259 / 808
三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影
248 駆け落ち新婚生活
しおりを挟む
◇◆◇◆◇
ビワが屋敷に戻って、マーガレット達と再会した次の日。
「今日は一日、ビワとレラさんの話を聞かせて。えっと、リアーデの街で家を借りて住み始めたのよねぇ」
「そうだよ。ビワが駆け落ちしてきたって、大家のドワーフに言ったもんで、若夫婦として暮らし始める事になったんだよね。あと、あちしのことはレラでいいよ。マーガレットとは友達なんだから」
「あら、嬉しい。ありがとう。それでビワは、どうして駆け落ちなんて?」
「あの……急に大家さんが二人の関係を聞いてきて、とっさだったので……つい。兄妹だと変かなって。それで…前に奥様が読んでいた本の内容を、ミカンに話してるのを思い出して」
「駆け落ちの元は、マーガレットなの?」
「そういえば、駆け落ちする若い二人の本を読んでたことあったわ」
「それで、私…気付いたらもう……」
「一度でいいから私も。なんて考えちゃうわ『追われる若い二人の逃亡生活。互いの気持ちが引かれ、真実の愛生まれる』……いいわね! いいわねッ! じっくり聞かせてもらうわよ。さぁ話して。今日は始まったばかり、時間はたっぷりあるから!」
生き生きとするマーガレットを見て、圧倒されるビワ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
≪ 二十日程前のリアーデ。多種族が住む区画 ≫
カズが魔法で変装して、ルアと名を変え、ビワとレラの三人での暮らしに慣れ始めていた頃。
「こんにちは。買い物かい?」
「あ…はい。こんにちは…大家さん」
「ウールでいいって。少しはここの暮らしに慣れたか?」
「あの…はい。まだ少し」
「そうかい。まぁ一部の連中が、嫌なことを言うかも知れないけど、気にしなさんな。すぐに飽きるだろうからさ」
「はい。あの……昨日は助けてくれて、ありがとう…ございました」
「なぁに、種族が違う夫婦だからって、ケチを付ける奴が気にいらなかっただけさ。またあんな連中がいたら、いつでも言いな。すぐに文句言ってやるから」
「喧嘩は…よくないです」
「あっはっはッ。あんたは優しいねぇ」
「いえ、そんな。私は……臆病なだけです」
「そんなところが良いのかねぇ?」
「え?」
「いや、こっちの話さ。旦那は仕事かい?」
「はい。お…夫は、木材所で」
「そうかい。お金は必要だろうけど、慣れない土地で無理しなさんな。なんかあればいつでも言いなよ。飯くらいならいつでも作ってやるから。田舎料理だがね」
「でも…ウールさんに迷惑が」
「二人分増えたからって、大したことないよ。いつも多目に作るから。だから二、三日は同じ飯なんだけどね。あっはっは」
「あのぅ…私そろそろ」
「ああ、内職があるんだったね。引き止めて悪かった」
「あ…ありがとうございます。お仕事まで紹介してもらって」
「裁縫は得意なんでね。そのつてさ。分からないことがあったら教えてやるから、いつでも聞きにおいで」
「は…はい。その時は…お願いします」
ウールと別れたビワは、三階建ての屋上にある、木造の家に戻った。
「ただいま」
「おかえりビワ。たまご買えた?」
「うん。買えたよ」
「じゃあプリン作ってね。ここに来てから、一回も食べてないんだもん。ビワも食べたいでしょ」
「それはそうだけど。夫がいないと冷やせないから、戻ってきてからじゃないと作れないよ」
「にっちっち。やっと慣れてきたねビワ『夫』って、すんなり言えるんだから」
「ま、またそうやって……からかうんだから」
「赤くなったビワは、かわいいなぁ(次はカズの居る時に。そうすれば、にっちっち。殆ど外に出られなくても、少しは楽しめそう)」
何かを企んでるそうな笑みを浮かべるレラを見て、それが自分をからかう事だとつゆ知らず、楽しそうで良かったと思い違いをするビワ。
「さてと、ウールさんに紹介してもらったお仕事、がんばってやらないと」
「また縫い物?」
「うん。今日は小物入れを作るの」
「ふ~ん。今度、あちし用のバッグ作ってよビワ」
「生地が余ったらね」
「よろしく~」
ビワは露店で売られる小物入れを作り始めた。
ちょうど15個目が出来たところで、ルアが仕事を終えて戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりカズ」
「おかえりなさい。もうそんな時間?」
「今日は早く終わったから。まだ内職してても良いよ」
「そうなのね。でもそろそろ、お夕食の支度しないと」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう。あなた」
「アツアツの新婚ですなぁ」
「レラったら」
「にっちっち。それよりカズが戻って来たんだから、プリン作って」
「プリン? ああ、ここに来てから、食べてないもんな」
「そうよ。ずっと我慢してたんだから、大量に作り置きしておいてよ」
「深夜のアツアツ行為は、それからにして」
「アツアツ行為なんてしてないだろッ!」
「あちしが深夜に出てる時に、すれば良いのに。新婚なんだから。にっちっち」
顔を見合わせるルアとビワは、顔を真っ赤にする。
「バっ、そういうこと言うなら、プリンはまだ暫くお預けだぞ」
「えぇーなんでよッ! これをやめたら、あちしの楽しみがぁ」
「他の楽しみを探せ。それかビワの内職を手伝ってあげろよ」
「えぇーめんどくさいもん」
「この、ぐうたら者め(長い間甘やかし過ぎたな)」
「プリンプリンプリン!」
「やかましい。外まで聞こえる」
「だったら、プリンプリン!」
「分かった分かった」
「よしッ!」
拳を振り上げ、勝利を喜ぶレラ。
「分かってると思うが、今から作っても、今日は食べられないぞ」
「分かってるって。明日が楽しみ。たまごはビワが買ってくれてあるよ」
「ハァー。レラのわがままを聞いてくれて、ありがとうビワ」
「いえ…私も食べたいと思ってたから」
「そう。じゃあ明日もたまご買ってきて、いっぱい作っておこうか」
「はい」
「あぁー。ビワにばっかり優しい。カズの差別ぅ~」
「ビワは色々やってくれてるんだから良いの。一人で買い物に行って変わった事はなかった?」
「特になかったです。あ、そうだ。ウールさんが、料理をたくさん作ったら、また持ってきてくれるって、言ってました」
「ウールさんて、結構世話焼きなんだ」
「はい。でも良い方ですよ」
「それじゃあ夕食の支度しようか。レラも手伝え」
「は~い」
「また明日も、昼間の話を聞かせてよ。ビワ」
「はい」
≪ それから数日後 ≫
ビワが内職で作った物の代金と料理を持って、二人が住む借家にウールが来ていた。
「はいよ。これがこの前作った小物入れの代金と、こっちは料理だ。今日明日の二日くらいはもつだろうから、温めなおして食べてくれ」
「いつも…ありがとうございます」
「なぁに、気にしなさんな。好きでやってることだから。それより何人くらいほしいんだい?」
「え……?」
「え、じゃないよ。駆け落ちしてまで一緒になったんだから、子供の一人や二人。五人は作るんだろ」
突如として子供の話を振るウールに、ビワは戸惑いを隠せなかった。
「ご、五人なんて……まだ早い…です」
「早くなんかないもんか。若い内にたくさん産んだ方が良いよ」
「そ…そうで…すね。二人くらいは(カズさんとの赤ちゃん……)」
「そうそう毎晩がんばりな。身籠ったら、家事は世話はしてやるからさ。安心しな」
「毎…晩……(恥ずかしい)」
ビワの顔と耳が真っ赤になり、頭の上から湯気が出ているようにも見える。
その様子見たウールは、ビワに助言をする。
「なんだい。ここに来て半月は経つのに、まだ一度もしてないのかい? 随分と奥手な旦那だねぇ」
「いえ…あの……はい(どう答えたら……)」
「だったらあんたの方から誘えば良いさ」
「……え(私…から?)」
「若い男なんて皆同じ。耳元で一言抱いてった言って、ちょっと身体を触らせれば、あとは本能の赴くまま」
「だ、だだ…抱いて、ですか(そ、そんなこと……)」
「そうだよ。あんた美人だし、尻尾の毛並みも良いんだから。本気になったら、あの旦那は朝まで寝かせてくれないよ」
「あ…ああ…朝まで(そんな。ダメですよカズさん。私、初めてなのに……)」
ウールの話を聞いて勝手に妄想が広がり、フラフラと揺れだしたビワは、バタリと倒れた。
「ありゃりゃ。少し刺激が強すぎたかねぇ。まったく初(うぶ)な娘だ」
ビワが目を覚ますと、額の上には冷したタオルが乗っていた。
「あれ、私……」
「大丈夫ビワ?」
「……あなた」
「疲れが出たんだって、ウールさんから聞いたよ。ごめん」
「疲れ……? その姿。それにウールさんは」
「俺が戻って来たから帰ったよ。ウールさんは、もう今日は来ないって言ってたから、元の姿にね」
「あ、ごめんなさい。すぐに夕食の支度を」
「いいからそのまま寝てて。夕食ならウールさんが持ってきてくれた料理があるから。今それを、温めなおしてるところだから。どう、食べれそう」
「はい。大丈夫です」
「ビワが倒れるくらい、疲れさせてたなんて。倒れた原因が、ビワに無理をさせてた俺だろうから、しっから看病しないと」
「いえ…そんな」
「夕食の後にでも、今日あった事はレラに聞くから、ビワはゆっくり休んで」
「今日の事……」
昼間ウールと話していた事を思い出し、赤くなり熱が上がるビワ。
「顔赤いね。大丈夫?」
カズはビワの額に手を当て、まだ熱があるかを確かめる。
昼間の話しとカズの手の感触で、更に赤くなり熱が上がるビワ。
「やっぱり熱があるね。起き上がるのが大変なら、夕食はスープだけにしようか。ちゃんと飲ませてあげるから」
「だ、だだ…大丈夫です。一人で食べられます」
「そう? 無理は…」
「大丈夫!」
「……? じゃあもう少しで料理が温まっるから、それまで待ってて。レラ、代わるぞ。あとは俺が見てるから、ビワの側に居てやって」
「は~い」
料理が入った鍋が、吹き零れないように見ていたレラが、カズと交代してビワの所に来る。
「大丈夫ビワ?」
「心配かけてごめんなさい。レラ」
「ごはん食べて元気にならないと」
「そうですね」
「なんせ今夜は、カズを誘うんだから」
「あ…あれはウールさんが勝手に」
「ビワも乗り気じゃなかったっけ? えっと確か、抱・い・て! だっけ」
「レラ、静かに。カズさんに聞こえちゃう」
「にっちっち。で、どうするの」
「どうするもなにも……私達は、本当の夫婦じゃないから」
「これを切っ掛けになっちゃえば」
「も…もうこの話しはやめて……(また熱が出ちゃう)」
「やっぱりこの手の話でからかうと、ビワはキャわいいわねぇ」
「もうッ。レラ嫌い」
「何してるの? またビワをからかってるのかレラ」
「なんのことかしらな~い」
「何か言われたのビワ? また顔赤いよ。熱が上がっちゃった」
「……な…なんでもありません(カズさんに言える訳ない)」
「にっちっち(昼間はウールが来てたから隠れてなきゃならなかったけど、その代わりいい話が聞けたから、今日のあちし満足!)」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「そ…その話しはしないでって言ったのに。レラのいじわる」
「今カズは居ないからいいでしょ。女三人だけなんだし」
「最高ッ! 話を聞いて恥ずかしがるビワを見てると、私若返るわ」
心なしか、マーガレットの肌につやが出たように見えたのであった。
「さぁ続きを聞かせて。それからどうしたの?」
「…様、奥様。聞こえていますか?」
ビワが屋敷に戻って、マーガレット達と再会した次の日。
「今日は一日、ビワとレラさんの話を聞かせて。えっと、リアーデの街で家を借りて住み始めたのよねぇ」
「そうだよ。ビワが駆け落ちしてきたって、大家のドワーフに言ったもんで、若夫婦として暮らし始める事になったんだよね。あと、あちしのことはレラでいいよ。マーガレットとは友達なんだから」
「あら、嬉しい。ありがとう。それでビワは、どうして駆け落ちなんて?」
「あの……急に大家さんが二人の関係を聞いてきて、とっさだったので……つい。兄妹だと変かなって。それで…前に奥様が読んでいた本の内容を、ミカンに話してるのを思い出して」
「駆け落ちの元は、マーガレットなの?」
「そういえば、駆け落ちする若い二人の本を読んでたことあったわ」
「それで、私…気付いたらもう……」
「一度でいいから私も。なんて考えちゃうわ『追われる若い二人の逃亡生活。互いの気持ちが引かれ、真実の愛生まれる』……いいわね! いいわねッ! じっくり聞かせてもらうわよ。さぁ話して。今日は始まったばかり、時間はたっぷりあるから!」
生き生きとするマーガレットを見て、圧倒されるビワ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
≪ 二十日程前のリアーデ。多種族が住む区画 ≫
カズが魔法で変装して、ルアと名を変え、ビワとレラの三人での暮らしに慣れ始めていた頃。
「こんにちは。買い物かい?」
「あ…はい。こんにちは…大家さん」
「ウールでいいって。少しはここの暮らしに慣れたか?」
「あの…はい。まだ少し」
「そうかい。まぁ一部の連中が、嫌なことを言うかも知れないけど、気にしなさんな。すぐに飽きるだろうからさ」
「はい。あの……昨日は助けてくれて、ありがとう…ございました」
「なぁに、種族が違う夫婦だからって、ケチを付ける奴が気にいらなかっただけさ。またあんな連中がいたら、いつでも言いな。すぐに文句言ってやるから」
「喧嘩は…よくないです」
「あっはっはッ。あんたは優しいねぇ」
「いえ、そんな。私は……臆病なだけです」
「そんなところが良いのかねぇ?」
「え?」
「いや、こっちの話さ。旦那は仕事かい?」
「はい。お…夫は、木材所で」
「そうかい。お金は必要だろうけど、慣れない土地で無理しなさんな。なんかあればいつでも言いなよ。飯くらいならいつでも作ってやるから。田舎料理だがね」
「でも…ウールさんに迷惑が」
「二人分増えたからって、大したことないよ。いつも多目に作るから。だから二、三日は同じ飯なんだけどね。あっはっは」
「あのぅ…私そろそろ」
「ああ、内職があるんだったね。引き止めて悪かった」
「あ…ありがとうございます。お仕事まで紹介してもらって」
「裁縫は得意なんでね。そのつてさ。分からないことがあったら教えてやるから、いつでも聞きにおいで」
「は…はい。その時は…お願いします」
ウールと別れたビワは、三階建ての屋上にある、木造の家に戻った。
「ただいま」
「おかえりビワ。たまご買えた?」
「うん。買えたよ」
「じゃあプリン作ってね。ここに来てから、一回も食べてないんだもん。ビワも食べたいでしょ」
「それはそうだけど。夫がいないと冷やせないから、戻ってきてからじゃないと作れないよ」
「にっちっち。やっと慣れてきたねビワ『夫』って、すんなり言えるんだから」
「ま、またそうやって……からかうんだから」
「赤くなったビワは、かわいいなぁ(次はカズの居る時に。そうすれば、にっちっち。殆ど外に出られなくても、少しは楽しめそう)」
何かを企んでるそうな笑みを浮かべるレラを見て、それが自分をからかう事だとつゆ知らず、楽しそうで良かったと思い違いをするビワ。
「さてと、ウールさんに紹介してもらったお仕事、がんばってやらないと」
「また縫い物?」
「うん。今日は小物入れを作るの」
「ふ~ん。今度、あちし用のバッグ作ってよビワ」
「生地が余ったらね」
「よろしく~」
ビワは露店で売られる小物入れを作り始めた。
ちょうど15個目が出来たところで、ルアが仕事を終えて戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりカズ」
「おかえりなさい。もうそんな時間?」
「今日は早く終わったから。まだ内職してても良いよ」
「そうなのね。でもそろそろ、お夕食の支度しないと」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう。あなた」
「アツアツの新婚ですなぁ」
「レラったら」
「にっちっち。それよりカズが戻って来たんだから、プリン作って」
「プリン? ああ、ここに来てから、食べてないもんな」
「そうよ。ずっと我慢してたんだから、大量に作り置きしておいてよ」
「深夜のアツアツ行為は、それからにして」
「アツアツ行為なんてしてないだろッ!」
「あちしが深夜に出てる時に、すれば良いのに。新婚なんだから。にっちっち」
顔を見合わせるルアとビワは、顔を真っ赤にする。
「バっ、そういうこと言うなら、プリンはまだ暫くお預けだぞ」
「えぇーなんでよッ! これをやめたら、あちしの楽しみがぁ」
「他の楽しみを探せ。それかビワの内職を手伝ってあげろよ」
「えぇーめんどくさいもん」
「この、ぐうたら者め(長い間甘やかし過ぎたな)」
「プリンプリンプリン!」
「やかましい。外まで聞こえる」
「だったら、プリンプリン!」
「分かった分かった」
「よしッ!」
拳を振り上げ、勝利を喜ぶレラ。
「分かってると思うが、今から作っても、今日は食べられないぞ」
「分かってるって。明日が楽しみ。たまごはビワが買ってくれてあるよ」
「ハァー。レラのわがままを聞いてくれて、ありがとうビワ」
「いえ…私も食べたいと思ってたから」
「そう。じゃあ明日もたまご買ってきて、いっぱい作っておこうか」
「はい」
「あぁー。ビワにばっかり優しい。カズの差別ぅ~」
「ビワは色々やってくれてるんだから良いの。一人で買い物に行って変わった事はなかった?」
「特になかったです。あ、そうだ。ウールさんが、料理をたくさん作ったら、また持ってきてくれるって、言ってました」
「ウールさんて、結構世話焼きなんだ」
「はい。でも良い方ですよ」
「それじゃあ夕食の支度しようか。レラも手伝え」
「は~い」
「また明日も、昼間の話を聞かせてよ。ビワ」
「はい」
≪ それから数日後 ≫
ビワが内職で作った物の代金と料理を持って、二人が住む借家にウールが来ていた。
「はいよ。これがこの前作った小物入れの代金と、こっちは料理だ。今日明日の二日くらいはもつだろうから、温めなおして食べてくれ」
「いつも…ありがとうございます」
「なぁに、気にしなさんな。好きでやってることだから。それより何人くらいほしいんだい?」
「え……?」
「え、じゃないよ。駆け落ちしてまで一緒になったんだから、子供の一人や二人。五人は作るんだろ」
突如として子供の話を振るウールに、ビワは戸惑いを隠せなかった。
「ご、五人なんて……まだ早い…です」
「早くなんかないもんか。若い内にたくさん産んだ方が良いよ」
「そ…そうで…すね。二人くらいは(カズさんとの赤ちゃん……)」
「そうそう毎晩がんばりな。身籠ったら、家事は世話はしてやるからさ。安心しな」
「毎…晩……(恥ずかしい)」
ビワの顔と耳が真っ赤になり、頭の上から湯気が出ているようにも見える。
その様子見たウールは、ビワに助言をする。
「なんだい。ここに来て半月は経つのに、まだ一度もしてないのかい? 随分と奥手な旦那だねぇ」
「いえ…あの……はい(どう答えたら……)」
「だったらあんたの方から誘えば良いさ」
「……え(私…から?)」
「若い男なんて皆同じ。耳元で一言抱いてった言って、ちょっと身体を触らせれば、あとは本能の赴くまま」
「だ、だだ…抱いて、ですか(そ、そんなこと……)」
「そうだよ。あんた美人だし、尻尾の毛並みも良いんだから。本気になったら、あの旦那は朝まで寝かせてくれないよ」
「あ…ああ…朝まで(そんな。ダメですよカズさん。私、初めてなのに……)」
ウールの話を聞いて勝手に妄想が広がり、フラフラと揺れだしたビワは、バタリと倒れた。
「ありゃりゃ。少し刺激が強すぎたかねぇ。まったく初(うぶ)な娘だ」
ビワが目を覚ますと、額の上には冷したタオルが乗っていた。
「あれ、私……」
「大丈夫ビワ?」
「……あなた」
「疲れが出たんだって、ウールさんから聞いたよ。ごめん」
「疲れ……? その姿。それにウールさんは」
「俺が戻って来たから帰ったよ。ウールさんは、もう今日は来ないって言ってたから、元の姿にね」
「あ、ごめんなさい。すぐに夕食の支度を」
「いいからそのまま寝てて。夕食ならウールさんが持ってきてくれた料理があるから。今それを、温めなおしてるところだから。どう、食べれそう」
「はい。大丈夫です」
「ビワが倒れるくらい、疲れさせてたなんて。倒れた原因が、ビワに無理をさせてた俺だろうから、しっから看病しないと」
「いえ…そんな」
「夕食の後にでも、今日あった事はレラに聞くから、ビワはゆっくり休んで」
「今日の事……」
昼間ウールと話していた事を思い出し、赤くなり熱が上がるビワ。
「顔赤いね。大丈夫?」
カズはビワの額に手を当て、まだ熱があるかを確かめる。
昼間の話しとカズの手の感触で、更に赤くなり熱が上がるビワ。
「やっぱり熱があるね。起き上がるのが大変なら、夕食はスープだけにしようか。ちゃんと飲ませてあげるから」
「だ、だだ…大丈夫です。一人で食べられます」
「そう? 無理は…」
「大丈夫!」
「……? じゃあもう少しで料理が温まっるから、それまで待ってて。レラ、代わるぞ。あとは俺が見てるから、ビワの側に居てやって」
「は~い」
料理が入った鍋が、吹き零れないように見ていたレラが、カズと交代してビワの所に来る。
「大丈夫ビワ?」
「心配かけてごめんなさい。レラ」
「ごはん食べて元気にならないと」
「そうですね」
「なんせ今夜は、カズを誘うんだから」
「あ…あれはウールさんが勝手に」
「ビワも乗り気じゃなかったっけ? えっと確か、抱・い・て! だっけ」
「レラ、静かに。カズさんに聞こえちゃう」
「にっちっち。で、どうするの」
「どうするもなにも……私達は、本当の夫婦じゃないから」
「これを切っ掛けになっちゃえば」
「も…もうこの話しはやめて……(また熱が出ちゃう)」
「やっぱりこの手の話でからかうと、ビワはキャわいいわねぇ」
「もうッ。レラ嫌い」
「何してるの? またビワをからかってるのかレラ」
「なんのことかしらな~い」
「何か言われたのビワ? また顔赤いよ。熱が上がっちゃった」
「……な…なんでもありません(カズさんに言える訳ない)」
「にっちっち(昼間はウールが来てたから隠れてなきゃならなかったけど、その代わりいい話が聞けたから、今日のあちし満足!)」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「そ…その話しはしないでって言ったのに。レラのいじわる」
「今カズは居ないからいいでしょ。女三人だけなんだし」
「最高ッ! 話を聞いて恥ずかしがるビワを見てると、私若返るわ」
心なしか、マーガレットの肌につやが出たように見えたのであった。
「さぁ続きを聞かせて。それからどうしたの?」
「…様、奥様。聞こえていますか?」
85
お気に入りに追加
696
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる