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四章 異世界旅行編 2 トカ国

347 パーティーランク と ついでの人助け

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 ◇◆◇◆◇


 翌朝早くに起きたカズは、一人宿屋を出る。
 宿屋からギルドまでは、大通りを渡らなければならない。
 朝早くから開いてる店は少なく、観光客がごった返す大通りでも人はまばら。
 昨日感じた視線もない。
 ギルドに着くと、この街を拠点とする冒険者で賑わっていた。

 とりあえず貼ってある依頼でも見るか。
 次の街までの配達依頼でもあればいいんだけど、そう都合良くはないか。

「あ! あなた」

「はい?」

「どうして昨日来てくれなかったの」

 振り返り声を掛けてきた人物を見ると、一昨日ギルドに来たとき書類を渡したせっかちな女性職員だった。

「明日以降でいいと言われたので」

「冒険者なら配達した書類と一緒にギルドカードを提示してちょうだい。確認不足だとわたしが怒られたのよ」

「すいません。聞かれなかったもので(人の話を聞かずに、とっとと話を終わらせたのあんたでしょうが)」

「来てくれたならいいわ。付いて来て」

「は?」

 スタスタと歩き出す女性職員を見て呆然とするカズ。

「何してるの早く!」

「あ、はい(いったいなんなんだよ?)」

 カズは周り人達からの視線を浴びながら、せっかちな女性職員に付いて階段を上る。
 ギルドの階を上がり案内されたのは、資料室の隣にある執務室。
 バンッ、と部屋の扉を開けて入ると、熊の獣人男性が一人で机に向かい書類仕事をしていた。

「失礼します。キ町から書類を配達してきた冒険者が来ましたので、連れてきました」

 ペンを走らせる手を止めて、部屋に入ってきた女性職員とカズを見る熊の獣人男性。

「『イパチェス』また忘れてるぞ」

「は! す、すみません」

 部屋に入る際にノックをしてないと、注意される女性職員のイパチェス。
 また、と言うだけあって、イパチェスは急いだり焦っていると、扉を勢いよく開けてノックするのを忘れてしまう癖がある。

「もう少し気持ちに余裕を持てと言ってあるだろ」

「……はい」

 しょぼんと落ち込むイパチェス。

「あとはこっちで話をする。イパチェスは仕事に戻っていいぞ」

「わかりました」

 イパチェスは連れてきたカズを置いて仕事に戻った。

「イパチェスのことは気にしないでくれ。仕事はそこそこ出来るんだが、あの性格なもんでな」

「はあ。えっとそれで、何で俺はここに連れて来られたんでしょうか?」

「それも伝えてないのか」

 自分の額に手を当ててタメ息をつく熊の獣人男性。

「イパチェスにはまた言っておかなくてはな。オレは『ハイロ』このギルドでマスターの補佐をしている」

「補佐? それって、サブマスターってことですか?」

「有り体に言えばそうだが、オレはそんな器じゃねぇと思ってる。だから自分からは言わねぇようにしてるんだ」

「そうなんですか。ところでサブマ…」

「ハイロだ」

「…ハイロさんが俺を呼ぶように言ったんですか? あのイチェ……受付の女性に」

「彼女はイパチェス。見てて分かると思うが、せっかちで空回りするような性格だ」

「会って二度目ですが、それは分かります。それで用件とは」

「その前に名前を教えてもらえるか? あとパーティーを組んでると聞いた。その名とギルドカードも確認させてもらいたい」

「あ、これは失礼しました。俺はカズです。パーティー名は〝ユウヒの片腕〟と言います。それとこれが俺のギルドカードです」

 カズからギルドカードを受け取ったハイロは、表示されている名前とパーティー名を確認してカズに返した。

「うむ、確かに。連れて来てもらったのは、君が届けた手紙を読んだからだ」

「手紙ですか……?」

 届けた覚えのない手紙と聞いて、カズの頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。

「運んできた書類の中に入っていた。差出人はグリズの旦那からだ」

「グリズさんが手紙を!? (トリンタさんは何も言ってなかったけど、手紙のこと知らなかったのか?)」

「手紙の内容はだ。旦那が世話になったから、帝国本土に向かう手助けをしてやってくれ。と、オレに言ってきた。パーティー四人の内二人がBランクで、二人が登録したばかりのEランクで合ってるか?」

「はい。連れのEランク二人は、身分証代わりにグリズさんが作ってくれたので、戦闘は出来ませんが」

「それも書いてあった。トンネルを通って帝国本土を行く護衛を、と旦那が頼んできたが……正直Bランク二人で、あとの二人は足手まといではなぁ」

「グリズさんがそんなことを。その気持ちだけで結構です。フギ国に入って、山脈を迂回するつもりでしたから(通行料がもっと安ければ、トンネルを通るつもりだったけど)」

「街にはどれくらい滞在するつもりだ?」

「観光もしましたし、食料を買い揃えたら明日にでも出発しようかと。次の街までの配達の依頼でもあれば、受けるつもりでしたが」

「そうか……。何件か護衛の依頼はあるんだが、殆どが貴族だからパーティーランクの低いのを護衛に付けるのはやはり難しいな」

「パーティーランクとは?」

「パーティーメンバーのランクの平均で決まると思ってもらえればいい。カズ達のパーティーランクはDランクだ。パーティーを組んで間もないことと、実質戦闘は二人だけだからな。安全な街道を通るとはいえ、最低でもCランクのパーティーでなければ。しかし旦那の頼みだからなぁ……」

 ハイロが腕を組み考え込む。

「無理してもらわなくても、先程も言ったように山脈は迂回するつもりですから」

「出発は明日の予定と言っていたな」

「はい。特に何もなければ」

「なら明日の朝にもう一度ギルドに来てくれ。その時に護衛の依頼があれば受けてもらう。そうすれば旦那の顔を潰さずにすむ」

「分かりました(グリズさんには悪いけど、パーティーランクの低い俺らには、護衛の依頼なんてくるわけない。ハイロさんも一応は探したってとこを見せたいんだろ)」

 ハイロとの話を終えたカズは、ギルドを出て食料を買い宿屋に戻った。
 カズ一人だったからなのか、前日の視線を感じる事はなかった。
 路地を抜け泊まっている宿屋までもう少しとしたところで、何やら騒ぎ声が聞こえてきた。
 宿屋が視界に入り、その近くにはこんもりとした塊が。
 よくよく見ると、それが人が重なったものだと分かった。
 宿屋の前に騒ぎ声の原因が居た。
 一人はアレナリア、もう一人は聞いたことのない声、カズは話し声に耳を傾けながら宿屋に戻っていく。

「是非ともお名前を~」

「だからぁ、しつこいわよ。この手を離して、とっとと帰りなさい。でないと、またああいった連中が寄ってくるわよ」

 そこでカズの目に映ったのは、アレナリアに抱き付く一人の女の子の姿だった。

「どしたの?」

 カズか声を掛けると、女の子がチラリと見て何事もなかったかのように無視をする。
 アレナリアは助けを求める顔をしていた。

「……お取り込み中失礼しました」

 二人の横を過ぎ去り、宿屋に入ろうとしたカズの服を掴むアレナリア。

「ちょっと待って。なんで行こうとするのよ!」

「いやぁその……(なんかその子が睨んでくるから)」

「助けてよ(助けてくれるよね! 助けてくれるでしょ)」

 カズがアレナリアに話そうと口を開くと、その度に女の子はカズを睨む。
 その間も女の子は、一向にアレナリアから離れようとしない。

「何かは後で聞くから。ごめん」

 カズは一人宿屋に入った。

「ちょ、カズうううぅ~」


 《 今から三十分前 》


 宿屋の部屋ではビワがせっせとレラの服を縫っていた。
 二着目に取り掛かっているとき、外から女の子の声と男のしゃがれ声が聞こえた。

「何の騒ぎ?」

 アレナリアが部屋の窓を開けて外を見ると、数人の男達が女の子を囲んでいた。
 女の子は怯えて助けを求めるも、巻き込まれたくないのか、見て見ぬふりをする周囲の人達。
 建物内からそっと覗き様子を伺うも、男達がそちらに顔を向けると、ぴしゃりと戸を閉めて関わらないようにする。
 今はカズが留守のため、アレナリアも同じ様にしようとしたが、男の一人が「ちびガキが、じろじろ見てんじゃねぇ」と脅した。
 アレナリアはゆっくりと窓を閉めると、男はへへへとにやつく。

「ちょっと出るわね。二人はこのまま部屋から出ないで」

「助けてあげるの?」

「私をバカにした奴をお仕置きするついででね」

「やり過ぎないようにね~」

「アレナリアさん気を付けて」

「ありがとうビワ。大丈夫だから、そのままレラの服を作ってあげて」

「はい」

 静かに部屋を出て宿屋の出入口に向かうアレナリア。
 宿屋の主人が止めるが、心配ないと言って外に出る。
 男達は女の子を縛り上げ、布袋を頭から被せていた。
 近付くアレナリアに気付いた一人の男が声を上げる。

「さっき見てたガキじゃねえか。お、こいつはエルフのガキか、なら高く売れそうだ。自分から捕まりに来るなんて、なんてバカ…いやお利口なガキだ。おい」

 男の一人が合図をすると、女の子を囲んでいた五人の内二人が動き、三人でアレナリアを縛り上げようとする。
 ガキガキ言われ頭に来ていたアレナリアは、男三人に向けて左手かざした。

「お、なんだ誘ってるのか?」

「残念だが、こんなガキはおれの範囲外だ。お前がやるか?」

「ちびに興味はねぇな」

 次の瞬間へらへらと笑う三人の男が、アレナリアが放った〈エアーボム〉で数メートル吹き飛ばされた。
 それを見ていた他の三人が、縛り上げた女の子を地面に転がしアレナリアに向った。
 一人は素手で、二人はナイフを片手に持ちアレナリアに飛び掛かる。

「〈アイスショット〉」

 アレナリアが放った氷の散弾が、三人の男に命中する。
 手に持ったナイフは落とし、痛みで倒れて悶える。
 その間にアレナリアは、女の子に被せられている布袋を外し、ナイフを拾って縛っている縄を切った。
 起き上がった男六人は怒りを露にし、アレナリアに向けて一斉に襲い掛かる。

「離れてなさい」

 頷いた女の子はアレナリアから数歩後ろに下がる。

「私をバカにしたんだから、その程度では済まさないわよ〈フリーズ〉」

 足元を凍らされて動けなくなった六人の男を、殴ってぼこぼこにするアレナリア。
 気が済んだアレナリアは、道の隅に気絶した六人を重ねて放置。

「スッキリしたわ」

「……ねぇさま」

「へ?」

「お姉さまと呼んで良いでしょうか? いえ、呼ばせてください!」

「ちょ、え、なになに?」

「お姉さま!」

 正面から女の子に急に抱き付かれ、アレナリアは戸惑う。
 アレナリアと身長が同じくらいの女の子は、首から腕を回してガッチリとホールドして放そうとしない。
 アレナリアはカズが歩いて戻って来てるのに気付き、助けてもらおうとする。
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