上 下
380 / 781
四章 異世界旅行編 2 トカ国

365 とんだ運搬依頼 と お礼の一枚

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇


「ちょっと寝相悪いわよレラ」

 自分の顔に足の裏を押し付け寝るレラを、アレナリアは押し退ける。

「まだ眠……じゃない! あれ? なんで馬車で? 確か歌が聞こえてそのまま……カズの声がする」

 飛び起き馬車から降りて甲板を見渡しすアレナリア。
 運搬船の隣に停まっている船の上で、カズと乗組員が話しているのが目に入った。
 アレナリアが起きたのに気付いたカズが、乗組員との話を終えて運搬船に移る。

「何があったの? 昨夜のゴーストは?」

「盗賊の仕業。もう全員縛り上げてあそこに。街に着いたら乗組員が国の兵士に突き出してくれるって」

「セイレーンは?」

「知ってたんだ」

「気付くのが遅くて、眠らされちゃった。ごめんなさい」

「大事にはならなかったから別にいいよ。それとそのセイレーンならもういないよ」

「逃げられたの?」

「違う違う」

 カズはアレナリアに昨夜の出来事を簡潔に話した。

「そういうことで、ローラは盗賊に捕まって、利用されてた被害者だったんだよ」

「ローラ?」

「言うの忘れたけど、捕まってたセイレーンの名前だよ。知ったのは今朝なんだけど」

「今朝? そのローラってセイレーンは、助けてくれたカズに感謝もせずにどっか行っちゃったんでしょ」

「その時はね。実は─」


 《 二時間前 》


 明け方になりカズが目を覚ますと、去って行ったセイレーンが船の近くに戻って来ていた。
  目を覚ましたカズは近付くその気配に気付き、沖に顔を向けた。
 すると捕まっていたセイレーンが、水面に顔を出した。

「わたし『ローラ』助けてくれたお礼言ってなかったから。あ…ありがとう」

「どういたしまして。わざわざそれを言いに戻ってきてくれたんだ」

「……うん」

「そうか、ありがとう。元気でな、もう捕まらないように気を付けて」

 優しくカズに微笑むと、ローラは握っていた物をカズに投げる。
 投げられそれを掴み取り、手の中の小さな物を見る。
 それは深い青色から浅い青色に、角度を変えると蒼色へと変化し、色彩見事な一枚の鱗。

「あげる。それ怪我した時に剥がれた、わたしの鱗」

 それだけを言うと湖に潜り、今度こそ本当に去って行った。


 《 そして今現在 》


「─と、まぁそんな感じ」

「きっと盗賊から暴力を受けた時に剥がれなたのね。セイレーンの鱗はとても貴重な物だから、とっさに隠したんだわ」

「そうなのか?」

「ええ。高価なアクセサリーに使われたりすることもあるそうよ。昔はセイレーンの鱗を手に入れるのに、権力者が腕の立つ人を雇って捕まえてたって、前に本で読んだことあるわ。セイレーンの鱗は、本人から剥がれると美しく輝くんですって」

「鱗目的で捕まえるのって、今でもあるのか?」

「どうかしら? ただ今回の盗賊は大したことない連中だったみたいね」

「ああ。Cランクの冒険者崩れだから、ヤクとアスチルの二人と同じくらいかな」

「だからね。セイレーンの鱗の価値を知ってれば、売り飛ばすか最悪の場合は、鱗を剥ぎ取ったら回復してまた剥ぎ取る。それを死ぬまで繰り返し……」

「酷いもんだな」

「昔の事よ。今はない……なんて言えるか分からないけど、そのローラってセイレーンはカズを信用したのは間違いないわよ。渡された鱗がその証拠」

「だな。大事にしないと。あ、ローラがどうやって捕まったのか聞いてないや」

「Cランク程度の盗賊に捕まるなんて、レラみたいに昼寝でもしてたのかしら」

「まさか、そんなわけないだろう。きっと友達を庇ったとかしたんだよ」

「ふ~ん。その優しさで、今度はセイレーンをたらし込むのね」

「込まねぇよ!」

「冗談よ。冗談」

「そういう冗談はよしてくれ(これ以上のハーレムフラグは必要ない。俺にそれを扱える度量もないんだから)」

「しかしとんだ運搬依頼ね。護衛どころか討伐依頼の間違いじゃない。今回は完全に一杯食わされたわね。カズからハイロの話を聞いて、そんな気がしてたのよね。ギルドに着いたらハイロの名前を出して、追加報酬を貰わないと」

「今回はたまたまこの船が狙われただけなんだから、そこまでしなくても」

「たまたま? 違うわね。グリズの手紙を読んた時から、この依頼を受けさせることを考えてたのよ」

「まさか」

「いいえ、そうに決まってる。パーティーランクが低いんだから、ギルド的には受けさせるわけないのに、サブマスの権限でトンネルを通るヒューケラの護衛依頼をさせたんだから」

「考え過ぎじゃないか? もしそうだとしても、こっちもそのつもりはあったろ。グリズさんの称号を知っても、付けられたパーティー名をそのまま使ってるんだから」

「それは……まあ、そうだけど」

「不満なら追加報酬の件はアレナリアに任せるよ。一応、幾つか盗品を回収しておいたから、それをギルドに渡せば嫌な顔はしないだろ」

「さすがねカズ。でももし渋るようだったら、その盗品は私達が報酬代わりに貰いましょう」

「それだと盗まれた側がかわいそうだろ」

「ギルドが渋ったらの話よ。ところで昨夜の霧とゴーストはなんだったの?」

「幽霊の正体は、盗賊の船にあったアーティファクト」

「あれはアーティファクトの効果だったの! なら納得。アーティファクトは不明な物が多いから」

「確かに(残留思念を見ることができるスゴい物なんて作ったのに、なんでそれが貝なんだ? 面白いけど)」

 全てが夢だったかのように思える幽霊騒ぎの一夜が明け、運搬船は島を離れ目的の港を目指す。
 昨夜騒ぎだし、アレナリアがスリープで寝かせた怪力千万の従業員は、全て夢だと思っていた。
 空気を読み他の人達も、昨夜の事はこと黙っていた。

 盗賊が乗っていた船は、運搬船の乗組員が操縦していくはずだったが、燃料魔力不足で目的の港まで持たないとのことだった。
 運搬船で引っ張っていくと、今度は運搬船が目的の港まで持たないと、話し合いの結果カズが盗賊の船を操縦して行くことになった。
 乗組員が船を調べると、蓄えられてた燃料が殆ど無く、運搬船と一緒に行くのであれば、燃料魔力を補充しながら船を動かすしかない、と。
 操縦席の舵に魔力を流せば、船の燃料推進力を作り出すことが出来る仕組だと、運搬船の乗組員に教えられた。
 ちなみに船を操縦する資格のようなものはなく、必要なのは経験と緊急時に動かせるための魔力量だと。
 船を操縦した経験のないカズは、運搬船から距離を取り動かし始めた。
 最初は蛇行しながらもゆっくりと動かした。
 徐々に慣れて、三十分もすれば動かすのは思いのまま。
 昼頃になると風が弱まり帆がたるむ。
 目的の港まであと少しだからと、カズの操縦する船で運搬船を牽引して行くことになった。
 承諾したカズだが、一人だけこんなに働かせられるのなら、やっぱり追加報酬をもらっても良いだろうと考えるようになった。
 アコヤ港を出てから四日目の夕方、色々とあったが、予定の日程と大差なく目的の港に到着。
 盗賊は港を警備する国の兵士に、運搬船の乗組員一人が知らせに向かい、怪力千万の従業員と依頼を受けてきたカズ達と、ヤクとアスチルの二人が荷物を運搬船から陸へと下ろし、港近くの倉庫に運ぶ。

 ギルドへの報告は翌日にして、この日は怪力千万が保有する倉庫で、ヤクとアスチルの二人と一緒に一夜を過ごすことになった。
 一応まだ依頼の最中ということで、二人に食事を出すという約束は継続していると考え、カズは二人にも遅い夕食を振る舞った。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝、倉庫を出発する前に怪力千万のダンベが話があると顔を見せた。
 内容はアコヤ街の冒険者ギルドで、サブ・ギルドマスターのハイロから、幽霊が出る濃い霧に接触しそうな船に対処出来るだろうパーティーを行かせた、と連絡が来ていた事についてだった。
 問題の霧と接触する可能性が高いと知りながら、それを伝えなかったことをダンベは謝罪した。
 アレナリアは怒り文句を言う。
 カズも少しは文句言おうと思っていたが、アレナリアが代わりに言ってくれたことでスッキリして、ダンベの謝罪を受け入れてアレナリアを落ち着かせた。
 アレナリアはまだ言い足りなそうにしていたが、カズがもう黙らせた。
 それは話の内容が依頼内容を黙っていた文句から、カズと二人っきりになってキス出来るチャンスを潰されたことに、話が変ってただの愚痴になっていたから。
 そのゴツい体型が小さく見える程背中を丸め反省したダンベに声を掛け、アレナリアが言い過ぎたとカズがお詫びした。
 今回の功労者であるカズの言葉を聞き、少し元気を取り戻したダンベは、問題になっていた霧と幽霊の件を解決してくれた事に感謝をして別れた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語

京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。 なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。 要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。 <ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。 今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。 推奨:流し読みでのストーリー確認( 晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。 不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。 何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。 だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。 生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...