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四章 異世界旅行編 2 トカ国

359 船酔い と ジャンク

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 運搬屋に残ったのはカズ達と、Cランクの若い男女の冒険者。
 他の運搬業者の所も似たような感じだった。

「馬車持ちのあんたは残ってくれると思ってた。そっちのお二人さんもありがとよ」

「ぼくら所持金が少なく湖を渡るお金がなくて、この依頼を受けたんです」

「その霧と必ず接触するわけじゃないんでしょ。だったらお金も貰えて湖を渡れるなら残るわよ」

 若い男性の方より、一緒の若い女性の方が言動からして勇ましく見えたのだが、少し足が震えていた。

「こっちとしては、仕事をしてくれればそれでいい。力はあるか? かなり大きな荷物もあるからな。護…あ、いやまあいい。さあ船に運び入れるぞ」

 カズは馬車に荷物を積み込み、アレナリアとビワには乗せた荷物の整理をして、二人が寝れる場所を確保する。
 レラはホースの手綱を握って待つようにさせた。(一応働いてるよう見せるため)
 幾つかの重い荷物は、数人で運搬船に運んだ。
 運送する場所は公平にするため、各運搬業者が持ち回りでしている。
 今回一番遠い対岸に荷物を運ぶのは、怪力千万の運搬屋らしく、小さい方の運搬船一隻を使うことになってる。
 そのため船に乗る人数は、怪力千万の従業員が四人、カズ達〝ユウヒの片腕〟が四人、若い男女の冒険者が二人、そこに船を動かす乗組員が五人の計十五人。
 運搬屋として護衛を頼むのであれば、もう数人はほしいところだが、今回の依頼は急を要したため贅沢は言ってられなかった。

 自分達怪力千万の従業員はゴツい男ばかり、盗賊が襲ってきてもそう簡単にはやられはしない、そうダンベは自負していた……数日前までは。
 レオラ女性一人にゴツい男達が簡単にのされたことで、長年培ってきた自信が揺らぎ、未だに引きずっていた。
 思い返しては元気をなくすダンベに乗組員が声を掛け、運搬船はアコヤ港を出港する。

 カズは使われる運搬船に関して、乗組員から話を聞いた。
 今回乗っている運搬船は小さめといっても、一般的によく使われている馬車が五台は積める広さ(ギリギリ)はある。
 型が古いため動力の基本は風を受けて進む帆船だが、凪や緊急時などには両側面にある車輪を回し進むことが出来る。
 車輪で動くと聞き、カズが頭に浮かんだのは歴史ものの作品で見た黒船。
 が、実際は甲板が広いだけで、休憩場所などなく、唯一の室内は船を操舵する所のみ。
 船上に屋根はあるものの、雨避け用に傾斜を付けた板が取り付けられているだけ。
 車輪を動かすのは操舵室に設置された、大きい水晶に溜められた魔力を使用する。
 一度港に入ると、最低でも二日は出港しないらしい。
 水晶に溜めることの出来る最大魔力量の半分が溜まるまでは、出港しない決まりになっている。
 理由は出港した後に凪が続いた場合、水晶に溜めた魔力だけで陸まで移動しなければならない。
 もし魔力切れになると、それは命の危機にもなるからだ。
 殆どの運搬船は古く同じ作りをしているが、定期船は新しいため動力が違うらしい。
 帆はあるが小さく、それはゆったりと湖上を進む用にあるだけで、本来の動力は船の後方底にある噴出口があり、そこから吹き出す勢いで進むのだと。
 その速度は運搬船より遥かに速いと。
 カズはその動力の構造を聞くと「水を生成するアイテムと火を使ってなんとかすると進む」と、乗組員は詳しく知らないようだった。
 もしくは部外者に新しい船のことを教えられないのかも知れない。

 カズは水と火を使って動く船と聞き、子供の頃を思い出した。
 ポコとかポンとか音がして進むおもちゃの船を、あれも水と火を使い水蒸気を動力として進むのだと。

 おっと、今そんなことを考えていてもしょうがない、とりあえず一緒の依頼を受けた二人の冒険者に挨拶をしておこう。

 カズは男女の冒険者の所に行き、パーティーメンバーを紹介した。

「ボクは『ヤカ』です。よろしく」

「アタシは『アスチル』よ。他にも女性が居てくれて嬉しいわ。気軽にヤカ、アスチルって呼んで。アタシ達も気軽に呼ばせてもらうから」

 若い男の方はヤカ、若い女の方はアスチルと名乗った。

「別に構わないわよ。いいでしょカズ」

「ああ」

「二人とも17歳よ。Cランクになってから間もないの」

 ヤカの話では二年程前に知り合ってから、旅をしながら冒険者として一緒に活動しているのだと言う。
 今回の依頼が護衛だとCランクでは受けられなかったが、運搬の依頼だということで船に乗れると知り、この依頼を受けたんだと。

「数日間だけ一緒の船に乗るわけだけど、後で知られて気分を悪くさせたくないから先に言っておくわ。アタシもヤカも人族じゃなくて半獣人なの」

「獣人じゃなくて半獣人? 何が違うんだ?」

 アスチルの言葉を聞いても、カズは疑問に思った。

「あんたら半獣人ジャンクって聞いたことない?」

「ジャンク?」

「私は聞いたことだけはあるわ。一応ね」

 カズとレラとビワは初耳だったが、アレナリアだけは知っていた。

「ボクは人と獣人の間に生まれたんだ。見た目は人族だけど、感情が高まると獣人としての姿が体のどこかに現れるんだ」

「半獣人を見るのは初めて。種族の違う獣人が結ばれて生まれる子は、どちらかの親の特長は必ず残るから。でも半獣人の場合は、殆どが人のそれで生まれてくるのよね」

「そういうものなんだ」

「今でも差別の対象にされるわね。故郷から追い出されるなんて事も、珍しくないみたい」

「ボクらがそれさ」

「あなた達もアタシらを差別する? それでもいいけど、この依頼中だけは穏便に済ませてほしいわ。旅をするには、今回の報酬は大きいから」

「敵対してるわけでもないのに、差別する理由なんてないよ。それを言ったら……(俺この世界の人じゃないし)」

「それを言ったら? なに?」

「私達も似たような扱いを受けた事があるのよ。今では昔の事だから気にしないけどね」

「へぇーそうなんだ。アレナリアは小人とエルフのハーフなの?」

 アスチルの発言に、アレナリアの眉がピクリと動く。

「誰が小人みたいにちっこいガキんちょの幼児体型ですっ…」

「よ~しよし、落ち着けアレナリア。そこまでは言ってないからな。ちょっと馬車に戻ろうか」

 額に血管が浮き出そうになるアレナリアを落ち着かせるため、馬車に連れて行く。

「ちょっとアスチルやめなって!」

「冗談のつもりだったんたけど」

 ヤカが注意すると、二人の元に戻ってきたカズに、アスチルが自分が口にしたことを謝罪する。

「慣れてきたけど、まだ多少は気にしてるから気を付けてもらえる」

「すみません」

「ごめんなさい」

 すぐに反省して謝る二人を見て、悪い人ではないとカズは感じた。
 ただアレナリアの印象では、礼儀をしらない冒険者ひよっこという印象になった。

 運搬船は帆に風を受けて波に揺られながら湖を進む。
 三時間程経過すると、約一名青ざめて苦しむ姿があった。

「そんなに苦しければ、酔い止めの薬飲めばいいのに」

「あれは感覚がにぶ……うぷ、気持ち…わる」

「大丈夫ですか? やっぱり今からでも薬を飲んだ方が」

 船酔いで苦しむアレナリアに、買っておいた酔い止めの薬を飲むように言うレラとビワ。

「い、いらない。酔い止め薬って……うぷ」

「まさか苦いから飲まなかったとか言うんじゃないだろうな」

「……」

「図星かよ。ほらとっとと飲んだ飲んだ」

「スッゴい苦いから嫌」

「子供か!」

「カズの口移しなら、飲んでもいい」

「この……よし分かった」

「……えッ! いいの? なら飲…」

「一度湖に放り込んでやる。船酔いは肩まで浸かれば一発で良くなるっていうし(本当かどうか知らんが)」

「ひどッ! ヒドいわカズ。弱ってるんだから、優しくして」

 感覚が鈍るからと酔い止めの薬を飲むのを拒否するアレナリアだが、実際のところは苦いのが嫌で飲まなかっただけだった。

「買っておいたのに酔い止めを飲まないアレナリアが悪い。我慢して早く飲む」

 アレナリアは嫌々ながらも、酔い止め薬を顔を歪めながら飲んだ。
 小一時間もすると薬が効き、顔色も良くなり動けるようになった。
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