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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

378 仲間との別れ

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 荒野から山あいの道を三日移動し、低い木々の林を迂回する道を移動中。
 伐採してから数十年が経ち、低い木々は新たに育ったものだと分かり、村があったと思われる場所には、朽ちた建物らしき痕跡がある。
 この地帯は通年通して気温が低く、もし雪が降らなければ、草木に覆われて道など無くなっていたであろう。
 そんな場所を移動すること二日、林を抜け視界が開けた。
 そこはまただだっ広い荒野、そのずっと先に見えたのは、謎の真っ暗な地面……?

「なにあれ? ずっと黒いのがあるんだけど」

 レラが馬車の屋根に乗り、上から先に見える真っ暗な空間を指差す。

「もしかして地面が無いの?」

「え!?」

 アレナリアとビワが馬車から顔を出し先す。
 遠くからでも分かる、それは水路沿いをたどり橋を架けて渡ってきた、あの谷とは比べ物にならないほどの大きさ。
 カズは左右に顔を振り南北を見るが、真っ暗な空間がずっと続き先が見えない。
 ならばと目を凝らして先を見ると、真っ暗な空間の先にうっすらと対岸がぼんやりと見えそうだった。
 少なくとも南北数百キロメートル、東西十数キロメートルはあると思われる。

「大地の裂け目……」

 この時カズが頭に浮かんだのは、元居たの世界にある大地の裂け目グランドキャニオン。
 その大きさを確認するため、カズは【マップ】の範囲を広げるが、ある所から何も表示されず黒いままになっていた。
 範囲が広大で認識出来ず、マップに表示されなかった。
 表示させるには、対岸を認識出来るくらい高い場所から見る必要があった。
 表示されたのは荒野の先、真っ暗な裂け目ギリギリに作られた街。
 ここまで出来るだけ人目を避けて来たが、対岸に渡るにはどうしてもその街に行って、その方法を確認する必要があった。
 街道を通っていたら狙われる確率が上がり、ここまで来るより危険な目にあったかも知れないが、そうでなかったかも知れない。
 セテロンに入ってから、何度となく間違った選択をしてるのではと、カズは考えるようになっていた。

「今日は野宿して、明日街に入ろう」

「そうね。あんな広い谷を、どうやって渡るのか調べないと。さすがに橋があるとは思えないわね」

「あちしなら飛んで渡れる」

「だったらレラ一人で飛んで行く? あの暗い所から、モンスターが飛び出て来るかもよ」

「むりむり。みんなと一緒に行く」

「スゴく深そうですね」

「近くで見ないと分からないけど、もしかしたら底が見えないかも知れないわね」

「遠回りをしただけで、結局は街道に出るんだ。あんな所を通ってきた意味あったの?」

 痛いところを突くレラ。

「そう言われると、ただ急がば回れというし、これはこれで良かったのかも知れない」

「急いでるのに遠回り? なにそれ?」
 
「街道を通っていたら、奴隷を使って襲ってきた連中のようなのが、もっといたかも知れないじゃないか。または宿に泊まっても、そこを襲われたかも知れない」

「でも何もなかったかも知れないんでしょ」

「まあ、そうだな」

「だったら通りやすい道を進んだ方が良かったじゃん」

「あー……うん。 まあそうだな……」

 結局は帝国へと向かう主要街道に出ることになってしまったのだから、カズは返す言葉がなかった。
 考え過ぎなのか、セテロンに入ってからカズの考えは空回りすることが多い。
 アレナリアとレラは何かしら言ってくることはあったが、カズの考えを尊重してくれている。
 ビワに至っては、カズの意見を全て聞き入れている。

 もっと言ってくれても良いのだが。
 
 山間部を抜けたとはいえ、気温が低いことに変わりはない。
 だだっ広い荒野に出たことで風は強く、砂ぼこりが一行を打ち付ける。
 この日は早々に土魔法で休める場所を作り、温かい食事を取って就寝する。


 ◇◆◇◆◇


 夜が明ける少し前のこと、カズを呼ぶ声がする。
 就寝前に使用したアラームはが反応する前に、近づく何かに気付いた誰かが起こしたのだと思い目を覚ましたが違った。
 話し掛けてきた相手は、馬車を引いてくれているホースだった。

「だんな。だん…な」

「……どうした!?」

「そろそろお別れのようで」

「お別れ……」

 ホースの目は虚ろ、呼吸は弱い。
 カズは横になるホースに手をそえる。

「だんな、申し訳ない」

「ホースが謝ることなんてない。俺が無理をさせて、荒れた道を選んだから」

「荒れた道なんて慣れたもんです。老馬で使い物にならず棄てられそうになったのを、だんなが引き取ってくれて嬉しかったです。街の行き来だけで終わるはずだったのに、国を出て皆さんと一緒に旅が出来て幸せでした」

「どうしたんですか?」

 カズの声で目が覚ましたビワが、起きて来た。

「アレナリアとレラを起こして来てくれ」

「ぁ…はい。分かりました」

 弱々しい呼吸をするホースを見て、察したビワが急いでアレナリアとレラを起こしに向かう。
 眠い目を擦りながら、二人は馬車から降りて来た。

「どうしたの…カズ?」

「ふあぁ~……まだ暗いじゃん。あちし眠いんだけど」

 寝ぼけ眼でカズを見た二人は、横たわり弱々しく呼吸をするホースを見て、完全に目を覚ます。

「ね、ねぇカズ。ホースどうしたの?」

 レラはカズの様子と雰囲気から、あることが頭をよぎるも、それは間違いであってほしいと願った。
 アレナリアは覚悟をするよう言われていたので、来るべき時が来たんだと、黙ってホースの元に駆け寄り声を掛ける。

「ここまで運んでこれてありがとう。疲れたでしょ。あとはゆっくり休んで。……ビワ」

 レラの動揺する様子を見て、アレナリアは先にビワと場所を代わった。

「雨の日も雪の日も、暑い日も寒い日も、私達を運んで…一緒に旅をしてくれて…ありがとうございました」

 ビワは涙ぐみながら、ホースにお辞儀をする。

「最後にレラも、ホースに声を掛けてあげなさい」

 じっとホースを見るレラに、最後の別れをするように言うアレナリア。

「最後……ホース死んじゃうの? 嘘だよね。ちょっと疲れてるだけだよね。ね、ね、そうでしょカズ」

 レラの問いにカズは黙って首を横に振る。
 するとレラはホースにしがみつき涙をぼろぼろと流し出す。

「も、もっと一緒にいようって言ったじゃん。うわぁ~ん」

「レラ…そんなに泣くと、ホースが辛くなるわ」

「そうよレラ、いつもみたいに笑って見送ってあげなさい。その方がホースも喜ぶわよ」

 声を上げて泣き出すレラをビワがなだめ、アレナリアが笑って最後を見送るように言う。

「う……うん。元気でねホース」

 ホースが微かに口を動かし、最後に思いを口にする。

「楽しい旅……もっと一緒に…行きたかった……」

 ホースはゆっくりと目を閉じ眠りにつく。

「ホースはなんて?」

 アレナリアに言われ、ホースの最後の言葉をカズが通訳して三人に聞かせる。

「ねぇカズ。ホースはもう……?」

「今は眠っただけだが、もう目を覚まさないだろう。もっても朝まで……」

 ホースの状態を聞いた三人は、最後まで側に付き添うことにし、ホースの顔が見える位置に集まって座る。
 ホースが寝つき一時間程すると、外が少しずつ明るくなってくる。
 もう目を覚まさないと思ったホースの目が開き、一ヶ所に集まる四人に目を向けると、ゆっくりと目を閉じ息を引き取った。
 涙ぐむアレナリアとビワ。
 レラは涙を流しながら笑顔を作る。
 カズは両手を合わせて目を閉じると、アレナリア、レラ、ビワの三人も同様に手を合わせ目を閉じ、ホースの安らかな眠りを願った。

「ホースとはここでお別れね」

「ホースをどうするの? こんな所に置いていかないでしょ?」

「カズさん……」

「埋葬して獣にでも掘り返されたら浮かばれない、火葬して骨を持っていこう」

「帝国に入ったらお墓を作るの?」

「良さそうな場所があればそれでも良いんだが」

 セテロンの荒野に埋葬していかないのは分かったが、ホースの遺骨をどうするのか三人は疑問に思った。

「まだまだ先のことだけど、一度はオリーブに戻るんだ」

「そういうことね」

「ホースのお墓をオリーブに?」

「本当は早く埋葬してやった方が良いんだが」

「あちしもそれが良いと思う。ホースもその方が喜ぶよ。王都にある家の庭に埋めてお墓作ろうよ」

「俺はホースを火葬するから、三人は馬車から荷物を下ろしておいて」

 カズはホースを馬車から離れた場所に運ぶと、トレカ『鎮魂の白炎』を使った際に得た火属性と光属性の魔法〈ホワイトフレイム〉を使用する。
 地面に横たわるホースの亡骸が、淡く白い火に包まれる。
 みるみるホースの体が燃えていき、骨だけになったところで火を消す。
 カズは三人に馬車から荷物を下ろしておくように頼んだのは、ホースが燃えるところなんて見せられないと気をきかせたから。
 馬車から荷物を下ろした三人がカズの元に来る頃には、ホースは火葬され骨だけになっていた。
 全員でホースの遺骨を拾い集め、レラの服を作ったときにあまった布で包み、カズが【アイテムボックス】に丁重にしまった。
 同様に馬車も入れると、四人は街に向けて出発する。
 馬車に積んであった女性三人の荷物は、ビワが持つアイテムポケット付与のバッグに入れているので、かさばることはない。
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