上 下
357 / 781
四章 異世界旅行編 2 トカ国

342 ユウヒの片腕

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇

 
「ふぁ~……ねむ。あれ、カズは?」

「おはようレラ。カズさんなら預けてある馬車引き取りに行ったわ」

「そういえば宿の人の紹介で、町に滞在する間は預かってくれるって聞いたような聞いてないような」

「もうすぐ朝食が出来るから、アレナリアさんを起こしてきて。食べ終わったら荷物もって宿の前に来てって。カズさんが」

「は~い」

 レラがアレナリアを起こすと三人は朝食を済ませ、身支度を整えて宿屋を出た。
 宿代は既にカズが払っていた。
 小さな町の割に少々高めだったが、ここまでの旅の疲れを癒すことができた。
 宿屋の前には、旅を共にしてきたホースと、馬車に乗り手綱を握るカズが座っていた。
 全員が馬車に乗ると、約束したギルドへと向かい馬車を走らせる。
 町に着いた時よりも、馬車の揺れが少なく乗り心地が明らかに良くなっていると、三人は気付いていた。

「馬車を修理したの?」

「ちょっとね。中古だし旅でガタがきてたから、改造までいかないけど、ちょっと改良を」

「どこを直したの? 屋根の部分に手を入れてあるのは分かるけど、揺れがかなり軽減されてるわよね」

「荷台を支える部分にばねを取り付けてみたんだけど、うまくいったようだね」

 カズの話を聞いた三人は、不思議そうな顔をした。

「車体を支える大きなばねなんて、そんな物どこで買って付けてもらったの?」

「いや、買ってないよ。持ってた素材を使ってスキルで作って、あとはちょこちょこガシャンと」

 そんな簡単に出来るなんてと、三人は改めて感心…呆れていた。

「なら大きな都市に行ったら、カズのそのスキルで大儲けして、美味しいものお腹一杯食べよう!」

 欲望丸出しのレラ。

「そんな事しないから。ってか、そんな事したら修理の仕事してる本職の人達に目をつけられるから。それに試しでやってみたら、なんとなく出来ただけだから(すぐに壊れなければいいんだけど)」

 そんな話をしている間にギルドに着いた。
 依頼の報酬受け取りと、トレントが生息していた森で拾ったギルドカードを渡すため。
 馬車を邪魔にならない場所に停めて、四人はギルドに入る。
 ちなみにレラは、肩掛け鞄の中。
 朝ということもあり、ギルド内にはキ町在住の冒険者が十数人、依頼を求めて来ていた。
 トリンタともう一人の女性職員が、受付に依頼書を持ってくる冒険者に、依頼の説明と受理をして次々と回していた。
 ギルマスのグリズは若い冒険者にあれこれと手解きを、サブマスのダッチは依頼を出しにきた人に、仕事内容と報酬などの説明をしていた。
 カズ達は一度外に出て、ギルド内の人数が減るのを待つことにした。

 冒険者が各々依頼を受け、右へ左へとギルドを出て行く。
 その間にも何人かの冒険者や、依頼を出しにきた人がちらほらと。
 中の様子を伺ったりもしたが、まだ忙しくしていた。
 外に出て待ち三十分程した頃、ギルドからトリンタが姿を現し、カズ達をギルドに招き入れ二階の部屋に通した。
 部屋には既にグリズの姿が。

「待たせてすまない」

「今日はやけに混んでましたね」

「廃村に住み着いてたモンスターを討伐したのがすぐに広まって、そっち方面の依頼が増えたんだ。若い冒険者連中も危険が減ったからと、町の外に出る依頼を受けるようになった。モンスターと出会した際の対処を、わいが教えたりして少し時間を食った」

「仕事が増えたなら良いことじゃない」

「ああ。あとは若い冒険者を鍛えて、より多くの依頼を受けてもらわんと。ランクの低い連中ばかりだと、また依頼が溜まっちまう」

「溜まったらグリズ貴方がやればいいことでしょ」

「トリンタにもそう言われた」

「良いことね。その調子で、ギルマスの尻を叩いて働かせないと」

「まったくもって、アレナリアは余計なことを吹き込んでくれたもんだ」

「ギルドの為よ」

 ここまで案内したトリンタが、カズの終わらせた依頼の報酬を持って来ると、ダッチからグリズに伝言だとトリンタが話す。

「報酬に色をつけると言ったのはギルド長とのことなので、その分はギルド長のお給金から引く、だそうです」

「それはないだろ」

「でしたら副長に言ってください」

「ダッチにか、経営は任せっきりだからなぁ……」

 諦めの顔を見せるグリズ。

「お、そうだ。これを作っておいたぞ」

 グリズが二枚のギルドカードを出すと、それぞれにはレラとビワの名前が表記されていた。
 パーティーを組んだのだから必要になると、身分証代わりに作っておいたとのことだ。
 二人はもちろん、アレナリアにも許可をとってあるとグリズは言う。

「俺、聞いてないんだけど」

「驚かせようと思って」

「うお! あちしのギルドカード。これであちしも冒険者じゃん」

「カードの表記上では、レラは小人族としてある。確認の際はアレナリアの魔法で姿を変えることだ。ボロを出さなければ、フェアリーだとそうそう気付かれまい」

 鞄から出て来て、両手で持ち上げて喜ぶレラ。
 カズはそんなレラからギルドカードを回収する。

「あちしのギルドカード! 返してよカズ」

「しまうとこないだろ」

「この鞄の中でいいじゃん」

「……外に出すなよ。落とすから」

「分かってるって」

 カズはレラにギルドカードを返した。

「念の為、大きな街に入る前には、俺が預かるから」

「え~」

「レラ」

「……分かった」

 少し不満そうにしてたが、無くすよりましだとレラは聞き入れた。

「あ! また忘れるとこだった。実はトレントの生息していた森で、ギルドカードを拾ったんです。近くには持ち主だと思う亡骸が」

 カズは拾ったギルドカードをグリズに渡した。

「傷が酷く誰のかわからんな? これはこちらで調べて処理しておく。聞きたいことがあったら、ギルド伝手で連絡させてもらうぞ」

「分かりました。それじゃ、俺達はそろそろ」

「そうか。ならついでに、配達の依頼を頼む」

「配達ですか?」

「各町のギルドに書類を届けるだけだ」

「方向が同じならいいですよ」

「次のツチ町のギルドには連絡しておく。〝ユウヒの片腕〟が行くと」

「ユウヒの片腕?」

「パーティー名だ」

「ちょっと待って。パーティー名なんて付けた覚えないわよ」

「カズは依頼で多忙、他の三人からは何も言ってこなかったから、わいが名付けておいた」

「何がユウヒよ、それって貴方の種族じゃない」

「気付いたか。良い名前だろ」

「片腕って何よ、貴方の部下になった覚えはないわよ」

「まあそう言うな。これから帝国本土を目指すなら、わいの種族名はきっと役に立つ」

「勝手な事を。だから〝愛の巣〟にしてお…」

「それは勘弁してくれアレナリア。それにグリズさんの言うことも一理ある(帝国の守護者なんて称号持ちが知り合いな……いやまてよ、それだと…しかし……)」

 カズはグリズの称号に、少し不安になった。

「わかってくれたか」

「カズが言うなら仕方ないわね。もしもの時は、貴方の名前を利用させてもらうわ」

「構わんが程々にな。まあ、お前らなら悪用はせんだろ。パーティー名を変えたければ、帝国領土を出る時にでも変更すればいい」

 こうしてカズ達一行のパーティー名は、一時的にグリズが決めた『〝ユウヒの片腕〟』になった。

「それとこの依頼で二人のランクが一段階上がるぞ。ギルドでの手伝いを考慮しておいたからな。ギルドのある所では何かしらの依頼を受けておけ。パーティーで受ければ、危険も少なく二人の期限に関しても大丈夫だろう」

「そうですね。そうします」

「おっと、わいもトリンタに言われたのを忘れるとこだった。怪しげな商人の情報だが、どうもセテロンから来たらしい。詳しくはわからんが、これも何かわかったらギルド伝手で連絡をしよう」

「ありがとうございます(リザードマンを騙した商人の事か。アレナリアが聞いておいてくれたんだっけ)」

「あとは受付でトリンタから届ける書類を受け取ってくれ。縁があったらまた会おう」

「はい。それでは」

「じゃ~ね~」

「しっかり働きなさい」

「あの…お世話になりました」

 グリズに別れの挨拶をし、カズは受付でトリンタから届ける書類を受け取る。

「最後まで頼んでしまいすみません。最近他の町へ行く方がいないので」

「方向が同じなので別に構いませんよ」

「三ヶ所分ありますので、よろしくお願いします」

 四人はトリンタに別れを告げてキ町を出発した。
 
 とりあえずの目的はトカ国とフギ国の国境、山脈を越えるトンネルの通行許可書を発行してる街だな。
 通行料のことを考えて、フギ国に入り迂回すると昨夜の話で決めたが、三人の安全を思えばトンネルを通った方がいいんだろう。
 働く奴隷達を見ても、ビワの様子に変化は見られなくなったから、今のところは大丈夫だろう。
 グリズさんの言い方だと、種族売買をする連中は何処にでも潜んでいるらしい。
 国か貴族と裏で繋がっている可能性も、無しに気も非ずか。
 グリズさんの付けたパーティー名がプラスになれば良いが、マイナスになることもあるから気を付けないと。
 アレナリアもそれには気付いてるはず。
 でなければ、利用させてもらうなんて、言ったりはしなかっただろう。

 数日滞在したキ町を出てから三日、次のツチ町に到着。
 頼まれた書類をギルドに運ぶと、そのまま同じ様に次の町へ荷物を届ける依頼を受けた。
 ビワとレラのランクもFランクからEランクに上がり、レラはアレナリアのイリュージョンで姿を変え、本人確認を済ませた。
 この日はツチ町の宿に泊まり、翌日次のコケ町に向けて出発。
 馬車にばねを付けて改良した事で、移動の揺れは軽減され、以前よりも疲れなくなったとアレナリアとビワは話した。
 そのため疲れも以前に比べて溜まらなくなった。
 今のところ調子は良く、道も平坦な所が多いので移動速度も上がり順調に馬車はひた走る。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...