上 下
280 / 781
三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

269 元凶

しおりを挟む
 他へ部屋に続く扉はないか。
 お決まりだと、本棚の裏とか床下に隠し通路か部屋があるんだけど、開けるための何かが……お! これかな?


 本棚の奥に隠された水晶を見つけ《分析》をすると、隠された通路を開閉するためのカギだと分かった。
 カズは水晶に触れて魔力を流した。
 すると本棚はゆっくりと動き出し裏からは、下へと向かう階段が現れた。
 カズのように暗視のスキルがなければ、灯りなしで一歩も踏み入れることができないほどの暗闇だ。
 レラの元へ向かうべく、カズは暗闇の奥へ続く狭い階段を下りて行く。
 カズが隠し階段を下りて少しすると、先程の本棚が元の位置に戻り出入口を閉ざす。
 一階で見つけた部屋と部屋の間にある隠された空間を通り、地下へと下りて行くカズ。
 二階の出入口から30m程下ると、階段が終わり真っ直ぐな通路になった。
 通路の行き着く先を【マップ】で確認をすると、隣にあるレンガ造りの建物へと向かっているのが分かった。
 ここが探していた地下道で間違いはなかった。
 狭く暗い隠し通路は射し込む光が一切なく、カズは砂漠のダンジョンに入った事を思い出していた。
 レンガ造りの建物の下に辺りまで来ると、鉄で作られた扉があった。
 扉の錠を破壊して中に入ったカズは、大小様々な檻がある内の一つに近付き中を覗いた。
 そこには羽のある小さな人物が、横たわっていた。

「レラ……(気付かないのか? あっそうか)」

 カズは隠蔽と隠密のスキルを『2』まで下げてもう一度レラに呼び掛ける。

「レラ」

「気安く呼んで、今度は誰。あんた達の持ってくる物なんて食べないわよ」

「暗くて見えないのか? 〈ライト〉」

 カズは指先に光量の弱い光の玉を出現させた。

「……カズっ!」

「静かに」

「え、どうして? 何で? だってあちし…念話が通じなくて……」

 我慢をしているようだが、今にも泣き出しそうな顔をするレラ。

「ビワが念話で知らせてくれたんだよ。どうもここでは念話を使うのに、いつも以上の魔力が必要みたいだ。そのせいで繋がらなかったんだろ」

「そ、そうなのね(カズが作ってくれたベルトが壊れたんじゃなかったのね)」

「大丈夫かレラ」

「うん大丈夫。でもカズは衛兵本部に捕まってたんじゃ」

「レラが戻らないって聞いたから探しに来たんだ。レラみたいに抜け出してさ」

「ぅ……」

「どうした。いつもの強気なレラはどこにいった」

「へ、平気だもん。あちし…平気だ……もん」

 レラは無理に強がるが、目には今にもこぼれ落ちそうなほどの、大きな涙が溜まっていた。

「ごめんごめん。今出してあげるから」

「誰か居るんですかレラさん?」

「助けが来てくれたの」

「え!? 助け?」

「誰なのレラ?」

「ここで使用人をしていた『ホップ』よ。この場所を見てしまったから、閉じ込められたんだって」

「この場所をって、隠し通路以外にここに来る方法あるの?」

「たまたま開いてたんです。それを通ってここまで来たら」

「誰かが開けたすぐ後に隠し通路を通って来たってこと? 不運と言うかなんと言うか」

「ここから出るなら、ホップも助けてあげてカズ」

「お願いします。わたしこのままだとモンスターのエサにされちゃうんです」

 怯え震える女性に、カズは光の玉を近付ける。

「大丈夫?」

 光の玉に照らされた女性の衣服はあちこち破れており、見えている手足には痣が幾つもあった。
 痣を見る限りでは、どうやら何度も体罰を受けていたらしい。

「こんな格好でごめんなさい」

「ホップあなた傷だらけじゃないの。それに」

 暗くてハッキリとは分からなかったため、初めてホップの姿をしっかりと見たレラは驚いていた。
 そして人族だと思っていたが、ホップは犬の獣人であるのもこの時気付いた。 

「騙してた訳じゃないんです。獣人が人の、貴族様に仕えるなんて……ごめんなさいレラさん」

「別にあなたが人だろう獣人だろうと関係ないわ。そうよねカズ」

「ああ。俺達の親しい貴族で、獣人を雇って家族のようにしている人達もいるしね。聞きたいこともあるけど、話はここを出てからにしよう」

「この檻を開けられるのなら、オレも出してくれないか」

 少し離れた所にある檻から、急にカズへと話し掛けてきた。

「誰?」

「そうよあんた誰? 昨日あちしに話し掛けてきたと思ったら、急に黙りになって」

「昨日はちょっと考え事をしてたもんで」

「それより誰か教えてもらえる?」

「オレはドセトナ」

「ドセトナ様!? どうしてドセトナ様が?」

「色々あってさ」

「えーっと、それでどちら様?」

「ドセトナ様は、ここトリモルガ家の当主ルマンチーニ様の御子息です」

 ホップがドセトナのことを、カズとレラに教えた。

「そうだ! イキシアが、ルマンチーニに気持ち悪い黒い靄が、だからカズを」

「待った待った。その説明じゃ全然分からない(とりあえず三人の状態を調べよう)」

 カズは三人のステータスを見て、洗脳されてないかを調べた。
 異常がないことを確認すると、檻を〈ブレイクアイテム〉で破壊して三人を解放した。
 レラとドセトナが閉じ込められていた檻は、破壊する際に数倍の魔力を込めなければならなかった。
 特別製なだけに魔法に対しても頑丈に作られていた。
 しかしカズにとっては些細なことでしかなかった。
 ホップには回復薬を飲ませて傷を癒し、カズが身に付けていたマントを羽織らせた。

「話はここから出てからにしよう」

「それがいいだろ。動けるかホップ」

「はい大丈夫です。いつもわたしのような者を庇っていただき、ありがとうございます。わたしなどのせいでドセトナ様が旦那様に」

「ホップは悪くない。おれがあんな物を見つけたせいで父は…」

「何を言うんだ。貴様が発見したから、こんなに楽しい事になったんじゃないの」

 不意に話しに割り込んでくる女性の声が聞こえ、四人は一斉に声のする方を見た。
 カズが出した光の玉が声のする方を照らすと、そこには見知った人物が立っていた。

「イキシアさん(マップにはこちらに向かって来る反応はなかったはず)」

「久しぶりねカズ。ワタシが急に現れたから不思議に思ってるのね。この場所に転移先を設定してあれば、すぐに来れるのよ。あなたが街でしてたみたいにね」

「それにしても、よく俺が忍び込んだの分かりましたね」

「可能性を考えて、監視役をさせておいたのよ」

 イキシアは一つ檻を指差した。
 そこにはホップと同じ様な服を着た獣人女性の姿があった。

「そこの獣に、おかしな事があれば知らせるようにね」

「エビネ!」

 ホップが檻に入っている獣人の名前を呼んだ。

「知り合いなのホップ」

「わたしと一緒に使用人として雇われたエビネです。少し前に解雇されたって聞いてたの。理由も分からずに」

「田舎者の獣人が、貴族の屋敷で働けると思っていたの」

「イキシアあなた洗脳されたからって、性格悪くなり過ぎなのよ」

「元々あんなもんだと俺は思うけど」

 レラがイキシアの態度にキレる横で、小声で否定するカズ。

「自分の本心に逆らわなければ、洗脳は気持ちの良いものよ。フローラをそそのかす悪い男カズを、苦しめる事ができると分かったんだか」

「俺はフローラさんをそそのかし…」

「黙りなさい! お前が来なければ、今でもフローラと一緒に……」

「性格なんてそんな簡単に変わるもんじゃないってことだな。そこに付け入られて洗脳させられたってとこか」

 イキシアが怒りを表していると、鉄の扉が開いてトリモルガ家当主のルマンチーニが入ってきた。

「だ、旦那様!」

「父さん!」

「頭が冷えたかドセトナ。お前がトリモルガ家の跡取りと言うなら、檻から出た連中を全員拘束して、フェアリー以外はモンスターの餌にしてしまえ」

「オレが見つけたアイテムを今すぐ破壊して、正気に戻って」

「何をバカなことを言っている。こんナすバラしイものヲ壊せとハ、ヤハりオまえも」

 ルマンチーニの背後から、ドロドロとした気持ちの悪い靄が現れる。

「カズあれあれ!」

「オレを操り父に取り憑いた元凶。父から出て行け!」

「アイテムがどうとかって何?」

「カズいいから! あのドロドロした気持ち悪いのをなんとかして!」

「なんとかって(とりあえず調べれば)」

 カズはルマンチーニと見えている黒い靄に対して【万物ノ眼】で調べてステータスを見る。



 名前 : ルマンチーニ・トリモルガ
 年齢 : 55
 性別 : 男
 種族 : 人
 性格 : 傲慢で貴族主義者
 容姿 : 181㎝ 白髪 鋭い目付き
 状態 : 洗脳 憑依 弱体
 補足 : 人族主義で種族差別をする。


 名前 : パラサイトスペクターLv8
 種族 : 闇魔法合成物
 レベル: 89
 力  : 1068
 魔力 : 4662
 敏捷 : 1521
 補足 : 禁術により作り出された合成魔法物。
 ・ 希に意思を持ち、作り出した者に背き勝手に行動する。



「パラサイトスペクターLv8闇魔法合成物? なんだそれ?」

「そんなのあちし知らない」

「オレも初耳だ」

「とりあえず一旦ここから離れる。三人とも俺の近くに」

 レラがカズの腕にしがみつき、ドセトナは腰を抜かしたホップを抱えてカズに駆け寄る。 
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転移しても所詮引きこもりじゃ無双なんて無理!しょうがないので幼馴染にパワーレベリングして貰います

榊与一
ファンタジー
異世界で召喚士! 召喚したゴブリン3匹に魔物を押さえつけさせ、包丁片手にザク・ザク・ザク。 あれ?召喚士ってこんな感じだったっけ?なんか思ってったのと違うんだが? っていうか召喚士弱すぎねぇか?ひょっとしてはずれ引いちゃった? 異世界生活早々壁にぶつかり困っていたところに、同じく異世界転移していた幼馴染の彩音と出会う。 彩音、お前もこっち来てたのか? って敵全部ワンパンかよ! 真面目にコツコツとなんかやってらんねぇ!頼む!寄生させてくれ!! 果たして彩音は俺の救いの女神になってくれるのか? 理想と現実の違いを痛感し、余りにも弱すぎる現状を打破すべく、俺は強すぎる幼馴染に寄生する。 これは何事にも無気力だった引き篭もりの青年が、異世界で力を手に入れ、やがて世界を救う物語。 幼馴染に折檻されたり、美少女エルフやウェディングドレス姿の頭のおかしいエルフといちゃついたりいちゃつかなかったりするお話です。主人公は強い幼馴染にガンガン寄生してバンバン強くなっていき、最終的には幼馴染すらも……。 たかしの成長(寄生)、からの幼馴染への下克上を楽しんで頂けたら幸いです。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...