上 下
220 / 788
三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

211 同じ主に仕えしもの

しおりを挟む
 来た道を戻りギルドに着くと、先程モルトがテイムモンスターの登録手続きを頼んでいた職員が、カズに気付き声をかけてきた。
 渡してあったバードリングをカズに返し、仮登録の物と付け替えるように言われた。
 カズはフジから仮登録時に付けたベルトを外し、バードリングを新たに付けた。

「キツくないか?」

「『だいじょうぶ』」

「なら良かった」

 カズはフジに付けていたベルトを職員に渡し、ギルドを出る。

「さてと、やる事も終わったし、王都を出てマイヒメと合流するか」

「『お母さんとこ行く!』」

 カズは人気のない路地裏まで来ると〈ゲート〉で王都の外へと移動した。
 そこでマイヒメに合図を送り、自分達が居る場所を教える。
 カズの魔力を感知して、マイヒメはカズとフジ居る所に降りて来る。

「『カズ。急に場所を移動するの、なんとかならない? 坊やの居場所が分からなくなって、不安になるわ』」

「ごめん。連絡出来るようしてみるよ。だからマイヒメも、これ付けてくれるかな?」

「『なぁにそれ?』」

「俺が作ったバードリング。フジみたいに足に付けるんだよ」

「『フジ? 坊やのこと?』」

「あ、そうそう。フジって名前にしたんだけど、やっぱり変かな?」

「『フジ……カズが付けたなら良いわよ』」

「そ、そう(あっさりと受け入れたな)」

「『それで坊…フジ坊に付けてあるそれをワタシにも』」

「ああ。ギルドにテイムモンスターとして登録すると、こんな感じの物を付けることになるんだ。ギルドの物より、俺が作った物なら良いかと思って(あとで色々と、付与するつもりだから)」

「『まぁ良いわ』」

「そう。マイヒメの登録はまだだけど、試しに付けてみるよ」

 カズはマイヒメの足に、バードリングを装着した。

「キツかったり違和感があったら言ってくれ。調整するから」

「『少し緩いわね。これじゃあ飛んでると揺れて気になるわ』」

「それじゃあ、ちょっと狭めるよ」

 カズはマイヒメに付けたバードリングに手をかざし、スキルで大きさを調整した。

「どう?」

「『さっきよりは良いわ』」

「じゃあ試しに、念話を付与してみるよ。使えれば良いんだけど」

 今度はマイヒメとフジのバードリングに念話の《付与》を試みた。

「足のリングに魔力を流して、俺に向けて念じ話し掛けてくれ」

「『念じ?』」

「念話とかテレパシーって分かる? 声に出さずに相手に向けて話し掛けるの」

「『……る……しら』」

「もう一回話し掛けてみて。今度はもう少し使用する魔力を増やして」

「『ワタシの声が、聞こえるかしら。これで良い?』」

「『聞こえた。俺の声は聞こえる?』」

「『聞こえるわ。直接声が伝わって来るなんて、変な感じね』」

「使ってれば慣れるよ。じゃあ今度はフジと俺。そしてマイヒメとフジでやってみよう」

 この後少しの間、マイヒメとフジはカズと念話の練習をした。

「あとは念話が使える距離とかを調べれば、連絡が取りやすくなるよ」

「『これは良いわね。ワタシがこんな事できるなんて驚きだわ』」

「うまくいって良かったよ。フジは魔力がまだ少ないから、長距離や長話は難しいかな」

「『カズは面白いわ。他にも色々な事を体験したいわ』」

「考えておく。それじゃあ、そろそろ出発しよう。アヴァランチェに用があるんだ」

「『ならフジ坊と背中に乗って。ワタシが運ぶわ』」

「そうか。じゃあ頼むよ。俺がアヴァランチェに居る間は、フジに狩りでも教えててよ。街も王都程広くはないし、念話で連絡も出来そうだから」

「『そうね。じゃあ行くわよ』」

 カズとフジが背中に乗るのを確認したマイヒメは、大空高く飛びカズが指示した方へと飛んで行く。
 今回はカズとフジしか乗っていないので、飛ぶ速度は、キウイを乗せていた時より遥かに速い。

「そうだ。アヴァランチェに行く前に、マイヒメ達に紹介しておくよ」

「『誰かしら』」

「獣魔契約した、白真っての」

「『カズが獣魔契約した相手。それは楽しみだわ(ワタシと同列くらい強いモンスターに違いないわね)』」

「あそこの、正面に見える雪山の頂上へ向かってくれ。一応マイヒメ達に、寒冷耐性を与えるから、そんなに寒くない思うから」

 カズは横に居るフジと、乗っているマイヒメに〈プロテクション〉を使い、寒冷耐性を与えた。
 雪山に近づくと、カズかある場所に降りるようマイヒメに伝えた。

「『こんなに雪が積もってるのに、そんなに寒くないわね』」

「『わーいまっしろ。ふわふわで冷た~い』」

 フジがマイヒメから降りると、周囲にある雪に飛び込みはしゃぐ。

「おーい白真。起きてるか?」

 カズが白真を呼ぶが返事はない。

「おーい……おぉーい!」

「『居ないの?』」

「すぐそこだから、ちょっと寝床を見てくるよ。フジと遊んでて」

 カズが白真の寝床に行くが、そこに白真の姿はなかった。
 カズは場所を間違えたかと思い【マップ】を見て白真の位置を確認する。
 すると唯一あるモンスター反応が、離れた場所から、マイヒメ達が居る所に近づいていた。

「なんだお前らは? この辺りでは見ないものだな」

「『うわ~、お母さんより大きい』」

「『フジ坊危険よ! こっちに来て!』」

「我の領域に無断で入り込むとは、覚悟は出来ておろう」

「『何よコイツ! こんな奴が居るのて……せめてフジ坊だけでも』」

 臨戦態勢をとるマイヒメと、雪の中に降り立つ白真が見合う。
 マイヒメは震えながらもフジを隠し守ろうとする。
 白真は目の前に居る、見慣れぬ怪鳥の親子をじっと観察し、足に付いているリングにある魔力を感じとる。

「『な、何よ! ただじゃ殺られないわよ!』」

「お前ら、カ…」

 白真が見慣れぬ怪鳥に話し掛けたその時、よく知った声が、自分の寝床の方から聞こえてきた。

「ああ居た居た。寝てると思ってたら、どっか行ってたのか?」

「『カ、カズ!』」

「カズ。来る時は念話で、先に知らせると言っておったではないか」

「ぁぁ……忘れてた。すぐ近くに来てたもんで、寄ったんだよ」

「こやつらはカズが連れてきたのか? 足に付けている物から、カズの魔力を感じたが」

「そう。白真に紹介しておこうと思って。テイムする事になったマイヒメと、その子供のフジだ」

「テイムか。カズに使える者が、我だけでは不服。ということか?」

「不服じゃないけど、なんて言うか成り行きで」

「そうか。まぁ良い。先に連絡をせんから、侵入者かと思うたぞ」

「それはすまない。とりあえず紹介しておく。今言ったように、ライジングホークのマイヒメとフジ。それでこっちがフロストドラゴンの白真。お互いによろしくってことで」

 カズが紹介し終わると、マイヒメがカズに近づいて行く。

「どうしたのマイヒメ?」

「『……どうしたのじゃないわよ!! 先日助かったと思ったそうそう、もっと恐ろしいのが現れて、死ぬかと思ったわ!』」

 マイヒメがカズに詰め寄り、怒鳴り付ける。 

「あれ、獣魔契約してるのが、フロストドラゴンだって言ってなかったっけ」

「『言ってないわよ! 怖くて怖くて、フジ坊を連れて逃げようとしたけど、全身が震えて動けなかったのよぉ』」

「こ、ごめん」

 マイヒメが震えて泣いているのを見て、悪い事をしたと反省するカズ。
 フジはひょっこりと、マイヒメの後ろから出てくる。

「『お母さんだいじょうぶ? どこか痛いの?』」

「『……大丈夫よ。どこも痛くないから。全部カズが悪いの』」

「『カズが悪いの?』」

「ぅ……ハッキリ言うな。ああ今回は言い忘れた俺が悪い。ごめん」

 カズの様子を見ていた白真が、ニタニタと笑っていた。
 カズがそれに気付き視線を白真に向けると、そっぽを向いて誤魔化す。

「ごめんよマイヒメ」

「『もういいわよ。これからは気を付けてよ』」

「分かった。それじゃあ、俺はアヴァランチェに行ってくるから、良ければ白真とマイヒメ達で、話でもしててよ」

「我は構わぬぞ。腹も満たし退屈していたとこだ」

「マイヒメはどう?」

「『た、食べられたりしないわよね』」

「何もしないから大丈夫。そうだろ白真」

「我の機嫌を損ねなければな」

「『え!』」

「おい白真」

「冗談だ。カズが連れて来てのだから、何もせん」

「そういう事だそうだ。まぁ嫌ならフジを狩りに連れて行けば良いよ」

「『そうしようかしら。フジ坊もお腹が空いてる様だし』」

「俺がアヴァランチェに行ってる間、好きに過ごしてくれ。白真が何かしたなら言ってくれ。お仕置きとして、新しい魔法やスキルを試す時の、的にでもなってもらうから」

「な、何もせんと言っておろうが! 恐ろしい事を言うでない!」

「じゃあ行って来るから、マイヒメとフジをよろしくな。白真」

 カズは〈フライ〉を使い、飛んで下山して行った。
 残されたマイヒメは、ビクビクしながら白真と話を始めた。
 山を下り街道へと出たカズは、ものの数十分程で、アヴァランチェの東門に到着した。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...