、ワイバーンならそれなりに高く買い取ってくれるはずだ」

「私達ワイバーンが出るなんて聞いてなかったけど、あなた達は知ってたの?」

「大峡谷のどこかに居るのは知ってたが、襲われたり目撃された場所がまちまちで、詳しい生息場所は不明なんだ。今回は運が悪いと思うしかねえ」

 〝春風の芽吹き〟の四人は、タルヒの言葉の頷き同意を示した。

「でも不幸中の幸いよね。アレナリアさんが一緒の船に乗っててくれたんだから」

「まったくだ。おれらだけだったら確実に殺られて、この船も沈んでたってもんだ」

「それを考えると、本当にワイバーンをわたし達が全部貰って良いの?」

「ええ。船の都合で一体しか持っていけないのは残念でしょうけど」

 そんな話をしてると、止まっていた渡船はゆっくりと動き出した。
 現状主力の推進力での移動が厳しくなった渡船は、緊急時の装置を使って風を後方に噴射させ目的地に向かった。
 二隻の大型船程ではないが、少しの間であれば渡船も自力で移動することが可能。
 大峡谷も半分過ぎた現在の場所ならば、対岸の目的地まで魔力燃料もギリギリ足りると渡船の船長は判断し、即座に決断して装置を使用した。

 ワイバーンに襲われていた大船スカイクラウドは、渡船のことなどお構い無しに、全速力で目的地を目指して移動していた。
 渡船が動き出したので、アレナリアはカズ達の戻ろうとする。
 が〝春風の芽吹き〟のリーダータルヒと魔法使いのノースが、アレナリアと話したがって質問を繰り返す。
 弓使いのルクリアが止めに入るも、本心はアレナリアの話を聞きたく完全に止めきることは出来ない。
 シシモラは疲れて仰向けになり、黙ってそのやり取りを聞いていた。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える

昼から山猫
ファンタジー
没落寸前の貴族家に生まれ、親族の遺産争いに嫌気が差して王都から逃げ出した主人公ゼフィル。辿り着いたのは荒地ばかりの辺境領だった。地位も金も名誉も無い状態でなぜか発現した彼のスキルは「農地再生」。痩せた大地を肥沃に蘇らせ、作物を驚くほど成長させる力があった。周囲から集まる貧困民や廃村を引き受けて復興に乗り出し、気づけば辺境が豊作溢れる“黄金郷”へ。王都で彼を見下していた連中も注目せざるを得なくなる。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...