人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

文字の大きさ
上 下
351 / 808
四章 異世界旅行編 2 トカ国

336 グリズの称号

しおりを挟む
 トリンタは受付の仕事へ戻り、入ってきたグリズは置いてあるカップに麦茶を注ぐと、ぐいっと一気に飲み干す。

「やっぱり冷えた麦茶は最高だ。まだまだあるから、三人も遠慮せず飲め」

 麦茶の入ったポットをテーブルの中央に置き、グリズはカズの正面に座った。

「他の連中も連れて来たってことは、パーティー登録をすることにしたか」

「それなんですが、その前に色々と話を聞きたいと思いまして」

「ほお、慎重だな。で、何を聞きたいんだ? 分かることなら答えるぞ」

 パーティー登録について、カズとアレナリアがあれこれとグリズに質問をぶつけた。

 ・どの程度までパーティーの情報を公開しなければならないか?
 ・トカ国のギルドは、パーティーの個人情報を、帝国に漏洩させることはないのか?
 ・絡んできた質の悪い冒険者を、本当にギルドが圧力を掛け抑制してくれるのか? など。

 アレナリアは遠回しに聞こうとはせず、大柄なグリズに臆することなくズバズバと失礼な質問もする。
 ギルドマスター相手に話をするのは、ロウカスクで慣れているからだろう。
 旅に出てようやく役に立つ事ができたと、アレナリアは内心で嬉しく思っているのか、生き生きとしているように見える。
 カズもアレナリアのやり取りを見て、元サブ・ギルドマスターは伊達じゃないと、珍しく感心した。

「なるほど。結論から言うと、帝国のお偉いさんが圧力を掛けてくれば、情報を公開することになる。特にここトカ国とフギ国は、セテロン国の更に下に位置してるから、立場的には弱い」

「『フギ国』に『セテロン国』? アレナリア知ってる?」

 カズは新たな国の名前を聞き、アレナリアに尋ねた。

「変わっていなければ、テクサイス帝国の下がセテロン国、その下がトカ国とフギ国だったはずよ」

「そうなんですか?」

「ああ。帝国傘下の下っ端だからな。上からの圧力には逆らえんのさ」

「だったらパーティーの登録しても、個人情報は筒抜けってことになるわね。やめておきましょう」

「それがいいか」

「待て待て。今言ったのは、余程の事がない限りあり得ん。単なる一パーティーを、帝国の連中が気に掛けたりなんかしないさ」

「話を聞く限りでは、パーティー登録をしても、メリットよりデメリットの方が大きいわ」

「お前ら三人を見ても、目をつけられるとは思えんが。まあ無理強いはせん。が、出来ることなら、ここでパーティー登録をしてほしかったんだが」

「こう言ってはなんですが、冒険者登録をしてるのは俺とアレナリアだけですし、ビワにいたっては戦うことはできません。そんなバランスの悪い俺達を、どうしてそこまでパーティー登録させたいんですか?」

「一つはパーティーが活躍すれば、登録したギルドも注目され、冒険者が増えるからだ」

「このギルドの利益のためね」

「早い話がそうだ。見てわかる通り、小さな国の更に端にある町だから、経営が厳しくてな。それでも依頼は入ってくるんだが、それを受ける冒険者が少なくてよぉ。殆どの連中がデカイ街に移っちまったんだ」

「拠点登録をするギルドは、冒険者の自由だからね。先行き不安な小さなギルドから、大きな街のギルドに移るのは当然。引き留めたければ、それに見合うだけの価値を示すべき」

「確かにそうだが……アレナリアと言ったな。色々と詳しいじゃないか」

「ええ。これでもオリーブ王国のアヴァランチェという都市の冒険者ギルドで、サブマスをしてたから」

「なに! なら尚更ここでパーティーの登録を」

「登録ねぇ……。だったら貴方は何をしてくれるのかしら? キ町の冒険者ギルドマスターの

「国は違えど、冒険者ギルドでサブマスをしていたなら、この辛さが分かるだろ」

「そうね。私が居たギルドのギルマスは、ちょくちょく仕事をサボって、私がやる羽目になってのよ。ちょっとここのサブマスに来てもらって、その辺の話を聞いてみましょうか?」

「ダ、ダッチの奴をか」

 口元をひくつかせ、サブマスの名を上げるグリズ。

「ダッチ? 受付に居たもう一人の兎人族がサブマスなの。なら私が一人で行って、話を聞いてきましょうか。ギルマスの仕事っぷりを」

「やめてくれ。ここんとこダッチの奴が、溜まってる依頼を片付けろとうるさいんだ」

「男のギルマスって、なんでこうサボりたがるのかしら」

「と、とりあえずだ、パーティーの登録情報は最低限にする。個人情報の提示を強制されても、下位の国の端にあるギルドと分かれば、細かい情報が登録されてなくても怪しまれずにすむはずだ」

「あのう、それだと俺達のパーティーの評価が例え上がったとしても、ここのギルドの評価は上がらないんじゃ?」

「そうよね」

「最低限の中には、登録したギルドが分かるようにする。だから登録して、依頼をこなしてってくれ」

 なぜか必死になるグリズを見て、アレナリアが脅してるような気がすると、カズは思ってしまった。

「どうする、アレナリア?」

 アレナリアが手招きをして、カズにごにょごにょと耳打ち。

「……分かった」

「それと一つ、この国もしくは帝国領土内で、フェアリーを見たことはある?」

「フェアリー? 急になんだ」

「見たことあるの? ないの? 居るの? 居ないの?」

「人口の多い街、例えば帝国に行けば、数は少ないが居るぞ。この国では滅多に見ない。保護でもされてなければ、捕まって種族売買されかねん」

「そう分かったわ、ありがとう。少し相談したいから、私達だけにしてもらっていいかしら。十分くらいで構わないから」

「了解だ。いい返事を期待してる」

 グリズが席を立ち、部屋を出て行った。

「カズ、盗聴と盗視はされてない?」

「大丈夫そう」

「それでどうだった」

 先程耳打ちをした時に、アレナリアはグリズのステータスを確認するのと、盗聴と盗視がされてないかを、カズに調べるよう言っていた。

「グリズさんは信用できると思う。俺が見たステータスを、見えるように表示するよ」

 カズはグリズのステータスを、半透明のアクリル板のような物に表示させ、アレナリアに見せた。


 名前 : グリズ
 称号 : 帝国の守護者
 年齢 : 66
 性別 : 男(オス)
 種族 : 熊羆ゆうひ
 職業 : キ町の冒険者ギルドマスター
 ランク: SS
 レベル: 109
 力  : 2616
 魔力 : 1308
 敏捷 : 1514
 運  : 34
 性格 : 楽観的
 容姿 : 灰色の毛をした295㎝ある熊の獣人
 補足 : 元々は帝国の冒険者ギルドに居たが、今は小さな町のギルドで、気ままな生活を送っている。
 ・ギルドの経営はサブマスのダッチに任せきりで頭が上がらなく、最近では受付のトリンタにも押され気味。


「こんな片田舎の町には、似つかわしくないステータスね。戦い方によっては、フローラ様にも勝てる強さよ。それに元々帝国のギルドに居たみたいね」

「そうだな」

「しかしカズの分析スキルってどうなってるの? 本来ステータスを確認しても、補足や性格に容姿なんて情報表示されないわよ」

「あッ、そうなの。そこは俺にもよく分からない。それより気になるのは『帝国の守護者』って称号」

「ええ。これから長い間、帝国の領土を通るなら、ハッキリとさせておいた方がいいわね。いざとなったら全部カズ頼りだから」

「さらっと言うなよ。最悪の場合は、手配されるかもしれないんだぞ」

「旅には危険な橋を渡る事も必要よ。帝国の守護者なんて称号を持ってるギルマスが信用できる存在で味方につけば、この先の旅が優位になるかも知れないでしょ」

「あ、うん。それはあるけど……(今日のアレナリアはどうしたんだ? ものスゴく頼りになる)」

「勢いは私にあるわ。このまま押し通して、私達の優位な条件で登録させてみせる」

「あれ!? パーティー登録するの? まだレラのことだってあるのに」

「フェアリーは帝国にも居るって言ってたじゃない。うまくすれば目的の一つ、レラの故郷が分かるかも知れないわよ」

 ビワの膝の上にある肩掛け鞄がごそごそと動き、ゆっくりと顔を出すレラ。

「この国に同族フェアリーが居るの?」

「正確には帝国ね。このトカ国が従属してる国よ。会えたとしても、まだまだ先の話……って、なんで顔だしてるの!」

「話は聞こえてたもん。だから、今なら大丈夫と思ったの」

「今は私達だけだからいいど、気を付けなさいよ」

「分かってるもん。それよりあちしも喉乾いた。その麦茶ってのちょうだい」

「後にしない。そろそろギルマスが戻って来る頃だから」

「ぶうぅ~」

「私ので良ければ」

 ビワが自分のカップをレラの前に運ぶと、麦茶をゴクゴクと飲む。

「できれば冷たいのが飲みたかった」

「茶葉は後で買うから、もう暫く隠れれてくれ」

「はいはい。分かってますよ~だ」

 身体をよじったり首を捻ったり、凝りをほぐして鞄の中に再度入り隠れるレラ。
 相談して結果、カズはグリズとの交渉をアレナリアに任すことにした。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

処理中です...