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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

303 余談 見習い冒険者と宿屋の娘

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 王都でマナの揺らぎが発生し、カズが手配されてから数十日が経ったある日、このはリアーデという街の中央広場へ向かう道。


「あ、ロレーヌ。今帰り?」

「今日もクリスパさんに訓練してもらってたんだ」

「少しは強くなった?」

「ぼく、上達が遅くて。クリスパさんには、近くに出るジャンピングラビットを狩る依頼を受けて、実戦経験を積むよう言われたんだ。何度も訓練をするより、実戦を経験した方が成長するって」

「クリ姉ならそう言いそうだね」

「ぼくならイノボアを狩る事も出来るって言われたんだけど、中々踏ん切りがつかなくて」

「クリ姉が言うなら大丈夫だよ。ロレーヌはやれば出来るって、私信じてるよ。だからイノボアを狩ってきたら、そのお肉うちに持ってきてね」

「クリスパさんが言うように、キッシュは食いしん坊だなぁ」

「ち、違うよ。うちの宿で買い取るってこと。そうすればお客さんに安く提供できるでしょ」

「なんだそういうことか。キッシュが食べたいだけかと思った」

「もちろん私が食べたいのもあるよ」

「あははッ。やっぱり食いしん坊じゃないか」

「いいじゃないの別に。あ~あ、前に来てたお客さんは、お肉やお魚をよくくれたっけなぁ。ジュースを買ってもらったりもしたっけ」

「またその人の話か。でも名前とか覚えてないんでしょ」

「うん。優しい人だったんだけど、思い出せないんだよねぇ。なんでかなぁ?」

「そういえば、クリスパさんも同じ様なこと言ってた。実力はあるのに物腰の低い、とてもいい人だったんだけど、思い出せないって」

「おかしいよね。なんでだろう?」

「ぼくに言われても分からないよ」

 キッシュは首から下げているネックレスを手に取り見る。

「それって、その人から貰ったものなんだよね?」

「うん。ネックレスじゃないけど、クリ姉も貰ったんだよ」

「へぇ」

「そういえば少し前に来たお客さんが、このネックレスを誉めてくれたんだ。その時は満室だったから泊めてあげられなかったけど、食事だけはしてってくれたんだ」

「そうなんだ……ぼくだってキッシュにプレゼントするくらいは」

 ポロッと自分の気持ちが声に出るロレーヌ。

「え、な~に?」

「な、なんでもない。それよりココット亭に早く戻ろう。ぼくお腹空いちゃった」

「訓練ばかりして依頼を受けないと、宿代払えないよ。うちだって大きな宿屋じゃないんだから、つけでは泊まれないからね」

「分かってるよ。明日から暫くは、依頼を受けて宿代を稼ぐようにする」

「ちゃんとしてよ。冒険者になって日が浅いんだから。あ~あ、荷物重いなぁ」

「ぼくが持ってあげる」

「遅~い。言われなくても気付いて持ってよ」

「ご、ごめん。次からすぐ気付くようにするから」

「そうそう。そういう注意深く回りを見て、状況を判断することが大事だよ。な~んて、これクリ姉の受け売りだけど」

 買い物を終えたキッシュと、ココット亭に泊まっているロレーヌは、一緒に宿屋ココット亭に戻った。
 カズを忘れたキッシュは、同年代のロレーヌに少し気持ちを引かれていた。
 キッシュとロレーヌがココット亭に戻ると、食堂から心配そうな顔をして女将のココットが出て来る。

「どうしたのお母さん?」

「さっき衛兵が来て、手配された人のことを聞かれたんだよ」

「またぁ。この前来たばっかりなのに」

「覚えてないって言ってるんだけどねぇ」

「とんでもない人ですね。もし今度その人来たら、ぼくが一発殴ってやりますよ」

「イノボアを怖がってるロレーヌが何を言ってるのよ」

「こ、怖くなんてないさ。今度ギルドに依頼が出てたら、イノボアを倒してその肉を持って来てやるよ」

「ふ~ん。期待しないけどね」

「言ったなキッシュ」

「ええ、言いました」

「ぼくがイノボアを倒したら」

「いいわよ。ロレーヌのお願いなんでも聞いてあげる。ただし明日から三日以内だからね」

「いいとも。約束したから、忘れるなよキッシュ」

「こらこら、何を口喧嘩してるんだね。キッシュは向こうで料理だよ。ロレーヌは部屋で休んでな。夕食出来たら呼んでやるから」

 先程まで仲の良く話してたのに、変な意地の張り合いでつんけんする二人だった。

「そう都合よく依頼が出てるか分からないのに、ロレーヌは自分で言っといて忘れたのかねぇ。まるで息子が出来たみたいだ」

 翌日、翌々日とギルドの掲示板に貼り出されてる依頼書を見るが、イノボアに関係する依頼は一つも出ていない。
 いつもより熱心に掲示板の依頼書を見ているロレーヌに、気になったクリスパが声を掛け話を聞いた。
 事情を知ったクリスパが、街の近くに最近たまに現れるイノボアのことをロレーヌに話した。
 まだ討伐依頼を出す程ではなかったが、やる気になったロレーヌを見て、クリスパが出現場所の情報を教えると、ロレーヌは話を最後まで聞かずにギルドを飛び出して行った。

 街を出てクリスパに教えられた場所に来たロレーヌは、辺りの長い雑草を掻き分け、イノボアの通った後を探した。
 しかしいくら探しても一向に見つからず、気が付けば日は暮れて来ていた。
 この日の探索を諦めたロレーヌは、気を落としギルドへと戻った。
 ギルドに戻ってきた元気のないロレーヌをクリスパが活を入れ、イノボアが早朝に出現するいう情報を与えた。
 翌朝早くに行けば、キッシュとの約束に間に合うと喜んでいたが、話を最後まで聞かないでギルドを飛び出したロレーヌを、クリスパは怒った。
 疲れているところに、三十分以上の説教を聞かされたのだっだ。
 この日ココット亭に戻ったロレーヌは、夕食も取らずに寝てしまった。


 ◇◆◇◆◇


 日が昇る前に空腹で目が覚めたロレーヌは、部屋にある椅子に手紙と軽食が置いてあるのに気付いた。
 手紙はキッシュが書いたもので、前日夕食も取らずに寝てしまったロレーヌを心配して、朝昼と二食分の軽食を用意してくれてあった。
 なぜ二食分かというと、前日クリスパがココット亭に寄り、翌朝早くにロレーヌがイノボアを狩りに行くと、キッシュが聞かされたからであった。
 手紙の最後には、怪我をしないで無事に戻って来ること、と短く書かれていた。
 ロレーヌは一食分の軽食を食べ終わると、もう一食分を布袋に入れ、キッシュの手紙はポケットにしまうと、静かにココット亭を出て街の外へと向かった。

 だんだんと明るくなって来た頃に、前日探した場所に着くロレーヌ。
 耳をすませて、イノボアが動く音を探る。
 離れた所からロレーヌの方に向かって、足音が近付く。
 長い雑草から飛び出して来たのは、紛れもなくイノボアだった。
 ただしロレーヌが見たことあるイノボアよりも、大きな個体だった。
 通常は60㎝程だが、この個体は1mはあった。
 想像していたよりも大きなイノボアに、足がすくむロレーヌ。
 突進してくるイノボアを、ギリギリのところで横に倒れこみ避ける。
 ポケットから目の前に手紙が飛び出し、それを見たロレーヌはキッシュの顔を思い浮かべた。
 手紙を拾いポケットにしまうと、短剣を抜き向かってくるイノボア立ち向かう。

 突進するイノボアをスレスレでかわしながら、短剣で斬りつける。
 無様とも思える戦い方だが、ロレーヌは同じ様に何度もイノボアに攻撃を与える。
 しかし攻撃は浅く、致命傷を与えるまでにはいたらない。
 初めての討伐戦で緊張し、余計な所に力が入り疲れるのが早い。
 するとイノボアの突進を避けられず、正面から受けて飛ばされてしまった。
 外傷は無いものの、衝撃からすぐに立ち上がれない。
 地面を転がり、なんとかイノボアの突進を避けて立ち上がる。
 ロレーヌの息は荒く、イノボアも疲れと傷から戦意が薄れていく。
 鼻をヒクヒクと大きく動かしたイノボアは、前足で地面を蹴り、土煙を上げてロレーヌに突進する。
 ロレーヌはギリギリでかわすが、下げていた布袋にイノボアの鼻に当たり弾き上げられる。
 布袋から飛び出した物に、イノボアがロレーヌを無視して向かって行く。
 ロレーヌはそれがキッシュが作ってくれた軽食だと気付いた。
 包み紙を食い破り、中の軽食を貪り食うイノボア。
 ロレーヌはここぞとばかりに、イノボアの背後から短剣を深く刺した。
 痛さから暴れるイノボアに飛ばされたロレーヌは、短剣を放してしまう。
 刺さったままの短剣は、イノボアが暴れることで内部の傷が大きく広がり、暫くするとイノボアは血を多く流し倒れた。
 キッシュが作った軽食と、イノボア自らが暴れた事で、偶然ではあるがロレーヌはイノボアの討伐を成功させたのだった。

 休憩をして体力を回復させたロレーヌは、近くを通り掛かった知り合いの冒険者に頼み、イノボアをギルドまで運ぶのを手伝ってもらった。
 ロレーヌは知らない事だが、知り合いの冒険者がたまたま通り掛かった訳ではなく、クリスパに頼まれて様子を見に来ていたのだった。
 心身とも疲れていたロレーヌだったが、偶然とはいえ大きな個体のイノボアを倒せたことで、気持ちは高ぶっていた。
 ギルドでイノボアを解体してもらってる間に、ロレーヌは一度ココット亭へと戻ることにしたのだった。
 ロレーヌが街の中央広場に差し掛かると、キッシュが三人の衛兵と言い争ってるのが聞こえた。
 ロレーヌが声のする方へ近付いて行くと、人だかりになってる隙間から、一人の衛兵がキッシュの腕を掴むのが見えた。
 ロレーヌは人を掻き分けて近づき、衛兵の手を払いキッシュと衛兵の間に立ちはだかった。
 この様な事は何度かあり、衛兵はロレーヌの顔を知っていた。
 もちろん冒険者ギルドの、サブ・ギルドマスターのクリスパと知り合いだということも。
 一人の衛兵が仲間を呼びにその場から離れ、残った二人の衛兵はキッシュとロレーヌが逃げないよう見張り、あわよくば拘束しようとしていた。
 曲がりなりにも冒険者のロレーヌを、二人の衛兵は警戒していた。
 暫くすると先程の衛兵が、仲間を連れて戻って来た。
 八人となった衛兵相手では勝ち目がないと、ロレーヌはキッシュを庇いながらも、大人しくすることにした。
 この騒動の事を誰かが冒険者ギルドに報告に行っていれば、キッシュの身を案じてクリスパが来るだろうと、ロレーヌは考えていた。
 しかし助けは来ず、ロレーヌは拘束される。
 キッシュは大事なネックレスを取られそうになり抵抗すると、ロレーヌが大声を上げて衛兵のする事を止めさせようとする。

「やめろッ! それでも住民を守る衛兵か!」

 それに激怒した衛兵は、ロレーヌを何度も殴り付ける。

「分かった、分かりました。渡すからやめてッ」

 キッシュは衛兵の言うことを聞き、ネックレスを渡してロレーヌを殴る事を止めてもらう。
 すると一人の衛兵が、ココット亭に行きココット母親も連行すると言った。
 キッシュは衛兵を睨み付け反論すると、衛兵がキッシュを黙らせるため平手打ちをする。

「痛ッ」

 キッシュが叩かれた次の瞬間、キッシュを叩いた衛兵の後頭部に衝撃が走り、前のめりに倒れた。

「あちしの友達に何してのよッ!」

 声のする方を見ると、そこには滅多に見ることのできないフェアリーの姿があった。
 情報で手配犯と行動を共にしているフェアリーだと気付いた衛兵は、すぐに周囲を警戒した。
 するとマントとフードで姿を隠した怪しげな人物が、衛兵達の前に現れた。
 衛兵が質問を投げ掛けるが、現れた人物は一切喋らなかった。
 カズ手配犯だと確信した衛兵は剣を抜き、現れた人物を捕らえようとする。
 顔を殴られ少し朦朧もうろうとするロレーヌは、何が起きたか分からなかった。
 意識がハッキリとしてきた時には、自分とキッシュを取り囲んでいた衛兵が、全員気絶して倒れていたからであった。
 フードとマントで姿を隠した人物が、倒れた衛兵からネックレス取り返し、それを持ってキッシュへと近付いてゆく。
 助けてくれたが本当に手配されてる人物なら危険だと、ロレーヌはキッシュの前に立ち、現れた人物を近付けさせないようにした。
 フードとマントで姿を隠した人物はただ一言「すまない」と言い、ネックレスをロレーヌに渡した。
 キッシュが話し掛けたが答えることはなく、走り去ってしまった。

 入れ違いにクリスパが二人の元へと駆け付け、現状を見て驚いていた。
 二人に話しを聞こうとしたが、それよりも先に、安全なギルドへ連れて行くことにしたのだった。
 そしてギルドに着くと、クリスパは広場で何があったかを二人に聞いた。
 キッシュの叩かれ赤くなった頬は、ネックレスを付けることで徐々に治っていった。
 ロレーヌの怪我は、ネックレスに付与されたヒーリングを使いキッシュが治した。
 少しすると連絡を聞いたココットが、キッシュとロレーヌを心配してギルドにやって来た。
 クリスパが宿を暫く閉めるように言うが、ココットはそれを聞き入れなかった。
 クリスパはサブ・ギルドマスターとしての仕事があり、常にココット亭に居ることが出来ない、そこでロレーヌが二人を守ると買って出た。
 少なくとも、クリスパが駆け付けるまでの時間稼ぎはすると。
 あまりにも頼りなかったが、クリスパはロレーヌの気持ちを尊重して、二人のことを頼んだ。
 クリスパはもちろん、今回の事を衛兵に強く抗議するつもりでいた。
 まだ元気のでないキッシュを見て、ロレーヌが一人でイノボアを狩ってきた事をクリスパは話した。
 キッシュは驚いて、ロレーヌと共に解体されたイノボアを引き取りに行き、その肉の大きさを見て更に驚いた。
 解体費用はクリスパの計らいで、今回は無料にしてくれた。

「これで約束は果たした。ぼくだってやればできるんだ」

「そうだね。なら私に何がしてほしいの?」

「え?」

「三日以内にイノボアを倒したんだから、お願い聞いてあげるって言ったでしょ」

「お願いかぁ……」

 ロレーヌの顔を覗き込むキッシュ。

「な、何にも考えてなかったなぁ」

 近くにあるキッシュの顔を見て、赤くなるロレーヌ。

「そうだなぁ。じゃあ今度どこかに行くとき、ロレーヌに付き合ってあげる。それで良いでしょ」

「結局キッシュが決めちゃうの」

「だってロレーヌ考えてなかったんだもん。それとも私じゃ嫌なの?」

「そ、そんなことは……」

「じゃあ決まりね」

「う、うん」

 キッシュから顔を背け、壁を見つめるロレーヌ。
 キッシュに気付かれないように、ロレーヌにつぶやくクリスパ。

「キッシュとデートの約束が出来て良かったわね」

「ク、クリスパさん! デートだなんて」

「いいじゃない。キッシュを守る為に、頑張ったんだから。ココット義母さんだって、二人で出掛けるくらいの時間を作ってくれるわよ」

 クリスパに言われて、ロレーヌの胸は激しく高まった。

「さあロレーヌのイノボアの肉成果を持って、ココット亭に戻りましょう。今日はずっと私が一緒に居るから大丈夫よ」

 四人はロレーヌが狩ったイノボアの肉を持って、ココット亭へと戻って行った。
 この日からキッシュとロレーヌの距離は縮まり、ココットも二人の仲を口には出さなかったが認めていた。

  後日自信をつけたロレーヌは、北の村からの依頼を見つけ、それを受けていた。
 依頼内容は毎年多く発生しているイノボアの討伐、かつて冒険者になったばかりのカズも受けた依頼。
 キッシュは二人で出掛けるという約束をまもり、ロレーヌの依頼に付いて行くことにした。
 母親のココットには、イノボアの肉を仕入れてくるから、ロレーヌに付いっていいかと話した。
 ココットはクリスパに相談をすると、半日もあれば北の村までは行け、他の冒険者も同じ依頼を受けるから、危険はそれほどないから大丈夫だと話した。
 クリスパの話しを聞いたココットは、キッシュがロレーヌに付いて北の村に行くことを許可した。

 二人で北の村へ出掛け行き、ロレーヌはその日に八匹のイノボアを狩った。
 三匹分の肉を持ち帰る為に、村で解体を頼んだ。
 イノボアの肉が受け取れるのは翌日ということもあり、ロレーヌはキッシュと話し合い北の村で一泊してすることにした。
 そしてこの夜、引かれあっていた二人は、お互いの気持ちを確かめると、キッシュは肌身離さず付けていたネックレスを外し、ロレーヌと体を重ねた。
 初めてを捧げた相手のことを思い出せないまま、経験のあるキッシュが初めてのロレーヌをリードするかたちで、二人の心と肉体からだは繋がりひとつとなった。


 ◇◆◇◆◇


 翌日の二人は照れて恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに手を繋いで宿を出た。
 そのまま頼んでいたイノボアの肉を受け取り、二人はリアーデへと戻って行った。

 キッシュはロレーヌと繋がったあの日から、ネックレスをくれた人のことを考えるのが少なくなっていた。
 忘れているその人物が、現在王都の衛兵本部で投獄されている事など、まったく知るよしもない。
 そして投獄されているカズ人物も、キッシュの想いが移り変わっている事も。


 ≪ それから数十日後 ≫


 この日ギルドでクリスパがロレーヌを鍛えているのを、キッシュが見に来ていた。
 そこへビワを連れたカズは訪れた。
 カズはキッシュがロレーヌに向ける視線がであることを察して、自分は身を引き二人の仲を認めた。
 ロレーヌに成長と期待を込めて、自分が使っていた装備品を託して行ってしまった。
 この時クリスパは、去り際のカズの背中が、少しだけ寂しそうに見えていた。
 ロレーヌには聞こえないようにして、クリスパはキッシュに小声で話した。

「いいの、カズさんのこと?」

「う…うん。でもやっぱりカズ兄は、お兄ちゃんて感じなんだ。久しぶりに会って改めてそう思ったの」

「カズさんたら、いつの間にかフラれてたのね」

「フッたなん……そうだね。忘れてたからって、ロレーヌを好きになってカズ兄を……私、酷いよね。考えると胸が痛い」

「そうね。でもその痛み気持ちは、キッシュが一つ大人になったってことよ。それにカズさんは二人のことを認めてくれたから、ロレーヌに装備品を託していったんじゃないかしら。キッシュを守れるようになれ! ってね」

「そうかなぁ?」

「そうよ」

「うん、そうだね。カズ兄にはまだアレナリアさんだって居るんだし、さっき一緒に来た獣人の女の人だって」

「彼女とは言ってなかったわよ。用事で一緒にいたとしか。でも……カズさんなら以外とあり得るわね」

「でしょ。だからカズ兄は大丈夫だよ」

 この時のキッシュの言葉は、自分の罪悪感を誤魔化す為に言っているようにも聞こえた。

「心配なのはクリ姉だよ。早く恋人見つけなよ」

「余計なおせわよ! この街には、ろくな男がいないんだもん。サブマスやってるから他の街は行けないし……私だって早く……」



 この後二人が恋人とし長続きしたかは、ロレーヌの努力次第と、キッシュがロレーヌに寄せる思いが一時的なものでなければ……だ。
 クリスパに生涯のパートナーが現れるかは、まだあと数年は先になるかも知れない。
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