上 下
310 / 781
三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

299 旅立つ前の駆け抜ける日々 4 旅の同行者

しおりを挟む
  三人が部屋を出ると、マーガレットは以前カズに頼んだ事の返事を求めた。

「数日で返事をすると言いつつ、随分と日が経ってしまい、すいません」

「別に構わないわ。それでお願い出来るかしら?」

「それなんですが」

「駄目なの? ビワもその気になってるんだけど」

「え!?」

「カズさんなら承諾してくれると思って、ビワには伝えちゃったのよ」

「返事を聞く前に承諾って……」

「旅には目的があった方がいいでしょ」

「そうかも知れませんが(一応目的はあるんだけどな)」

 マーガレットがカズに頼んでいた事は、国を出て旅をするカズに、ビワを連れて行くという内容だった。
 行き先はビワをの生まれ故郷、オリーブ王国より遥か東にある国だとマーガレットは話した。
 生まれ故郷に連れていかなかったのは、場所が遠いことと、ビワがマーガレット達と出会う前の事を、殆ど覚えてないという理由があった。
 ビワが故郷のことを思い出すまで待っていたところ、今回あったマナの揺らぎ騒動が切っ掛けで、ビワは何かを思い出しそうになっているとマーガレットに話していた。
 それを聞いたマーガレットは夫のルータと相談して、ビワを故郷に連れて行ってもらうよう、カズに頼んだのだった。

「俺も国を出るのは初めてなので、危険が伴うと思います。なのでやはりビワを連れて行くのは」

「カズさんがこのお願いを聞いてくれると思ったから、代わりのメイドを雇ったのよ。もし駄目なら、ホップとエビネには……。ビワにも何て言えば……」

「ちょっとマーガレットさん。それはズルいですよ」

「ええ、私はズルい女よ。ビワは大事な家族だもの。その家族が自分の忘れてる過去を思い出したいって言ってるの。それを叶えてあげたいじゃない。だからお願い」

「俺がビワの故郷まで行って、後から迎えに来るっていうのは」

「ここから故郷に向かって旅をすれば、少しずつ忘れていた記憶が戻かも知れないの」

「ビワは自分から…」

「もうすぐ来るから、本人に直接聞いてみると良いわ」

 カズが悩んでいると、そこに呼ばれたビワがやって来た。
 カズは真剣な面持ちで、危険な旅になるとビワに話し、それでも行くのかと確認を取った。
 ビワはカズに会ってから色々な人達と関わりを持ち、忘れている自分の過去と向き合おうと決心をしたようだった。

「カズさんに迷惑を掛けることは分かってます。でも私は知りたいんです。どういう経緯で故郷を出て、遠くにあるこの国までやって来たのかを」

「今更だけど聞いていいかなぁ?」

「なんですか?」

「ビワはどこでマーガレットさんと出会ったの?」

「それは……」

「嫌なら別に…」

「無理して話さなくてもいいのよ。ビワ」

 少し悩み考えるビワの気持ちを汲み取り、マーガレットも声を掛けた。

「はい…でも…大丈夫です……」

 ビワをカズを暫くじっと見た後大きく息を吸い、落ち着くと口を開き覚えている事を話した。
 珍しい獣人の亜種とだ言われ、檻に閉じ込められてどこからか運ばれて来たのが、ビワだという。
 そして檻から出され強引に連れて行かれそうになったとき、意を決して逃げ出して近くにあった馬車に隠れると、そこにマーガレットが乗り込んで来たと。
 怯えて隠れるビワを匿い、そのまま屋敷に連れ帰り保護したと、思い出して涙ぐむビワに代わりに、マーガレットが途中から話した。
 ビワを檻に閉じ込めていた者達は、追っ手が掛からないように、国をまたいで種族売買をしていたる組織だったとマーガレットは言う。
 その時の者達は衛兵に拘束され、捕まっていた他の種族も解放されたが、組織そのものは各国にあるため潰す事は困難らしい。

 当時オリーブ王国内に関しては、駆逐できたと衛兵は発表していたが、表に出てない悪党がまだいるだろうと、冒険者ギルドは危惧していたらしい。
 衛兵も分かってはいたが、発表したのは国民を不安にさせない為だったと。
 そういった事もあり、マーガレットはメイド達を一人では街に行かせないようにしていたと。
 現在のように、メイド達が街に買い出しなど頻繁に出掛けるようになったのは、マーガレットが病に倒れてからだそうだ。(その頃は呪いからきた病だとは知らないかった)
 マーガレットの話を聞いたカズは、以前潜入した採石場を思い出した。
 多くの冒険者で捕らえた盗賊の者達も、国をまたいで種族売買をする組織の一端だったのかも知れない。

「少し話が脱線したわね。それでカズさん返事は?」

 カズが答えるのを黙って見るマーガレットとビワ。

「危険だと感じて守りきれない思ったら、すぐに連れて戻りますから。それで良いビワ?」

「はい!」

「ありがとうカズさん。良かったわねビワ」

「はい」

 空間転移魔法ゲートを知らないマーガレットは、カズの言ってるの意味がよく分かっていなかった。
 ビワはゲートを通った事があり、カズから貰った装飾品数珠にも付与してあるので、すぐに戻ると言った意味を理解していた。

「三日後の主人の仕事に途中まで同行するのよね」

「はい。そうです」

「ならビワは当日、こちらと一緒に行くといいわ。街でカズさんと合流すればいいでしょ」

「はい。そうさせていただきます奥様。ありがとうございます」

「じゃあそういうことだか、三日後にねカズさん」

「分かりました」

 結局はマーガレットに言いくるめられ、ビワを連れて行くことになった。
 他のメイド達とは、次いつ会えるか分からないので、しっかりと別れの挨拶をした。
 少しは寂しがってくれるかと思っていたカズだったが、以外と全員がさっぱりしていた。
 オリーブ・モチヅキ家の人達に別れを告げカズは、ルータからの依頼内容を報告をするため、屋敷を後にする。
 貴族区と街を隔てる門を通るとき、常駐する衛兵がカズを見る表情は、あれから一ヶ月が経ってもやはり渋いものだった。
 これでもう長い間この門を通る事はないだろうが、次に通る事がある時は少しはましになっていればと、カズは思い貴族区を出てギルドに戻りフローラに報告した。

「ご苦労様。残ってる依頼があるなら終わらせておいて」

「それは大丈夫です。今、受けてる依頼はないので」

「ならいいわね。それと明日、そうね……夕方くらいに家に行くわ」

「分かりました」

 旅の支度とトラちゃんの食料を買いながら、少し街をぶらついて家に戻ることにするカズ。
 ダイエットしているレラ用にも、果物を多く買っておいた。
 トラちゃんに食料を届けて、ルータからの仕事依頼を伝えに倉庫街へ戻る。
 街で売っているイノボアの肉と、野菜と果物を多めに運び、仕事のことを話した。
 トラちゃんは初仕事がもらえ、少し嬉しそうだった。
 カズに糸を売ったお金で食料の代金を払おうとしたが、これから必要になるからと言い、カズは受け取らなかった。
 このやり取りはこれでもう四度目、モンスターにしておくのは惜しいほど律儀だ。
 仕事内容を伝えて食料を届けたカズは、倉庫を出て家に戻る。
 といっても、トラちゃんが住む倉庫は、カズとレラが住んでる家の真裏、しかも特殊な家の効果範囲に入っている。
 元はその倉庫も特殊な家にした人物が使用していたと、最近思い出したと言っていたフローラからカズは聞いていた。
 長い間使用されてなく、今年になってからは、カズに色々と面倒事を持ち込まれ疲れていたので、すぐには思い出せなかったと、冗談半分にフローラは話した。
 家の持ち主であるカズが気付かない原因の一つは、倉庫街に古びて使用されてない倉庫は幾つもあったので、家の真裏にそんな倉庫があっても、カズは気にしていなかった。
 翌日そのフローラが、家の所有者を変更する為にやって来る。

「お腹すいたよぉ、カズ」

「一言目がそれか」

「お帰り~」

「今、飯作るから。少しは元の体型に戻ってきたみたいだし、食べる量を増やしたらどうだ」

「……少しだけでしょ。だったらいつもと同じでいい」

「いいから食べな。旅に出るんだから、無理して体調崩したら大変だろ」

「旅? 依頼でどっか行くの?」

「まだ言ってなかったっけ。三日後に王都を出るんだよ」

「へ? 聞いてないよ」

「ごめん。最近やる事多くて、言うの忘れてた。今になってだけど、レラはここに残る? この家はフローラさんが管理してくれるから、このまま今のように住んでも大丈夫だけど」

「行くわよ。それに忘れたの、あちしの故郷を探してくれるんでしょ」

「そうだったな」

 ダイエットを程々にして、今日はお腹いっぱい食べて満足げに寝るレラであった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転移しても所詮引きこもりじゃ無双なんて無理!しょうがないので幼馴染にパワーレベリングして貰います

榊与一
ファンタジー
異世界で召喚士! 召喚したゴブリン3匹に魔物を押さえつけさせ、包丁片手にザク・ザク・ザク。 あれ?召喚士ってこんな感じだったっけ?なんか思ってったのと違うんだが? っていうか召喚士弱すぎねぇか?ひょっとしてはずれ引いちゃった? 異世界生活早々壁にぶつかり困っていたところに、同じく異世界転移していた幼馴染の彩音と出会う。 彩音、お前もこっち来てたのか? って敵全部ワンパンかよ! 真面目にコツコツとなんかやってらんねぇ!頼む!寄生させてくれ!! 果たして彩音は俺の救いの女神になってくれるのか? 理想と現実の違いを痛感し、余りにも弱すぎる現状を打破すべく、俺は強すぎる幼馴染に寄生する。 これは何事にも無気力だった引き篭もりの青年が、異世界で力を手に入れ、やがて世界を救う物語。 幼馴染に折檻されたり、美少女エルフやウェディングドレス姿の頭のおかしいエルフといちゃついたりいちゃつかなかったりするお話です。主人公は強い幼馴染にガンガン寄生してバンバン強くなっていき、最終的には幼馴染すらも……。 たかしの成長(寄生)、からの幼馴染への下克上を楽しんで頂けたら幸いです。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...