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四章 異世界旅行編 2 トカ国

364 霧と幽霊の正体

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 盗賊のリーダーは両手に持つ短剣でカズに斬りかかるが、どう見ても使いなれてない様子。
 明らかに今回のなような事をして、奪い手に入れたのだと分かる。
 攻撃がかすりもしないと、火属性の水晶がはめ込まれた短剣に魔力を込め、剣先から〈ファイヤーボール〉を放つ。
 拳大の火球は明後日の方向に飛んでいき、湖に落ちジュっと消えた。
 次は風属性の水晶がはめ込まれてる短剣に魔力を込め、短剣を振り下ろして〈エアースラッシュ〉を放ち風の刃を飛ばす。
 しかしこれもカズ目標を大きく外れ、風の刃は上空へと飛んで消える。
 飛んだ先を見上げボケっとしている盗賊のリーダーに、カズの左こぶしが右脇に入り、衝撃と痛みで短剣を落とす。
 続けて左腕に手刀を当て、二本目の短剣を手放させた。

 突如現れたカズ人族の男に優しげな話し方をされたセイレーンは、目の前の光景に考えを巡らせる。
 両手に短剣を持ち斬りかかる盗賊を軽くあしらうカズ人族の男に、セイレーンはただただ混乱するだけ。

 武装して意気揚々と船内から出て来た時とは違い、言うことを聞かない二本の短剣に腹を立てた盗賊のリーダーは、手放させられた二本の短剣を拾わず、後ろ腰に携えた湾曲する剣を持ち正面に構える。
 鎧に付与された〈ヒーリング〉を使用すると、カズを再度攻撃。
 使い慣れた剣に持ち変えたことにより、今までとは動きが違い剣さばきが良くなった。
 ただ、二本の短剣を手放したことにより、身体強化の効果は消え動きが鈍くなった。
 手に入れたレア物の武器の効果で動きが早くなり攻撃力も上がるが、身体がついて行かず、結局は使いなれた剣を持ち攻撃を行う。
 だがさっきまでと比べ動きは遅く、結果使い慣れない二本の短剣は盗賊のリーダー自身の魔力を消費させるだけとなった。

 迫る湾曲の剣を避け、鎧の上から腹部を蹴り飛ばす。
 多少のダメージは入るものの効果は薄い。
 起き上がりながらもう一度鎧に付与された〈ヒーリング〉を使い回復して、カズを再度攻撃する盗賊のリーダー。
 いつもならライトニングショットで気絶させるて終わりだが、電撃耐性がある手甲を付けているのでそれも出来ない。
 どの程度の耐性があるか分からないため、威力を上げる過ぎるてしまえと、相手を感電死させることになりかねない。
 賊なのだから殺してしまっても罪には問われないが、殺さずに済ませるならそれがいいとカズは考える。

 横薙ぎにはらわれた剣をしゃんがんで避け、盗賊のリーダーの足元を〈フリーズ〉で凍らせ動きを止め、後ろに回り込み腕を首に回し絞めて落とす。
 スリープで眠らせることも考えたが、セイレーンの歌声を警戒した対処法を持っているかも知れなかったので、それはしなかった。
 暴行を受けていたセイレーンと、カズにのされた盗賊以外に怪我人を出すことなく鎮圧は完了。
 カズは船上に放置された縄で盗賊を縛り上げると、セイレーンのいる船首に移動した。

「先ずはその枷を外すから、両腕をこっちに向けて」

 セイレーンは落ち着きを取り戻していたが、少し怯えもしていた。
 本当は助けたわけではなく、自分を売り飛ばすつもりではないか、と。
 しかし枷を外すと言うならば外してもらい、もし捕まりそうになったら湖に飛び込んで逃げればいいんだと思い、セイレーンは枷が付けられた両腕をカズに向けた。

「外すからじっとして。ついでに傷も治すから〈ブレイクアイテム〉〈キュアヒール〉」

 カズの魔法でセイレーンの枷は破壊され、身体中の傷と下半身(魚の部分)に受けていた毒が取り除かれた。
 鞭で射たれた傷や青あざは消え、動かす度に痛かった尾ビレはなんともなくなっていた。

「下半身が毒におかされてたから、解毒もしておいた。どこかまだ痛いところや、違和感なんかはある?」

「大丈夫。どこも痛くない。ヒレを動かしても痛くない」

 ついさっきまで枷が外れたら逃げようと思っていたのを忘れ、セイレーンはカズの言葉を素直に聞いて質問に答えた。

「なら良かった。一人で帰れそうなら行ってもいいよ。俺は夜が明けたら、皆を起こして目的地に向かうから。盗賊コイツらは国の兵士に引き渡しておく」

 それを聞いたセイレーンは、何か言いたそうにして一瞬カズを見る。
 が、結局何も言わず湖に飛び込み、そのまま水中を泳いで姿を消した。

「これで人族嫌いになるのは確定かな。元々がそうだったかもしれないけど(まぁ、仕方ないか。拘束され脅されてもいたんだから。怪我を治して自由にしても、警戒されて当然か。一応人族だからな。俺も)」

 一度運搬船に移り、寝ている全員の状態を調べ、異常がないことを確認すると、盗賊の船を調べに戻る。
 船の甲板には絡まったロープやゴミが散乱し、他に盗賊行為をしたという証拠はなさそうだった。
 あるとしたら、盗賊のリーダーが装備してきた物くらいだろうか。
 カズは船内に入り中を調べる。
 食べ掛けの物や大量の酒ビンが散乱し、船内は酸っぱい臭いが漂い鼻がまがりそう。
 船内を調べると、一つある木箱の周りだけには、不自然にゴミが溜まっていなかった。
 罠かとも思ったが、寝泊まりにしている船にそれはないだろうと、カズは木箱の蓋を開けた。
 中に入っていたのは60センチメール程の貝が一個。

 なんだこれ? 非常食? んなわけないか。
 とりあえず《鑑定》してと。


 【二枚貝の白昼夢・ついノ外】『特級・アーティファクト』

 ・ その場の残留思念を読み取り記録し、吐き出した霧の中に映し出す。
 ・ 記録してある残留思念を映し出すことも出来る。
 ・ 記録出来る残留思念は一つまで。
 ・ 新たな残留思念を読み取り記録して映し出すと、古いものから消えていく。(夢見る二枚貝・対ノ内が無い場合は、前回の残留思念が上書きされ消える)
 ・ 映し出された残留思念に触れることは出来ない。
 ・ 夢見る二枚貝・対ノ内と合わさることで、残留思念を複数記録して残すことが出来る。


 【夢見る二枚貝・ついノ内】『二級・アーティファクト』

 ・ 二枚貝の白昼夢・対ノ外がないと、夢見る二枚貝・対ノ内は使用できない。
 ・ 二枚貝の白昼夢・対ノ外と合わさることで、読み取った残留思念を記録しておくことが出来る。
 ・ 記録して残せる残留思念は最大四つまで。
 ・ 記録してある残留思念を、二枚貝の白昼夢・対ノ外を通して映し出すことが出来る。
 ・ 新たな残留思念を記録すると、古い記録から消えていく。


 幽霊船もこれを使ったんだろうな。
 この実力でアーティファクトを奪ったとも考えにくい、たまたまダンジョンで見付けたってところかな。
 しかし貝は一つしかないんたけど……中にもう一つあるのか?

 カズは二枚貝を開けてみると、二回り程小さな二枚貝が入っていた。
 試しに中の小さな二枚貝の方も開けようとしたが、こちらは接着されてるように硬く中々開かない。
 力ずくで開け壊れても困るので、中の二枚貝は開けずにそのままにした。

 どういう作りで出来てるか、全然解らないな。
 とりあえず盗賊が装備してたのと、このアーティファクトは回収しておこう。
 盗賊が装備していた方は、盗品としてギルドに報告すれば、持ち主が分かるかも知れない。
 どうせこの船も盗んだんだろうし、朝になった運搬船の乗組員に話して、操縦してってもらおう。
 俺、船なんか動かしたことないし。
 しかし二枚貝が霧で幻をって言ったら、昔話を思い出した。
 確かはまぐり蜃気楼しんきろうを作り出してる、だったと思ったけど……まぁ、いいか別に。

 気絶している盗賊を一ヶ所に集め〈アラーム〉を使用してからカズは就寝した。
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