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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

289 アイアとの話し

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 資料室の扉を開け、ギルドマスターの部屋へと入るカズ。

「本当に、もう戻ってきたよ。でもなんで資料室そこからなんだい?」

「誰か居るか分からないから、私の所に直接来るときは、隣の私専用の資料室からってことになってるの」

「そういうことかい」

「はい。それで一つ聞きたい事が」

「なんだい?」

「盗み出された宝玉のことなんですが」

「偽物だってことかい」

「やっぱり。宝玉と言う割には、大した物じゃなかったので」

「人目に付く場所に、本物が置いてある訳ないさね。本物は式典や祭典の時に、一時的に出されるだけ。まあそれも、ここ数十年前からだがね」

「以前は違ったんですか?」

「ああ。バカみたいに本物を飾ってあったから、私が代わりの水晶を持って行って、先々代国王に言って変えさせたんだよ。隠密に特化した者が来たら、容易く持ってかれるって言ってね」

「それだけ平和が続いてると」

「平和がだから良いってもんじゃないんだよ。いつの時代も盗っ人やクズはいるからね。現に盗まれて使われたんだ」

「よく偽物だと気付かれなかったものです」

「偽物だと知ってたのは、王と一部の者だけだからね」

「だからルマンチーニに取り付いてた、パラサイトスペクターも知らなかったのか」

「パラサイトスペクター……そいつはLv8だったね」

「はい。ステータスを見たので」

「あれはLv10を超えると実体を持ち、Lv20以上になると、今のギルドマスターが束になっても勝てない。まあ、そこまで育つ前に、蓄積した魔力を制御出来ずに消滅するだろうが」

「Lv20以上のパラサイトスペクターを見た事があるんですか?」

「ああ。まさに悪魔と言われる兵器だよ。そいつもすぐに暴走して、消滅したけどね。周囲の物を巻き込んでドカンと」

「暴走したあげく爆発ですか」

「盛大にね。小さな街なら更地になる威力だよ」

「そこまで強いヤツじゃなくて、よかったってことですね」

「地下に封じたダンジョンの濃い魔素を吸収してたんだろ。五十年に一度は溜まった魔素を出すように言っておいたんだが、もう一度王に会って言っておかないと駄目だね。フローラも覚えておきな」

「分かったわ。おばあちゃん」

「だからその呼び方止めな」

「大勢の人や、知らない人の前じゃないんだからいいでじゃない。私の祖母なのは本当なんだから」

「カズが居るだろ」

「カズさんしか居ないんだから、別にいいでしょ」

「はぁ。まあいいさね。それじゃあ今度は私の話さ。カズあんたが何者か、本人の口から聞かせてもらおうか。召喚者で間違いないんだろ」

 カズは視線だけを動かし、椅子に座るフローラをチラリ、と見る。

「フローラに頼っても駄目だよ。自分で話な」

 視線をフローラに動かしたことに気付かれ、アイアから言葉が飛ぶ。
 どこまでかは分からないが、自分のステータスを見られたのは確かだと思ったカズは、自らの経緯を少しだけ話した。
 使用出来る魔法やスキル、数値までは答えなかった。
 ステータスを見たのなら分かるはずだし、そうでなくても後からフローラに聞けばいいのだから、とカズは思っていた。
 自分から全てを話して『本当は知らなかったんだがねぇ』とでも言われたら完全に自滅だ。
 ただ召喚者と言っていたこと対しては、否定をした。
 疑われる可能性は低いが、オリーブ王国と敵対している国があるとしたら、その国が召喚をして潜り込ませたと思われかねなかったからだ。
 考え過ぎかもと思えたカズだったか、召喚者という言葉をアイアが発した時点で、別の世界から来た者をアイアは知っているのだと、カズは確信していた。
 魔王を倒したと言われる勇者か、それとは別の人物を……。

「嘘を言っている様には思えないね。だとしたら召喚者でも【転生者】でもなく【迷い人】」

「転生者に、迷い人?」

「転生者は前世の記憶を維持したまま、別世界からこの世界に生まれ変わった者。何かの切っ掛けで、この世界に突如として現れた者が迷い人。カズの話が本当なら後者だね」

「アイアさんは転生者か迷い人に会ったことは? 今は居ないのですか?」

「転生者には数人。最後に会ったのは百五十年程前の人族だから、もう寿命で死んでるだろ」

「では迷い人は?」

「私の知ってる限りでは、生きてる者に会ったことはないね。大抵はモンスターや賊に襲われて死んだ後だったからね。言葉も通じず、戦闘能力を持たない者が迷い込んでも、死ぬか見世物とて奴隷にされるかだ」

「そう…ですか。もしかしたら同じ世界から来た人と会えるかと思ったんですが……」

「カズは迷い人の類いだと思うが、その強さが異常なんだよ。あんたの元居た世界が、この世界より戦闘能力にけた者達が暮らす場所なら分かるが、どうもそうじゃないらしい。勇者として召喚された連中のように、様々なスキルや装備を与えられて、レベル上げに協力する国の支援があったのなら少しは分かるが」

「おばあちゃん、あまり詮索はするのは」

「いつまでも味方でいるとは限らないだろ。敵に回ったら、この国でカズを止めることができるやつは居るのかい? おまけにフロストドラゴンまで付いてくるんだよ」

「それは……」

「答えられないだろ」

「俺は敵になんて」

「今回はなんともなかったが、カズが洗脳されてたらどうだい。それとも絶対に洗脳されることはないと言えるのかい?」

「い、いえ……」

「カズ、許可してやるから、私のステータスの数値を見てみな」

「え?」

「いいから」

「あ、はい《分析》」


 名前 : アイア・クラルス・ナトゥーラ
 年齢 : 669
 性別 : 女
 種族 : ハイエルフ
 職業 : 精霊魔術士
 レベル: 280
 力  : 2520
 魔力 : 8008
 敏捷 : 3266
 運  : 37
 性格 : 強気
 容姿 : 身長170㎝の銀髪ショートカット、見た目は三十代後半。
 補足 : フローラの祖母。
 ・ 年寄り扱いされるのを嫌い、孫のフローラにも人前では名前で呼ばせる。
 ・ オリーブ王国の歴代国王と付き合いがあり、相談役をしていたこともあった。


「ぅわ(今まで会った誰よりも強い。魔力なんな俺より高いよ)」

「見えたかい?」

「はい。一通りの数値と、種族に年齢など」

「今の平和な時代じゃない頃から、六百年以上生きてこれだ。その私がカズと戦って勝てるとは思わない。もちろん一対一サシの場合だがね。レベルが私よりずっと低いのに、数値は同格以上。その存在を警戒するなという方が無理だ。今の連中は平和な暮らしで、警戒心が低くなり過ぎてる」

「おばあちゃんはカズさんをどうしたいの?」

「そうだね……カズ、お前は何か目的があるかい?」

「目的ですか。一番は元の世界に戻る方法を探す事ですかね。国が管理してるアーティファクトにあればと思って、フローラさんに聞いたりもしたんですが」

「ここ五十年で新しく見つかってなければ、この国が所有しているアーティファクトに、そんな類いの物はないはずだ」

「そうですか……アイアさんは、何か知りませんか?」

「別世界に転移する方法は知らないね。出来るとしたら、それこそ神の御業みわざだよ」

「召喚する方法はあるのに、戻す方法はないですか。……まあそうだと思ってました」

「でもまあ、アーティファクトや禁術の中には、できるものがあるかも知れないが、可能性は低いね。広大な砂漠から、一枚の金貨を探すよりも」

「ほぼ不可能……」

「国を出て世界を探して回るかい? まあそうすれば国として、制御できない存在がいなくなって安心するだろ」

「カズさんに国を出て行けって言うの」

「早い話がそうさ。私はどうやって、カズを国から追い出そうか考えてたからね」

「それはマナキ王が?」

「いや、私個人の意見さ。強い者が居たら頼りたくなる。そうすると下の連中が育たない。だから私も国には留まらない。今回の騒ぎだって、最終的にカズが終わらせたんだろ。フローラでも倒せたはずなのに」

「それは……」

「カズならここまで被害が出る前に倒せたはずだ。しかしそれをしないで、フローラやロイヤルガードに任せたのは」

「分かってるわよ。カズさんも同じ様な事を言われたから」

「なんだそうかい。それでだカズ、この国を出て世界を回ってはどうだ?」

「カズさん、無理に出…」

「フローラは黙ってな!」

「構いませんよフローラさん。もともと今回の事が片付いたら、国を出ようと思ってたので。ただ元の世界に戻れる可能性が限りなく低いと、アイアさんの話を聞いたら、探すのを諦めるしかないのかとも思ってしまいますね」

「なんだ、本人もそのつもりだったのかい」

「カズさん、本当に出て行くの? おばあちゃんの言うことなんか聞かないで、ここに残っても良いのよ。全ての罪も無くなったんだから」

「可能性は低いですが、無いとも言い切れないので、世界を見て回ります。もしかしたら未発見のダンジョンに、探し求めるものが眠ってるかも知れないですから」

「……分かったわ。もう止めない。出発はいつ頃にするき?」

「まだやることもありますから、それらを片付けてから」

「レラには?」

「まだ話してません。ここに残るか、俺に付いてくるか」

 話を聞いたフローラは、少し寂しそうな顔をした。
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